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カン田との戦い、前編。

 真っ先に・真っ直ぐに駆けだし男の顔を掴み、そのまま突き飛ばすように押し倒す。

大きな林檎を掴んで叩き落とすようなグシャとなる感覚。


・・・まだ生きているか?兜のお陰か、どちらにしても・・一人目、排除。

意識を集中しろ、集団戦は囲まれたら終わる。


 顔を上げ目に入った男の横に滑り込み、腕を掴み引く。

驚いた男が反射的に体重を引く、と同時に腕を掴みながら背後に回り脚を蹴り上げる。

 受け身のとれない男はそのままうつ伏せに転がり、その後頭部を踏まれた。

(二人目・・あと二人)


逃げようとしている一人を無視し、混乱して立ち往生している男にゆっくりと歩き近づくと

動物の行動は二つに分かれる。逃げるか・立ち向かうかだ。


 反射的に振り上げた槍を、歩く速度を瞬間的に上げて内側にもぐり込み。そのアゴを打ち上げる。切れない銅の剣は鈍器、あごを打ち抜かれた男はそのまま膝を崩して倒れていった。


「大丈夫か?ピョートル、大丈夫ならオレに[回復]を」即座に[回復]が掛かる。


 面倒な事になる前に逃げる。こいつらは雑魚だったが、アレは筋力を鍛え上げた

とか言っていたからな。


「勇さん、さっきのあれは・・」

 毎夜幻覚のように現れ、罵る[ののしる]戦士を伐ち倒すための工夫。

幻覚の中に立つ戦士を掴み、ヤツならどう抵抗するか・どう攻撃するかを想定し、

まぼろしと戦い続け、魔物でためし続けた結果の産物。


(まだ遅い、ヤツはもっと早いし・もっと力が強い、それにタフで一瞬の勝負感が強い)

「・・逃げるぞ、一人逃したから直ぐに・・戻ってくる。」


「誰が戻って来るんだ?」

 足音も立てず、大扉の間から半裸の男が顔を出し、ぬるっと現れた。


「・・なんだ?客か?それとも入団希望か?」

「入団希望?」


「[カン田盗賊団]改め、カン田怪盗団だ!

これから有名になると聞きつけて入団希望に来たんだろ?」


・・・・・


「でなきゃ、あれだ・・?城の兵士には見えないな?なんだ?おめぇら?」


「ちょっと道に迷って・・トイレを借りに、って言っても信じないだろ?」


「おもしれぇなお前、面白いヤツは好きだぜ。ただし、こいつらの落とし前は付けてもらうがな!」

 カン田の大斧が床を砕き、左手に掴んでいる大扉が握力できしむ。


(ただのハッタリだ、恫喝はこいつらの使う初歩の交渉術。怖がるな・恐れるな・・・)

ふーー「落とし前?なんの事だ?こいつらが酔っ払って勝手に転んだだけだろ?

大将のあんたも酔っているからわかるだろ?」よく見ろよ、と。


「やっぱりおもしれぇなお前、だが残念なことに、おれは酔ってねぇんだよ。

盗賊の大将が酒に酔わされ捕まるなんて、面白く無い話だろ?」

 酒は呑んでも呑まれるな、ってな!

 ズシズシと足音を立て、勇者の前に立つ大男はマントで隠した顔の奥で、口元を歪めて笑う。


(でかい、前の時よりデカくなってる・・)


「・・こいつらは・・死んでねぇみてぇだし、半殺しで許してやるよ!」

 巨体に威圧され体が固まった瞬間、横殴りで棍棒のような張り手が勇者の顔を打つ。


!!!ツッ!頭がぐらつく!

「へぇ?今のに耐えるか、まぁ軽く撫でただけだが、普通のヤツはぶっ飛んだがな」


 奥歯に血の味、体がガタガタと恐怖で震えだすのがわかる。

(コレは・・負け犬の怯えだ・・体が恐怖で、もうすでに負けを認め始めているんだ)


ハァハァハア・・もう・・それは、この感覚はもう知っている。何度も経験しているんだ、

負けるか負けてたまるか!

 剣を向け、柄を握った。(おれは、お前より強いヤツを・お前より嫌なヤツをもう知っている)

だからこいつには負けない!


「ピュートル!さっきと同じだ、身を守れ!」叫びと同時に飛び掛かる。


 ガキッ!手応えは鉄の壁、重く巨大な岩を殴ったような手の痺れ。


「いい一撃だ、だが一撃じゃやられねぇよ!」

 頭部への一撃を斧で防いだカン田は、勇者の一撃を振り払うように弾き飛ばし斧を構えてニヤリと笑う。

「オイ!お前らもいつまでも寝てるんじゃねぇ!起きろ!新入りに[きちんと]挨拶してやれ!」


 一人の男が寝ている男達を揺り起こし、薬草を与えて回復している。

(チッ、一人たりとも逃がすべきじゃなかったか・・・・しゃぁなしだな)


「ピョートル、命令だ。オレが倒れたら直ぐに逃げろ、魔物にまぎれて逃げたら後は好きに生きろ」


 おれもこんな所で死ぬ気はないが・・ふふっ魔物がオレを助けようとは思わないろうが、

逃げるタイミングを与えておかないと・・な。


 兜の中の表情はわからない、顔も見た事が無いヤツだが、今まで便利だったぞ。

まずは先制の[火炎線]!ヤツの部下が回復するのを待つ気は無い!


 うわぁ!二度目の炎で炙られた盗賊が倒れ、勇者の集中を解くようにカン田の斧が肩口を襲う。

と同時に走る激痛、意識が飛びそうな痛み。


「・・回復」ギリギリ出せた声に反応して体に[回復]が掛かる。

「もう一回・回復だ」二度目の回復で体に力が戻る。


「なんだ?魔物?アレお前のか?魔物を飼ってるのか?」

「さぁな!」ピョートルに注意が行く前に体勢を戻し、銅の剣で飛び掛かる。


 素早く!更に素早く!脚を動かせ、頭を使え。体より先に思考を回転させろ、

だれよりも早く情報を処理し、誰よりも早く答えに到達させろ!


 誰が言っていたのかは忘れた、今は敵の数を減らす、その為に目はカン田に、意識は部下に。

「もう一度だ!火炎線!」




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