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捕まれば死ぬ!偽善者気取りの魔物どもに殺されてたまるか!

(王様が・・王がオレを・・殺す?なんで・・)思い返すとそんな雰囲気はあった。


 アノ戦士共もオレを嫌っていた、ジジイはオレを馬鹿にしたような顔で見ていたし、

神官の女も戦士のヤツを最初に回復していた。


 オレは邪魔者だったのか?だから旅の最中にオレを見捨てて・・砂漠の真ん中でオレを痛めつけ、放り出したのか?


 周りのヤツの冷たい目も、王が会おうとしなかったのも理由が付く。

[この国のヤツ・・全員、おれが生きているのが邪魔だったんだ]


 背筋を生ぬるい蛇が這い上がるような怖気、そんな町の中、オレは何も知らずに顔を隠しながら買い物をして、飯を食って、寝ていたのか?


 震える脚を渾身の力で握る、こうしないと膝が崩れしまいそうになっている。

拳を噛んだ腕は熱く、痛みすら感じ無い。


(ふぅ・・ふぅ・・)生きなければ、麻痺していた脳は生存本能で目覚め出す。

 昔買った鎖帷子も、鉄の盾も鋼の剣も、最初の一年で全部売った。

恐くて・・町も人間も魔物も恐くて、それでもお金は必要だったからだ。


(ハハッ、それでも最初に買ったこの[銅の剣]だけは、手放せなかったんだけどな)

 それも馬鹿馬鹿しい話だ、ベットの横に置いてあったこの剣、最初に旅立った時の気持ちが、

オレをベットから引き摺り出したんだ。


 だから、ギリギリの所で戦えた、(魔物なんぞに負けるか!)(強くなってやる!)

見返してやる、馬鹿にしやがって、クソッ、と怒りを発散する方向も魔物に向ける事が出来た・・・それもこれも・・武器屋のオヤジが『がんばれよ』と言ってくれた思い出があったからだ。


 今のオレは皮の鎧と銅の剣、皮肉な話だった。鉄の武器は蝋燭の光りを、反射させていただろう。鎖帷子は動くたびに音を出し、兵士に気づかれていただろう。


 息を整えた勇者が動き出すのは早かった、柱の陰を渡り、人の足音から遠ざかり、

声に耳をそばだて、気配の中で気配を殺す。


(走らなければ)誰にも見付からず、走らなければ。

 勇者が毎夜町を出て、魔物を殺していなければ、身に付いていなかった技術。

闇夜で魔物と遭遇し、瞬時に逃げるか戦うかを判断する戦いを経験していなければ、出来無かった、瞬間の判断。


(町の出口には・・当然兵士はいるな)それに、多分いつも使っている出口もバレているだろう。


 ひとけの無い民家の裏に積んだ木箱、だが・・足元の石がいつもと違う、

目をつむって聴覚に集中すれば、複数の息が聞こえてくる。

(やっぱりだ)

 

 [本気で捕らえに来ている]その本気さが、捕らえられた時にどうなるかを鮮明にした。

木に登って出られる二つ目の場所にも兵士達が隠れていた。


・・・舐めるなよ、ダテに5年も真夜中の町を歩いていたわけじゃないんだ。

(こうなれば・・被害など知るか、5つ目だ。いままで試した事は無いが出来るだろ)


 民家の植木を登り、屋根伝いに3つ。その先にある家の二階の屋根から飛び降りれば・・・

バキバキバキバキバキ!!!!


 少し離れている立木の枝が体を刺し叩く、死ぬよりマシとはいえ、2度とやる事はないだろう。

 ピーピー・・ピーーーー


 枝の折れる音で兵士に気付かれたようだ、オレは傷だらけの体を押さえながら暗闇を走る。

兵士達より早く、アノ地下道に行かないと。


・・・・・

 隣国の境界線にある大河、その下をくぐる為に作られた地下道には多少の魔物が湧く、

地上の魔物とは違うグロテスクでおかしな術を使うヤツもいるから、普通は入り口に兵士が2~3人、出入りを見張っているだけの場所。


(・・馬・・か)3人くらいなら、不意伐ちで勝てる。そう考えていたオレは篝火の数とソレを守る兵士の数に身を隠す。


(8人だと?)それに装備も鉄の槍と盾、鎧も鋼鉄の光りが見える。

・・あのジジイ!おれには服と少しの金しか出さなかったくせに!

殺す時は完全武装の兵隊を送り込んで来やがるのか!


 怒りで沸騰しそうな頭は、目の前に光る槍の前に鎮静される。

(このままドロかぶりで不意伐ちしても、駄目か・・)


 闇夜は篝火と松明で照らされ、一撃離脱も兵馬が許さない。

時間を無駄にすれば、日は上がり・犬も使うだろう。


 勇者は唇を噛んで血の味を思い出す、あの時の涙の味とは違う鉄の味。

(・・今は泥と鉄の味か、冷静になれ・・旅人の翼は・・無理か、

隣町の道具屋には通達が入っているはず、のこのこ出て行ったら兵士に囲まれる・・

オレは犯罪者かよ!)


・・・なら、犯罪者らしい方法をとるまでだ。

 泥に塗れ汚れた体は熱く、頭と魂が氷るように冷えていた。


 赤い光りが完全に途絶えるまで、勇者は這い動き。暗闇に体が染まる頃、

大きく欠伸をして体を伸ばす。そしてその顔は、まるで楽しみにしていたピクニックに行く

子供のように笑っていた。


まぁ・・しょうがないよな・・フフッ、おれが、臆病で弱いオレが悪いんだし・・

 そんなヤツを勇者に選んだ、ヤツ・・見てやがれ、オレの命を狙うなら、そいつもオレの敵だ。


 国王を気取った偽善者め、オレを蔑む周りの偽善者共々、殺してやる。オレを殺そうとするヤツは全て敵だ、伐ち倒し殺すべき魔物だ。

フフッ、(魔物なら、勇者のオレが殺したって、なにも問題ないよな)


さあて、最初に死ぬのは誰かな?アイツかな?それともアイツかな?

・・勇者は必要な物を手に入れるべく、町に戻る。氷り付くような血液の流れは、

感情すら冷たく氷らせておれの足はその場所へ向いて歩いていった。



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