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勇者パーティを追放されたけど・・オレ・・勇者なんだけど・・  作者: 葵卯一
トラウマの砂漠を越えろ。
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砂食い、若しくは[モンゴリアン=デス=ワーム。

 アルケニーを預け、[転送]の魔法で飛んだのはホフメンの実家。

砂漠の端で男が小さな宿を経営してる人の少ない場所だ。


「・・父さん!」最初に馬車から飛びだしたのはホフメンだった。

 放牧された白馬を前に彼の父親は白く塗った薄い木の板を広げ、筆を走らせていた。


「おや、お帰り・・短い間に随分精悍な顔衝きになって、元気にやっているようだな。皆さんに迷惑を掛けてないかい」

 彼の愛馬パトラッシュもホフメンを見つけて近づいて来た。


「父さんの方は・・なにをして?」

 白い板には薄く引かれた線で草を食む馬が描かれている。

「ああ、宿の壁に飾る絵を書いてみようかと思ってね。幸い家にはあの美しい白馬がいるんだ、町に買いだしに出ている時も皆が誉めてくれるし、うちの宿の看板にどうだろうかと思ってね」


 穏やかな表情で息子に微笑む父親と、兄弟のように育った白馬に囲まれたホフメンの背中を見ていると、彼を連れ回しているオレは自分が悪党なんではないかと思ってきたんですが。


「今日は少し顔を出しただけなんだ、これから砂漠越を超えて海の町まで行く予定さ。その先は解らないけど、着いたら必ず手紙を書くから」

 ホフメンはパトラッシュの首を撫で、手ブラシで鬣をといて肩を揉む。


(・・なにかパトラッシュにじっ~と見られている感じがするけれど)

「・・ホフメン、オレ達は井戸の水を樽に入れてるからしばらくは」家族と休んでてもいい、そう言おうとした。


「じゃあ、オレも手伝います・・へんな気は使わないで下さいよ、ゆうさん」

「・・それじゃあ、井戸水をもらうお礼に宿掃除だな。慣れてるだろ?」

・・・・・


 宿で出してもらった飯を食うと、すでに夜になっていた。

「じゃあ、一晩だけ泊まらせてもらうよ・・オレは先に寝るから」

 宿屋の主人は夕食の酒でほろ酔い状態、ホフメンはテキパキと食器を片付け、ゴラムは外で砂漠の星空を眺めている。


「あと、ヤール。お前オレの部屋に入ってきたら『契約は解除だ』からな?」

 ちなみに宿で借りたお湯とたらいを使ってヤツの背中は拭いた、なんか前屈みで胸元を隠すなよ、見た目男の背中を流してやっただけで、うぅ・・精神的疲労が・・


「では、夢の中でお会いしましょう」

・・それも止めてくれ、ヤツの返事に心底そう思った。


[加速]!ヤールの魔法でゴラムが走る、普段の動きも本人は走っているのだろうが、今は補助魔法で加速され馬のような速度で走り続けていた。


 朝から走り通しだというのに、速度が落ちる様子もない。

(ゴーレム?の特性か?[疲れ知らず]とか・・中々やる男だ)


「・・勇者様、[加速]が切れる度にかけ直すのは良いですが」

「ああ、解ってる。その為に今その町に向かっているんだろ?」

 詳しくはオアシスの町の直ぐ近くにある城、そこに移動速度の上がる魔法の装備があるらしい。


(城の宝なんか盗ってもいいのか?)とは思ったが、税金で生活が成り立っている為政者の宝だ。ばれなければなにも問題は無いだろ、心情的にも。


 弓を持つ小さい魔物が高速で走るゴーレムを見て・・逃げ出した。そのほか紫の芋虫を移動しながら蹴り、カニが・・砂に潜って逃げ出した。クソッ、カニ食べたい。


 コウモリ猫が飛び上がって、、、なぜか今数匹が馬車の天井にぶら下がっている。

「多分暑さを避けてきたんでしょう、夜になれば襲って来るかもですが」

 ホフメンの説明では、コウモリ猫は夜行性らしい事が解った。暑さに弱いならなんでこんな所に・・・まぁ猫の顔に免じて今は許してやるけど。 

 喉の所を触るとゴロゴロってなった(うん、今だけは、許してやろうじゃないか)


「勇さん毒蛾が!」

 [幻影]を使う人面蝶[毒]、仲間を呼ぶし毒も使うから・・手早く倒す。

「[火炎線]!燃え残りを片付けてくれ!」

 加速の掛かったゴーレムの回し蹴りが毒蛾を蹴り飛ばしていく・・・


「まとめて全部ぶっ飛ばすとか・・」これオレの魔法いらなくないか?


 揺らぐ空気、蜃気楼の向こうに見えるのがピラミット。[加速]の無いゴラムなら3日は掛かった距離が1日で砂漠の真ん中まで到達し、疲れ知らずの仲間はガシガシと馬車の車輪を回して進んでいた。

 

 敵の姿が消え、車輪が砂を掻くシャラララ・・って音と馬車の壁を風に乗った砂が打つパララ、って音だけが響く。


(・・なんか、変だ)風で砂丘が変化する音、そしてどこまでも続く砂の風景。


「少し停止だ、静かに」

・・獣の動く音も無い・・ここはどこか変だ。


 次ぎの瞬間、コウモリ猫は馬車から飛び去り、地響きと共に砂の下から巨大な・・なんだ?アレ?


「砂食い、若しくは[モンゴリアン=デス=ワーム」と呼ばれる魔物ですね。砂の上に死体が少ないのはアレが処理しているからでしょう」


 砂岩の外殻を持つ巨大ミミズ、そいつはオレ達の馬車の前に飛び出し、砂に潜る。

(アイツ、、、地面の下からオレ達の進む進路を予想して飛び出したのか?)


「ピョートル、[爆破]の準備だ。アレの口に魔法を叩き込んでやる。ヤールは休憩しておけ、オレ達だけでやれそうだ」


 ゴラムに投砂の準備をさせ、オレも[爆破]の準備を始める。正し発動を遅らせ3重にかさねた遅滞魔法。


「ヨシ、砂を投げろ」

 ゴラムの大きな手が砂を掴み、目の前に砂を飛ばす。


・・・地面が揺れ・・・来る!

 馬車を飲み込む巨大な口、中にはナイフのような歯が尖り、丸呑みしようと大口を開けて飛びだした。


[爆破]・[[[爆破]]]二人の魔法が体内で起爆し、爆破の魔法が衝撃と震動を繰り返し砂食いの身体を進んで行く・・そして悪臭を放つ体液を撒き散らし破裂した。


・・・「臭い」・・「ああ、臭い」タダ臭い、すごく臭い、途轍もなく臭い!


「砂漠の死体処理をするからでしょう、それより勇者様、この場は逃げた方が」


[爆破]の震動と、砂食いの体液が放つ悪臭、それは・・・新たな砂食いを呼ぶ導きの鐘となる。


 ズゴゴゴゴ・・・

 解る範囲で3匹、それぞれサイズが違う砂食いの背中が砂を走っていた。


「ああ、解ってる。ヤールは加速!撤退転身、全速力でこの場から逃げろ!」


 オレが最後に見えた砂食いは、小さい山くらいの背中があった。どれだけの時間を生きればそのサイズになるのか多分砂食いの大将、ボスがマザーってやつだな。


 少し戦って見たかっただけの好奇心が、とんでも無い魔物を。

それに、砂食いを退治しない理由もわかった。臭いし汚いしデカイし、得る物が無いからだろうな。


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