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勇者パーティを追放されたけど・・オレ・・勇者なんだけど・・  作者: 葵卯一
トラウマの砂漠を越えろ。
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火計、渦巻く炎。

 空気が揺らぎ、熱上がる砂漠で彼等はいた。

地面に落ちた汗は砂に消える前に蒸発し、集まる者達の蒸発した汗で熱が蒸し返し・さらに汗を流すような地上の地獄に。


「壮観って言えばいいのか」


 砂漠に出来た魔物の群れは密集し、ソレを薄く一重で囲む族長達の旗。

 一箇所食い破られた時点で勝敗をきっしそうな陣形で、更に魔物達は前後左右から押し集まり一個数千体の魔物で出来た・・一匹のアメーバの様だった。


・・・・


「では、まずは罪の印を彼等の身体に」

 ヤールは両手を合わせ身体から法陣を浮かべると、法陣は浮かび魔物の群れの上空に広がった。


 直後・・・バラバラと音と立てる黒い・・黒い雨、それは澱んで黒いスコールとなって魔物を襲い彼等を黒く染め抜いていく。


(炎天下で身体を黒く染めたのか・・?それにこの匂い・・)

臭い、油の焦げたような悪臭が広がってくる。


「お前達の罰はこの勇者様の忠実な従僕ヤール・ヤーが与える!火刑執行!」

空中に浮いた法陣は紫から青に光りを変え、今度は透明な雨を降らす。


『カイザード・アルザード・キ・スクハンセ・グロスシクル!灰燼と化せ 冥界の賢者 七つの鍵を持て開け冥界の門!七鍵守護神!!』


 ヤールが長々と詠唱続け、三つに分裂した魔法陣の高速回転と格闘しているその時、勇者の後で浮かぶランタンが一言「火を付けるヒ?」


 そして空中に浮かぶカボチャはランタンを掲げ、炎の明かりが揺らぎだす。

「燃えるヒ!」

 それは人の顔ほどの炎、呪文なら最初に憶える[火炎]


・・・・そしてそれは起こった、目を覆うような閃光と鼓膜が音を無くすような爆音。

 気温で気化した油は一瞬で燃えあがり、魔物達を吹き飛ばし焼き尽くす。


 更に燃え広がった炎は気化していない透明な油に燃え移り、黒い油を次々と点火させていく。


 最初の一瞬で焼け死ねた者は幸せだったのだろう。

 身体に張り付き鎧の中まで入り込んだ黒い油は手で拭くと手を燃やし、地面に落ちた黒い油も燃え始めていた。


 酸素も無く上がり続ける熱、骨も鎧も焼き溶け、強い生命力のある魔物は息ながら焼かれ続けた。

 魔法も唱えられ無いほどの熱空気、口を開くと身体の内側から焼け腐る毒熱。


 目は沸騰し喉と肺は焼けた、(何が起こった?)それすら解らないままに身体中を焼き続ける炎、視界の全てが赤く染まり、立ちながら・歩きながら燃え続ける魔物達。


(い・・息が・出来ない・・目が見えない・・酷い耳鳴りが・・)


 魔物達の声にならない叫び声が聞こえる、歪んだ鎧が擦れ合う嫌な音が響く。

黒煙と赤に染まる蜃気楼の中、魔物達が蠢いている。



「・・勇者様・・私あの新入り・・嫌いです」

「頼むから仲良くしてくれ・・・で、アレどうするんだ。あのままにして置けばいいのか?」


 煙が臭いのと熱いのと叫び声が五月蠅いのと(あんなのは早く殺しやる方が、気分的に楽なんだが)

 目の前に広がる光景は、魔物の強い生命が焼け死ぬ寸前で身体を回復させ、体に付いた油で焼かれ続ける。


「地獄を再現してるのか?人の趣味に口出すつもりは無いが・・あのまま延々と放置すると」砂漠に変な名所、未来に無い観光地を作り出すのは関心しないぞ。


(・・・パワースポット的な?)


「大丈夫ですよ、二千tの原油を精製して重油とガソリン・その他に分けてバラ撒いただけですから、油が燃え尽きたら火は消えます」


 二千tってのは想像付かないけど、目の前の惨状を見ればわかる。村一つ燃やす程度の量はあるんだろうが・・・


「半日くらいは燃えているんじゃ無いですか・・まあ、私がした事は油を撒いただけなんですけどね。フン」

 なにか機嫌が悪い、良い感じに周囲を囲むヤツらをどん引きさせているってのに。


(ヤール、見ろよ。あのアホ共の引きつった顔、オレのお願いした通り、いい感じに絶望した顔してんじゃ無ぇか。最高の仲魔だよお前は!)


 絶対的な力、暴力と火力。自分達を襲って来た魔物が蹂躙され悶え苦しむ姿。

それをたった一人の魔法使い[悪魔]が作り出し、いつ自分達に振りか掛かるかも知れない地獄が目の前にある。

 今『笑え』と命じたら、奴らは顔を歪めて生きるために笑うだろう。


「・・惚れ直した・・と付け加えて下されば・・ね♡」

「・・・バカを言うな」全く。力を見せたから惚れるとか、無ぇから。


・・・・・・

「半日か・・長いな」燃え続ける炎を前に、聞こえて来る絶叫も聞き飽きてきた。


「数も減ったし、火も落ち着いてきたよな」息さえ何とかしてくれたら、この締まらない冗長な状況も動かせるんだが。


(いいよな、もう)苦しむ声は人間も魔物も耳に残る、「火葬に切り替えても」盛大なヤツな。


「・・そうですか・・そうですね!やはり私の勇者様は素晴らしい!そうしましょう!

 私も炎で地獄を作る事までは考えていましたが、ファイナーレを考えていませんでした。


 確かに荘厳な葬送、数千の魔物達の偉大なる火葬!良いです!

 

 爆発する美の始まりから、幽玄で静かなる送り火へ繋がる舞台芸術!正に生きた美!

 

 その場にいなければ真に感動を言葉に表せない、今この場にいる者しか理解出来ない美を!奴ら能無し共の脳味噌に刻む事ができるでしょう!」


「そんなんじゃねぇよ、ただ埒[らち]が空かないってのが、ちょっとな」

 締まりが悪いと思ったんだ。


「ピョートル、アレの中に突っ込むが行けるか?」

「・・何とか・・それに、苦しむ声をこのまま聞き続けるのは心苦しいですから」

(心苦しい・・そうか、普通はそうなのかも知れないな)


 ランタンは聞くまでも無いだろうし・・チラッと見た感じ、機嫌がよさそう(浮かれてる?)火が好きなのかも知れない。


・・・さあ行くか!下火になり始めたとはいえ、炎の海に飛び込むのは勇気がいる。

それでも血管の中に入った事もある、それにいい加減終わらせてやらないとな。


「・・・・・勇者様、あの中にはまだ焼かれながらも生き残り、燃やされながら苦しむ魔物がいます。

 中央にいるのが首魁[しゅかい]としても、それすら解らず私達の道を塞ぎ、邪魔し、首領を守っているかも知れません・・彼等をどうしますか?


 なにも解らず集められ、船に乗せられ・魔物の本能に従っているだけの獣を

『どうしましょうか』」

 

・・・・

 魔物の本能。人間を見つけ、いたぶり殺す。食う・寝る・遊ぶ。

対象が人間というだけで、大型の獣と大した違いは無いのだろう・・それに罪があるのだろうか。


「だからと言ってな、オレは昨日魔物と戦って説得して説明して話して聞かせたんだ。そいつ本人だけじゃない、その噂は他の魔物にも聞いているはずだ。


『ここは明日には地獄になる』ってな、それでもここに残っている。

 逃げ出さず、人間と戦う為に・殺す為にここにいる」


・・・・・・


「つまり今、ここにいる奴等はオレ達と戦う意思のある魔物だ。

ヤール!この戦争の火蓋は開き、戦端は切られた!最早後戻りなど必要無い!


 ここにいるのは全てオレの敵!オレの・・オレ達の前に立ち塞がる敵だ!


立ち塞がる敵は薙ぎ倒せ!邪魔する敵は轢殺しろ!道の邪魔なら粉砕しろ!


 舐めるなよオレの悪魔!オレは命令する!勇者として忠実な仲魔、ヤールに命令する!


 見敵必殺!サーチ&デストロイ!DEATH&DIE以外に無い!殺し尽くせ!」

 皆殺しだ!


「!!!!素晴らしい!私の勇者様はやはり素晴らしい!この喜びのままに殺しましょう!

 

 忠実に命令を果しましょう!

 

 そこに!ここに!あそこにいる魔物共愚か者全て殺し尽くし、地獄の炎にくべて差し上げましょう!」アハハハハハ!!!


 爆発と爆裂、魔物達が吹き飛び、鎧が砕け兜が天に飛び上がる。

黒煙が舞い上がり、爆煙が渦巻く。骸骨が吹き飛び火油が飛び散った。


(テンション高いなぁ・・なんて嬉しそうなんだコイツは)



ジャック・ランタン、そしてもうすぐハロウィン!ですからね。

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