表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/693

本当に・・さてどうしようか。

 強行軍、冒険者達の探索は休憩も少なく歩き続けていた。

「大丈夫かよ、クエルのおっさん青い顔してるんだけど」

 狩人の青年は、その鋭い観察眼で無口な僧侶の状態を確認する。


「大体いつもあんな顔だ、問題ない。魔力が切れたなら歩きながら回復させてもらう」

「・・ああ」

 リーダーの言葉に短く答え、ゆっくりと息をしながら歩く事でなんとか[回復]1回・・二回分の魔力を回復させる。


(チッ遅ぇ、後からアイツが来ているかも知れねぇんだ。そうなったら宝も報酬もアイツのもんになっちまうんだぞ?解ってんのかこいつら?)


 リーダのムノフは焦っていた、受けた依頼は警護と簡単な探索。報酬の多さと貴族とのパイプ、集められた他のパーティーもまとめ上げ、ようやく実力に相応しい仕事を手に入れ、これからだと言う時に。


 統一した装備で武装した兵隊に追われ、依頼人であるお嬢様を見失った。

 気がつけばオレに惚れさせるはずのお嬢様は、顔を隠すような、うさん臭い男に興味津々だ。


 もう一人の前衛は首に刃を当てられたくせに、肩を借りるような無様をさらしやがって。あれで貸し借り無しにする気か?お前はあの時、殺されていたかも知れないんだぞ!


「で!どうなんだ!その宝箱は!空か?それとも未開封か!」

 斥候をしているウェンが難しい顔をして首を振る。またか!この遺跡は古いくせに今までの宝箱の中は空っぽ、本当に秘物ってのが有るのかすら怪しくなって来た。


「一応中は入ってそうだが・・どうも罠っぽい、開けない方がいい」

「罠なら解除しろよ、その中に秘物ってのが有るかも知れないんだからな」


 罠の発見と解除はウェンにまかせている、が前衛のオレに比べたら安全な所でチマチマと動いているだけ、魔物の討伐はオレが受け持っているようなも物だ。


 調子の良いだけの器用貧乏、そんなヤツを仲間にしてやっているのに、最近随分なれなれしくなって・・『オレに命令するな』と言いたい所を、最近は常に押さえているんだぞ。


「どっちにせよ、秘物以外の宝はオレ達の物になる契約なんだ、多少の危険を冒しても宝は集めて置くしか無いんだ。開けてくれ」

『開けろ!』と言わないだけマシだろ?それくらい解れよ。


「・・・いいんだな?」再度の確認にムノフがうなずく、それが勇者が手を付けなかった[人食い箱]だとも知らずに。



「やっぱりだ!コイツ、クソ宝箱型の魔物だ!」

 ウェンが間一髪、飛び退き。大きく口を開けた宝箱がその場所を噛み砕く。


 宝箱のモンスターが動いた事で第2の罠が発動した。部屋の入り口が堅く閉ざされ、侵入者を逃がさないように鍵がかけられ部屋から逃げる事も出来ない。


「どうすんだよリーダー!扉の罠を外そうにもアイツがいたら集中出来ないよ!」

「お前が中身が有るって言ったからだろ!なんとかしろ!」


 魔物を倒すしか無い、それは解っている。だがこっちは回復の手段も残り少ないんだ。クソッ、なんでこう全部が全部上手く行かないんだ!


 体当たりで箱を壁にぶち当て、兜割りの一撃で上蓋を斬る。

(クソッ堅いな!)

ガキンッ!鋼の剣が鉄の金具に中り火花が飛んだ!


「リーダー!」ウェンが叫び、オレは素早く背後に跳ぶ。

 その瞬間に毛玉が魔物に命中し、弾けるように糸が絡み付く。

([蜘蛛の糸]か、これで少しは!)


 絡まる糸は魔物の口を閉じ、跳ね回るだけの堅い箱になり下げる。

「ウォォォォ!」クエルの渾身!鋼鉄のメイスが上箱に亀裂を走らせ、地面に叩き付けた。

「とどめだ!」オレは必殺の一撃を放つ為に力を溜める。

「駄目だ!リーダー止るな!」

 ウェンの声が響く。オレの目の前には、魔物の口が大きく開いていた。


(なんで?死にかけじゃなかったのか?)ゆっくりとした景色の中、そいつはオレを飲み込もうと口を閉じていた。


 直後!激痛が腕から肩に走った!

 反射的に仰け反ったお陰で、盾を持つ腕だけがヤツの口に挟まって止っているのが見える。


「クソッタレェェェ!!」炎を纏う必殺の剣、[火炎斬り]がヤツの砕けかけた上蓋を完全に打ち抜き、焦げるように外枠を斬って焼く。


 ビシッ・ピシッ・・ゴトン・・

 完全に動かなくなった[人食い箱]を何度も蹴り飛ばし、壊れた箱を何度も蹴りあげた。


「ハァハァハァ・・なんだよコレ!なんなんだよコレは!」

 壊れた箱からは[賢さの種]・・・馬鹿にしてんのか!


「動かないで下さい!」クエルが[回復]の魔法を使い、光りが包む。

と同時に腕が焼けるように熱い、なんだ?何がどうなった?


「リーダー!見るな!目を閉じろ!」ウェンの声とオレがソレを見たのは、ほぼ同時だった。

変な形にひしゃげた腕と、おかしな方向に曲っている関節・・なんなんだコレは・・・・


はぁはぁはぁ「今の私では、これが限界です」二度目の[回復]でギリギリ繋がって形を保っている左腕は包帯でガチガチに固められ、腕に繋がった熱い鉄の塊が、ジンジンと痛みを伝えてくる感覚。


「痛みがある間は繋がっている証拠、我慢しなよ。

本来なら切断していてもおかしく無い傷だったんだから」


(こいつ、他人ごとだと思って!)同じ状況になったら、その場に置いていくからな!


「クエルは早く魔法力の回復を、ウェンは扉を開けてから警戒だ。

アイツの動きも気になるから見張ってろ!」


「まってよ!まだ先に進む気かよ!」唯一無傷なヤツが、また反対してきた。

「当たり前だ!ここまででどれだけ薬草とか痺れ取りとかを使ったと思っているんだ!それにお前の使った道具も合わせたら、赤字も赤字・大赤字だろが!」


 騎兵から逃げる時に使ったクラッカー・蜘蛛糸・痺れ粉・煙幕、それら全部がお前の持ち出しにする気ならいいんだが?


「・・いや・・でも、無理だろ。主力のリーダーは重傷だし[回復]も魔法力の回復待ち。それも戦えるくらいまで回復させるとなったら、どれだけかかるのか」


「ならアイツの足止めだ、出来るだけ邪魔して来い、半殺しまでなら冒険者の洗礼としても良くある事だ」そうだよな?


「あんた・・マジか?オレは狩人だぞ?魔物使いと戦わせてオレが怪我したら、帰る時には全滅も有り得るんだぞ?」


 お前なんかいなくても、来た道を帰るだけならガキでも出来る。


「冷静になれよリーダー、オレ達の実力ならここまでなんだ。これだけ罠の場所や仕掛けを依頼人のお嬢さんに報告するだけでも、多少報酬は上乗せしてくれるハズさ」


 腕が完全ならコイツを殴っていた、オレ達は・・オレはこんな所でつまずく訳にはいかないんだ!オレはお前らと違って、上に行く人間なんだよ!


 オレの体温が上がる、無事な腕に力がこもる。後一言でも馬鹿な事を言って見ろ。

「・・リーダー・・冷静に・・ウェン、私達はそれぞれ目的があるのです。貴方が金銭であるように、リーダーにも夢がある」


「だからってよ、俺たちはこの状態だぜ?どうなるって言うんだよ?」

チッ「だから、それをどうしようかって話をしているんだ」

一番はアイツの邪魔をして時間稼ぎだろが!


「・・リーダー、ウェン。私に案があります、[瞑想]を使って魔力の回復に努めます。完全に無防備になるので、二人は私を守って下さい・・出来ますか?」


「無理だね。リーダーは片腕、オレは斥候と罠解除。どうしたって魔物と戦える状態じゃないよ」

これ以上戦力を減らしてどうするんだよ。


 本当に役立たずは、言い訳ばかり言いやがる。そこをなんとかするのが工夫だろ!お前の得意な小細工だろが!


「じゃあこっちからの提案だけどさ。アイツ、ジョンな、アイツの[回復]でリーダーの腕を回復させる、それで治療が出来たらリーダーとオレで、二人を守って、

クエルとジョンを休ませて魔力を回復するってのはどうだい?」


「お前!なんども言っているだろ!アイツは信用出来ないって、そんなヤツに頭を下げて治療してもらうっていうのか?」馬鹿も休み休み言えよ!


「・・・と言うか、ジョン達もう来たみたいだぜ?どうするよ?妨害しろ、ってならリーダー命令に従うけどよ。妨害しても大差無い距離まで来ているみたいなんだけど」


 足音を・・ぴょんぴょん・ペタ、ぴょんぴょん・ペタ、というスライムの跳ねる独特の足音を聞き分けたウェンが肩をすくめる。


「・・勝手にしろ!」もうこれ以上オレを苛立たせるな。

 リーダーの言葉でヤレヤレ顔のウェンが立上がる、

「さて、どうしようかな」と呟いて。

冒険者パーティーサイドの話です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ