女性愛好趣味者の女領主様は興奮した。
アルケニーが洗われている間に屋敷に走り・・・タンスを開けるのか?人様の家の?それに、今必要なのは・・女性物の上着だ。
それは勇者として・・男としてどうなんだ?
世界には[網タイツ]や[ピンクのレオタード]の入った宝箱もあるらしいが・・・
屋敷に入ったは良いが、途方に暮れていた勇者は薄っすらと感じる視線を感じて周囲を見渡した。(アレか?)窓を拭く白いメイドさんと目が合った。
・・・・「え~~と、スイマセンが・・服とか・・余った服とか合ったりしません?その・・汚れちゃって。シャツ1枚でもいいんで」
(今思った!コレはどうなんだ?
「メイドさんのシャツをくれ」と言っているわけじゃないんだけど・・誤解を受けそうな・・)
「じゃなくて、普通のシャツ!ただ上の羽織る程度の服が有れば下さい、・・売って下さい」かな?
なぜか口元に手を当てた彼女は「少しお待ち下さい」と言って歩いて行った。
・・仕方ないので、窓でも拭いている事にした。何か可笑しかったかな?オレ。
窓を三つ拭き終えた頃「こちらでよろしいでしょうか」と綺麗にたたんで有る生地のいい白いシャツを手渡された。少し上等過ぎるけど・・貴族の家ってのはこんな物なのかも知れない。
「・・窓を・・」
「ああ、ごめん。時間があったから・・邪魔だったよな」
彼女は窓枠を指でなぞり、「丁寧な仕事をして戴きありがとうございます」と頭を下げた。
「手伝うつもりなら、[多少遅くても丁寧な仕事を]だろ?」逆に手間を増やすような手伝いは邪魔でしか無いからな。
・・・なんだか驚いている感じの顔だ。それで「代金はいくら払えばいいんだ?」
って言ったら固まってしまった。
え?あ?「・・その服は・・その、前領主様の遺品の中から綺麗な物を・・」
つまりタダと言う事らしい。いやーいいねえ、タダって言葉は。
「それじゃぁ・・」手間賃と言う事で銀貨を1枚手渡し、握手した。
いいねぇ、金持ちの家で使わなくなった物を安く買い取り、どこか別の土地で売る。
(商売として成り立つんじゃ無いか?・・ああ駄目だ、金持ちとコネが無いと出来ないか・・くそ、良いアイデアだと思ったんだけどなぁ・・)
細く柔らかい手を離してくれないので、こちらから手を開く。
・・・「あの・・連れが待ってるから・・」
「ああ!すいません!・・えーと・・失礼しました」
手を離した白いメイドさんは慌てて走って行く、
(多分、男の客?が珍しいんだろうなぁ)
「と言う訳で、シャツをもらったんだが。・・どうなって、どうしたらこうなった?」
アルケニーの汚れて捩れた髪は、艶のある黒髪になり結い上げられていた。
そのせいで、黒髪に隠れた白い肌が露わになり、恥ずかしそうに両手で胸を隠していた。
「長いままでは、面接でも良い印象を与えないでしょうし。アルケニーの髪は武器にもなりますので、簡単に短くするわけにいかず。考えた上でまとめて見ました」
どうでしょう!って言われても、恥ずかしがっているじゃないか。
そして、勇者の渡した男物の白シャツを着せると、領主の体格に合わせて作られたシャツは大きくブカブカで、人間部分の手が指先まで隠れてしまっている。
(・・余計なんか変になっていか?そう・・とても)
「可愛い?」
オレの視線に気が付いたアルケニーが顔を上げた、かなり老齢に聞こえたアラウネェルの声は、若い女性の声に変わり。少しはにかむような表情は・・・可愛かった。
わきゅっ、蜘蛛の足が動き、わきゅわきゅと左右に行ったり来たりして距離を測るようにして手を伸ばし・・足を折りたたみ。
(マズイ!)あれは獲物に飛び掛かる瞬間の溜めだ!
本能的に、(避けなければ!)と身体を反応させた。
それでも、もう一つの本能が(捕らえられてもいいか)と身体の力を抜こうとする。
[あの巨体で押し倒されたら]・[あの糸で絡み取られたら]そんな危険信号と、同時に、長い足に包まれ食われる自分を想像して力が抜ける。
「テメェ!ナニしてくれようとしようとしてんだよ!勇者様はオレのもんだぞ!」
アルケニーの身体が沈んだ瞬間、オレの目の前に黒い影が飛びだした。
黒い影は殺気を纏い片手に炎を浮かべる、[火炎]その最上級の炎。
「これは[火炎]じゃねぇ![豪火炎]だ、術者が違えば威力も違う!骨も残さず燃え尽きろ!」
ヤールは火炎の熱を高め、炎の色が赤から白く・そして青にまで高め、魔力の密度を上げて行く。
・・・いや、オレはヤールの物じゃないんだが。
「まてって、くっ付くくらいいいだろ?それ以上は殴って剥がせばいいだから、だからその魔法は収めろよ。それ、かなり危険なヤツだろ?」
それに、あの格好は可愛いんじゃなくて・・な、何と言うか。
「なんて破廉恥な!」
説明に困っていたオレの背後で[すごく]興奮した女の大声が上がった。
そう、破廉恥だなって・・え?。
時間を掛け待たせ過ぎたらしい、頬を染め大きく目を開く女領主が自分の声に驚いたように口に手を当てて立っていた。
「まぁ!、まあ!、マア!なんと素晴らしい!こんな、こんな奇跡が!ああ!勇者様!アナタ!わたくしをお試しになったのですね!この様な可愛らしい方を、わざわざお汚しになって!なんて酷い!
まあ良いでしょう、私の目が!真贋を見抜く力が無かったと言う事は認めましょう!
さあ!アルケニーさんでしたか?直ぐに契約を!どんな服がお好みです?何歳くらいの人間を贄にすれば?ああ、わたくしと契約のさいはどのようなお仕事を所望です?
ああこんなに興奮したのはゴモリー様とお会いした時以来!
私新しい扉が開かれてしまいました!ああ!魔物娘?この様に可愛破廉恥な生態の方が居ようとは!ああ、その足に全てレースのストッキングを履いて戴いても?」
女領主は捲し立てるように詰め寄り、アルケニーの身体をあちこち触り撫で、鼻を近づけ足の関節の匂いを堪能していた。
・・・
「勇者様・・恐い」カサカサと足を動かし、興奮する変態から距離を取るように勇者の背後にアルケニーが逃げて隠れようと動く。
やだよ!オレだって恐いわ!
「落ち着け!落ち着くんだ!変態!ルベリア・ウェンディ子爵様!」
「まぁ!変態なんて失礼な!女性愛好趣味者と言って戴けませんか!男には興味ございませんので、勇者様の失礼なお言葉は看過しかねます・・が、新しく我が家の家族になるアルケニー様に免じて許して差し上げます!
さあ勇者様はお帰りになって下さい!ここからは女同士の交渉の時間・・と言う事で、ささ、あちらへ。まずは女同士湯船でお互いの理解を深める為に、裸のお付合いから・・」
ルベリアがグイグイとアルケニーの腕?足?を掴み、屋敷にお持ち帰ろうとした瞬間、
ぎゃん!「・・・・・失礼しました。ここからは私が、ウェンディさんは少し頭を冷やさせますので・・」
自分で自分の足の甲を踏みつけて声を上げ、俯[うつむ]いたあと顔を上げた彼女は大人びた感じの表情と笑い顔で勇者の顔を見上げた。
「・・ゴモリーさん?」
人生の2/3を生け贄にその身体を明け渡した魔界の女公爵、その彼女が足の痛みに涙目を作り、オレの声に頷いて返してきた。なんだか苦労しているなぁ。




