リトルサタン、お前だけは必ず殺す。
我が盟友!我が協力者!彼の名を知らなかったとは、私ももうろくしていたと言う事か!
プロトの心臓と魂と足を与えた男ユウ!
彼には可哀想な事をした、プロトのスープは慣れるまでは少し難しい味なのだ。
すまぬ。
・・・・
おかしい、なにかおかしい、私の家に何かが起こっている事は確かだが、それが解らない。
だが私にはプロトがいる、大丈夫だプロト、お前にも私がいるのだから。
目をつぶると這い回る鼠の足音、部屋は掃除されシーツは洗濯されているのに、部屋の中に残る不快感、なんだこれは?
・・・
ついに立てなくなった、歳だと思いたいが、どうもそうでは無さそうだ。
この日記を探すような声が、私が眠る度に聞こえる。恐い、プロトよ。
お前を残して逝くのが恐い。
ああプロトよ・・私のプロトよ・・
・・~~~==ーーーアレは・・なんーーーだ・・アイツは・・な・・んだ・・
く・・そ・・ーーにげーーろ・・わ・が・こ・・よ・・
ジッ・・ジジッ・・頭に小さな火花がはじけ、まばたきしてしまう。
(ああ・・そうか、そうなんだな・・ああ・・)
「勇さん!大丈夫ですか!」
「ああ・・大丈夫だ・・」
「勇さん!オレも戦います、指示して下さい!」
「ああわかってる、少し集中する、力を貯めるまで時間を稼いでくれ」
「勇・・さん?」
いつもと違うオレの様子にピョートルが息を飲んだ、多分氷りのような
表情をしていたのだと思う。
「頼む・・説明はあとでする」
集中に入ったオレは、目をつむり。体中の筋肉を緊張させる。
「わかり・・ました、私は時間を稼ぎます。行くぞ!」
ピョートルの気合いの入った声と、スライムの体を逆立てるように波立つ体。
(たのんだぞ、ピョートル)
オレの体の筋肉が固まり、心臓がバクバクと強打つ。
血圧は上がり、普段使わない筋肉にまで血を廻らせる。
目の前ではピョートルが懸命に跳び回り、挑発と防御と牽制を繰り返しプロトの腕をかわす。
ハァ・・息を吐き出し全身の力を[抜く]、脱力した筋肉は硬直していた時に送られた酸素を使いたいと訴え、その瞬発力は普段の全力を超える。
「かわせ!」魔法の[加速]と同じくらいの速度で走り・距離をつめ、
拳に集中した魔法を打ち込んだ。
一瞬プロトと目があったような気がする、すまない・・
火炎の閃光と爆発、衝撃はコアである魔鉱石を砕き、核を包んでた金属の容器を貫通させた。
・・・・
「勇さん!」
「まだだ!気を抜くな!」
いるんだろ?この茶番劇を用意したクソッタレが、出て来いよ!
[爆破][火炎線]二つの魔法を周囲に放ち、揺れる木と落ちる木の葉をにらむ。
「やれやれ・・もうばれちゃったか、勿体ないなぁ。あの鉱石は貴重なんだよ?」
木の葉と木の陰に隠れた影から、子供のような声がする。
三つ叉の槍を持つ小さな悪魔が影から現れ、オレを笑うように口元を隠した。
「クフフフッ、普通はプロトタイプに殺されるか、霧に囚われて向こうで死ぬんだよ?
キミは何者かな?」
「・・人に名を聞く時は自分からだ・・が、そんな物はどうでもいい。なんのためとか、どうしてとかもどうでもいい。殺す」
『相手の力量が解るまでは突っ込むな!』誰かの声が足を止める、
鱗の盾を構え銅の剣を手にジリジリと距離をつめた。
「おや?慎重だね、そっちの騎士は・・仲間に頼まれたかな?キャハハハ!そうだね名前なんてどうでいいって言われると、名乗りたくなるのが悪魔さ!」
リトルサタン、子供の悪魔は種族の名前を言うと、口から冷たい冷気を吐く。
(これが、霧の正体か・・)
冷たい息は徐々に強さを増し、盾の内側まで冷気が届く。
「勇さん、私が盾になります、先程の技をもう一度!」
「さっきの技?キャハッ!いいね!見せてよ!ほら!どうしたの!さあ!」
冷たい息を止め、からかうように両手を振り上げて誘う様子を見せる。
オレは挑発に乗るように、集中し拳に魔力を込めて構え腰を落とす。
「バァァァァカアァァァァ!死ね[大火炎線]!」
炎の柱が横倒しで降り注ぎ、地面を焼き焦し空気を燃やす!
ごほっ!げほっ!守りに徹していなければ燃えていた、中級魔法だと?こんな悪魔が?
「大丈夫かピョートル!」
「守ってましたので大丈夫です!勇さんの技は警戒されているみたいです、どうしましょうか!」
「警戒?そんなのしないよ?で・も、せっかくの仕掛けを壊されたのはムカついているんだ。精々苦しんで死んでもらうよ!」
ゴウッ!今度は最初から吹雪を吐き出し、地面の炎を消しながら
勇者達の体力を奪いに掛ってくる。
(飛び込めば[大火炎線]、離れていたら吹雪か・・・まだあるな)
・・・「ピョートル、少し盾になれ」
「了解しました!」
オレの命令に躊躇[ちゅうちょ]なく答え、前に立ち盾を構えて踏ん張る。
投擲・それは、この戦いに最初から最後まで使う戦術だった。
バキン!そこに落ちていた石は、本気の投擲で速度を増し吹雪の中心に飛び込み何かを砕く。
「御まぇ!石を投げるなんて・・くそ!知ってたのに、お前の技は全部知ってたのに
お前なんかオレの餌になってたらいいのに!くそ!くそ!」
悪魔の口から緑の液体を垂らし、前歯が足らない口でいかる。
(観察と吸収・・その為の霧の結界か・・)
「そうだ!今度はお前の心臓を核にして結界を作ってやる!お前は永遠に死と幻の間の迷路で迷いながら、殺されるまで苦しみ続けるんだ!」
「そして開放されるまで、何度も何度も殺され続けるんだよな?」
二カッ「良く知っているじゃないか」牙の抜けた小さなサタンは嬉しそうに笑う。