赤い男、その目的は。
頑張ったら・・レベルがどれだけ上がったら勇者になれるんだろう。痺れた手を何とか伸ばし、指を動かしてみる。
(遠いなぁ・・・)
感覚的には死ぬ程戦い続けて何年か・・ 本来の[何度でも死んで戦い続ける勇者]なら5年も掛からず届くのだろう。
そう思うと、死ぬのが恐い・臆病者の自分は出来損無いなのだろうな。
(それはそうと・・)
「お前ら魔物は起き上がらないヤツは死ぬのか?命がおしいなら武器捨てて回れ右して帰れ!・・・『死にたいヤツだけ掛かってこい!』」
死体や骨・空の鎧に言うのも変な話だけれど、死地で最後に勇者と戦って見たいって事なら相手してやる。(まずいと判断したら、オレは逃げるけどな)
[ゾンビ斬り]!背後で聞き慣れない技を使う相棒の姿・・・
「なあピョートル君?・・火炎斬りとかゾンビ斬りとか、どこで憶えたんだ?」て言うか、なんで使えるんだ?
「?剣を使っていたら何となく、勇さんはそうじゃ無いんですか?[ゾンビ斬り]!」
バシュバシュとソンビを斬っていくピョートル、そういうのって誰かに教わったらりして覚える訳じゃないんだ・・・
(鎖鎌って・・熟練度?)取りあえずオオバサミの片刃を左右に持ち、鎖は腕・・鎖帷子では無いが腰に巻き付けて見た。
そろそろこっちに集まる敵も、強くなって来てるし。
(雑魚狩りも限界かな・・て!)動く石像が飛んで来る?なんでアレ羽根はえてるんだよ!
カラスのような口をした、こうもりの羽根の生えた石像。なんでも有りか?!
上から来るかぎ爪が鬱陶しい!大体石像が空を飛ぶな!
ガキィィン!ハサミの十字受けで引っ掻きを受け・・・即時に反応した鎖が石像を捕らえ地面に引っ張り落とす。三本目の腕?自在に動くしっぽのようなオレの鎖分銅、これも熟練度のおかげだろうか?
「でかした!」
目の前に転がる石像の羽根を左の鋼刃で叩き斬り、真上に上げた右の刃を頭に落とす。
(チッ、コイツも堅い・・が、根性さえ入れたら!)兜割りできる。
て!トロルだと!こんなヤツも集まって来てんのかよ!
(船で魔物を運んで、ってのはどうも本当らしいな!)
港を押えて拠点・橋頭堡[きょうとうほ]にして魔物を送り込み、集めて戦略。それも準備が周到すぎる。余程知恵のある魔物が指揮しているのか?
この辺りどころか、周囲の国とか海の向こうからも集めて来ているくらいの種類と数。
でもこっちも負ける訳にはいかねぇんんだよな!
・・・・・・ハァハァハァ、疲れた・・どのくらい腕を振ったのか、どれだけの魔物を殺し倒したのか解らんくらいがんばって殺したった。
気が付けば視界は赤く染まり、思い身体を引き摺るように魔物の群れから離れている。
「オ~~イ、ピョートル生きてるかぁ・・」
「・・なんとか、すみません私も魔力切れで回復が・・」
「謝んなよ・・こっちも空っケツなんだ。お前が謝ったら、おれもあやまんねぇと・・だからな。んじゃあ帰るべぇ・・」旅の翼を放り投げ、頭にオアシスの情景を思い浮かべる。
魔物の群れから逃げ延び、オアシスに着いた瞬間崩れるように尻を付く疲れて放心状態だ。
「大丈夫ですか!手足の欠損、瀕死のダメージがあれば言って下さい!」
んぁ?「大丈夫だ・・疲れた・・水・・」救護班にあてられた村の少女に答え、水を貰う。
「すまん、しばらく動け無いから・・」
多分、兵士が戻って来る場所はこの辺なのだろう。水桶を運ぶ婦人や包帯を巻く老人があちこちに見えた。
?ん「運ばなくていいよ。・・ああ、日陰には自分で行くから」
腕を掴み引っ張る子供の手を解き、座ってるだけで痛い日光から・・
「すまんスラヲくん、運んでくれ」(仲間には頼れるんだけどな・・・)
腰から力が抜けたオレはスラヲに掴まり、ズルズルと仮設された天幕に移動した。
あちこちに立てられた仮設テント、その下には詰め込まれるように座る怪我人と拾いした男達と水や包帯、傷薬・毒消しを運ぶ非戦闘の人々。
「・・ヒッ・・?なんだアンタの魔物か?・・大丈夫かあんた」
添え木された腕に包帯を巻き、肩の包帯が赤く染まった男がピョートルに驚き、ついでオレの顔を見て歯を見せる。
「そっちは・・[回復]待ちか、ああ奇跡的に無事・・と言って良いのか悪いのか」
一息着いたら、またあの場所に戻らないといけないからな。
「戦況は押されてる、どれだけ倒しても魔物どもが湧きやがる。毒矢も鉄斧もまるで関係無い感じで押し寄せて来やがる・・今日だけでどれだけ減らせたのか・・」
族長達は本気であの数の魔物に勝てるつもりなのか?、前線で戦う兵士はぶつかった魔物の数を肌で感じているようだ。
「・・時間を稼いでくれ・・オレが・・何とかしてやるから・・死ぬな・・よ」
(さて、行くか)
「相棒は休んでいてくれて」いいんだぞ、そういって立上がろうとする勇者の腕を掴み
「少しだけ時間を下さい、なにか食べ物を」
[食べ物]のキーワードで素早く走っていくスラヲ君、きみ・・戦場でも魔物の破片とか食ってたじゃん。
素早く戻ってきた相棒は何かをもぐもぐしながらオレにも乾燥果物を渡し、それを食うまでは絶対動かない様子を見せた。
(・・休ませるつもりか・・焦るオレを押えるために・・)
もっちゃもっちゃ・・・甘い・・噛み応えのあるドライフルーツだ・・噛む度に唾液が出て胃にしみる・・体に入った糖分が疲れを溶かす感じだ。
ふぅ「おれは行く・・付いてくるだろ」
「ええ、少しは回復しました」
????立上がろうと腰を上げた直後、景色が歪む。
立ち眩みのような脱力感と目眩のような意識の混濁。やばい!めまいか!今はそれどころじゃ・・
「やぁ・・始めまして」身体中を赤く染め、テントの柱にもたれ掛かるように座る白髪の男がそこにいた。
(・・魔物・・悪魔か?この気配)
人間とは違う希薄な気配と体温を感じ無いような[熱]の無さ、
(幽霊?にしては感情の変化が見えないな、何者だ?)
「この戦いで死んだのなら、恨み事は聞く。逃げられ無いような状況を作った一人として頭も下げよ。・・・でも用事はそうじゃない感じだけど」なにようですか?
「・・幽霊に頭を下げて回るのは、心懸けとして関心ですが。この世界も死者は多い、そうなると一生涯頭を下げて続けても足らないのでは?
それより今は彼等の為に出来る事をすべき・・と、
今は立ち位置・・考え方を語り合いに来たわけでは無かったですね・・それより、その気配・・キミはすでに悪魔と契約し使役している・・そうではありませんか?」
赤い男は座ったまま、表情の見えない眼鏡の向こうで勇者を観察するように話して来た。
(こいつ・・オレとヤールの事を言っているのか?アイツが悪魔だと知っている人間はあの領主しかいない筈・・・)密偵でも送ってきたのか、それともまた厄介事を。
「・・戦争だからな、戦いに使える物はなんでも使う。生き残る為ならなんでもやる、それが勝つ事に繋がると信じているから・・そうじゃないのか?」
それが普通の考えだ、一般常識・模範解答で様子をみた。
(コイツが教会関連ならコレで誤魔化せるはずなんだけど)
「・・それなら、丁度よかった。魔物を使役する手段を一つキミに差し上げよう、その[プレート]を見せて欲しい、少し手を加えるから」
[プレート]勇者になった・・された時に渡された、神殿からの証明証。職業・生年・レベルが刻まれ、
道具で読み込む事で振り込まれている所持金や犯罪歴・転職歴、俺自身も知らないような事まで記録されているような物を、見ず知らずの男に渡すのは流石に・・・・
「慎重になるのは良い事だ、でも今は力が必要なんじゃないかい?悪魔と戦う力が。
特別な力を得られる機会は人生では少ない、今日明日の人生を生きるキミなら尚の事知っているはずだろ?違うかい?」
『今、私の手を取るか。それとも拒むのかそれはキミの選択だ』
そう言うと赤い男は手を差し出す、その手を下ろすともう力を得る機会は失われる。
そう悪魔のような交渉で目の前の男は手の平を止めた。




