仲魔が強くなる・・それは人間として喜ぶべきなのだろうか。
「身体を切り裂いたからって油断すんな!完全に死んだか確認しておけよな!」
お・・おう。
いきなり現れたやまとは、腕と頭だけの身体で勇者に飛び掛かろうとしていたマンティコアの頭を鉄拳で叩き潰し、そして・・やはり驚いていた。
「で、こいつはどうなってんだ?」
丸呑みにされもがくマンティコアは、緑の体液で徐々に溶かされながらも尾を振り回し爪を立て暴れていた。
「フッフッフッ、どうですヒロシさん!スラヲの勇姿ですよ」
・・・オレには2mちかい猛獣を飲み込む緑の球体にしか見えないが・・
「あ!コイツ毒針を・・?無効化しているのか?」
「フフフフ・・そうなんです!スラヲはこの砂漠で多くの魔物・・ご飯を食べ[毒耐性][猛毒耐性][乾燥耐性][熱耐性]を獲得したようなんですよ!
つまりこの獣の毒針は全て無効!スラヲの敵ではありません!・・・少しまって下さいね・・スラヲちょっと・・」
ピョートルがスラヲに何かを言うとゆっくりと剣を抜き、まだ暴れるマンティコアの脇に向けた。
「お・おいそのままじゃ」スラヲごと突くような感じで構えたピョートルは「えいっ」と押し込んだ。
脇の下・ちょうどその辺りだけ緑の膜が避けて剣を避け、アバラの下からピョートルは鋼の剣を突き上げ左右に動かしてから引き抜いた。
「「えげつねぇな」」オレとヤマトの声が重なる。
それはマンティコアが強く硬直し、の口から赤い泡が噴き上がって弛緩したその時だった。
(・・・これは、まずいんじゃないか・・耐性を持つ早さが・・それに・・それは)
人間の神が魔物を滅ぼしたがる理由が、少し理解・・今はそれを考えている場合じゃない・・か。
スラヲの消化が終わるまでその場から動け無い勇者は、集まってくる魔物を狩りつつ説得と交渉で魔物の数を減らす。
『けぽっ』口から空気を出すようにしてスラヲが縮む頃には、オレの体力の限界を身体が訴えていた。もう無理っぽい。
「・・すまん、離脱する」「じゃあオレもそうする、夜は魔物の時間だからな」
オレ達は[旅の翼]を使い、オアシスに。
空に浮いた瞬間目に見えた風景は、自分が死ぬほど殺し回った魔物たち、その死体と流血で砂漠は赤く染まり、それが夕焼けと混ざっていた。
・・・・
疲れた・・ただその一言に尽きる。怪我人は室内で寝かされ、薬師の傷薬を使い治療中か[回復]の魔法を待っている状態。
今頃は僧侶や治療士達は瞑想し、睡眠をとり魔力を回復させているのだろう。
「ここにいたんですか!探しました」
「・・大将がこんな陣地の端に・・護衛付きか、ならいいけど」
サフィールと椰子与が陣地の端で飯を食っていた勇者を見つけて、やってきた。
「アレがお前さんの言っていた秘策ってやつか・・大体二割の魔物が戦闘中に遁走を始めたって・・それも勇者の力か?」
昼を過ぎ、一部の魔物達が人間を見て逃げ出しどこかへ去って行ったらしい。
説得のかいがあった・・・ってことか。
「・・あぁそんなところだよ、本番は明日、とにかく時間を稼いでくれ」
勇者は夜の闇に揺らぐ炎、魔物達が上げる光りを見つめる。まだまだ数多くの魔物がいる。そして明かり離れた場所の暗闇に潜み待ち構える魔物も、あの砂漠の闇にいるのだろう。
「足止めは成功してます。昨夜起こした砂食いの誘導のお陰で魔物達がこちらに進軍する勢いも遅くなっていると報告も来てますし」
魔物の本能に従った勢いだけの進軍では、また砂食いを誘導された時に対応出来ない。そう考えた魔物がいる。
数の優位を崩したくない、戦略を意識している魔物がいるな。
(魔物の知性・賢さ、そして成長性・・元からある肉体の強さ、と成長して耐性を付ける速さは人間以上・・)それに対して人間は脆弱すぎる。
今勝てる部分は社会性だけだろうが・・それも魔物が国を作り王を崇め、教育や訓練を推奨し始めたら。
魔物が持つ武器や鎧、それを加工し強化し、より強い武器を自分達で作るようになったら・・
(人間は滅びるな・・マジで)
魔物の家畜になるか奴隷になるか。
肉体・知能・進化の速度、どれも計画的に管理成長させる、学校のような部署を魔王が生み出せば・・人間の勝てる部分が見えないな。
(だから、人間の神は魔物を滅ぼそうと躍起[やっき]になるのか・・長い時間の先を見て、魔物の危険性を判断した・・か)
じゃあいつかオレは自分の仲魔に刃を向けるのか、強くなり共に戦ってくれるピョートルやスラヲを人間の驚異として排除・・殺すのか?(それは無い・・が)
急激に耐性を付け、自分が苦戦したマンティコアを容易に食料に変えるスラヲ。
彼が知性を持ち・自分の意思で力を求めた時、おれはどうすべきか。
(今は勝てる・・だろう、でもそのうちに手を付けられないほどの・・人間に到達出来ないほどの力を手に入れた時は・・・)それ以上は考えるのは止めておこうと思う、少なくとも今は美味しそうに色々食べているだけのスライムだから。
「少し行ってくる」
「どこへです?、せっかく今夜は休めそうな雰囲気なのに一体なぜそんなに・・」
サフィールは今の状況を理解して言う、時間を稼げば勇者が魔物の数を更に減らすと信じている。
その為にはオレは出来るかぎり体力を保ちつつ、戦い続ける事が望ましい事も。
(でもなぁ・・スラヲの成長速度を考えると、おれもそれなりに鍛えて置く必要が有るんだ。って言っても解らないだろうなぁ)だから、
「奇襲・夜襲ってのは続けてやることで効果が現れるんだ、特に夜襲の度に手段・方法を変えてやられたら・・敵はどう思う?
夜の・・自分達が有利なはずの闇夜で人間が何をやってくるか解らない、そう思ったら?」
「・・休む事は出来ませんね・・ですが・・」
「なに、一当たりして混乱させるだけで戻って来るよ。それだけでヤツらは今晩、陣地を守るしか無くなるからな」多分だけど。
今言ったのは方便だ、人間相手なら正しいかも知れないが敵は魔物、休むとか神経とかそんなのを人間と同じとは考えてはいない。
それに陣地を守るってのも賢いヤツなら夜間行軍に変える可能生もある。(オレならそうする)
「なにか、考えがあるんだろうね・・まぁいいか。逃走手段だけは確保してるんだろ?どうせ止めても無駄だろうし・・朝までには戻って来い」
「ピョートル、お前も休んで置け。見ての通り怪我人ばかりだ、魔法力の回復は必須だからな・・我が儘[まま]言ってすまん」
「・・・解りました、あまり無茶しないようにお願いしますよ・・勇さん」
何かを察したような相棒は素直に頷き、簡易寝床に向かって行く。
(すまん、少し考えたいんだ・・魔物と・・お前らとオレはどうすればいいか・・)
それが真夜中の戦場ってのはどうかと思うが、身体を無心で動かしていられるのは多分そこしか無い・・勇者ってのは難儀な生き物だと本当に思うよ。




