人間と魔物、それぞれいろいろ有るんだろうなぁ。
(近いな)魔物の熱量、足元にある足跡と、どこからか覗くような視線。
「・・勇・ジョンさん?」重い鎧と盾と兜で、少しスライムが疲れた顔を作り。
その上に乗る騎士が、先頭で止る勇者の動きで警戒を始める。
「視線だ、それも・・近い!」鎖鎌の分銅を振り回し、正面通路の脇を打ち抜いた。
「待ってくれ!敵じゃない!いきなり飛び出したら戦闘になると思って待ってたんだ!」
勇者の分銅は男の足元を削り、鎖を引くと同時に、小柄な男が手を上げて飛び出した。
「ジョン、来るのが早ェェよ!うちのリーダーがもー神経質になっちゃってさ、そんでミスしちまって・・悪りい、薬草持ってたら売ってくれねぇか?2倍までなら出すからよ」
ハハハ、バツの悪そうな、『頼むよ』みたいな、怨めない顔で、男が笑って近づいて来た。
・・・「いいですよ、4つまでなら上げますよ」
多分アレだ、リーダーの癇癪だ。オレが近づいたらまた声を荒げるのだろうから、彼が来たんだ。
「それに、そっちの足跡を追って来た見たいなもんですから。罠も・お陰で警戒し易くて助かりましたし、お互いさまですよ」
実際は足跡は見たけれど、罠は・・知ってたし。そこは言わぬが花だな。
「・・お前・・・いい目をしてるなぁ・・それが君の、冒険者としての武器かい?」
ハハハ・・「秘密ですよ?」勇者は苦笑いを作り、誤魔化すように話を変えた。
「pー薬草を2つ、オレも2つ出す」
[回復]は魔法でやり繰りしていたから、敵が持っていた薬草を拾って手元にはまだ余裕がある。
「いいんですか?ゆ・ジョンさん」
「いいんだよ、それに」貸しを作っておけば、後に交渉の材料にも使えるだろう。
「くれるって?そりゃ助かるけど・・いいのか?カネはいるんだろ?」
「一枚の銅貨を惜しんで、後の金貨を損するやつは馬鹿だってさ。
商人ってのは、カネにがめついぶん、少しの出資で利益が見込めるなら即断即決なんですよ」
「・・へっ、高く付きそうだな。この借りは・・出世払いだぜ?」
ええ、出世払いですよ。
冒険者は色々な場所に赴く[おもむく]為、二度と会うことが無い相手も多い。
つまり、憶えていたら・その時に余裕があれば、そんな約束だ。
それでも二人が笑っていられるのは、勇者が冒険者の資質があり、
ウェンもまた冒険者だからだろう。
「ジョン、お前さんに森の加護を」
狩人は森を守護する神に、健康と狩りの安全を祈る風習がある。狩人同士、お互いの安全を神に祈り。仲間である事を認め合うための儀式だとされている。
「ありがとうございます」
勇者は神に祈るつもりは無いが、友人になれるだろう男の安全を願って手を振って見送る。
「さてと、向こうの動きも解ったから、今度はこっちの方針だ。
オレとしてはアノ邪神の像をあの女に売ろうと思うんだが」
「はぁ、まあそれでU・・ジョンさんが良ければいいのでは?」
・・少しは考えてくれよ、結果とかなんで?とか、なんでもオレの方針を鵜呑みにするなら相談のしようが無いだろ。
「・・・先ず第1に、オレ達が秘物[邪神の像]を持って帰らない場合、あの女はこの遺跡の罠や地形、魔物の種類を聞き出し、レベルにあった人間を送り込むだろう? そうなれば、オレ達の知らない所でなにかをやるに違いない」
邪神を呼び出すような事は出来ないだろうが、その準備としての虐殺は有り得る。
「そして第2、オレ達が邪神像を持ち帰ったら、カネをもらうついでに、ヤツらの悪事をあばいて打っ潰す事だって可能になるだろ?」
金持ち貴族がいくら死のうと、どうでもいいが。
何も知らない良いやつが、巻き込まれるのは我慢できない。クズがゴミ溜めで死のうと構わない、ただ真面目に働くヤツ、夢とか誰かを喜ばせ支えるようなヤツが死ぬのは、オレが許せないんだ。
「大体だ、カネを持った人間が邪神に祈るとか、絶対まともじゃないだろ?」
「・・わかりません・・」
? pーは不思議な顔で頭をかしげる、なにが解らないんだろう?
「・・邪神様や魔王様は・・魔物の神様と魔物の偉い王様ですよね?」
「ま・・そうだな」だから魔王で邪神なんだろ?
「邪神に祈る魔物は・・魔物にとって良い世界・魔物の願いを叶えて欲しいから祈る訳で・・人間は人間の神に、人間にとって良い事が起こりますように、と祈るのでしょう?それは・・現状としては・・魔物の減少とか・・人間の住む土地が広がりますように・・とかですよね?」
あ~~そう言う、(確かに、人間が邪神に祈って、魔物にとって良い世界・魔物らしい願いを叶える・・それは不合理だ。人間の世界を余程憎んでいるか、馬鹿の二種類だろう。
前者は人間世界を魔物の世界にしようとしているだろうし、後者は・・何も考えていないバカ)
「なにを考えて邪神さまに祈るのでしょう?」
「・・しらない、馬鹿はどこにでもいるからな。金持ちで変な人間もいるんだろ?」
(馬鹿は死ななきゃ治らない・・か、でも自分が生きる為以外で、殺しはしたくないなぁ)
「・・私としては、邪神様にお会いしてみたいと言う気持ちはありますよ。」
「それで、おれが『戦え』と言えば戦ってくれるのか?」
そこで邪神側に付かれたら、真っ先に・・ちがうか、戦え無いかも知れないな。
「戦いますよ?邪神様と槍を、剣を交わせるなん魔物冥利に尽きますからね!」
・・・そこは、人間とは違うのか・・人間なら、王や上司に言われても
『神と戦いたくは無い』と逃げ出すか、平伏す[ひれふす]所だが・・
「とにかくだ、この依頼は邪神像を手に入れるだけじゃ終わらない、って事だけは憶えていてくれ」根が深そうな気がするんだよな。
・・・・
「て、事で薬草を手に入れて来た。これでリーダーの傷を回復させて、その後クエルの瞑想中を守る。そしたらクエルの[回復]でリーダーの腕も復活だ」
ジョンのお陰で、誰も傷付かない結果になっただろ?
(いや~~本気で引入れたくなったよ・・リーダーが嫌がるから無理だろうけど・・う~~ん、あっちが良ければ向こうに入れてもらうか?・・それもなぁ~~)
こっちは3年ほど厄介になっているし、移籍ってのは色々面倒なんだよなぁ・・
視点が色々変わるので、少し読みつらいかなぁ。




