邂逅≪She knew him≫
ぼちぼち書いていきます
失敗した。
あいつにこんな能力があったなんて。
がれきの中から這い出すと、巨腕の化け物≪ギガンテス≫とモモが消えていた。
「けほっ。ルナ、大丈夫ですか。」
「大丈夫よ。ありがとうユキ。」
ルナは体内の魔力が強すぎて市街地では攻撃魔法が使えない。格闘タイプの敵に肉弾戦を強いられるのは厳しいが、相手の土俵で戦えるだけの身体強化はしていたはずだ。それでもここまで吹き飛ばされた。拳圧だけとは考えにくい。何らかの魔法のはず。
「随分飛ばされたわね。5㎞くらいかしら。」
「急ぎましょう。モモだけでは心配です。」
「あら、普段は仲が悪いのに。やっぱり心配?」
「違います。認識阻害の結界も張れない未熟者のせいで民間人に被害が出ることを危惧しているだけです。」
「ふふ、じゃあ急ぎましょう。転移!!」
転移した先では案の定人質を取られていた。しかもモモは服を脱ぎ始めている。
全く手のかかる…
即座に認識阻害の結界を張る。
「モモ!」
「ルナ!無事だったの!?」
「ええ、もちろん。」
「じゃあユキも…!?」
「当然です。」
ギガンテスの背後から剣形態にした16式武装鉄鎖≪アバランチ≫を振り切り、人質を掴む指を切り落とした。
「全く、何をしているのですか。モモ。」
「ユキー!!ありがとぉおお!!!」
情けない声をあげながら手を振るモモ。戦闘中の自覚を…もういいです。
私は人質を回収し、コンビニへ移動させた。
認識阻害によってもうギガンテスの姿はこの人には見えていないはずだ。
「お怪我はありませんか。」
目を閉じていた男性に声をかける。
確かめるように少し体を動かした後、
「…うん。少し肋骨が痛むけど、大丈夫。ありがとうございます。」
私は治癒魔法は使えない。巻き込んで申し訳ないが、病院に行ってもらうしかない。
「そうですか。ここは危ないので早く帰った方がいいです。では。」
他に巻き込まれた人がいなかったのは幸いだった。この人が取り乱してパニックになっていないことも今はありがたかった。多少混乱しているかもしれないが。
認識阻害を自分にかけてモモのもとへ向かった。
「全くしぶといなぁ!」
「ほんと、頑丈過ぎて嫌になっちゃうわ。」
「あの人は無事です。結界も張りました。思いっきり戦っても大丈夫です。」
「待ってましたぁ!!行くよ!ライゴウ!!」
「私も…身体超強化!!」
「…アバランチ、展開します!」
戦い始めて十数分。視線を感じてそちらを見ると、先ほどの男性がこちらを見ていた。パスタ食べながら。いや何してるんですか。え?そもそも認識阻害の結界で私たちは見えないはず…人除けの結界も張っているのでこの場所には何となく来たくならないはずなのに。なんで?
っといけない。集中しないと。
「□□□□…」
ギガンテスがにやりと笑った。
「しまっ…」
次の瞬間には再び彼はつかまっていた。…もう!よりにもよってなんでそんなところでパスタ食べてるんですか!
「□□□□□!!!」
彼を突き出し威嚇するギガンテス。モモにしか言葉はわからないが、それでも人質を引き換えに下卑た欲望を叶えようとする意志を感じる。
「そんな…!」
「民間人がいるなんて…!」
捕まりながらものんき極まりない表情の男性に思わず冷ややかな視線を送ってしまったのは仕方ないことだと思う。
私の視線に気づいた彼は取り繕うように喋る。
「いやね、俺んちそこだかr「□□□□□!!!」はーいさーせーん。」
異形が男性を振り回す。もう…世話の焼ける…!
結界を張り直し、指を切る。流石に耐性がついたのか、完全に分断はできなかった。
「くっ…!」
「だいじょーぶ!!」
モモが追撃し、指を切断。ルナの足払いでギガンテスが転倒した。
人質を手にした程度で油断するとは、やはり変質に伴って知能は退化するようですね。
「少しの間頼みます!」
「いえっさー!」
私は女です。が、どうせ意味も分からず使っているのでしょう。無視して行くことにした。
少し離れたところに男性を降ろす。
「全く…!」
「え、おぉ…あざす…」
困惑した表情を見るに、結界は効いてるようだった。さっきのは戦闘で結界に割く魔力が少なくなったことによるものだったのだろうか。そうなると…
「なぜ追ってきたのですか。次助けられる保証はないんですよ?もっと命を大事にしてください!」
野次馬かと思った。だがスマホで撮影とかはされてない。少なくともこの人がスマホを構えている瞬間は見ていない。なんとなく野次馬は違う気がした。
次はこないでほしいと釘を刺したがどれだけ効果があるか。
「いや、追うも何も俺んちの前で戦うから…」
なるほど…人除けの結界が効かなかった理由は分かった。
術者である私が帰宅を促してしまったから、人除けの対象外になってしまったのだろう。
しかしこればっかりはどうしようもない。
「どこかで時間つぶすとか、少しの間近づかないでください。私は行きます。では。」
その場に男性を残して移動した。
横暴なのは自覚している。危険とはいえ、見ず知らずの他人に自宅に帰るなと言われる。きっと明日も仕事はあるのだろう。時間をつぶすにしたってお金がかかるだろう。しかし明日がなくなるよりいいはずだ。誰だってお金より命が大事なはずだ。
もやもやした心を振り払う。私にできることは速やかに敵を片付けることだけだ。今は、悩むときじゃない。
倒して帰路に着いた頃にはとっぷり夜も更けて、時刻は深夜2時。
こんなに遅くなるとは…やはり敵もかなり強くなっているようだ。
「っはぁ…お腹空いた…。」
こんな時間だが食べないという選択肢はなかった。
「らっしゃーせー…」
やる気のない大学生のバイトが迎えるコンビニで、私は夜食を選んだ。
何を食べよう。
ふと、呑気にパスタを食べるあの男性のことが浮かんだ。
お風呂に入って買った夜食を食べて寝た。
やっぱり、パスタはカルボナーラが一番美味しいです。