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世界を救う為に悪徳をなす男と、自分の為に遺跡を荒らす男。

 悲鳴が聞こえる、女と子供と男達の叫び声。ある声は歓喜のように、

ある声は潰れた喉を引き裂くように。


 黄色い煙をあげる焚き火は、大人ほどの高さに積み上げられた物の上で燃え続け、

声を失った者・祈りの舞を止めた者が火にくべられる。


「まだか、まだ足らんのか!もっとだ!もっと絶望を凶気を捧げよ!」

男は憎々しげに炎を睨み、声を上げる。


「もう・・お止め下さい。旦那様、こんなこと・・無意味でございます。それに領民の口を閉じさせるにも限界が・・」

 男に仕える男は目を伏せ、顔を見る事も出来ず震えながらたしなめ訴えようと言葉を絞り出した。


「口を閉じないならヤツがいるなら、家族ごと全員この場に連れて来い。なにも解らぬ脳無しでも苦しめれば、怒りも悲しみ絞り出せるだろう?」


 凶気に宴にあっても男の目は冷静、冷酷に事を起こし・進め・結果を求めていた。

「魔王がこの世界に現れて平和は失われた、魔物に多くの領民は脅かされ男も女も子供も殺され続けている!この程度の犠牲など物の数でもない!」


「しっ・・しかし、これだけの犠牲を出しても・・」なにも成せてはいない、ただ殺し・ただ死体を積み上げ、凶気の炎で燃やしているだけ。


「だから、今はまだ足らないだけだ。それに、お前は犠牲と言うが、日々人間が魔物に殺され、死ぬ数も知らず『これだけの犠牲』と言う。

 それこそおかしいのだ、あと少しで届くはずの結果を前にして、見えぬからといってあきらめては、今までの犠牲は・準備はなんだったと言うのだ?


無意味・無駄な物としてしまうのか?彼等は無意味に苦しみ死んだと?」


「しかし、死体を積み上げたからと言って・・結果が・願いが叶うとは・・」


「誰もしなかった、だれも成せなかった、だから結果は出ない。そう決め着けるのか?お前も他の貴族や学者と同じなのか?魔王の存在は信じても、魔王より上位の存在は信じぬと?」


 魔王は現る、だが魔王すら恐れる存在もまた知られているのだ。


「王達は教会の予言に従い、勇者を選定し育てたが、結果はどうだ?なにも変らぬではないか、もう20年は経つと言うのに。


 なら他の手段を考える事の何が悪い、ワシは魔王すら恐れる存在を呼び出し、使役し魔王を倒す。そうなれば私の正しさを全ての人間に知らしめる事ができる」


 その為の犠牲、足らぬならもっと積み上げよう。穢れが足らないならもっと血ヘドと糞尿を集めよう。叫び嗚咽が足らないなら・憤怒と悲哀が足らないなら・この地を地獄に変えて捧げよう。


「しかし・・それで王家の間諜に目を着けられでもしたら、旦那様も・お嬢様達も危険にさらしてしまいます。世界の前にご家族を!」

 こんな事が国王に報告されたら、領主様共々、異端審問後に火炙りにされてしまいます。


「だから私の娘を使ったのだ、上の娘は侯爵家の動きを私に伝えてくる、そして下の娘は今頃・・・」


「もっとだ、もっと様々な方法を使って苦しめろ!死体は燃やせ!そっちのやつ、ネズミの拷問はまだか」


 夫の前で妻がネズミの樽に詰められ、叫ぶ。二つの絶叫は重なり・打ち消し合い、妻の口から血の泡が吹き上がり、夫の喉から叫び潰れた声と唾液と混じるような吐血がこぼれた。


 水・火・酸・毒・蟲・獣・あらゆる手段で苦しみを与えられ、狂い壊れ死ぬ贄達。

館の下に作られた地下空間はゆがみ、今にも邪悪を呼びだそうとしている。


(才の無い私にも解るほどの歪みが見える・・だがまだ足らない、何が?何かが足らないというのだ?)


 魔王すら否忌する存在、ソレさえ呼び出せるなら、この小さな領地を地獄に変えてもいい。

それで世界はかわるのだ。魔王さえ倒せるなら、この程度の犠牲など。

魔王の・魔物のいない世界がやって来る事に比べれば、数十程度の命など犠牲にもならん。

 後の歴史が、私の正しさを証明してくれるだろう。



───────


 こちらは勇者の一向、彼等は自分達を守る為、戦力を増強する為に、装備を整える為ある場所を目指していた。

 それで来たのが、森に隠れた古い遺跡。

 地下では今も滝と共に仕掛けが動く音が聞こえているらしい。


「って話なんだが、それだけ有名な遺跡なら、もうなにも残されていないだろ?」

 人の噂は音の速度で広がるらしい、いくら深い森に隠されていても、森の外でも聞こえる音なら人間の興味を集めるのは簡単だろう。


「その遺跡の仕掛けは、人間では攻略出来ないとしてでもですか?」

「・・・なんでそんな事が言える?」


 人間の作った仕掛けなら人間が解けるように出来ている、解けないのは口伝されてないか、仕掛けの地図が失われたからだ。

 遺跡の利用者が人間であるかぎり、必要な時に仕掛けを外せないでは使えないだろう。


「・・その遺跡は、魔物達が・・大昔の知恵ある魔物が作りあげたと聞きます・・地下に封じられた魔王様の遺物を見つけるために・・」

 人間が石を積み上げられるなら、魔物だって洞窟を掘れるって事か。


「結局遺物は見付からず、放棄された遺跡に魔物達が住み着いたり・どんな手段かは解りませんが盗賊が住み着いたりしているそうです」


 おれが寝ている間に仲間との交流があったらしい。ピョートルの情報、信じるべきか・・

(一応は疑ってはおくが・・・魔物の情報網か・・)


「確認するが、オレがその遺跡を荒らしてもこの辺のやつ[魔物]は困らないんだろうな?多分襲って来る魔物は殺すぞ?」

 ピョートルの仲間達の隠れ家なら面倒な事になる、隠れ家でなくても魔物の闘争の火種になるのも面倒だ。


「入り口や其所までの道に現れる魔物は・・交戦を避けて戴きたいですが、中の魔物は多分そこまで他種族の言葉に耳を貸さないと思いますので・・」


 殺してオッケーって訳ね、(・・それほど凶暴って事もあるのか?)

「よし、どうせ他に道は無し!盗賊でも魔物でも蹴散らして宝探しだ。レベル上げと戦闘経験も積む、目的がハッキリすればあとは進むだけだよな」


・・・・・・

 切り株・毒蛾・林檎・ネズミ・耳で飛ぶウサギ、一番美味いのはウサギだった。

あと堅い芋虫とバッタと・・たぬき?

「鎖鎌の熟練度があがっちまうな。あいつらオレをどうしたいんだ?」

「・・さぁ?それより、たぬきは逃がしてよかったんですか?」


 逃げるやつは追わない、葉っぱを抱えて飛び出して来たくせに鎖鎌を振り回したら逃げて行った。「出て来た瞬間に殺してしまったら仕方無い、とは思うが。悪意のない魔物を殺すのはつまらん。

それにたぬきは不味いって聞くし」


(ウサギもネズミも本能で飛び掛かって来るから鎌のサビにしてしまうんだよな、本能で避けてくれねぇかなぁ)

 一応は貴重なタンパク質だから、喰える部位はいただくけれども。


 ガサッ・・・スライムの騎士が現れた!

「・・どうも・・」「ああ、うん。どうする?」勇者はブンブンと分銅を回し鎌を握る。

・・「あ!アッチの方に茸が、では私はそちらへ!」

 魔物の群れは去って行った・・


「なんであいつらは向こうからやって来るんだ?待ち伏せして囲んだ方が効率いいだろ?」

そうなれば戦うけれども。


「なんでしょうね・・こう、勇さんが近づくと、本能的な所で『襲わねば!』と飛び出してしまうんですよ・・人間の旅商人とかとはまた違う・・なんでしょうね?」


(チッ、勇者特性ってやつか?魔物を集めるオーラ的な何かが出てるんじゃないだろうな・・・

コイツはどうなんだ?)

 ジィ~~~~~・・

「私は襲いませんよ!そんな目で見ても、勇さんを襲う訳が無いでしょうが!」


「そうなのか?」何故だ。

「魔物だって従うべき相手を決めたら従う者です、魔物だって誇りがあります!

あちこちに主人を持つような事はしません!」


「・・主人ではないよ・・仲間だ」面倒なので二度は言わない。

・・・・


 殴って従わせるも買収するも同じ、一度従わせた魔物は裏切らないらしい。

(それが自由意思ならいいが・・・)

「逃げるべき時は、オレを置いて逃げろよ。命をかけてまで従うような事は無いからな」そこまでするような男じゃないからな、おれは。



「で遺跡の前まで来たわけだが・・」

 ポッカリ空いた入り口からは空気が吹き出し、確かにゴトッ・・・ゴトッと音がするな・・どうも簡単にはいれそうなんだが。


「人間の盗賊でも罠の場所は解るでしょうが・・」

「外す事は出来ない・・ってことか」


 罠や仕掛けを避けて入る事は可能、だがそれでは遺跡の全てを探索できない。

つまりまだ宝が残っている可能性は高い。


「ところで、盗賊の技術なんてあるのか?」どう見ても戦士タイプなんだが?

「ありませんよ?」

 即答された、じゃあどうするんだよ!


 答えは簡単だった、魔物が作った遺跡の罠は魔物には簡単に解るらしい。

「ですから、大昔の魔物が作った遺跡ですから」だそうだ。


「そこで止って下さい」オレ達が通路に入ってしばらくして声が掛る。

にょりん!とか、にゅりん!とかそんな感じでスライムの[スラヲ]が細い隙間に入ってく。

・・・・・戻ってきた、どこか誇らしげな雰囲気でピョートルを乗せる。


「大昔なら案内スライムが罠を一時解除していたと聞きます、人間の子供でもこの隙間は通れないでしょうから・・」


 一時的に解除された罠も、遺跡の仕掛けで戻ってしまう。そして・・空中にいる魔物には罠は作動しないって事か!


 コウモリ猫が数匹、バサバサと翼を広げて待ち構えていた。

(鎖鎌で叩き落とすんだけどもね)

ようやく話が動き出します。


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