勇者の素質。
「勇者様・・」
スラヲが仕事をしている間、最も魔法を使ったヤールには仕事を与えず日陰で休ませている。その悪魔は交代で休みに入った勇者の隣に座りオレの肩を抱こうとしてくる。やめろよ!
「それに、勇者様って・・」もう転職を決めたんだ、その時は商人様とか呼ぶのか?
「その・・勇者様の覚悟は理解しますが・・多分転職しても・・」
「しばらく追われるって事は覚悟しているさ、それも次ぎの勇者が選ばれるまで・・だろ?」
偽勇者は死んだ、そう信者共に言い聞かせればいいんだからな。
(まさか、次ぎの勇者が現れても追われるなんて事・・そんなヒマもコストも掛けて・・有るのか?)あいつらイカレてるからなぁ・・
「それも有りますが・・勇者様がいくら望んでも勇者を止められない可能生が、この世界での認識がどうかは解りませんが・・勇者因子という言葉はご存じでしょうか?」
・・勇者を止められない可能性だと?・・転職できないってことか?そんなもん神官を殴ってでも認めさせてやる。魔物だって転職できるんだぞ!
(勇者は魔物より神に呪われた存在なのか?それに・・・勇者因子・・って)
「確か・・魔物・魔王に対しての抵抗力?だったっけ?」
毒耐性とか火炎耐性のなかまだろ?それが高いと魔物の精神攻撃に強くなるとか。
「いえ、魔物耐性では無く・・勇者因子、つまり・・」
「あ~~あ~~」聞きたく無い・聞きたく無い、どうせ碌でもない事に決まっている。
「落ちついてください、重要な事ですから。[勇者因子]・・他には[天人の因子]や[竜の因子]とも呼ばれる物ですよ。
そしてそれは、魔に対する抵抗力ではなく、世界に対する抵抗力だと私が言っても、聞いてくれませんか?」
・・・・・
世界に対するバランサー、魔物が増える事に反応し魔物の数を減らし、人間が増える事で魔王が現れる。でもどうやらそれだけでは無いらしい。
「勇者が人間から選ばれるのは、人間が信じる神の神託。ですがバランサーという事は・・人間を滅ぼす事もできる存在だとは思えませんか?」
そりゃぁ・・魔物が増え続けたら、人間は・・滅ぶのか?普通に魔物を狩る人間もいる。強い戦士や冒険者、英雄や軍を指揮する将軍。現在でも十分戦えている。
???
「人間の手で育てられるのも、人間の教育を受け・人間世界の倫理をすり込むのも全て人間の味方にする為。勇者様は、今の世界を変える・・世界の流れる先を決める特異点なのですよ」
・・・・わからん、なにが言いたいんだ?
「勇者様がその気になれば、全ての人間を支配し、殺し尽くし、魔物を従え、世界を蹂躙する事も可能なのです・・そうさせない為の人間教育なのですが」
(ああ、アレね。世界の半分とか、魔王の手を取って共に世界に宣戦布告するとか言う。
くだらない、おれはただ静かに暮らしたいだけなんだよ)
「・・そうではありません、神に選ばれた勇者に敵は無く。たとえ選んだ神ですら倒し得る、勇者様が敵と認識すれば必ず伐ち倒せる。それが[勇者因子]です」
顔が近い!真面目な顔で何を言うかと思えばバカな事を。
「あのなぁ・・オレは負けてばっかりの男だぞ?この間も・その前も、ギリギリで・・今生きているのは運が良かっただけ、いつも死にそうな戦いばかりだぞ?」
アノ馬・・メズヱル?もライヤーも教会のヤツ等も悪魔神官だって、少し間違えば死んでいた。勝っていた戦いなんて、飛びだしてくる魔物くらいだ。
「[馬刺]様は別として、そのほかの相手は本当に殺す気があったのですか?
質問の意味は解らないが、真面目な顔で悪魔は言う。
殺したい・・か、教会のヤツ等をそこまで思った事は無いけどさ。
「殺意・怒り・殺意、そのような感覚に身を委ねた時。身体能力が意思に追い付いた事はありませんか?(殺す)そう思った瞬間、目の前の敵を簡単に葬った経験は?」
・・・・ない・・とは言えない、カッとなって頭が真っ白になった時、気が付けば[ソウ]してた。
「勇者に敵対した者は全て[魔物]、たとえそれが最強のドラゴンでも善良な淑女であっても殺し尽くせる。それが勇者因子の本質、そして魔物と判断した相手には限界を超えた力、勇者の力が引き出せるのですよ」
・・・
肉体の限界・精神の限界・人の限界を超え、勇者の力を使う。最強生物・ドラゴンでも殺せる力。
「そう、だから人間に敵対させない為に人間の神は人間の姿を持たせ、人間に育てさせ、
人間に情を持たせる、それが神の仕掛けた勇者への枷、ですから。
『魔物を殺す事は、人間を殺すより簡単でしょう?』そう言って最高の笑みを浮かべた。
嫌な事を言う、神に嫌な目にでも会わされたのか?まぁ悪魔だから仕方ないかもだけど。
普通の人間が身体を鍛えて腕力・膂力を高めて戦い、勇者因子を持つと、更に勇者の力を上積み出来る・・・だから弱いオレでもそれなりに戦えたのか。
(ヘッ、自分の才能の無さに呆れてくるよ)
勇者の力を上積みしても、やっとこさ戦えてるんだから。
はぁ・・道理で勇者候補のヤツ等が強いわけだ、あいつらも勇者の力ってヤツを使ってたんだから。
「・・勇者様、アナタ様はほかの勇者候補なんか相手にならない程の適正を持っているのですよ?ただ・・その力を引き出していないだけで」
・・「どうしたら、ソレ[勇者の力]を引き出せるんだよ。知ってるなら教えろ、そうすれば・・」おれは、みんなに・・違う!
「勇者として・・生きられ・・・るんだろ」誰かの為とか、国家とか教会の為でも無い、自分の理想とする勇者として。
「簡単ですよ!全て敵として心の底から憎み・怒り・破壊・殺戮・殲滅対象として認識すれば良いんです。それだけでどのような人間も・魔物も・魔王や神ですら殺し尽くせますよ!」
「それは、勇者じゃないだろ!」魔王とか鬼神とか、世界を破壊するナニカだ。
「[神の作った神兵]世界を作り出した神に認められた殺戮者・破壊兵器、それが勇者です。
少なからず、あの僧兵達は勇者様を殺すべき敵、として枷を緩めていたはず。
教会の敵は神敵と洗脳を受けたからかも知れませんが」
ああ、だから。人間に育てられ、魔物を敵と教えられるのか。
勇者の力を、魔物を殺す為に使えるように・・・
でも・・なぁ悪魔よ、おれはさ、結局臆病なんだよ。
魔物の全てを敵と考えられないほど、ヤツ等の目。真っ直ぐに生きて、オレと向かい合い弱肉強食のルールで生きるヤツ等を、悪として見れないんだ。
魔物相手でも命が消えるのが、恐いんだ。
(オレが死にたく無いから・・・魔物も死にたく無いって思っていると、どうしても考えてしまうんだよ・・)
ようやく勇者の本質その2、です。




