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王の決意と勇者の絶望。

 死んでいたなら、盛大な国葬をして弔う事も、教会の大司教を呼んで、国民を団結させ

魔王に立ち向かう姿勢も世界に知らしめられる。


 だが、生きているか・死んでいるか解らない以上、その手段も使えない。


「・・生きていると考えた場合、捜索しないと言うのはどうなんだ?」

 王の考えは、二つだった。このまま事態の収拾を見守るか、それとも・・


「我らは、戦士達が生きて・今も戦っていると信じている。そう周辺国に見せる必要があります・・周辺がどのように考えるかは、難しい所ではありますが・・」


 国家も人間も、しょせんは他者がどのように見るかで評価される。

無脳と判断された場合も同じ、人間であるなら無視され、危機・貧困にあったとしても、

いない者として扱われる。


 では、国家なら・・・今、魔物達と戦争状態である今の世界なら、たとえ魔族が攻め込まれた

としても、救援も援軍も期待できないだろう。


「では、彼等が生きている。が、戦えない状態とした場合、わしの出来る事は・・」

「彼等の捜索及び、救出でしょうか・・現実的ではありませんが・・」


 そう、現実的ではないのだ。魔王の側近がどれ程の強さかは不明だが、少なくとも

あの精鋭達がかなわないレベルの敵がいる場所、なおかつ他国の領地、二つの理由で、

兵を進める事は出来ないのだ。


「では、どうすればいい。彼等の生存・死亡を判断でき、国の威信を回復出来る方法は、

どうすればいい」


・・・全員が黙り、沈黙が続くなか、だれも・何も案を出せない時間が過ぎ、

重い空気をさらに重くするように、老神官が口を開いた。


「進言をお許し下さい、殿下」

 常に難しい顔をしている老人が、さらに難しい顔を増して暗い表情を出している。


「ああ、忌憚[きたん]無く聞かせてくれ、国の存亡とも言える状況なのだ」


「勇者の仲間であれば、死ぬ事・全滅する事で教会・王前で復活の奇跡が起こります。

そのことは、王様はご存じでしょうが」


「ああ、英霊・精霊・神の祝福というヤツだな」

 勇者は死ぬ事すら許され無い、全滅すれは・・・!まさか!?

まさか、わしに勇者を殺せとでも言い出すつもりか?


「・・だが、あの少年を一度でも殺した場合、私への敵意で戦わないと言い出すはずだ。

少なくとも、自分を殺すような人間を守る為に、魔物と戦うなどありえん」


「・・はい、勇者は魔王を倒すまで死ぬ事は無く、病や事故でも無い限り、

他の場所の勇者が誕生・・選別されることはありません・・が・・」


 が?「なんだ、なにかあるのか?教会しか知らないなにか秘密が」


 神殿の歴史は古い、王国が誕生するはるか前、神と精霊と人がこの世界で契約を結んだ時から

存在したと言われている。

 当然王家が知らない情報・歴史・技術・を秘匿しているのだろう。


「長い歴史の中には・・勇者に相応しく無い者が、神託を受ける場合もありました」


「まさに、そんな馬鹿な。って話だな」今もお陰でワシは、こんな苦境に経たされているのだ。


「神の御心は、人には理解を超える場合がありますので」これも人類への試練かと。

と老神官は言う。


「話を続けてくれ、なにが言いたい」


「はい、勇者に相応しく無い者は、往々にして災いを招きます。その時・・・」

「続けろ」だまり込んだ老神官に王は命じる。


「・・・陛下以外の方々には・・・」

「席を外せと?それ程か・・・解った。だが将軍一人は傍に置く、いいな」


 深く頭を下げる神官を横目に、「お前達・・しばらく下がれ・・将軍は残ってもらう」

古い付い合いの老将軍を残し、他の者が退出する姿を確認した。


「いいぞ」私の言葉で神官が重い口を開いた。

「災いを運ぶ勇者を、こちらで交代させ、次の神託を待つ。そんな方法があると言いましたら……陛下は……どういたしますか」


・・明らかに、普通では無い声色と雰囲気。こちらで交代させる?死んでも蘇るヤツを・・こちらで交代させ、神託を待つ・・?・・・!?


「お前!まさか!」

「陛下、お静かに・・誰かに聞かれますので・・」


「・・勇者を・・捕らえて殺す、それ以上の事を・・しろというのか・・」

 拷問・薬物・洗脳・政治の裏側・・さらにその闇にある技術を使えと?


「勇者自身が、神と精霊と勇者を否定し、神につば吐き・精霊を呪う、殺し・苦しめ・絶望させ・

狂わせ・発狂させ、自身を否定させ、殺す。

そうすれば・・神は勇者を復活させず、次の勇者を選択した・・と記録があります・・」


「それしか・・ないのであれば・・その罪は、私が負いましょう。陛下、陛下は何も聞かなかった、知らなかったと・・」

 老将軍が顔を下げ、王の顔を見上げる事もなく、声だけが響く。


「お前の忠義、ありがたく・・思う。が、これは王の役目だ、私の役目なのだ・・・ありがとう」

 私の目尻に熱い物が浮き上がる、罪は・王の罪は王のモノだ。


 あの子供・・元勇者を殺し、戦士達がここで復活すれば良し。

そうでなければ、苦しめ・壊し・磨り潰すしかないのだろう。


 勇者が交代すれば、次ぎの子供には・・今度こそ全力でサポートする事を誓おう。



・・・・・・


「まだか!まだ見付からんのか!殺しても構わん!どうせここに復活するのだ!」

 そう、ここで復活し、戦士達がいなければ・・元勇者はもう外の空気を吸う事は無いだろう。

地下で・永遠に苦しみ、私と世界と神と精霊を憎み、私に殺されるのだ王であるこの私に。


「・・地下道・・を塞がねば、逃げられる可能生が有ります。あとは・・旅人の翼を使う事で・・

可能生は低くありますが・・戦士達と寄った町に行ける可能生があります・・・ゆえに、

兵を動かし検問のご命令を・・」


 老将軍の言葉に、王は無言でうなずく。


 その柱の後で、気配を殺し、吐き気を押さえる為に拳を噛んでいる男の嗚咽に気付かずに。


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