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勇者パーティを追放されたけど・・オレ・・勇者なんだけど・・  作者: 葵卯一
トラウマの砂漠を越えろ。
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だれの為に暗躍するのか?

 戦場から遠く離れ、元は波の町と呼ばれていた瓦礫と惨状の一角にある屋敷のひと部屋で、一体の魔物が慌てるように荷物をまとめている最中だった。


 屋敷の地下には息のある人間とそうで無い物が詰まり、魔物の部屋には完成された[生きた家具]と彼の作り出した[生きた装飾品]が飾られ、小さい悪魔は逃げ出す前に自分の自信作を選別し選んでいる最中だったのだ。


「クソッ、なんだあの煙は!それに聞こえてきた落雷のような音!あの戦場でそれ程の攻撃が出来る魔物はいない!だとすれば、アレが魔王参謀閣下の仰られていた黒水の効果。


 それを先に人間に使われたとなると・・・この戦争の敗北は決ったようなもの!

 私は至急この事を閣下に知らせなければなりません、その為には・・」


 自分の[努力]を認めてもらう為の証拠が必要となる・・つまり、ここに置かれた生きた家具達であり、装飾品の数々である。


「それに・それに・・」自分の屋敷に飾る為用の物もいる。


 喉を裂かれ目を抉られ、手足を切断し骨と腱と血管を組み合わせ捻り作った悪魔のような玉座、

頭部の皮を剥ぎ取られ、内蔵の一部・生命の限界まで削り切り、肉の代わりに傷薬を塗付ける事で生かし続け、ヒューヒューと乾いた声を上げ時に゛あー゛あーと悲鳴を上げる二つの頭蓋を持つ傑作。


「コレを作る為に、わざわざ人間のつがいを使ったのですよ・・

そう!悲しみと夫婦の絆を一体とした奇跡の表現なのです!これは絶対に持ち出さねば!」


 魔物は拷問の間に研究を重ね、[どこまでやれば死ぬのか]を逆転させ[生かす為の限界]を追求していた。


 その他にも壺のような生きたナニカ、悲鳴を吐き出し心臓を動かし続ける骨と筋で作られた机や顔の皮が張り付き、目を動かす箪笥その全てが生かされていた。


「うんん~~~~ん、確かにすばらしい出来映えだと思いますが、持ち出されるのは困りますねぇ」

 声がした瞬間に小さい悪魔が振り向いた時、ソレはいつの間にか立っていた。


「人間の脂を使った蝋燭[ろうそく]は独特の匂いと煙が出ますから・・長いはしたく有りませんので、先に言っておきます。死んで下さい」


 黒く染まった人間の影、夕闇に伸びた影法師。

 そいつが立上がり声を出しているようなソレは、悪意も敵意も無く、興味すら無いように死ねと言う。


「お前・・その姿・・悪魔か?オレが魔王参謀閣下直属の悪魔と知っているのか?オレに手を出せばどうなるか、解って」いるのか?


 小さい悪魔は、勘違いして現れた悪魔に自分の立場を教えてやるように目を開く。その瞬間、自分の腕に熱い痛みが走り、熱い液体が顔に掛かった。


「知りませんよ、そんな事。ですがお前のような悪魔を生かして置くと困る方がいらしゃるのです」

 影法師の悪魔は指をクルリと回し、小さい見覚えのある肉を掴むと生きた壺に放り込んだ。


「・・・う・・うぎゃぁぁぁーー==オレの腕!オレの腕が!、キサマこんな事をしていいと思ってるのか!」

「さあ?良いでは無いでしょうか?彼等も散々上げさせられたのですから、少しは溜飲も下がった事でしょう?

 私が一瞬で終わらせてしまえば、こうなってしまった彼等も何が何だか・・とねぇ」


 叫びを上げる悪魔に対し、興味の無いような影法師が目を開く。


「悪魔が人間の味方をするのか!こいつらの仇討ちでも頼まれたか?ハハッ!勘違いもいい所だ!


 そいつらは[加工]している最中は叫び啼くが、大事に大事に扱ってやれば感謝の涙を流すただの家具だ!

 そこのオブジェなんか『神よ!神よ!』とか叫んでやがった男が、今ではオレが水を差してやると喜んで内蔵を振るわせやがる。生かしてくれて感謝しているんだよ!」


 死ねば喜びも無いが悲しみも無い、快楽も無いが苦しみも無い。

 だがこの場にある[物]は生かされ、神経を剥き出しにされ、痛みは存在する。それを和らげる存在にいずれは感謝するようになったのだろう。自分を[この様に]した存在であってもだ。


「生か・し苦しめ、わずかに助ける。まるで神にでもなった気分でしょうね。

強者の自作自演で一喜一憂する弱者を見下し、さぞ楽しめたことでしょう」

 それも、自分より強者が現れるまでの享楽ですが。


 奪う者はいつかは奪われる側に立つ、全ては因果応報。数万年生きていらっしゃる魔王様ですら、いつかは力を失うのですから。


 ・・循環して繰り返す栄光衰退。

(それが解らない者には、真に滅びの美学など理解出来ないでしょうね)



[破壊]・爆破系上位魔法が完成する。[破壊]の生み出す一瞬の光り、その場の物体を粉々に砕く力の光り。


「や!・・止め!・・」

 小さい悪魔が口を開く時、その閃光は全てを包み込んだ。

 ドッッッゴォォォォンンンン!!!!


 爆音と共に吹き飛ぶ屋敷、その地下にいる物も含め全てを破壊し尽くす凶暴な爆発は振動と共に瓦礫を舞い上がらせ、跡形も無く崩れさせた。


「価値観の違いですかねぇ・・私は刹那に美を感じるんですよ。


命の爆発、瞬間の煌めき!物や形には残らなくとも、心と記憶に残る恐怖・希望・慈しみ!愛!


 愛は一瞬にして悠久!彼の人の記憶に!私の愛を!それこそが私の求める美!勇者様の一生は悪魔の寿命からすれば一瞬の瞬き!ですがそこに愛があれば永遠なのです!

 物や形には残らないからこそ、私と言う悪魔に永遠に刻まれるのですよ!」


それはそうとして・・


(・・念入りに・・ね)悪魔は崩壊した屋敷に油を撒き、地下に浸透するように丁寧に油を注ぎ、火を付けた。



(お前は悪魔としては、正しい姿なのでしょうが。お前の作った物・お前の言葉と行動、それを万一にでも私の勇者様に知られる訳にはいかないのですよ)


 それは勇者が悪魔・魔物を敵として認識し、皆殺しにするトリガーになるかも知れない。


 今は人間と魔物の間で揺らぐ勇者が、神の思惑に嵌まり神の兵になる。

ただ魔物を殺すだけの道具になる、それは自分が仕える勇者様のもっとも否忌する事だ。


(私としては、それでも『良い!』と思うのですが・・)


「劇的な出会い!そして忠実に仕え、支え甘える悪魔をある日より敵として認識する勇者様!


 勇者の本能が私を殺そうとして揺れ動く心!そして涙ながらに私の胸を貫く銀の鋼!

 

 私を殺す時!勇者様は涙を流して下さるでしょうか!それとも歓喜に歪むのでしょうか!ああ!!私!気になります!」 


・・・ですが、それは今では無のですよ。私はまだ愛され足らないのです、頭を撫でて貰い、声をもっと聞かせてもらいたいのです。もっと私を見て貰いたいのですよ。


(だから私の我が儘でお前は死んだのです、実に悪魔らしいとは思いませんか?)

 自分の欲望に従い、弱者を踏み躙り踏砕する。ヤールと小さい悪魔にあった違いはただ一つ、弱いか強いか・その違いしかなかったのだろうか。

グロは嫌いなんですが、仕方無かったんです。口直し的に短編を一つ書き上げましたので、そちらの方もよろしくお願いします。[異世界駄菓子屋]って短編です。

・・異世界食堂と・駄菓子屋を+したような話なので軽く読めると思いますよ。

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