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勇者パーティを追放されたけど・・オレ・・勇者なんだけど・・  作者: 葵卯一
トラウマの砂漠を越えろ。
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切り札の対価。

 いたい・・身体中が痛い、足が・腕が肺が目が喉が首が手が痛い、痛い・いたい・イタイ・イタイ・痛い・・・


 身体と脳のリミッターを外した副作用だ。

 脳の興奮作用が切れ、身体中の痛みの記憶が脳に激痛の怪物を解き放っている。


 燃えるように手足の腱が熱を出し、筋肉が内側から燃えているように痛い。

喉は焼け、眼球は焼けた石を詰められようにズキズキと痛んでくる。


 内蔵も・肺も骨も口の中も[無理やり回復]されて、遅れてきた激痛が全身を燃やすように肉体を軋ませた。


(クッソ!痛みで死ぬ!覚悟を決めて、わかっていても、クソッ!痛ぇ!)

 気絶しそうな苦痛を、より強い痛みが気絶を許してくれない。 


(死なないってだけが希望だ、こんな痛み、明日には消えるって考えてないと痛みで死ぬ!)


・・・・・・? 顔だけ、なんか違う?


 顔に当る生っぽい柔らかさと少し塩っぱい香り、

(汗のような・・少し違うような)よく解らない。


 本能的に・ヒトの本能として解らない物は確かめたくなる、そう思いませんか?

少なくとも、その時のオレはそうだった。


(多分、コレが脳のにお)い!?

 顔を埋め呼吸をした瞬間、後頭部が爆発した。文字道り、目の覚めるような痛さと衝撃!瞬きする事も忘れて飛び起きた!


・・・なんだ!どうした?敵か!まだ戦い・・・は・・

続いていた。飛び起きたオレの前に座るアヤメさんは拳を握り振るわせ、潤んだ目で顔を赤くし、睨み見上げていた。


「お前、いつから・・目を覚ましていた」返答次第ではあのゲンコツが頭に落とされる、そんな勇者の直感だ。今までオレから命の危機を救ってくれた第六感がそう告げてくる。


「つい、今だ!頭に衝撃が、後頭部が、ガン!ってなって目が覚めたんだよ!」

嘘じゃない信じてくれ!冤罪だ!おれは何もしていない!


「・・・いいか?今起こったこと、感じた事は全て忘れろ、いいな?」

 疑いの目はまだ残っている感じの表情と、拳の震えと力み。(ヨシ!セーフ!)


・・・「空が赤い?もう直ぐ夜明けなのか?」

 魔法の[照明]無しでは完全に闇の体内とは違う、雲と朝焼け。


「ええ、おはようございます、ワタシの勇者さま。そのオンナの足はさぞ寝苦しかった事でしょう!さあ次ぎはワタシの膝へ!」

 ヤールは正座した太股をこちらに、両腕を広げて誘って・・なんで・・


(いや、まて。ひざ・・ふともも・・あの不思議な香は・・)

勇者が思案した結果、アヤメさんと目が有った。


 その結果、飛び起きたアヤメさんの拳は、きちんと勇者の頭に落とされる事になった。


「全て忘れたか?まだなにか憶えてるか?正直に答えろ!記憶を無くすまで殴ってやるから!」

勇者の頭を脇で抱え拳を握る、アヤメさんの[記憶を無くせパンチ!]は、オレの頭から記憶より大事な物を消す勢いだ。


危うく『おれは誰?今はどこ?アナタはいつ?』の状態になる所だったですよ。


 あの時、後頭部への衝撃の瞬間、起き上がらず顔を沈めていたら死んでいた。


(さすが、勇者の直感力!自分を誉めたいと思ったのはどのくらいぶりだ?)


「あの、所でユウさん?・・その・・アレ、どうしましょう?」

 ホフメンの指さす先に・・ピョートルとゴラムが臨戦態勢をして構える姿が見えた。

その先には、半分に切れた・上半身だけ、半裸の女っぽいナニカが座って?いるように見える。


「だからさぁ、アンタ達と同じだよ。『起き上がり、仲間にして欲しそうな顔で見ている』んだって!だから勇者様と話しをさせておくれよ」


 見た目は人間が砂に埋り、上半身だけになっているように見えるが・・・アラウネェルって言ってたっけ?


「・・アナタの言葉が本当なら、確かにそうかもしれませんが。あの人は面倒くさい・・本当に面倒くさいヒトですから、仲間として迎えるかどうか解りません。それに・・・」

 ピョートルは盾に顔を隠し、剣を立てて警戒していた。


「ああ、上半身裸ってのは不健全だな。それに・・なんだか・・」違和感があった。


 たしかコイツ、腰にも手が生えてたし、もっと顔も・・(顔は見えてなかったか?)


「ああ!勇者様!ようやくお会い出来た!早くお仲間達をなんとかして下さいよ!

それにワタシも手持ちの糸でなんとか傷口を塞いでいる状態で、早く仲魔にして戴けないと死んでしまいますから」


・・・「その糸で、付いて来たのか?」

 [脱出]の魔法は一つのグループに対して発動するから、だれか・・きっとアヤメさんだろうけど、糸をくっつけて一緒に身体の外に脱出してきたのだろうか。


「へへっ、どうです?ワタシの糸を使えば色々な事も出来ますし、命令には忠実ですよ?それにこの辺じゃ珍しい種族でしょ?役にたちますよぉ勇者様ぁ」

 なぜか媚びるよに、手をすり合わせ、上目?使いのように見上げてくるけど・・前髪で顔は見ない。


・・「一つ、問題がある。重要でそこだけは譲れない問題だ、おれは裏切り者は許さない。一度裏切ったヤツは、二度・三度裏切る。だから仲間を裏切るようなやつを信用しない」

 

 教会に作られ命令を受けたヤツが、こうして教会を裏切り仲間になる事を多分オレは許せない。


「・・それはねぇ・・魔物に信用とか・・」

 魔物は強い方に付く、それは解る。それでも、だ。

「すまないな」


「ああ!結論は待ってよさ、一応説明とか言い訳させてもらうとね、今のあたしは作られた天使ってわけでもないのさ。

 ほら、下半身を切られちゃったでしょ?アレ、元々はワタシ生来の物じゃなくてね。本物の蜘蛛の身体をくっ着けられちゃったのさ」


 アルケニーと言う魔物種族の因子を押える為に、蟲の身体を繋げ縛られていた。

そんな説明だった。


「だからね、アラウネェルでは無く、アルケニーとして仲間にしてくれない?」


(違和感の正体はソレか、でもワザと不完全にする事で天使として作り変える?そんな技術があるのか?)それに名前だって、アラウネェルじゃなくてアルケ二ヱル・・・語呂が悪いからか?


「有りますね、さすが人間。天使に魔物の因子を混ぜて堕天させたり、魔物を繋いてより強い魔物を作り出したり・・どこの世界でも人間は創意工夫が好きですから」


 強化があるなら弱体化もあるのだろう。操者のレベルに合わせて人形を変えるように、扱いやすくためにデチューンする場合が。


・・・


「そんなヤツの事より、勇!お前の事だ!これからどうするつもりだ?私はお前を教会に連れ帰るように命令を受けている、できれば大人しく付いて来て欲しいのだが」


 自分を瀕死にまで追い込んだアラウネェルを一瞥して振り返り、手をワキワキさせたアヤメさんが強い目で勇者を見る。


 それは・・ちょっと無理だよ。口には出せないが、オレはキミほど教会を信じていないんだ。


「まぁ、そんなに結論を急ぐなよアヤメちゃん。この状態、正直言ってオレ達の勝ち目は無しだ。

それにヨシュアの治療もしなきゃならねぇ、そっちも今すぐ戦うって感じでも無いだろ?」


 両手を挙げて降参・降参とポーズをとり、ライヤーの横に寝ている男の方を目線で示唆する。


「一応[中回復]は掛けたけどよ、コイツ見た目より重体なんだぜ?身体中の腱とか筋肉とか血管・神経もボロボロ、無理に魔法で治したりしたら後遺症だって出るかもしんねぇし」


 肉体の限界を超えた技を連続で使い、[重縛]を無理やり抜けようとして関節を痛めている。それに・・


「脳のリミッターを無理矢理外されていましたからね、脳神経だってそりゃぁもう脳内麻薬がドバドバ出たでしょうし、頭が中毒かスポンジになってもおかしく無いでしょう?」

 悪魔に、人間の脳の知識があるのが恐い。


(でも、わかる)切り札として使った後の陰鬱[いんうつ]な感覚、なにもやる気が出ず数日は頭痛と暗い気持ちが収まらなくなるんだ。


 実際、オレも頭痛が痛い。全身が痛い、感覚的に1/10時間くらいの間リミッターを外しただけで、脳が処理落ちして寝てしまった。その後なのにまだ頭が熱いんだからな。


 あれは多分、脳が疲労している状態なんだろうな。だからあんな物は軽々に使うべきじゃないんだよ、本当に最後の切り札だ。


「ヨシュアの治療も含めてだ!勇が教会に顔を出し、頭を下げて

『これからは真面目に魔王討伐に邁進[まいしん]します』と宣言すれば、私達のような者は追わずに済む。


 教会からの援助もされるだろうし、私も・・魔王討伐に付いて行ってやる!勇者がさぼりそうになったら殴ってでも進ませてやる!」どうだ。

 

 熱い視線だ、オレを信じるような強い気持ちはたとえ臆病者の偽勇者でも伝わってくるよ、でもな。

「・・・・」


「すまねぇな、教会の人間ってのは大体こんな感じなんだ。・・・いや、これでもかなりマシな方だ、ほとんどのヤツはお前を殺しても構わない程度に考えているのが本当だ」


「ライヤー!」


「まあ待てよ、そして聞け。十司祭会議での決定ってやつだ、覆る事はまず無ぇ。1人2人を説得出来たとしても無理、全員一致での賛成が有って決った事なんだよ」


 つまり、俺を絶対殺すってか?バカにしやがって、オレを殺す前に魔王を殺せって言うんだ!弱い方から・殺しやすいから殺すのか?どれだけその司祭ってヤツは偉いんだよ!


「ふふっ『神は自ら助くる者を助く』自分の命は自分で守れとは、さすがは神!そして勇者様を殺すのが神の使徒とは!ああ!私の勇者様は、なんとお可哀想な!・・・・・

イエ!そんな事より!」


「そんな事ってなぁ」

 世界中にいる数百万人の聖神光明教会教徒、至高神を崇める一般人が全部オレを殺せって言ってるんだぞ?少しは落ち込ませろよ。


 ジワッと背中から汗が噴き出す、自分の口から出た数百万と言う数字だ。

 そして目に見えない信者達の数、そいつらが全部敵になった事実、それを考えるだけで吐きそうだ。

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