砂漠で出会った、爺さんの人生。
それは美しい女王の話。
遠い昔、砂漠に住む、多くの部族が少ない水を奪い合い争っていた。ある者は魔物と手を組み、有る者は商人を味方に、そして最も弱く勇敢な部族の長は団結と結束を武器にして戦っていた。
魔物の軍勢と手を組んだ部族は自分達に魔物の力を、商人達は彼等を恐れ逃げ出した。
だが勇敢な長は、身体が弱くとも戦いを止めなかった。そしていつしか彼は他の部族すら束ね、彼等を撃退していく。
その側らに強く美しい戦士を立たせた時、弱かった族長率いる部族には勇敢な心と強い力、そして団結する戦士達がそろったのだ。
「・・それが今も続く、女王とこの町の歴史だよ」
だから勇敢な戦士は尊敬され、商人は彼等に守られ。女王が統治している。
何となく解る、多分魔物と手を組んだ部族は強力だったのだろう。
でもって人間ってのは、強すぎる敵が現れた時は団結するものだ。
そして数で勝り背後も横も気にせず兵士が戦えるなら、魔物には勝てなくても、魔物と組んだ部族は倒せるはずだろう。
あとは、統率者の能力しだいだが・・・
「その・・戦士ってのは・・椰子与様って言ったりするのか?」
「噂じゃよ、噂。遠い海から船に乗り、砂漠を越えて鬼[魔物]退治。そんな英雄の血が王族に入っているかも・・てな」
確かに、普通に考えたら矛盾があるよな。そもそも、なんでわざわざ海を越えて英雄が現れる必要があったのか・・とかな。
(漂流して来たとしても・・都合が良すぎるし)
「本当の所は、族長が強さを隠していたのかもしれんし、海から流れ着いた彼女を守る為に英雄にしたのかも知れん。
なんせかなりの熱愛だったとか、族長が求婚し彼女は直ぐに受け入れた。そんなひと目惚れのような話が吟遊詩人達に歌われておるし」
「そうだよな、いきなり現れた英雄が男達に武術を伝え、戦い方を教え、さらに王族と結婚するってのは出来過ぎだよ。詩人達は話を盛るのが仕事みたいなもんだしな」
「それだけ当時の族長達をまとめるには伝説が必要だったのじゃろぅな、」
流れ着いた漂流者と結ばれる為に、当時の王が必死になって覚醒したのかもな。
(ひと目惚れした女の為に王になり、彼女の名前を英雄にまで奉り上げる・・余程惚れていたのかねぇ・・)他人の色恋ほど、イラッとくる事の無い彼女いない勇者だった。
「それじゃお爺さん!ボクからも聞きたい事があるんです!この町のバサーの話を!あとこの町の名物とか!あとあと・・」
「ほっ、そっちの兄さんは商人かい?若いねぇ・・」
ホフメンの顔を眺め、目を細めて笑った。
・・・・・
ぐびっ・「しゃべってばかりで喉が疲れたよ、じじいを休ませてくんね。
・・ん~~じゃあ兄さん、アンタの話も聞かせてくんねぇか?酒の肴さよ、適当な話でもいいからよ」
ほろ酔いになった爺さんに聞かせる話ってなぁ・・
「そんじゃあ、オレの旅の目的ってヤツでいいか?過去の事なんて話してもつまらんし」
人に好かれたり、格好良かった事なんて無いんでね。
・・・・・
「ほうかほうか、転職なぁ・・船かぁ・・ワシも昔、船に乗った事はあるが・・すんげぇゆれっからよぉ・・・砂漠に帰って来たんじゃ・・『船酔いと港に残した女にゃ気を付けろ』って船長に言われたのを思い出したよ・・フヒッ」
どんな船長だよ全く、って「爺さん、もう限界か?大丈夫か?」
「ああ・ええのう、こうやって旅の人から話を聞いて、酒を飲んで・・ワシは幸せな人生じゃ・・ああ、そろそろお開きか。それもええ、少し寝たら、また酔える・・人生は酒と同じじゃあ・・」
爺さんは目をとろめかし、瞬きもゆっくりと半分寝ぼけ初めている。
「ああよく解らんけど、そうだな」家はどこだ?仕方ないから送ってやるよ。
「兄さん大丈夫だ、その爺さんの家はこの店の向かいだからよ。這ってでも帰られるからよ・・いつもそんな感じなんだからさ」
酒場のオヤジは呆れていのか、なれたように食器を洗っている。多分少し寝かせていれば、その内に起きて帰るんだろう。
「でもまぁ一応、向かいまで送ってやるよ、こっちも・・お開きっぽいしな」
酒と肉、瓜もナツメも残りは全て・・一人・・1匹が溶かしたし。本当に大丈夫なのか?他の人間にはどう見えているんだ?
隙あらば身体を伸ばし、皿から食い物を奪っていくスライム・・う~~ん。
(岩塩を掴んだ瞬間ビックリしてたけど・・伸ばしてるアレ、舌なのか?)
「ありあ・ありあとう?なぁ」
酔っ払いに肩を貸し爺さんの家に担ぎ込んだ。・・何も無い・・だれもいない家だった。
「・・家族もよ、息子の嫁は神殿で忙しくしていてな、息子は兵士として働いてんだ。子供は・・町の宝だからなぁ・」
働ける者は働き、子供は町全体で育てる。それは良いことかもしれないが。
こうやって一人、爺さんが酒をのんで幸福だと・・・
「いいんだよ、オレの時もそうだった。オレもオヤジを置いて砂漠で魔物の数を減らしたり、商人の護衛をしたり・・まぁ一人が慣れちまうんだよ、これが」
少し寂しそうな目をした爺さんは、なにも置かれていない机に目をやり、そして目を閉じた。
(多分、誰かの席だったんだな)そして今は、自分がその席に座っているんだろうか。
「そっか・・まぁいいか、長生きしろよ爺さん」そしたらまた、今度戻って来た時は別の話を聞かせてくれ。
「ああ、長生きするさ。あんた見たいな旅人に話を聞かせて・・酒呑んで・・
ああ、忘れる所だった。あんたはまだ旅をつづけるんだろ?なら砂漠で見つけたこの[小さいメダル]を持っていきなよ。なんだっけな、良い事があるらしいからさ」
爺さんは壺からメダルを取りだし、手渡してフラフラと床に敷いた絨毯の上に倒れてイビキをかき始めた。
・・[小さいメダル]・・?流行ってるのか?




