勝てない戦いを勝つために。
悪魔神官・戦い前編です。
「勇さん!」盾で炎を防いだピョートルがオレの崩れる姿に駆け出すのが見える。
「来るな!コイツ、即死魔法の使い手だ!」オレの方がまだピョートルよりレベルは高いはず、
(その証拠に即死魔法でまだ死んでいない、抵抗出来ている!)
崩れる膝に合わせて体を落とし、体重を後にして転がるように距離を取って・・・逃げる。
「死音に耐える事が出来ても同じこと[大火炎]」
悪魔神官が追撃の炎を放つ!
(クソッ!体勢が立て直せない、直撃喰らう!)
「ソレは私が防ぎます!」転がるオレの前に飛び出し、ピョートルが盾を構える。
体と同じサイズの火炎を受けとめ、耐えきったその身体に勇者の[回復]が掛る。
「ヤツでも魔力には底があるはず、耐えきるだけでも勝ち目が見えて来る、それまで生き残れ!」
「耐える事ができるならな[大氷結]」
氷りの壁が現れて割れ砕け・突風が氷りの破片を吹き飛ばし・落ちた破片が周囲を氷らせて行く。
「ぴぎゃ!」スラヲの足元?に氷結が広がり、体を捕らえ始めている。
「待ってろ[火炎]!」地面に火炎を打込み、氷結の浸蝕を防ぐ。
「大氷結まで使うのかよ!」氷りで動きが鈍ったら魔法で狙い撃ちにされる、
どれだけ戦い慣れてるんだよ、ヤツとの距離が遠すぎる。
一方的に魔法を放たれて防戦一方、こっちの薬草もそろそろ尽きそうだ。
(簡単にバカスカ魔法を打ちやがって!ヤツの魔力は底なしかよ!)
「ピョートル、薬草をくれ!こっちの手持ちはゼロだ!」
「勇さん!こっちは残り2です!なんとか手は・・・
!勇さんのアノ凄い魔法は使えないんですか!」
盾を構えながら薬草を放り投げ、左右に跳んで魔法の照準をかわしながら叫ぶ。
「無理だ、あんなイカサマ、本物の魔法使いには通用しない!」
魔法の遅延を使った重ね掛け、[[[]]]見た目が普通の[氷結]や[火炎]に見えるが威力だけは3倍になる。油断した相手にしか通用しない小細工魔法だ。
集中・詠唱・発動[発現・照準・発射]の行程の内、発射の行程を遅らせる事で出来たダマシに過ぎない。
(何か手は無いか、何か・何か手は・・)
「勇さん!自分!どうやら火炎が効きにくい様です!火炎魔法はいくらでも盾になりますから、自分を盾にして距離を詰めて下さい!」
「馬鹿!そんなのは直ぐにバレて狙い撃ちされるだけだろ!とにかく安全策だけを考えるんだ!」
それにヤツには即死魔法がある、体力があってもアノ呪文だけはどうしようも無い。
勇者達が防御に徹している間、一方的に責めている悪魔神官もまた焦れていた。
この生意気な人間は、圧倒的な力の差を見せ付け、絶望させて殺すのが普通。
(だがなんだ、この人間は。弱者のくせにしぶとく身を固め、薬草を使っていやがる。それに魔物、あの魔物が人間を守っているのも不愉快だ。
魔法はまだ使える、ヤツらを殺しきる大魔法も十分余裕がある、魔法力が切れたとしてもメイスで肉塊にする事も出来る・・・だがあの男の不快な目、あの目を絶望に変えて悲鳴の内に血ヘドを吐かせて殺すのだ・・)
邪教徒の本能がざわつき、溢れる殺意と共に神官まで勤め上げた冷静な思考が交わり、冷静な判断が鈍る。
・・そうだ・・「そこの魔物、お前の主人は誰だ?魔王様ではないのか?私は魔王様にも仕える邪教徒ですよ、お前が今その男の背後から襲うなら、私が魔王様にお願いし、直々の配下に加えてもらう事もできるのだぞ?」
「・・本当ですか?」
スライムに乗った騎士は迷う様子を見せながら盾を下ろした、人間の男の目は騎士の方に向き、騎士が前に出る姿に驚いている。
(あと一押しか)
「ああ、その鍛えた体、私の魔法をこれほど耐え抜いたスライム騎士はお前が始めてだ。
そのスライムも素晴らしい!お前の部族も召し抱えてもらおうじゃないか!お前はスライム騎士の部隊を任され、より高みに!より強い力を与えられるだろう!」
「そう・・ですか・・では・・[爆破]」
前に出て来た騎士の手が私に向き・・[爆破]だと
不意伐ちで放たれた衝撃が体を打ち抜き、オレが用意していた呪文が途切れた。
?何故だ?なぜ私に?
「お前は魔王様では無い、お前は私を・・・私達の部族を知らない。私達魔物の全てが戦いだけを求めている訳では無い・・それに・・」
逆らう魔物の言葉を最後まで聞く気は無い、「なら燃え尽きろ[大火炎]」
「爆破?いつの間に[爆破]なんて使えるようになったんだ」
「少し前にレベルアップしまして、その時に。それより不意伐ちが成功したのに、勇さんが飛び込んでくれないから!」
大火炎を左右に跳び分かれて避けながら叫ぶ、
(知らない間に、どんどん強くなっていくなぁ、魔物の方がレベルが上がりやすいとかか?)
大火炎の熱が地面を焼き、二つに分かれた勇者とピョートルは視線の合図で先行を決める。
(ようやく[爆破]一発分か・・でも!)
たかが魔法一つのダメージ、だが届かないと思っていた敵に、ダメージが通ったんだ。可能生はゼロじゃない!
「魔法一つあたった程度で!」勝てるつもりか![大氷結]
悪魔神官の前に氷壁を作り出し、勇者の出鼻を挫く。
(届かないんだよ!お前らザコの武器なんかが!)死ね!
氷壁は砕け勇者を襲う、細かい氷りは針のように鋭く、ナイフのような氷塊はたとえ鉄でも傷を作る。
[火炎]盾を構えた勇者は最小限の炎で身を守り、引き下がりながらその攻撃を軽減させた。
(クソが!左右に分かれたせいで、まとめて始末出来ん!これでは、せっかくの魔法も単発で打っているような物、どうにかして・・)
悪魔神官の考えを読んだように、勇者と魔物・二つの影が重なった。
これで、ヤツらが突っ込んで来たらまとめて始末してやる!
(そのまま来いよ、雑魚共が!)




