トリックア・トリート、お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ。
[爆破]!
まだ息のあるサイの魔物を吹き飛ばし、悪魔のような顔で笑う。
「・・なにをしてるんだ?」そんなに楽しそうに・・
フフフ「見物客にお土産を、彼等も『来た!見た!勝った!』では面白く無いでしょう?だからこうやって、彼等の旗にシンボルを付けて[爆裂]!あげましょうと」
吹っ飛んで行く焼けたトロルの半身、焼け崩れた顔と飛び散る肉は跳ね上がり、黒煙の向こうにある戦旗の戦端にぐちゃりと突き刺さりる。ぎゃぁああぁ
そして上がる豚のような悲鳴、豚が蹴り飛ばされと時に上げるプギャァ!と似た叫び声。
「ほどほどにな」お土産ってのは持って帰る事もあるから、重量とか大きさも考えてな。(あとは渡す相手への気持ちかなぁ)それ重要。
悪意であれ善意であれ、気持ちがこもってないお土産は思い出にもならないからね。
次々に爆煙と悲鳴が上がる中でオレ達は進む。。
目の前の赤黒の鎧を切り飛ばし、六つ手だった骸骨剣士を一太刀で終わらせる。
どちらも完全な状態なら苦戦した相手だろう、が鎧は焼けてひび割れ骸骨は腕を二本残して焼けていた。状態的には瀕死・全体能力でも半分も出せない状態の魔物を次々殺している。
・・・・考えるな、これも全部オレが望んだ結果だ。正々堂々戦って勝てる相手じゃないから、仲間に頼んだんだ。だから悪いのは全部オレなんだから。
(すまんな、怨むならおれを怨めよ)
全身を焼いたサイ戦士を切り伏せ、死にかけている魔物を次々と始末していく。
ようやく陣の中心で声を上げるヤツがいた。
「ようやく・・ようやく死の王になれるはずだったオレを・・オレの計画を邪魔したヤツはどこのどいつだ!ころす、必ず殺してやる!」
黒く滅び欠けたような死体・・体から黒く吹き出す煙のような魔力で炎から身を守り怒り狂って叫ぶ魔物がそこにいた。
(爆風の衝撃に耐えた魔物が、周囲の魔物から命を奪い傷を癒しているのか?)
「あれは・・ラルヴァですね、生前はよほど知恵のあった者なのでしょうか。
フフ、でもこうなってしまっては、多少賢しいだけの悪霊に過ぎませんが」
「つまり、アレが大将で間違いなんだよな」
味方の命を吸って、生き伸びようとしているアレが。
「・・この軍団の、と言う意味ではその通りだと。ですがアレの背後には」
魔王がいるかも知れない、ラルヴァに兵を与えた存在がどこかにいる。
でもまぁ、取りあえずアレ殺して置けばこの戦争は終わる。
最早指揮とか戦術など意味も無い状態ではあるが、大将首を取ればこの燃え盛る砂漠の戦火は消えるんだろう。
「じゃあ殺るか、特に情報はあるか?」戦う前に魔物の特技とか使う魔法を知っておけば、怪我も少なくてすむからな。
「・・魔法は、使うでしょうか?後は死者なので炎と光りに弱いと思われますね」
同じ部類の同じ魔物でも少しずつ違うらしい、特に元人間は生前の経験とか残った記憶でも強さが違うと。
(ようは、戦って見ないと解らない・・か。なら)
「散開!囲んで一斉に叩く、正面の・・はオレが受け持つ!警戒しながら冷静に刈り取るぞ!」
一箇所に固まっていたら喰らう魔法も、四方から囲めば三方から邪魔も出来るし一人が防御していれば傷が浅い。
(一対多なら連繋した方が早く殺せるし、こちらの被害も少ないからな)
四方に散った仲魔を見た後、正面の勇者は立上がる。
(多分、魔法職だよな・・なら)鎖鎌だ。
亡霊のような魔物に効果があるのか少し不安だけど、オレ、魔法はちょっとな・・自信が無いんだ。
「よう!荒れてんな、なにか困り事か?」分銅を振り回す勇者はわざと明るく挑発して見た。
「[死音]!」言葉が通じ無いくらい切れた魔物が死を放つ!
(チィィ、このゾクッって来るやつか!嫌いなんだよ!)
歯を噛み締め、腹に力を込め耐える。この耳障りな音と声は首の辺りに重い痛みが・・
「[悪魔斬り]!、大丈夫ですか!」
ラルヴァの横に飛びだしたピョートルの攻撃で[死音]が中断し、体から嫌な汗と安心の呼吸が吹き出した。
「助かった、コイツ即死魔法を使うぞ!必ず耐えろ」その間にオレや他のヤツらが邪魔をするからな!
「仲間だと・・魔物?!お前、魔物のくせに人間の側に!」
ピョートルに手を伸ばす、(ヤバイ、アレは嫌な感じがする!)「避けろ!」
「[大真空]です、お前はもう抵抗せず亡霊は亡霊らしく消えなさい。死者が騒いでも虚しいだけでしょう?」
体を螺子巻くような空気の渦に包まれ、真空と風でラルヴァが歪む。
ヴ・ウガァァァァ!!「悪魔だと!お前は!お前はなんだ!!死んで堪るか!オレはこんな所で!」虚ろな窪みが周囲の炎を睨み、手を伸ばす!
「火精霊!オレに従え!息有る物を焼き尽くせ!」[召喚]!
その場に大量にある、炎と熱。ラルヴァは[力ある言葉]を使い、赤の世界の門を開く。
最初に現れたのは意思を持ち立上がるような炎、ついで人間サイズの燃えるトカゲ。
「クカカカカ!これだけの炎を用意したのが間違いだったな!これほどの数を召喚出来たのは始めてだ!」
揺らぐ姿が、焦点を合わせるように形を正確に浮き上がらせて行く。
朧だったトカゲはやがて本物の炎を吐くトカゲに。
(面倒くさそう、、完全になる前に切れば・・どうだ!)オオバサミでトカゲの胴を切りつけ、石の塊のような手応えと胴を砕く感触。
?なんだコイツ、こんな物か?・・・違う!コイツ不死身か?!
両断したトカゲは炎で包まれ、体を再生させると火を吹いた。
「勇者様!召喚された火蜥蜴は現在精霊体です、炎が有る限り体を再生し続けます!」
「なら召喚者を倒せばいいんだよな」
多分そんなもんだろう、その感に従い敵をラルヴァに絞る。
「馬鹿め、そうさせない為のフレイミーだ!壁になれ!」
数体の炎が勇者の前に立ち塞がり、ラルヴァの姿を隠す。
(アノ野郎いつの間に)次々とトカゲを召喚し、炎から湧き出すトカゲが視界に四匹に増えさらにトカゲを呼び出す気配。
(火を消すのは・・無理だな、炎で再生するトカゲとフレイミー相手に切り込んでも意味は無さそうだし・・)
「勇者様!私に命じていたたければこのような雑魚精霊など一撃で灰燼にして見せましょう!」
今度こそ見せ場!、そんな気迫をヤールから感じますが。
それはそうとして「・・なあ、アレに説得って出来るかな?」
召喚されているのに自由に動き回るトカゲ達、支配されてないんじゃないか?
「No!ノーです勇者様!トカゲにそのような知性が有る筈有りません!それにアレはラルヴァが召喚した魔物、従い召喚者を攻撃するなど有り得ません!」
(そうか・・確かにその通りだな・・)「でも、物は試しと言うだろ?」
「おい、そこの・・なんだ、燃えているヤツ、話せるか?」
舌を出すトカゲに目を付け、声を掛けてみた。
「・・人間?めずらしい、お前は錬金術師か>」
普通に答えて来た、なんだよ知性あるじゃん。
「錬金術士じゃない、それより少し話せるか?」
「・・・珍しい、人間が我ら皮を欲するわけでもなく、話を欲するか?<」チロチロ・チロチロ。
キョロキョロと左右を向き、顔を上げて勇者の方を向くトカゲ。じぃぃぃぃっと赤い目がオレを見ている。
?「どうやら仲間がいっぱいだな、また声をかけろ」
ノコノコと四つ足で去って行っくトカゲ、良く解らない。
「・・・」
「勇者様!いつからそんなふしだらなヒトになったのです!あちこちの悪魔に声をかけ取っ替え引っ変えして・・この浮気者!でも好き!」
・・・よし!問題無し。
遊んでいる場合じゃなかった、ラルヴァはピョートル達で押えて・・って今度はどうなっているんだよ・・ホントに。
それは勇者がフレイミーの壁に道を塞がれ、飛び退いた時だった。
ラルヴァの前では剣を切りつけ、黒い魔力のガスを盾で防ぐピョートルが奮闘していた。
「こしゃくな、なぜ魔物が人間に従う!キサマはなぜオレに剣を向ける!」
「解りません!ただあのヒトは、ほっとけ無いんですよ!」
剣と盾・魔力と術・言葉と信念をぶつけ合い、ピョートルの水平切りがラルヴァの衣を切った。
『トリックア・トリート』
ラルヴァの背後で声がした、前にはやたら強い魔物がいる。背後を向くわけにはいかない。だから「ふざけるな!」そう答えたのだ。
『トリックア・トリート』もう一度ソレは同じ事を聞いた、今はそれどころでは無い。見て解らないのか?「邪魔するな」
「お菓子はないヒ?悪戯するヒ」
その時ラルヴァは背後を見るべきだった、ピョートルの真面目な顔・仮面には写らない恐るべき背後の魔物を。




