人間と同じでは、人間の戦いしか出来ぬ。
「立てるか?立てないならその場にいてもいい、とにかく・・」
「・・・!いきら、いきなり抱きつくな!あ・・アホ!・バカ!・変態!」
「動くなって、傷はまだ塞がってないんだから。ああ、無事か、良かった」
暴れるアヤメを抱え走る、両断したアラクネェルがまだ生きてる可能生が高いから今は、この場にいるべきじゃない。
(それに)
「待たせた!」
ヤールに任せたのは呼吸5つ分。オレは滑るように走り、アヤメを置くと刃をメズヱルに向けた。
「う~~~~」そんなオンナは放っておいて、ヤールがと言わないのは説得したからだろうか、すごいイヤそうな顔をしながらも彼女の方に跳び下がってくれた。
「こんな傷なんて、自分で治せるんだからな。感謝はするが・・いい気になるなよ!」
そんな事をいう彼女を背に、空気の結界が彼女を包む様子を確認し、正面のメズヱルと向かい合う。
「これで、オンナを気にせずに気にせず戦えるか?」
「・・待っててくれてありがとう。そっちは」仲間を倒してすまない、と言うべきなのだろうか。
「気にするな。オレの役目は、アラウネェルの護衛だが、それ以上に・・・お前を倒す事を優先されている。それか実力を測る事だな、倒すか試すかは一任されている」
メズヱルを全力で倒す事が出来れば、それはヤツよりオレが強い事になるだろう。
反対に敗北すればヤツ以下の実力だと、そう判断したらヤツはオレを殺すか?
負けてもヤツを認めさせる事が出来れば、少しはチャンスがあるのか?
その為にはヤツに全力を出させる必要がある、そういう事らしい。
────────
戦いは少し前に戻る、一瞬で距離を詰めたメズヱルはトゲ刺股[さすまた]を振り下ろし、避けきれなかったオレは額をかすり、視界を血で滲ませていた。
「すげぇ痛ぇ」額が裂けて血が出てやがる。
「・・その程度か?」
残念そうな顔とため息、口元は明らかに嘆息[たんそく]し投げやりに刺股を横薙ぎ、ようやくハサミで身を守った勇者を、つまらない物を見るような横目で息を吐いた。
[回復]額の傷は浅い、それでも最初の一撃で序列はついた。
メズヱルは単純に強い、腕力も脚力も・全身の筋肉は見るだけで剛柔な防御力も予想出来る。
力が強く・早く・堅い、そして言葉と表情に見える知性と普通なら逃げ出す程のレベルの差。
それでもオレが逃げられ無いのは、仲間が戦っているから。
「その程度で申しわけ無いね、才能ってやつに恵まれてなくて」
生まれ付き最強だったら苦労はしない。
おれが無敵で最強の勇者ならとっくに真っ直ぐ魔王ってヤツを倒して、世界を平和な時代にしているさ。
そんなオレでもさ、今はなんとかしてコイツの呪いを解かないと駄目なんだよ。
「もし今オレが降伏したら、メズヱルはコイツの身体から出ていってくれるのか?」
降伏した方が条件を出すなんて変な話だが、コイツは敵だが戦わない相手をいたぶるような男には見えないし、オレに興味も無さそうだし・・どうだろうか?
「お前はバカか?降伏したら敵が容赦すると?、大人しく敵の下に付けば生命が・安全が保証されるとでも?・・・人間はそうなのか?
・・そうだな、お前の実力が小鬼以下だった、もしそうならあの方を落胆させてしまうだろう・・それは・・オレが叱られてしまう、それより[勇者などいなかった]と報告した方がマシだろうと考えるとは思わないのか?」
ああ、そう言う。
(無抵抗は殺す感じか、[あの方]ってもったいぶりやがって、どうせ教会のヤツだろ。偽勇者とか勇者はいなかったとか、ヒトの存在を否定するヤツばかり集まりやがって)
「なら、殺されない為にも抵抗くらいはさせてもらう」
所詮オレは、死にたく無いから毎日逃げながら生きて来たんだ。なにも変わらない。
すぅぅぅぅ・・深く息を吸い込み、息を止める!
全身の筋肉に力を込め、心拍・血圧、全身の筋肉を膨張させて筋肉が熱を作り出させる。
全身筋肉の緊張と、吐き出す息と共に全身脱力。
無理矢理高められた心臓脈拍と圧力は身体中、末端まで血液を送り血管を膨張させ、酸素が・塩分が・糖分が全身に廻る、開いた目は瞳孔が開き明るさを強めた。
足は体重を感じ、重みを支える足裏が肉を蹴る。
前傾のまま、爪先で肉を掻くように走り、目が敵を捕らえた瞬間に武器を持つ腕を振り抜く。
最速!最短距離での全力の一撃!
ドスッ!最初に感じたのは巨大な土袋を木剣で叩いたような重さと堅さ、腕ははじかれ手首を折るような反発があった。
(それでも!)はじかれた反動を左の鋼刃に乗せ、左腕を振り抜いた。
ガスッ!今度は岩、岩を太い枝で殴り付けたような重さ。
二つの攻撃を筋肉で受けたメズヱルは面倒くさそうに刺股を振り、刃で受けた勇者のハサミが火花を飛ばす。
(通じ無いのは解っていたが!ここまでかよ!)
片腕の刺股に押し飛ばさされ、今度は伏せるように低く構え足を狙う。
「それは、悪手だ」硬すぎる足は鉄のハサミを受け止め、鋼鉄で出来た大木のように刃をはじく。そしてそれは、勇者の頭上を無防備にする事にも繋がった。
(ヤバイ!)頭が危険を感じるヒマも無く武器を手放し転がる。
その瞬間、勇者の身体があった場所が抉れ削れていた。
高速の蹴り、多分狙った方とは反対の足で蹴ったのだと思う。
(全く見えなかった、なんだよアレは!)
鋼鉄の塊が高速で動き、武器を持つ。犯則だろ!
「まだ普通の人間レベルだ、それでは勇者とは言えぬ」
絶対強者は、勇者を小鬼から人間レベルに格上げしても、まだ足らないと刺股を振る。
・・・(もう直ぐ息が切れる、クソ!)
限界まで引き上げた心拍が悲鳴を上げてブレーキを踏む。
身体中に渡った酸素を使い切り、脳が身体のリミッターをかけ始めた。
汗が大量に吹きだし、視覚は歪み身体中の間接が熱と痛みを訴える。
フゥ・フゥ・・フゥ・・はぁ、くそ息が・・。
「ゆ・ゆう・者って、なんだよ。レベルが、おれのレベルが低いって言いたいんだろ」
ならそう言え、金属スライム狩りが足らない・・ってな。
「・・勇者は、人間ではない。人間と同じでは、人間の戦いしか出来ぬ」
(?・・たしかそんな事を言う学者がいたって、聞いたような気がするが・・)
曰く、勇者とは、天人・竜神・精霊と人間の間に産まれた孤独な種である。だったか?
それ故に強き力と人間の心を持つ、天に祝福され・竜神に導かれ・精霊に愛される。じゃあ人間の血からは何が手に入ったんだよ?とは思ったが。
それで確か、王族や貴族・教会は聖なる血を内に入れる為に勇者と婚姻し、今いる貴族や王族・教会の偉いヤツ等は人外の血縁だとか・な。
そんなの、誉められた物じゃないだろ。自分が化物だとか、人間じゃないとか。
「おれは、人間でいたいんだよ。」普通のな。




