乙女のお菓子は砕いたクルミ、これが世界の常識です。
「まずは、後片付けだな」
オレの目の前に転がるラルヴァの黒い体、体を揺さぶられ振り回された結果目を回し、昏倒・昏睡していた。
(こうなっては・・・、と思う所もあるけどな)
戦争は大将首を獲ってこそ勝敗が決る。
王が全権を与えた将軍首、敗戦国の王族も国民の前で斬首される事で国民は真に敗北を知る。
仕方ないんだ、それが主権者の役目みたいな所があるからな。
腰のオオバサミを引き抜き、二刀を掴む。(痛みも無く浄化しろ!)
根性!!気合いと共に両腕に根性を込め、渾身の力をハサミに伝えて行く。
[大鋏二刀流]大十文字切り!
思いっ切り、ただ思いっ切りの力で振り下ろした右の鋼刃がラルヴァの体を両断し、左の鋼で真横に引き裂き斬撃が十字を描く!
十字が悪霊を浄化するとは思えない・十字が魔霊の無念を晴らすとは思えない。
それでも十字にはヒトの信仰を集め、敬[うやま]わせるなにかがあると思う。
(剣刺さる大地の影、戦場の墓標。シンボルの始まりが何かは忘れたけどな)
「勇者様が敬虔な信徒だとは、私・知りませんでした」
「おれも、自分が神を敬っているとは思って無いぞ?」
・・・・・
「ヤーさんもヒロシさんも!懸命に戦った相手に敬意を払う姿勢は解りましたから!今はランタンさんの方を何とかしましょう!」
トカゲが炎の中に帰って行き、フレイミーが力無く崩れるなか、四方に散ったジャックランタン[小]が中に浮き、トリックア・トリート!している。
「普通の魔物がお菓子なんか持ってる訳ないだろ!」
・・・まあウチの仲魔も持って無かったんだが・・・
「勇者様!私はちゃんと持っていました!・・ただランタンの嗜好[しこう]とは異なっていただけです!」
ヤールは[ヤッちゃんイカ]がお菓子である事を譲るきは無いようだ・・・甘味が足らないぞ。
「それとは別口で、アレをどうやって止めるかだ。[殺しは無し]として、アレを正気に戻す方法に考えが有る者は?」挙手を願う!
「やはり・・お菓子でしょうか?ちゃんとした物を与える事が出来たらきっと・・」
「それはそうなんだが・・ちゃんとしたお菓子を手に入れる事から無理難題なんだよな」
周囲は火の海、魔物の焦げる匂いと煙で充満して鼻も効かない状態で、「魔物がお菓子を持っていると思うか?」そして探せると思いますか?
「仲間が眠っていたら殴る、壊れた椅子も叩いて直す、つまりそう言う事では無いでしょうか?」
「。。。やっぱりそうなるよなぁ・・」というか、それ以外に現実的な方法が思い付かない。
暴力反対なんて今更だ、言葉の通じない・理屈も倫理も通じ無いヤツらを薙ぎ倒して来たんだ、[力]しか通じ無い相手がいるってのはもう理解している。
(殴るか!)放置すれば他のヤツら・・人間に攻撃するのは明らか。
そうなれば反撃でランタンを殺されても文句は・・文句は言うが、仕方ない事として認めるしかない。
「あちこちに散っていったからな、急ぐぞ」
方針を決めたら素早く動く、そうすることで現実に被害も損傷も減らせるからな。
「・・・すみません勇者さま、私、少し小用が・・少々この場を離れてもよろしいでしょうか」
話の腰を折るようで申し訳ありませんが、と。
「任せる」ヤールと言う悪魔が用事があると言うなら、多分オレの為の行動なのだ。
そのくらいは信用しているし信じている、だから内容までは聞く必要も無いし、問いただす事もないからな。
「・・頬に口づけしてもよろしいでしょうか?」
「・・・冗談を言うヒマがあるなら、早く用事を済ませて戻って来い」
チョイチョイ冗談を交ぜてくる、全くこまった悪魔だよコイツは。
(なんだよ、そのどさくさに紛れてセクハラしたかったのに!見たいな顔は、早くここはオレに任せて早く行け!ってば)
「勇者様?それは・・死なないで下さいね、お願いしますよ」
「・・・大将は倒した、周りは燃やされて死にかけの魔物だけ。火の勢いも落ちて来てる、後はバカな事しない限り死ぬなんて事があるか!」全く。
「では、少しの間お暇[いとま]させて戴きますので、後はピョートル先輩、お任せしますよ?」
心配性の悪魔はゆっくりと頭を下げ、黒煙の影に沈んで行く。
・・・格好付けやがって、全く・・・(どうやったんだ?)
勇者は悪魔が消えた辺りの地面や周囲を調べ、自身の周りを細かく目視したが解らない・・か。?なんだこの・・
「オイ無事か!」
「そっちこそなんで来た、危ないぞ」
無数の足音と戦士の影、気勢を上げて炎の中に飛び込んで来たのは椰子与を先頭に現れたオアシスの戦士達・・と首根っこを掴まれてグッタリしている小さいランタン。
「そっちこそって・・お前らが飛び込んで行ったのが見えてな、旦那に魔法をかけてもらってな。ほら、炎とかふぶきから身を守るヤツ」
[加護の守り]か、それでも燃え盛る炎の中に飛び込むようなアホな真似を・・
「根性入れて飛び込ゃあ、火もまた涼しっってな!それよりコイツは何なんだ?『お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ』って、お前の仲間かもって捕まえて見たんだが」
脳筋と根性でなんとかする一族、恐るべきだな。
「・・一応オレの仲魔みたいなんだが・・ちょっとしたトラブルが起こって・・」
混乱・錯乱・分裂・増殖しました。
「じゃあお前に任せれればいいんだよな、ほらよ」
グッタリしているランタンを投げ渡し、炎の中で聞こえる声に左右を向く。
「・・お菓子を上げたら、大人しくなるはず。大将首も取ったし、オレ達はランタン達を回収したら休ませて貰うから・・ちなみにお菓子をまだ持ってたら分けてくれませんか」
椰子与さんがランタンに渡した分以外に持っている事を期待する。
(しかし・・筋肉マッチョでゴリゴリの根性主義者だと思ってたら、さすがは女性!戦場でもお菓子一つ持ってない野郎共とは大違いですよ、ほんとに)
「菓子ぃ?・・そんなもん持ってねぇぞ?」
・・・「ヒロシ、姐さん・・師匠にそんなモン期待すんなよなぁ、さっきのコイツも無表情で固まってたから簡単に掴まったんだからよ」
ヤマトの説明では、現れたカボチャ頭に見せたのは、乾燥した堅い胡桃。
ソレを片手で握り潰し、中の実を囓って見せ渡したそうだ。
「・・・それでこの表情か・・」目にわずかな光りが灯り、グッタリしてうつむく小さいランタン、(胡桃か・・それもまた微妙な・・)
「ウルサイな!男がガタガタ言うな!そんで大将は倒したって言ったよな、ならそのカボチャ頭をとっ捕まえたらそれで全部終りなんだよな?
なら、とっとと済ましてこんな熱い所からオサラバしようぜ!お前らも協力するよな!」
拳を握り戦士達に怒鳴りつける、その勢いに反論者が出る訳も無く。
「「「「お・お~~~!」」」と、全員が声を上げ四方に散って行く。
それぞれに秘策があるのか、少しだけ笑顔を見せていた。
なかなかハッピーハロウィンとはいかない物ですよ。




