・・・へんじがない・・ただの屍のようだ。
ガタガタと壁の向こうで作業が続く音が聞こえる、ゴソゴソと走る何か、
バサバサと紙がこすれる音。まばたきの間に闇と光が繰り返し、
明るさで頭が目覚めるころには静かになっていた。
(・・作業が終わったのか?それとも中断して眠っている?)
欠伸で体を伸ばし、腕や背中も肩もがバキバキと音が鳴る。
説明とやらをしてもらうか、ベットから下りて部屋を出る。
(なにか雰囲気が違うような・・気のせいか)
昨日は疲れていたし、暗かった。多分それだけの事だろう。
「・・おはよう、ございます」
片づいたダイニングとテーブルにおかれた謎色のスープ、
そして少し老けたような男が席に座っていた。
「ああ、おはよう。キミも大変だね、行商の途中だったかな?久し振りに立ち寄ってくれたのは嬉しいが、疲れで半日も眠り続けるとは、心配したじゃないか」
?・・ああ?そうなのか?そんな感じもするような・・
「さぁ我が家名物のスープだ、一緒に食べようじゃないか」
・・タマネギと斑点スライムとモコモコラット・マンドラゴラを混ぜて
顔のような盾からとった出汁で煮込んだような味・・・マズイ・物凄く不味い。
「はははは、ワシは鳥系のスープが好きなんだがな」
「ハカセ・スキキライ・ダメ・ゲンキナレナイ」
・・・どこかで見たような機械がスープをそそぎ、黄色の光る目が博士の方を向く。
「まだまだ改良する部分は有る、と言う事だよ・・・?
相変わらすキミはワシのロボを見る度に驚くね、それほどいつも改良している訳で無いのだが?」
「ああ・・ええ、以前と随分変ったような、なんというか・・それにスープも・・」
「そうなんだよ、きちんと狙った獲物だけを狩って来るようにしたいんだけどね」
それでも毎日成長が見られて、このスープも慣れたら美味しいよ。
(ああ、研究者に良くある、味覚に興味の無いタイプの人間か・・)
・・・ロボと呼ばれた機械が、周囲で刈り取った魔物を適当に煮込んでスープにしているのか、
道理で不味いわけだ。
・・頭が・・胃袋が・・うぇぇぇ・・ウッ・・吐き気が・・
トイレを借り、倒れるようにベットを借りる事にする。
(目が・・回る・・毒でも入ってたんじゃないか?・・うう気分が悪い・・)
何かガタガタと金属がぶつかる音が聞こえる、何かが落ちて・・・
目が覚めた時、シーツは埃が溜まりベットの板が割れギリギリ形を保っているような
状態になっている。
(なにが・・・どうなっているんだ?)
ギィ・・ギィ・・割れた木の板の扉のノブを回す、ガリッと金属がこすれる音、
天井を見上げると、灰色の空が見える。
「博士?」声を上げてリビングルームらしい場所に行くと、椅子も棚も朽ち果て床にも穴が開いて、何年も使われていない廃墟のようになっていた。
ギコッ・ギコッ・ギコッ・・「ハカセ・・ハカセ・・ハカセ・・」
(機械・・ロボか、アレが動いているなら、博士のヤツもそこにいるのか?)
・・・ボロボロだが洗濯したようなシーツ、穴は開いているが掃除をしているような床、
天井は穴が開いているのに放置してあるベット。
違和感、部屋の扉を開けた瞬間に受けたのはチグハグに整えた家事をした様子。
・・そしてベットの上にある白骨、なぜか毛布を掛けられ汚れがその場所に溜まって
虫が湧いていた。
ギィ・・扉を開け、ロボがスープを運んで来た。
「ハカセ・ゲンキ・ナイ・・スープ・・スープ・・ゲンキ・ナル・・ハカセ・ハカセ」
スープはハカセと呼ばれた白骨の口にそそがれ、ベットのシーツを汚していく。
「ハカセ・ハカセ・ベット・ヨゴレタ・・ベット・ヨゴレタ・・」
ロボはオレには気が付かないのか、シーツと毛布を取り替え、白骨を戻して去って行く。
(・・・死体だよな?)ソンビとかミイラとかじゃ無いよな?
空洞の眼窩は何も写さず、開いた口に残った歯はスープで汚れている
。頭の髪も抜け落ち体も骨がこびりついた肉でギリギリ繋がっているだけ。
・・死体だ。
訳がわからない、何がどうなったんだ?
(・・・これは・・)白骨の横にある小さな机、その中にしまわれた本・・日記か、
直接雨にぬれなかったお陰でぎりぎり読める・・のたくったような文字。
(まずは、文字の解読からだな・・)
・・・魔王が現れ世界は変った、男は魔物と戦い、傷付き倒れ、畑は荒れ森も川も海も奪われ
、大人も子供も苦しんでいる。
ワタシは人間の代わりに畑を耕し、漁をし、魔物と戦う機械を作る事を思い付き、考え・訴えた。
だが世界の学者は、今までの技術や知識のみに固執し、私の論文・意見を無視し笑うのだ。
愚かしい、世界は変ったのだ。新しい技術・新しい科学に何故背を向ける?
金が足らない、時間が足らない、知識が足らない、技術が足らない。
だれも私の言葉を理解しようとせず、援助を惜しむ。ならお前達で作れるのか?
私の中には有る、その形が・そのシステムが。それを取り出してくれるなら、この頭を開き
ヤツらに見せてやる。そしてヤツらに作らせるのだ。
人間の姿は止めて虫の姿を参考にする、その方が丈夫であり安定する事が解った。
だが、人間の姿も残したい。人間のそばで役にたてるためだ。
金属の腕・金属の体・金属の足、駆動機関を改良し想像した形が明確になってくる。
だが明確になればなるほど、足らない物の事実が浮き上がる。
動力が・動力がどうしても乗せられないのだ。
石炭・油・ロウ・蒸気機関では駄目だ、電気・魔力が必要だ。