交渉、面倒なことになった。
(ああ・・ああうん・・神様ってのは、本当に性格がいい)
オレ達・・オレを囲んでいるのは弓を持った小型の魔物、リリパットと地面を打つ
地精ノッカー、それと・・・なあ?
「同族だな、ピョートル。お前の。お仲間が打っ殺されに、わざわざ来てくれたぞ?」
笑えよ、まとめてナマス斬りにしてやる。
「うっ・・動くな、こっちの数は、解るだろ。動けは・・弓を打つ」
「打てよ、撃った瞬間戦闘開始だ、お前らは全員ここで死ぬ。おれが殺す!」
そうだ、戦いはこうじゃなければな・魔物ども。これだよ、
しゃべろうが集まろうがお前らのいるせいで・・お前ら魔物のせいで、オレが・・
勇者が殺し合いをしなきゃならないんだ・・お前らが全部死ねば・・
勇者は不要になるんだ・・
「さぁ撃てよ?、撃たないのか?撃たないなら、こっちから行くぞ?」
純粋な殺意、魔物を殺す・魔物は殺す。勇者とかそんな物は関係ない、
お前らに人生狂わされたオレの怒りでお前らを殺す。
ザワッ、オレが1歩進むとヤツらが半歩退く、後1歩・後1歩進んだらそこが境界だ、
走り・詰め寄り・殺して殺して・・・ああそうだ忘れていた。
「ピョートル、向こうにまわってもいいぜ、まとめて殺してやる。」
後から斬られたら、多分感情のコントロールが出来なくなる。グチャグチャにしてしまう。
少しは役に立った奴が、そこいらの魔物と同じようにぐちゃぐちゃなんて、つまらないだろ?
それにこいつも仲間と一緒に死ねるなら本望に違いないだろうし。
(その時は、墓くらいは作ってやるさ)名前も知っているしな。
「お!お前!コレが見えないのか!この数が!それに、後のそいつ!なぜ人間に従っている!
お前も騎士なら魔王様に従え!」
ああ言ってるぞ?行けよ・・そうだな、お前は多少役に立った、だから痛みの無いように
バッサリ一撃で殺してやるよ。
「・・・」ピョートルはプルプル震え、オレとヤツらの顔を交互に見て困惑しているようだった。
(さて、言うべき事は言った・・違うな・・まだ言うべき事が残っているか)
「おい、ソコのヤツ。こいつはな、自分の家族、スライムを守ってオレに従わされているだけだ。
逃げたらこいつの同族・・つまりお前らを根切りして皆殺しにするともオレは言ったな?」
だから気にすんな、こいつはお前達の仲間だよ。そして今からお前達と同じ土に還るんだ。
さぁ後1歩だ!
「まっ!待って下さい!勇さん、少しだけ待って下さい!お前達も、少し待て!
この人は強いしオレ達は弱い、戦いにならない戦いは意味が無い!」
・・・後1歩という所で、こいつは水を差す。特技か?・・・
(今まで役に立った分くらいは、待ってもいいか・・)
遺言を言うくらいの時間は与えてもいだろう。
「解った、そこのリリパット、3秒以内に弓を下げろ。話くらいさせてやる」
そうじゃ無ければ、この場で殺す。
おれは言葉通り、「3!」数を数え始めた。
(まぁ従う訳は・・いないだろうなぁ)
ざわつく、ヤツら表情が曇り、お互いを見合い、何かを言っているようだが。
「2つ!」
おれの声にビクッとチビが跳ね、矢が飛んだ。
ヒラヒラ・フラフラと飛ぶ矢はオレの足元に刺さり、矢を撃ったヤツが振るえて腰を抜かした。
ダメだろこんなんじゃダメ、ダメ過ぎる。
(こんなんじゃない、こんな殺意の無い矢では、始まりにもならないんだ。
殺し合いの始まりは、殺意がないと・・・つまらないだろ?)
オレはニヤリと笑い、最後の言葉を声にする
「1!」さぁ待ったぞ、待ってやったぞ、さあ殺そう・殺し合おうか!
「お前達!早く弓を下げるんだ!解っただろ!この人は約束を守る!待つと言ったら待つ人間だ!
お前らが弓を下げたら、話しくらいはさせて貰える、それともここで全員死にたいのか!」
ピョートルの叫びでリリパット達が一斉に弓を下ろした、なんだよ。やらないのか?
「いいんだぞ?殺し合っても?」
「勇さんは黙って下さい!」「プギャァァ!」
ピョートルだけじゃなく、スライムにまで怒られた。
チッ、しょうがねぇ。話をさせるって言ったのはオレだしな、
(なんでオレ、スライムに怒られるんだろう?)
・・・・
「人間は出て行け!この森にはもうお前らなんかの居場所は無いんだ!」
「また、オレらの森になにか持ち込むつもりか!出て行け!」
出て行け・出て行けと、うるさいなぁ。そうガタガタ言わなくても日が暮れたら出ていくさ。
それまでの・・あとしばらくの間は黙っていろよ・・
こっちはいつでも戦闘準備は出来ているんだからな。
不意伐ちでも無ければ、こいつらは敵じゃない。一人でも皆殺しにできる。
「勇さん・・もし、もしも、彼等らの問題を解決してくれるなら。
オレは魔王様では無く勇さんに忠誠を誓います・・壁となり・囮となって死にます・・」
「いらん!そんな物!」きっしょく悪い!他人のために死ぬだと?忠誠だと?反吐が出る。
「いきなりなにを言いだしやがる、なんだ?こいつらは知り合いか?それとも恩人か?」
ただの同族だろ?
それとも魔物は人間と違って同族と言うだけで、自分の命を張れるのか?
・・・「知り合いではありません・・ですが、彼等も必死なのです。
自分達の生活を守るために・・・解りませんが・・勇さんは・・なにか特別な・・」
「特別な人間なんていない!勝手にオレを理解した風に言うな!」
マスクの中の目は、まるで何かを信じるような・信じたいと思うような、
期待と不安を入り混ぜた光りが浮かんでいるようだった。
気に食わない、ガキの時にオレを見る大人達の目。
何かを期待して、それでも半分あきらめているような目だ。
(昔のオレなら・・その期待に応えるために作り笑いまでして・・クソッ!)
どうせ自分達でも、協力して努力すれば届く程度の困難を[勇者]に押し付けて、
あのクソッタレ共と同じ目だ・・・・それで期待した結果が出せないと、勝手に呆れて見下す。
『勇者のくせに』ってな。
・・・ふぅぅぅぅぅ・・こいつは魔物、人間じゃない・・なら、人間とは違う結果・・
胸が痛い、また信じたいと・まだ何かを信じたいと思っているおれがいる。
信じない・信じない・信じない信じない信じない・・・・信じたい・・
オレの中にいる、ガキの勇者が泣きやがる。なんども事実を教えてやったのに。
チッ「忠誠はいらん」が、オレの役に立ってから、野性に返しても居場所が無いってのは・・
後味が悪い・・よな。
(扱き使って、使い潰すことはしないと言ったしなぁ・・)
そう、これはただの約束。最初にこいつとした約束だ、勇者の正義なんかじゃない。
「お前らに一つ聞く、お前らは『人間を喰ったか?』」殺す・殺してしまう事はあるだろう
こんな世界だ、でも、人間を喰う事は自分の意思で無いと出来ない。
人間を食料にするヤツを、助ける事は・・オレには出来ない。
「人間なんか喰わねぇ、マズイ・・と思う・・オレらは、出て行って欲しいだけだ」
「どこからだ?地霊?人間はどこから出て行って欲しいんだ?」
森からなら、しばらくは無理だ。だが・・何となくこいつらの言葉尻を捕らえると、
どうも人間が何かしたような、他の人間が何かやらかしたような、そんな気がする。
「・・・お前もヤツの仲間だろ!信じられるか!」
「そこのスライム乗り・・・オレには仲間はいねぇぞ?」
だれ一人、仲間など持った事は・無い。少なくとも、足手まといのオレを、ヤツらは仲間だとは、思っていなかっただろうさ。
オレがにらむとヤツらは口を紡ぐ、だからなんだ?
「お前ら、話は聞いてやる。それが約束だからな・・・」
それが、今からオレが行く森の奥に行く理由だった。