プロトと博士、エピローグ。
最後にあと一周くらいはしても良かったかな、そう思うのはオレのエゴなのだろう。
もう博士の声を聞く事も無いと思うと、ああなんだろう、
これは・・寂しさか。
魔力の限界を超えたのに倒れ無いのは『レベルが上がった』からだろう、魔力切れで起こる虚無感・頭痛も無くなっていた。
「勇さん?」
「ああ、もう大丈夫だ。それより・・」
霧が晴れた事に気が付いたリリパットやノッカー達が、木の向こうから遠巻きにして見ていた。
「悪魔を倒したのか・人間?・・傷薬は使わないか?」
ポケットに入れていた傷薬に気が付く、
(・・・ああうん、確かにコレはひどいな)
拳が・手の甲が赤く黒く染まり、状態を自覚した途端に激痛が上がってきた。
「水は無いか?」
おれが手を見せると一人のリリパットが革袋を差し出す、
「こ、これを!使って・・くだ・・さい」
怯えるように袋を持ち上げたので、
「手がこれなもんで、かけてくれないか?洗いたいんだ」と。
熱い拳に水が冷たい、うっ血して脱臼もしているような感じで、手の甲の皮膚もめくれて痛い。
「ああ、もういいよ。ありがとう」
傷薬を塗り包帯で拳を固める、まだジンジンと痛いが(これでいい)と思ってしまう。
「この先に悪魔の家があるんだよな?」
「勇さん?」ピョートルの不思議そうな声と、他の住人の驚く表情。
「少し気になるってだけだ、住み着きゃしないよ」
そうだよな、せっかく悪魔を倒したらそれより強い人間が住み着いたら嫌だろう。
解るよ。
カンカン!カンカン!
金属を打つ音に顔を向けると、ノッカーがプロトの体を叩いている。
・・・確かにプロトは魔物が近づくと、殺してスープにする奴だけどさ。
「その死骸は、倒したヤツの物だろ?」
死体蹴りを見たままにするには、知りすぎている。
(くそ・・重い・・な)プロトの体を背負い、悪魔の家・・博士の家まで歩く。
途中ピョートルとその仲間達も手伝い、みんなでワッショイ・ワッショイとかけ声がかかる。彼等にも死者を弔う習慣があるのかも知れない。
「敗者といえど・我らの敵であり、家族を殺した相手といえど・・・です」
魔物の騎士たちは、兜の奥の表情は解らない、が、
敗者を・仇の死体を貶める行為は、自分達の殺された家族をないがしろにする行為、そう言う気持ちなのだろうか?
朽ち果てた、家というには柱と僅かな壁しかない、草で覆われた場所。
その中にただ一つ、毎日歩き続けたように残る道が続く。
(こっちか)
一つは、かまどのある台所に続き、もう一つをオレは知っている。
・・・そこには体の骨もなく、ただ一つの骸骨が置かれていた。
周囲の草は刈り取り・または抜かれ、墓標のように石の上に置かれた骸骨。
「よお、久し振りだな・・博士、相変わらず不味いスープを飲んでいるかい?」
・・骸骨はなにも答えない。
日記の置かれた引き出しも無く、太陽の光を浴びた骸骨は
『これが、慣れたら癖になるもんじゃよ』と笑っているようだった。
骸骨の横にプロトを寝かせた・・
(一宿一飯・・って事になるから・・手を合わせるぐらいは、な)
しばらくの間手を合わせて立上がる、気が付けばオレの横や後でも手を合わせている
「敵の死体に手を合わせるのか?」
「・・恩人が手を合わせ、弔う相手であるなら、敬意を払うべきではないでしょうか」
・・・そうかもな。
疲労が限界に近い、頭がくらくらする。
「すまんピョートル、少し休む」
廃屋に残った一本の柱を背に座り、目を閉じる。
(一応、悪魔は倒したんだ・・夜までは約束通り休ませて・・もらう・・)
薄く意識が戻る頃、まぶたの隙間から見える暗闇で夜が来ていたのだと感じる。
(辺りに動く物の音は・・しないな)
・・逃げたか、それとも仲間の本に帰ったか・・まぁいいか。
背中を伸ばすとバキバキと音がする、魔物の森でこんなに深く寝るなんてな。
?・・足元に置かれた葉、その上に木の実と茸?
(礼のつもりか・・)その時は、毒があるなんて事は思っても見なかった。空腹と途切れた緊張の中で手を伸ばし、木の実をかじり、茸を食う。
(あのスープよりはマシだが、こっちは人間だぜ?生の茸とか・・まあいいか)
コリコリと芳ばしい木の実とジューシーを超えた生の茸、木の実は有りだが、茸は今度からは火を通そうを思う。
死者は立ち止まり、生者は立上がる。
「じゃあおれは行くよ、ゲンキでな・・てのはおかしいと思うが」
暗闇の中、プロトの胸から赤い光りがもれていた。昼間は解らなかったが、暗闇の中でほんの少し、ロウソクの火より小さく弱い光。
(?鉱石は砕いたはず)もし砕けていなければ、また起き上がりこの森のヤツらを殺すだろう・・
光りに手を伸ばし、鉱石をしまってあった場所のふたを開けた。
1/3ほどが砕けた赤い鉱石、それはか弱く、脈拍つように光りを明滅させ、
小さく熱も放つようだった。
(・・すまないな)これ以上の破壊はしたくない、そっと手を伸ばし鉱石を取り去った。
手の中に徐々に熱が溶けるような鉱石、おれはソレをふところにいれ完全に停止したプロトの胸の蓋を閉じた。
さて、今度は男と漢の約束だったな。「行くか」
「勇さん!探しましたよ!」
・・「ああ、すまない。そっちの状態はどうだ?傷とかは?」
逃げたと思ったとか、無粋だったな。これからも苦労をかけるよ相棒。
「へ?・・傷も疲れもありません!いつでも戦えます!な?」「ぴきゃ!」
なるほどスライムもやる気か、よし、まずは王冠を返す・・前に体を洗うか。
ボロボロだからな、オレ達は。
ようやくひと段落、勇者に仲間が一人加わりました。




