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護国の聖女

護国の聖女

作者: 櫻井 るな

一度書いてみたかった婚約破棄モノですが

なんかちょっと違っちゃったかも…



誰も幸せになりません…



※少し文章を書き足しました。

「エフィリア・クライゼン! お前との婚約を破棄する!」


 王宮で開かれていた建国祭の前夜祭、その会場となっていた王宮の広間に、その声は放たれた。

 自国の貴族達のみならず、近隣国からも招かれた賓客が居並び、談笑していた人々でざわめいていた会場が一瞬で静まり返る。


 声を発したのはアシェル・クリストフ・ディアマンティ。このディアマンティア王国の王太子だ。


 告げられたのはこの国の聖女である、エフィリア・クライゼン伯爵令嬢。

 白く艷やかなその髪は、光の加減で虹色の輝きを放つ。

 透き通るような肌に聖女の真っ白な衣装を纏い、艷やかな白い髪を長く垂らした姿は清浄そのもの。

 だがその瞳─アースアイと呼ばれる、碧の中に赤、オレンジ、イエロー、グリーン、様々な色の虹彩を持つその瞳は悲しげな色を湛え、じっとその声の主である王太子アシェルを見つめた。


 広間に設置された壇上では、金の髪をかきあげたアシェルが、その海色の瞳を憎々しげに歪めてエフィリアを睨み付けていた。


「アシェル殿下、理由をお伺いしてもよろしいでしょうか…」


 しんとした会場に、エフィリアの細く透き通るような美しい声が響く


「理由など、お前が一番よくわかっているだろう!」


 王太子アシェルは怒鳴るように言うと広間の人々の方に向かって呼び掛けた


「マリエル! 此方へ!」


「は、はいっ」


 鼻にかかった甘えるような声がして人々の間から進み出てきたのは白いドレスを纏った小柄な少女だった。

 ピンクゴールドの髪をユラユラとなびかせ、水色の瞳を潤ませて王太子アシェルに微笑みかけている。

 少女が近付くとアシェルは手を伸ばし、愛しげに目を細めて少女の手を取った。

 そして壇上の自分の傍らに少女を抱き寄せると、再びエフィリアに厳しい目を向けて言った。


「エフィリア、お前とお前の家の悪事は全てわかっている! お前達一族が長きに渡り王家と民を騙してきた事をな!」


 広間の人々は困惑し、壇上の王と王妃の座していた、今は空になっている椅子を見る。

 この後に行われる─予定であった─儀式の準備の為に、王と王妃はこの場に居らず

 人々は救いを求めるように視線を彷徨わせた。


「殿下…それは一体、どういう事でしょう?」


 エフィリアの声はか細く震えていた。目の前の光景─婚約者である王太子が少女を抱き寄せている事にショックを受けているのかも知れない。


 王太子はエフィリアを蔑むように見た。


「このマリエルが勇気を持ってお前達の悪事を告発したのだ。

お前達クライゼンの家の者は、代々女神との契約で聖女の役割を請け負ってきたと申しておったが、それが全て嘘だという事をな!」


 王太子の言葉に会場がざわめく


「う、嘘ではありません…」


 エフィリアの瞳には涙の膜が張られるが、唇を引き結んで堪える


「ならば何故、お前は何も出来ぬのだ! 治癒魔法ひとつ使えぬ者が聖女だなどと、笑わせる!

 それに比べてこのマリエルは稀少な治癒魔法の使い手。彼女こそが真の聖女である証だ!」


 王太子にしがみつくようにして抱かれている少女は僅かに治癒魔法が使える為に、時折女神の神殿で働いていた。


 エフィリアは目を伏せ、そっとため息をついた。

 王太子は更に言い募る


「お前が偽の聖女である事はマリエルによって暴かれた! そしてこのマリエルこそが真の聖女だったのだ!」


 王太子は更にきつく傍らの少女を抱きしめ、少女はそれに応えるように王太子の胸元に頭を擦り付けて甘え、うっとりと王太子を見つめる。


「よって、お前との婚約は破棄、王家と民を謀った罪でお前の家は断絶とする!

そして私に真実の愛を教えてくれた、真の聖女であるマリエルを新たな婚約者とする!」


「アシェル様ぁ、嬉しいですぅ〜」


 甘ったるい声の少女─マリエルが自身の胸をグイグイ押し付けながら、ますます王太子にしがみついた


 エフィリアの伏せられた白い睫毛が微かに震えると、虹色の光がチラチラと揺れる


「そう…ですか。」


 その時、騒ぎを知らされた王と王妃が慌てた様子で広間に駆けつけた。


「アシェル! 一体何をしておるのかっ!」


 国王陛下の怒声が響く

 その後ろには王妃が蒼白になって震えている


「父上! 既に父上にも申し上げている通り」

「馬鹿者が! あんな戯言をまだ信じておったのか!」

「父上、戯言とは」

「ああっ! 馬鹿が、馬鹿が、馬鹿が!! あと少しであったのに…!」


 この前夜祭で儀式を行い、明日の建国祭にはアシェルとエフィリアの婚姻式が女神の神殿で執り行われる筈だった。


「陛下、もう…よいのです。」


 エフィリアの声に国王が振り返り、哀願するようにその名を呼んだ


「え、エフィリア…っ」


「こうなる事も見越しておりましたから。大丈夫ですわ、陛下。」


「エフィリア……申し訳ない…っ」


 国王は両手で顔を覆うとガクリと膝をついた。

 その様子を人々は息を呑んで見つめる


「では…アシェル様」


 エフィリアがアシェルに向き直り、にこりと微笑むと、花が開くように辺りに虹色の光が散った。

 その様にアシェルは目を奪われ、傍らの少女はそれを見てエフィリアを憎々しげに睨む


「ずっと…お慕い申し上げておりました…」


 微笑むエフィリアの透き通る頬に、一筋の涙が流れ、アシェルは息を呑む


「アシェル様、あなたに私の『永遠の愛』を、捧げます」


 エフィリアがその言葉を告げた瞬間、真っ白な光が彼女からあふれ出し、広間が光に包まれた。

 そして天から降るような声が、広間全体に響き渡る─



『キーワードを確認しました。プロテクトの為のプログラムを実行します』



 その声が響くと広間を包んでいた光がどんどん強くなり、やがて誰もが目を開けていられない程の強い光が膨らんでゆく──





「お、おい、アレなんだ?」


 王都の街の人々が王城を指差す。

白く輝く光に、城が呑み込まれてゆく異様な光景を街の人々は凝視していた──




 やがて、光の中に映像が映し出される。

光に呑み込まれた全ての人々がそれを見ていた。



 陽光溢れる庭で、金の髪を揺らし海色の瞳を柔らかく細めた少年が此方を見つめて微笑んだ。

 何か話しているようだが声は聞こえない。


 その映像が消えるとまた違う映像が映し出される


 先程と同じ少年が、ニコニコと笑いながら何かを話しているが、急にびっくりしたように目を見開くと、映像がぼんやりと滲み、少年が慌てた様子で手巾を取り出し近付いてくる。

 そして優しく微笑むと手を伸ばしてきて、視界いっぱいに少年の手のひらが映し出され、手のひらが視界から消えると少年の笑顔が大写しになった…


 次の映像も同じ少年。だが、少し成長したのかふっくらとしていた頬がスッキリとしており、手足も長くなったようだ。

 少年は花束を抱えていて、頬を染めながら僅かに顔を背け、何かを言いながら花束を近付けてくる…


 更に成長した少年の顔が、視界の右斜め上に見える。

 やはり何かを話しているが声は聞こえない。

首を傾げて何かを質問しているようだが、暫くすると照れたように笑いながら頷き、指が伸びてきて視界いっぱいに近付いて、横切った。

 そして海色の瞳が近付いてくると、ふいに視界が暗くなった…


 次の映像は視界が揺れていた。背の高くなった少年が金の髪を風に靡かせるようにして先を走っている。

 振り向いて手を伸ばしながら、にこりと笑顔になり、また走り出す。

視界の端に、少年の腕がチラチラと見える。

 そして映像の揺れが止まり、視線が動くように空へ─大きな虹が見えた。

 視線が少年に戻ると、額に汗を滲ませた少年が笑顔で近寄ってきて、指を伸ばしてくる。

 熱の篭った海色の瞳が近付いてきて視界いっぱいに広がると、一瞬また視界が暗くなるが、すぐにまた少年の顔が映し出され、何かを言った。

 声は聞こえないが、何を言ったのかは口の動きでわかった。


“ だいすきだよ えふぃ ”



 次の映像は更に成長し、もう少年ではなく青年になっている彼が映し出された。

 青年の隣には小柄な少女がおり、その少女に青年が優しい笑顔を向けている。


 その次の映像も、青年は傍にいる少女に柔らかな微笑みを向け、頬を撫で、もう此方にその顔を向ける事はない。

 映像は少女をほぼ映す事なく、青年の笑っている横顔ばかりを大写しにしている。

 青年が少女の頬に触れ、その顔を近付けていった時…映像が滲むようにぼやけ、視界が暗くなった。


 その次も、その次も、その次も、映像は此方に向けられる事のない、青年の美しい笑顔を、輝く金の髪を、その優しげな海色の瞳を、柔らかく弧を描く唇を、遠くから映し出す。


 そして


 此方を睨み付ける冷たい海色の瞳が最後に映し出され─光が弾けた。



 その光は国の隅々まで弾け飛び、何千何億もの虹色の粒子となってキラキラと国中に降り注いだ。

 そして光の中心となった王城の広間では─



 王太子アシェルが虹色の光に包まれていた。

強く輝いていたその虹色の光がだんだんに弱まり王太子に染み込むようにその光が消えた時



『プログラム完了』



 再び声が響いた。


『これより、アシェル・クリストフ・ディアマンティは女神のプロテクトによって、その寿命が尽きるまで全ての事象から保護されます。

 また、それに伴いディアマンティア王国も保護され、アシェル・クリストフ・ディアマンティの命が尽きるのと同時に解除となります』


 その声が終わるのと同時に、何処かで何かがプツンと途切れるような音がした。



 暫くは誰も動けなかった。

 静まり返る広間で、王太子がへたり込むように床に座り、涙を流していた。

 目の前に居た筈のエフィリアの姿は何処にもなく

 王太子の傍らには床の上に無残に崩れた石の塊を包んだ白いドレスが落ちていた。


「あ…れは、あの、映像…は…」


 王太子が声を震わせながら呟く


 覚えている。

 王宮の庭で、エフィリアと初めて会って挨拶を交した時の事

 二人だけのお茶会で、エフィリアが誤ってお茶をこぼし、慌てて手巾を差し出して、泣き出しそうなエフィリアの頭を撫でた事

 エフィリアの誕生日に、直接花束を渡したくて、でも照れくさくて顔が見れなかった事

 初めて口づけを交した時の事

 エフィに虹を見せたくて、手を繋いで急いで走って…そして初めて想いを告げた時の事


 ああ、エフィリア…エフィ…

 俺は何て事を………



「父上…あれは…今の、声は一体…」


「あれは女神の声だ」


 国王は目元を手のひらで拭うと言った。


「神や女神は、我々の上位の存在だ。その上位の存在と契約し国を護ってきたのが、我が王家とクライゼンの一族だ。」


「上位の…存在…?」


 王太子アシェルが意味を理解出来ずに首を傾げる


「…明日の婚姻式が終わったら、お前に全てを伝える筈だった。

 王家とクライゼンの一族は創世の女神と契約をし、国を守護する為の婚姻をしてきた。

 女神から護国の力を授かる事が出来るのはクライゼンの一族の女性のみ。

 一族の中から一番適性のある者が聖女として選ばれる。」


 父である国王が何を言っているのかわからずアシェルは戸惑う


「聖女になったクライゼンの者は、王太子と婚約し、王太子への愛をその身に蓄積させてゆく。」


 チラリと国王はアシェルを見て


「婚約を結んだ時に誓いの言葉があっただろう」


 アシェルは言われて思い出していた。女神の神殿でエフィリアと誓いの言葉を宣誓した時の事を。


「あの誓いの言葉が、クライゼンの者を聖女として起動させるキーワードだ」


「…え?」


「王家の者と二人で行った婚約の誓いの言葉で、クライゼンの者は護国の聖女として起動し、その身に一緒に誓いの宣誓を行った相手への愛を蓄積出来るようになる。」


「い、意味が…わかりません…」


 国王は息子を見て言葉を続ける


「エフィリアは婚約式でプログラムを起動させ、その身に愛を蓄えてゆき、今日、この後行われる儀式でのお前との誓いの言葉(キーワード)で、その愛を、国を守護する力に変換出来るようになる筈だった。

 そして明日の婚姻式が終われば、女神から常にこの国とお前を護る力を授かる筈だったんだ…」


 力無くそう言ってから国王は息子から顔を背けた


「だが、それは叶わなかった。」


 アシェルは声も無く俯いた


「けれど不測の事態が起った場合でも、聖女となったクライゼンの者が護国の力を得られる方法がひとつだけ、女神から齎されている。

 それが、先程のあれだ。」


 国王は深いため息を吐くと呟いた


「膨大な愛を蓄えていなければ起動しないプログラムだった…」


 そしてアシェルに向き直る


「エフィリアは、その身に蓄積された愛と自らの命を使って“女神のプロテクト”を実行した。

 婚姻の誓いのプログラムとは違うが強力な護国の力だ。

 女神の力で護られているお前には必ず王になってもらう。」


 アシェルは目を瞠った


「ち、父上、しかし」


「お前は寿命が来るまで不死身となった。毒を飲んでも頭が割れても心臓が潰れても、瞬時に修復されて死ぬ事は無い。

 その護国の力を存分に使って国を治めよ。」


「な…!」


 驚くアシェルに王は更に言葉を続ける


「但し、その身はもう女神のものだ。子を残す事は出来ない身体となっている。」


 王の後ろで王妃がすすり泣く


「世継ぎは王家の血筋の者から選ぶ……以上だ。」


 そう言うと国王は立ち上がり、王妃を促して歩き出す


「あ、あの父上…」


 まだ何かあるのか、と国王がアシェルに首だけで振り向く

 アシェルは恐ろしくて視線を向ける事が出来なかった己の傍らにチラリと目をやると、恐る恐る父王に問う


「あの…マリエル…は…」


 そんなことか、と顔を戻しながら国王は答えた


「神罰が下ったのだ。当たり前だろう。」


 それから思い出したように続けた


「お前は女神のプロテクトで護られている。これからはどんな甘言にも惑わされる事はない。謀ろうとする者には神罰が下るから安心するがいい。」


 そう言って今度こそ振り向かずに国王は広間を出ていった



 静まり返った広間に宰相から建国祭の中止と閉会が告げられ、集まった者達は音を立てずに静かに下がってゆく


 寒々とした広間に王太子アシェルが一人、残されていた





護国の力を与えた女神サイドのお話

『女神のお仕事』を投稿しました。


よかったら上にある“護国の聖女”シリーズリンクから読んで頂けると嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
[一言] 『女神のお仕事』まで読んで…あのカスみたいな女神が作った国(世界)なら、こんな上層部でも『仕方無い』と思えた。 創造主が汚花畑恋愛脳なアレだもんなー…仕方無い。 一周回って王太子が不死身…
[気になる点] 王太子に教えない理由がないので、上層部は馬鹿なのかと思ってしまいます 国の為の婚約なのに、王太子に嘘を吹き込む女をさっさと始末しない上層部は無能ですね 寧ろ上層部は国を崩壊させたかっ…
[一言] なんで思春期迎えて弁えず欲望に流されやすくなった時に伝えないのか というかこの制度だと数世代に一回は同じことが起こるだろうに記録にも残って無いのかな
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