魔物が放つ、即死魔法。
「アイツなんかに頭を下げたのか!オレの断りもなしに!」
なんでオレが、アイツの世話にならなきゃならないんだ。勝手な事はするな、怒鳴ってもヤツの手にある薬草は消えて無くなりはしない。
「まずは立て直しからだろ?それともここで足踏みして[アイツ]に先取りされちゃなんの意味も無いよ」
ウェンはすでに薬草を磨り潰し、使う準備を始めていた。
「どうするのさ、リーダー」
チッ「使ってやる、この腕が動くようになったらアイツの後を追うぞ」
要は最後に像を手に入れたら勝ちなんだ、まだ負けてない・おれはあの程度のヤツに負けていたら駄目なんだ、冒険者として名を上げるには、こんな所でつまずいている場合じゃないんだよ!
ジワジワと腕の熱が抜ける感覚、同時に痺れが薄く成り指先が熱く血が廻っていくような気がする・・あと少しだ、後少ししたら一応は腕が動くだろう。
クエンの[回復]で完全に治ったら、アイツを倒し奪ってでも像を手に入れてやる。それまで待っていろ・・・
こっちは勇者サイド、今立ち塞がるのは虎に飲まれたような・・虎の着ぐるみを着たような虎男、そしてその隣で浮く[回復]スライム。
「うぜぇ」殴っても[回復]が虎男を治療し、スライムを狙えば虎男がかばう。
「pー回り込め、虎をスライムを引き離す!」
「ハイ!」
虎男の強烈な一撃をピョートルの鎧が受け止め、仕返しとばかりに槍を振り下ろす。
(・・槍の使い方・・う~~ん)騎士だから、緑だから鉄の槍ってのは安直だったか? ダメージが鉄の杖と同じ気がする、槍は刺突武器なんだが・・
(小型の鉄剣を使ってたからか?・・っと)鎖を掴んで、回転させ加速させた分銅を真後ろに浮かぶスライムに投げ付け、ぶち当ててから引き戻し、虎の胴体に投げ飛ばす。
強い一撃はいらない、痛みで止ればその肩口を袈裟懸けに鎌の刃で切りつける。
(こいつら、元気過ぎだ!)一つ目の魔法小僧とか、一度打っ倒したのに・・
「こいつらって・・」ひょっとしてだが、向こうで隠れている回復スライムが回復させているんじゃないか?
「・・回復スライムは、基本的に攻撃手段がありませんから、魔物を治療して、彼等が倒したエモノを分けてもらう事で生きています。なので・・」
力の無い魔物は、回復の特技を使って他の魔物と共存しているって事か。
「なら、スライムを倒しきるまで何度も復活してくるんだよな?」
「・・・・」無言の肯定。安心しろよ、そんな意味の無い事はしない。
「じゃあ魔物が回復を済ます前に、邪神像まで突っ走るしか無いよな?急ぐぞ!」
先に行った冒険者達は今は怪我で動けないはず、(アレが嘘とか演技でなければ、だが)
罠の場所解って、罠を外せる仲間もいる。後はオレ達が走る足と、気合いさえあればいい。
・・・なんだ?アレは・・
祭壇の上に置かれた灯籠の炎が揺れ、見せかけの宝箱の後に立つ石碑、その後に隠された階段の下、そこに邪神像は安置されていたが。
白いローブの男?が不気味な仮面で顔を隠し階段を上がって来るのが見えた。
ローブには不気味な模様が浮かび、手には棘の鉄杖。
明らかにレベルが違う・・・バケモノだ。
「これが・・この像が司祭様の仰[おっしゃ]っていらした邪神様のお姿か・・恐ろしい・・このような方がこの地にいらしたら一体どうなることか・・クククク・・
人の世界は終わり、魔が!力が!世界を支配する時代が来るのだ!」
男は興奮気味に両手を挙げ、遺跡の天井を見上げて笑い[脱出]魔法を唱えた。
・・・不発?掻き消されたのか?
「・・なるほど、これが遺跡最後の罠か。像を持つ者に特定の魔法を禁じているのだな?盗難防止の結界か。まぁいい、邪神様のお姿を抱きながら出口まで歩くのもいいだろう」
(司祭だと?・・それも邪神の?)肌がざわつき、体は進めと戦えと訴えてくる。
ソレに反して、頭も心も恐くて堪らない。勝ち目が無い、死ぬイメージしか浮かばない。
振るえは足を強張らせ、緊張は手を強く握らせる。背中に被うのは死神の両腕、眼前にいるのは死をもたらす厄災レベルが違い過ぎる・・あんなのは反則だ。
戦え・逃げろ!戦え・逃げろ!本能がパニックを起こし、呼吸が瞳孔が・目の焦点が男と彼方を何度も写し、振るえは奥歯を噛んでいないとガタガタと言い出していた。
「・・なんだ・?お前は・・」
祭壇を下りてきたそいつが、勇者の気配に気が付き足を止めた。
氷りのような感情の無い声に息が止る、今にも飛び退き走って逃げたくなるが、頭の中は
(逃げ出せば、背後から攻撃を受ける)と警報を鳴らす。
ハッ・ハッ・ハッ・ハッ、過呼吸が頭を更に混乱させ手足の感覚がぶれて足元が揺れる。
「もう一度聞く、なんだお前は?」
「ジョンさん!」混乱する勇者の背中でピョートルが声を上げた。
「魔物?・・魔物が何故人間を襲わずにいる?何故、下らない人間などに従っているんだ?・・・殺して置くか[大火炎線]」
炎の柱・敵を薙倒し燃やす赤い光り、(これは)!知っている!
体は炎の光りに反応して跳ぶ。
ハァハァハァ・・(体が・・動いた?・・ピョートル!)
自分がさっきまでいた場所に、盾を構えて身を守るピョートルがいた。
(考えろ・アレはヤバイ、強すぎる。・・けど魔法は何とか出来ないレベルじゃない・・それにこっちは二人、向こうは・・1体・・)大丈夫だ、絶体絶命にはまだ遠い!
「ピョートル、殺るぞ!コイツは危険過ぎる、外に出すな!」
「ハイ!」盾を構えた奥から声がする、良し!
「・・死ね[爆裂]」オレ達の声を砕くように、爆裂の衝撃が遺跡をゆらす。
(コイツ!1歩も動かずにオレ達を殺す気か!それにオレ達の動きを冷静に読んでやがる、近づかせないつもりかよ!)
ズシン!
二発目の[爆裂]が骨を軋ませる、鼓膜が音を拾う事をあきらめ、わずか灯籠の光りでピョートルと動きを合わせるだけになる。
階段までの距離が遠い、階段を上る事さえ出来ていない。
「[大火炎]」ピョートルが守る盾と同じ大きさの火球を作り、放つ。
盾ごと吹き飛ばすような高熱と火炎の煙が立上がる。
(大丈夫か)一瞬手を伸ばしたが、直ぐさま動きを直線に変え走り出す。
(今は心配よりコイツを倒すのが先だ)
「馬鹿め、こっちが本命だ[死音]」
脳に爪を立てられるような感覚、即死魔法か!
階段に足をかけた膝が力無く崩れ、目が回り視界が歪む。
(やばい・・こいつレベルが・・高すぎる・・)
同じ強さで同士であれば、即死魔法の効果はそれ程無いらしいが、レベル差・能力差が離れるほど、その威力は上がる。高位者の放つ即死魔法は、簡単に人間の命を刈り取る死神の叫び。




