最後に喰ったスープの味は。
「本来ボクじゃ使えない魔法でも、キミ達やあのジジイのお陰でレベルアップしたボクなら使えるんだ。こんな所でも見つければ有るもんだね。生け贄ってヤツは」クククッ
・・・発明に悩み・苦しみ、持論を否定され続けた男の魂。その懊悩[おうのう]を霧に閉じ込め、
魔鉱石を与え・希望を与えから絶望させる。
幾度ループし続けたのか、男は何度も死んで、日記を残し。目覚めてはプロトを作り出すために・・(もしくは、作った息子を、もう一度生み出すためか)
失敗するループも成功するループも繰り返し・繰り返し・何度も何度も・・・
この小さな悪魔のレベルアップのために、絶望と希望を繰り返していたのか。
違和感はあっただろう、それでもプロトと出会うために違和感を無視して繰り返す。
そんな男の希望を踏み躙っていたのか。
「怒った?でもそんなのおかど違い、君達人間だってレベルアップのために魔物を殺すだろ?
同じだよ、悪魔は苦しみや絶望・悲しみも栄養に出来るってだけ、なにが違うっていうんだい?」
「そうだな」感情の無い言葉が口からこぼれる、まぁどうでもいいか。
「ピョートル、今からアイツを殺す。手を借りるからな」
「・・はい・・」
機械の様に、感情も湧かない。ただ殺す手順だけが頭を駆け巡る。
「いいねぇ、その殺意!キミを核にして、何度も何度も届かない希望を見せて苦しめるのには丁度いい殺意だよ!精々頑張って抵抗してよ?」
吹雪・目を塞ぎ音を掻き消す、冷たく強い息が勇者を襲う。
オレはピョートルに鱗の盾を渡し、仲間を盾にする。
「ほら、次ぎは[大火炎線]だよ!」吹雪と火炎を繰り返し、オレ達が守りを固めている姿に飽きたのか、それとも焦れたのか[爆裂]を放った。
[爆破]の中級魔法[爆裂]その威力は二人を吹き飛ばし、前衛のピョートルの意識を奪った。
「[回復]をしながら防御するピョートルを一撃で吹き飛ばす・・か凄いな」
(あの魔法使いのジジイも確か使ってたな、自分がくらう方になるとこんなに痛い魔法だったのかよ)
「爆裂に耐えるなんてね、よっぽど上手く盾にしたのかな?でも、もうその盾も倒れたよ?
次ぎはどうするんだい?」
[[[氷結]]]手の平に収まるほどの氷りが宙に浮き、ゆっくりと小さなサタンの方に動き出す。
ぷっ、クククククッッ。。アハハアハハ!!「それがキミの切り札かい?ただの[氷結]が?
アハアアハ・・笑える!笑わせてくれるね、この後に及んで初級の[氷結]だって?
しかも魔力も限界かい?そんなに遅くて、ボクに当たると思ってるのかい?」
頭が痛い、耳障りな声が頭に響く、もう限界が近い。早く・次ぎの行動に移らないと・・手足が冷たい、体力が・・
体の感覚を置き去りに、意思で肉体を操るように走らせ銅の剣を振る。
「おっと!そんなの当らないよ!あははは」
簡単にかわす小さな悪魔の動きを読んで、その尻尾を掴む。
(最初っから狙いはお前自身だよ)どうせ小馬鹿にするように、ギリギリで躱[かわす]す事
は解っていた。
(弱った相手をからかうのが好きなんだろ?お前は)
そしてその小さな体、掴めば簡単に引っ張れる。
「そして、引っ張れたら・投げ飛ばせる!」
投げる先は、当然[氷結]が飛んでいる場所だ。
「だから!馬鹿じゃ無いの?って言ってるんだよ。こんな氷結でボクがなんとかなるって本当に思って・・!る!!の!?」
バチバチと弾けるように[氷結]がリトルサタンを蝕み、その左半身を氷らせた。
「馬鹿な!ボクには氷結と寒さに抵抗があるのに!何をした!お前は何をした!」
そんな事教える訳が無い、教えてやる義理も無い。ただ凍結した今のお前、
動きが止っているぞ?
「まさか?真逆真逆まさかまさか!そんな!」
拳に込めたのはプロトの時と同じ[火炎線]、動く的には自信が無い技だが、
止っているヤツなら、
「壊せる!」
バスッ!炎の衝撃が貫通し、悪魔の体に穴が開く。と同時に開いた穴を掴んで地面に引き倒し、
まだ拳に灯った残り火でその顔面が焼け崩れるまで殴り続けた。
ハァハァハァ・・拳が痛ぇ・・
そうだよ、動いているヤツにはこの技は使えないんだよ、今のおれは。
「堅すぎるだろ・・プロト・・ガウスの爺さんも・・堅く作りすぎだ・・クソ・・手が痛ぇ・・」
あの瞬間、プロトはオレを確認して動きを止めた、「U」聞こえた声が耳に響く。
おれはそれを知っていながら、それを利用して・・プロトを殺した・・
「プロトに魂があるなら、おれは・・爺さんの子供を殺した事になるな・・ごめんよ」
手が痛すぎて、涙が出る。
霧が晴れ、森に空が見える頃『レベルが上がった』といつもの呪いが聞こえる。
゛あ゛あ゛あ゛あ゛あぁぁぁぁぁぁぁ・・・・
傷む拳を地面に打ち付けても、プロトを殺した時のような痛みは与えてくれない。
何度も・何度も・何度も・・
「勇さん!勇さん!駄目です!それ以上は駄目です!」
地面を打つ拳を後から掴まれ、[回復]の光りが拳を包む。
「止めろ・・止めてくれ、この拳の痛みだけは。[回復]させないくれ」
おれは拳の痛みを守るように抱き寄せ、拳を握る。
「・・いいんだ、もうしない。だから[回復]はもういい自然に直したいんだ」
痛みが残る間は絶対忘れないだろう。
あの偏屈な博士と、あのプロトの作る、不味いスープの味は。
後味の悪い殺しは、イヤだなぁ。ホントに。




