寝起きで暴れまわる鎖蛇、どうなってるのか聞かれてもわかりませんから。
「ヒロシ[仮]さんも、我々と同じで町の生き残りを探しに来たのですね?」
回復の光りを勇者に灯す男はそう言うと、手早く町の見取り図を広げて見せた。
「上から見た感じでは、今ここに魔物達が集まっていますので・・・我らは一時離脱し、町の反対側・もしくは側面から侵入経路を見つけます。
申しわけありませんが・・このまま陽動をお願いしたいのですが」
・・・彼等の考えでは、オレは町の人間がオアシスに走り込む姿・救援の声を聞いて助けに走った事になっているようだった。
(たしかに・・気晴らしに魔物の群れに突撃したとか普通は考えないよな、アホだと思われても仕方ないし・・どこかに、なにか意味が有るって思うよなぁ・・)
「解った、すまないが町の方はお願いする。・・・何となくだが強敵は町の方にいる感じがする、気を付けて」
オレ達は先ほどまでと同じように、暴れながら雑魚狩りをしていればいいんだから。
「ええ、無理はしません。作戦として、2人が戦闘の継続が不能になった時点でコレを使いますので」
彼等も[旅の翼]を用意していた、それも三つ。
怪我人・生存者を見つけたら[旅の翼]でオアシスに飛んで帰る、救えるのは最大で10人か、一人が運べるのが5人としてな・・・
二人が連れ帰った時点で、自分達も即時離脱。そう言う事のようだ。
「・・・」
「でぇ丈夫だよ!ヒロシ、オレも同じのを持ってるから!」
ヤマトはあと5人救える、そう言いたいのだろう。
「オレ達が一暴れしながら敵を引き付ける、そんで町まで突っ込んで魔物を打っ殺しながら生き残ったヤツを探せばいい、そうだろ?」
「違います!なんども説明をしたでしょう!ヤマト隊長は魔物を引き付け、危険になったら即時離脱です!その為の道具でしょう!町まで行く必要は無いって!」
・・・・・どちらにせよ、遊撃と囮・陽動が仕事か。
「そっか?・・そんな話しだったっけ?」本当に憶えてないように、ヤマトが首を傾げる。
「・・いや、それは考えとしては有りだ。ただ町から離れた場所で暴れるだけじゃ敵は釣れないかも知れない、町に向かうような感じも見せた方がいい」
陽動なら、こちらに目を向けさせる必要があるはずだ。
その為なら町に近づいたり、ヤツらに押された感じで町から離れたりして引き付ける事も有りだ。
「解ってんじゃねえか!ソレだよソレ!」
「では、ヒロシ[仮]さん。隊長をよろしくお願いします!」では!
男が頭を下げると、5人は素早く町の外に目を向け走り出した。
・・・もしかして・・
「そんじゃあヒロシ!頼んだぞ!」おりゃぁぁぁ!!
オレの目の前で敵の集団に突っ込んで行く男が1人、魔物数体を薙ぎ倒すような水平蹴りから肘打ち!そして頭突き!
(あいつら、ヤマトを押し付けやがった!)隊長を押し付け、作戦優先とかどんな関係だよ!
「ピョートル!アイツの回復にも注意してくれ!」っていうか、アイツ防御関係無しで突っ込んでいやがる!いや[根性]ガードか?
「根性!」そう叫び、額や顔面、腕で魔物の攻撃を受け。カウンター気味に[根性]の拳で殴り返しているムチャクチャだ!
「チッ!」ヤマトに魔物が集まって行く、ヤツがぶっ倒れる前に敵の数を減らすにはこっちも突っ込んで行くしか無いな。
オフェンスが2人になった事で、動きが複雑化した。
勇者だけが突っ込んで相棒に背中を任せる形から、勇者も特攻野郎[ヤマト]の状態を把握する必要が出たからだ。
「オラオラオラ!こっちだ魔物野郎!」
鋼鉄色の拳が魔物を突き刺し、大穴を開ける。剣を持った骸骨も空洞の鎧も一撃で倒している。
(快心の一撃か?)それもほぼ全部の拳で、高確率で魔物の防御を無視した威力だと?
「どうだ!根性の入った拳は!根性無ぇヤツには痛ぇだろ!」
・・・・どうやら、そう言う事らしい。
[根性]!勇者も手にもった大ハサミの片刃に根性を伝える。
(オオバサミ!お前も武器職人が魂を込めて・炎の中から叩き上げて、鉄から生まれたんだ!お前も根性見せてみろ!)
じわっっと手から根性が鉄のハサミに・・伝わらない、持ち手の先・拳二つ分で根性が入らない。(オレの根性が足らないからか・・・)クソッ!オレの根性無しが!
ハサミ全部に根性が伝わらなくても、鋭さと切れ味が上がった気がするから今はこれで良しとする。
(なんでも最初っからできるような起用な人間じゃないし、そんなもんだよ・・な!)
黒さを帯びた片刃は簡単にゾンビと腐った死体を両断し、さまよっていた鎧を貫通する。
・・!・・(威力は上がる・・が、メッチャ疲れるぞコレは!)
考えると鎖鎌は優秀だった、耐えられない程の疲労もなくて使いやすかった。
出来るだけ使う根性を押える、そんな芸等ができたら苦労しない。
(・・仕方ない、大丈夫だよな・・オレの鎖鎌)
鎌の柄を握り、鎖を掴む。「さあ、出番だ!そろそろ起きろ!鎖鎌!」
渾身の[根性]分厚い岩盤すら2人で貫いた[鎖の力]目覚めろ!鎖の魂!
ジャラララ!!根性が流れ込み、鎖は黒く染まって動き出す!そして鎖の蛇は敵を見つけて分銅を伸ばした。
生きる大蛇、鋼鉄の蛇。それがうねるように敵の身体・頭に風穴を開けて行く。
「っと!行過ぎるな、落ち着け!」
鎌の柄を軽く引くと素早く飛び下がり、オレの背後に立つ魔物に風穴を開けた。
ギュゥン!鎖の分銅が一蹴し、勇者の周囲が一掃される。
目覚めたばかりの鎖の蛇が興奮状態で暴れまわる、元気過ぎる、飛ばし過ぎだ!
「休憩休憩!ちょっと落ち着け」
宥めるように鎖を引き、腕に巻き付け分銅を押え撫でるとようやく落ち着きを見せる。
・・・「どうなっているんです?」ピョートルの質問も解る、だがオレにも解らない事だっていっぱいある、そう「わかりません」と答えるしか無いんです。




