悪魔が勇者と歩む理由。
「数百万ってのは教会からの数字だろ?実際はそれほどじゃないさ。でもな、一国の王様を挿げ替える程度の数と権力はあるって考えろよ勇。
・・・実際の所は、『強ければ生き・弱ければ死ぬ』って事、それだけだ。シンプルで簡単な答えだろ?」
その信者の中にライヤー達のような実戦部隊がいるなら、毒殺闇殺・謀略・諜報部隊もあるんだろ?なにが聖神光明だ、至高神の使徒だ!
「それになアヤメお前も少し考えろよ、不満そうだがよぉ。
お前が勇者に着いて行けば、お前を育てたザピエル様にも迷惑がかかる。最悪、異端審問だ。
教会が本気で審問したらどんな人間でも・・な?」
最後にオレの方に目を向けたのは、拷問と脅迫と薬物で認めさせるって所を言いたいだよな?
異端と告白すれば通常でも本人は火刑で、家にある全ての財産の没収と社会的地位の剥奪。
最悪の場合、家族・使用人にいたるまで悉[ことごと]く異端審問・・つまりは火炙りだ。
(女・子供はたとえ婚姻者でも審問官の玩具にされるって聞くな、それで若い女の火炙りにされる時には轡[くつわ]を噛まされていたりするんだって・・・なにも言わせない為に)
魔女とかにされた女は、叫び声を大衆に聞かせる為だけに歯を抜かれたり、名人と呼ばれた火刑人は、燃やされ始めた女の轡[くつわ]だけが外れるように工夫したり、長く悲鳴と叫び声を上げさせるように、火力や薪の積み方を工夫したりするとか。人間の悪行が詰まってやがる。
(火刑は、教会がする大衆向けの最高のショーだからな)
「そっ・・・か。」オレと関わる人間、みんなに迷惑が掛かるんだ。
もういい「わかった、ヤール!『それどころじゃない』なら今すぐソレを成せ!」
「イエス!マイ・マスター」光りが天井から降ってくる、これは[旅の翼]と同じ光りだ。
「仲間は解ってるよな!プラスでホフメンを忘れるなよ!」
クソッ!クソッ!クソッ!解ってたさ!お前らはオレが邪魔で、殺したい程憎いだろ?クソッ!なんだよその目は!なんで!なんでそんな悲しそうな目でオレを見上げるんだ!
「・・『オレ様は偽勇者だ!お前達の敵だ!・・・オレは・・オレは偽者らしく、いつまでも薄汚く逃げ回ってやる!じゃあな!教会の犬ども!』さらばだ!」
これでいい、戦えば傷付くやつが出る。おれが逃回れば誰も傷付かない。だれにも迷惑にならないように、精々逃げ延び続けて見せてやるよ。
ああ、目が熱い、なんで人間ってのはこんな感情があるんだ。最初っから敵は敵、会話もわかり合いも無ければこんな・・こんな辛い・・・な。
「私の勇者様、どうかそんな顔をしないで下さい。さあ着きましたよ、私と勇者様の約束の場所。手を伸ばし、私の手をお掴み下さい」
法陣の中に立つ、黒い紳士服の悪魔は帽子の影で黒い顔を隠して手を差し伸べていた。
「ああ、それが約束だ・・が、その前に聞かせてくれ。なぜオレなんだ?」
なぜオレと契約する?なぜオレに尽くそうとする?オレの魂か?それとも血か?何が目的なんだ?
「ひと目惚れとか言うなよ?」そんな物で命を賭けるとは思えない。
魂が欲しいなら、死んだらその内くれてやる。命が欲しいなら、国王や教会のヤツ等にくれてやるくらいならお前にやるよ。(働き次第でな)
「・・・もし聞かせないと、私が言えば?」
「契約は無しだ、信用出来ないヤツと契約なんか出来るか」
悪魔は少し戸惑い、真っ直ぐオレの目を見たまま少し考え、頬を緩めた。
「フフッ、本当に。ただ本当にひと目惚れなのですよ、そこにいる仲間達と同じ・・イエ、私の場合は少し違いますが・・契約して下されば、お話しします・・と言えばどうでしょう?」
太陽は今にも上がろうと空を焼く、金色の雲が赤に変わり、空の藍が青く染まろうとしていた。
「なら、問題なし!手を伸ばせ、おれはその手を掴めは良いんだな?」
伸ばした手に指か絡み、法陣から降りて来るようにヤール・ヤーの身体が勇者の前で地に着いた。
「・・・・へ?イヤイヤ、そこはもっと疑ったりしたりして・・です!」
あわてるなよ、新しいとはいえ死線を越えた仲間だろ、俺たちは。
「その程度の信用はしてるって事だよ、さあ話せ!今話せ!直ぐ話せ!」
何やら混乱しているヤールが少しおかしくて笑ってしまった、でもまぁ・・手は離そうか?そろそろさぁ。
「・・もぅ、ずるいひと!ええ、良いでしょうその前に・・
『改めまして、悪魔ヤール・ヤー。私を必要とするなんて、アナタは中々ですね!
今後ともよろしゅう』」
魔物とか悪魔達と契約する時は、皆そう言うのか?まあいいけど。
「ああ、こちらこそだ。いたらない事があれば言ってくれ、頼りにする」
ここからは、ヤールから聞いた話だ。
この世界の魔物・怪物・精霊も含めて、普通に生き・普通に生活している者は皆本能的に知っている事がある。
【魔王と勇者】この二つは自分達を導く存在だと。
魔王は世界を魔物と怪物の世界へ、勇者はまだ見えない世界へと。
だから強い魔王に従い、だから立上がり仲間になろうとする。
だが悪魔は違う、少なくとも別の世界に存在する悪魔は。
「遠くから見る絵本のような・・読書?をして彼等を見守るような感じでしょうか?」
それは、神様のような視点だろうか?ただ人間の有様を眺め見下ろし嘲笑するような。
「いいえ!私は違いますよ!そう・・深く読み込み、共感し感動して明日はどうなるんだろうって、退屈な毎日がそれはもう楽しくて・・」
そんな時、悪魔は喚ばれた。別の世界から、物語の中の住人から悪魔を呼ぶ声が聞こえた。
「アナタは物語の登場人物となり、その世界を歩き・冒険し・ヒーローやヒロインと会話したり、仲良くなったり、友人やクラスメイトになりたい。そう思った事は有りませんか?」
たとえその下に見知らぬ屍を積まれていようと。
悪魔が顔を出したその時、目の前には物語の主人公が立っていた。そんな時、[思わず]でなくとも告白しませんか?
ただ眺め、見ていただけの部外者が物語のキャストになる。だけでなく、勇者の仲間というポジション!逃す悪魔はいないと言う。
「それが、もろ好みのストライクど真ん中だったら?ええ!なんでもしますよ?脱ぎますか?」
「脱がんでいい」なぜか服?を脱ごうとするヤールを一言で止めた、なぜ脱ごうとするんだよ!
それが悪魔の生きる長い時間でたった数十年の事だとしても、傅[かしず]くには十分な理由だと。
要するに、退屈凌ぎって事か・・悪魔の娯楽も神の玩具も似たような物だと思った。
「わかった、理解した。なら契約したばかりでガッカリさせたく無いが、オレ勇者をやめるつもりだから」
そう言うとヤールの顔は[はへ?]見たいな顔になっていた。




