あの日みた勇者の夢
この物語は、遠い昔誰かに語られた1人の勇者の話。今の勇者とは別の少年が偽者勇者になった話。
伝説には語られず、死ぬ事で人間達の世界に追放された少年が見た冒険の終りの話。
数え切れない程の死体と死の山、灰と病と毒と呪いを積み重ね。
ボクと・キミ達は立っていた。ボクの右手には黄金色に光る王者の剣、キミの手に握られた黒い敗者の剣。
中央から切り落とされ、元の半分しか無い壊れた剣、切ったのはボクだ。
キミは1人になって笑い、ボクは泣いていた。最後の時がそこにあった。
ボクはキミを、キミはボクを、どちらかが殺される事は向かい合った時に理解した。
だってボクは勇者でキミは魔王だ、だから殺した。悲しいけれど殺したんだ。
積み重ねた死体の上にキミとボクはいた、人間と魔物の死体の上で。
切り殴り燃やし砕き、そして全てを出し合って、人間を超えた力・魔物を超える力をぶつけ合い、そしてボクが勝利した。
敗者の剣は死体の上に、王者の剣はボクの手に。あとは剣を天に捧げ、全ての魔物を世界から消し去るだけだった。
王者の光りで魔王を封印し、世界に平和を取り戻す。それが勇者の使命だから。
『私を倒しても後を向くな』それはキミが言った言葉。
でもボクは振り向いてしまった、拍手と喝采と喜びの声が聞こえたから。
そこにあったのは、恐怖とおびえと恐れ。ボクは罪重ねた死体の上で、誰より強い力を持っていたから、その手に世界の王の剣が有ったから。
笑い・笑顔でボクを恐れている人達、感謝の言葉を口にしながら、怯えおののく人間達。喜んでいるのは、ボクの足元に重なる魔物の死体を数える人間達。
『これは、違う』ボクは言った。
(止めろ)
『ボクが求めていたのは、こんな事じゃない』
みんなボクが頑張れば笑ってくれた、みんなを笑顔にできるのが勇者だ。
ボクが戦ってみんなの敵を・魔物を倒せば、みんな喜んでくれたんだ。
だから一年以上、戦い続けたんだよ?
なんで・・なんでそんな目で、ボクを見るの?
『みんなの笑顔・・みんなの中には、ボクはいないの?』
足元の死体はボクに怒り目を向け、魔王の顔はボクを哀れんでいた。
ボクはどこで間違えたのだろう、何がいけなかったの?だれも教えてはくれなかった。
だから・・だから、ボクは捧げるはずの剣を死体の山に突き刺し。
(止めてくれ)
ボクの手には半分に切られた[敗者の剣]切られた者は必ず敗北する常勝の剣。
『こんな結果は求めていない』ボクには仲間はいない、ボクの後には死人しかいない。
(思い出すな)
ボクの手を掴んでくれるヒトはいない、ボクは勇者だから、誰よりも前に・誰よりも勇敢に戦わないといけないから、その手には武器が握られていたから。
死体の山の上で、ボクはたった一人。世界でたった一人、ボクを理解してくれるキミを殺して今は一人。
(違う、コレはオレじゃない!)
ボクは、キミの刃を握り、心臓を突き刺した。
『コレは夢、ボクは勇者だ。こんなのはボクの願いじゃない』
誰かの夢、死体を数え、武器を売り、兵士を立たせ、戦争させた誰かの夢。
(止めろ!止めてくれ!違う!)
勇者は皆の勇者だ、魔物も人も王も魔王も全てを助けるのが勇者だ。
(そんなのは・・ないんだ!)
だから死んだ、勇者は勇者[自分]に敗北して死んだ。
そして世界に魔物は残り、魔王は復活する。愚かな勇者を、親友ともう一度決着を付ける為に。勇者が、キミがカレの前に立ち、その答えを聞かせてくれると信じて。
・・・ハァハァハァ・・「違う・・アレはオレじゃない、あんな臆病者はオレじゃない」手に馴染む二つの鋼、その重み。
「夢か・・嫌な夢だ」強く握るとキンッと鋼の重なりが響く、オレの刃。
魔王を倒したくせに、平和をもたらさなかった臆病者。死体の山に呪われ朽ちた王者の剣、それは大昔のお伽話だ。
「年寄りから聞かされた、ガキを眠らせる為の作り話だ」
勇者は魔王を倒し、世界を平和にする存在。それが世界の真実だ。
それにオレはあんなに強くないだろ?
一振りで魔物を数百倒し、山を砕き海を割る。勇者の雷は千の魔物をなぎ払い。
魔王の最強魔法を打ち飛ばし、雷光のような早さで走り、そして切る。
千の戦いで負けは無く、万の屍を踏破して微笑みを忘れず。
・・・・人の形をした怪物、怪物の形をした怪物が魔王。
百万の魔物を従えた怪物が魔王、たった一人で戦い続けたのが勇者。
(おれは、ただの人間だよ)だから勇者失格、偽勇者。そんなもんだ。
幾度見たか忘れたような夢、覚めて数日経てば忘れるような夢。
そう、アレはオレじゃない。ボクはオレじゃないんだ。
あんな幻想を追い求めるヤツはオレじゃない、平和は死体の上にある事を知っている。
犠牲無くして得る物なんて無い事を知っている。
・・・自分を犠牲にして、魔物のいる世界を得たヤツの事なんて知るかよ!
クソッ夢見が悪い!・・・あとやたら冷えると思ったら・・スラヲ、お前の主人はあっちだ、広がって人の背中の体温を奪うんじゃ無いよ・・まったく。
汗かスラヲか、身体が濡れて冷たい。・・はぁ、まぁいいけどさぁ。
もう一眠りするには、もう日は高い。それに、欠伸は出るけど眠る気分じゃないよな・・ああ、嫌な夢だ。クソ夢だ!
・・オレは魔物のいない世界を求める?馬鹿臭い!人間のいない世界を求めるか?
それじゃあオレは魔王の配下になるのか?・・アホか、人間がいなくなって欲しいわけじゃない。
『オレはどうしたいんだ?』そんなの知るか!なるようにしかならないんだよ!
ああクソッ!同じ所を思考がグルグル廻る。
『キミはどんな答えを見つけたんだろうか?』
そんなの魔王に聞いてくれ!オレは魔王じゃない!
カレとボクとオレとキミ、オレの頭で言葉が廻る。
消えろ・消える・忘れる・忘れた・・欠伸と共に、仲間達の寝息が聞こえた。
(まぁ、アイツよりマシか?)仲間がいる分・・・多分一人じゃないからな。
ふぁぁぁぁ~~~眠い、オレは欠伸をしながら馬車の外を眺めた。
あの日より明るい朝日、あの日より遠い世界、あの時、勇者は目を外に向けていれば。
追放勇者の始まりより前の、構想段階に産まれた勇者の話。
こんな話が嫌いな方もいらしゃるでしょうが、次話から現在の勇者の話に戻りますので。
よろしくお願いします。・・・ボクはこの話、好きなんですけどね。




