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邂逅≪he looked at her≫

ぼちぼち書いていきます



 他所でやってくれないかな。

 素直に俺はそう思った。

 時は30分前に遡る。遡らせてくれ。

 俺はコンビニに夕飯を買いに行っていた。夕飯と言っても冬は日が落ちるのが早い。六時にもなれば外は真っ暗だった。コンビニ弁当というのも不摂生だが、20代男性独身趣味特技なしの夕飯なんてコンビニ飯に決まってる。あるいは外食。ともかく事の起こりはその帰りだ。

 

 店の前でなんとなく、そう、本当になんとなく空を見たんだ。

 夜になれば星を探すいつもの癖だった。これがいけなかった。



 おそらく女の子と異形が戦っていた。

 暗くて顔は見えないが、髪は長い。胸があるように見えるが服が揺らめいているだけにも見える。何か棒状のものを持っていて、振り回したり先端からばちばちと雷のような閃光を異形へ放っている。


 異形の方は一応人型。しかし腕が常軌を逸する太さだった。太いっていうか肉性のパイルバンカーを二つ三つ付けたかのような超剛腕だった。腕のせいでわかりにくいが、体もかなり大きい。3mはありそうだった。LED搭載なのか眼球も赤く輝いていた。


 これだけでも結構驚いた。「うわぁ…」って思わず声が出るくらいには。だがこれだけじゃなかった。


 異形とばっちり目が合ってしまったのだ。後悔した。すぐに目を逸らしてしまったことも。

 心臓はバクバクだった。でも冷静に考えると、どうせ抗っても勝てないし、怯えたところで助かるとも思えない。恭順的な態度を示したところで見逃してもらえるとも思えないし、いつまでも立ち止まってても無意味だ。そう思うとすっと冷静になれた。帰ってご飯食べよう。


 そう考えて歩き出したつもりだったが、気づけば異形に鷲掴みにされていた。腐った生ごみのような悪臭を警戒するも、意外なことに匂いはしなかった。



 「□□□□□!!!!」



 異形は何かを叫んだあと、見せつけるように僕を女の子へ突き出した。どうもはじめまして。普通の不摂生系成人男性です。


 

 「な、人質ですって…!?どうしたら…」



 桃色の髪のロングヘアー少女が動揺する。いや桃色はやばいって。絶対生徒指導で親呼び出しよそれ。髪型は日朝ほどアグレッシブではないが、それなりに重力に逆らっていた。しかし長いな。貞子より毛量ある。若禿の俺に是非分けてほしい。


 俺に構わず必殺技みたいなのを撃ってもいいよと言おうか迷ったが、それは痛そうだったのでやめた。

 今抵抗してーーーまあ抵抗したところでびくともしなさそうだがーーー運よく脱出できても、結局ビルの四階くらいの高さから落下することになるので、大人しく成り行きを見守ることにした。




 「ねえあなた!大丈夫!?」


 「あ…はァ…大丈夫スけど。」



 体の心配なのか心の心配なのかわからんが、とりあえず大丈夫と答える最近の若い奴ムーブをかます。



 「必ず助けるわ!だから心配しないで!」



 にっと笑顔でガッツポーズをとる。いやあお構いなく。とは言えない。こうしている間にもミートソーススパゲティは冷めていくのだ。可及的速やかに救援願いたい。




 「□□□□□□…?」



 いいのかなぁ?そんなこと言ってぇ…

 みたいに呟いた後、僕の体を握り始めた。いたたたたたた死ぬ死ぬ死ぬ。

 コミュ障なので表情も変えられず悲鳴すら上げられないが、痛いものは痛いし辛いものは辛い。

 どうせ死ぬならとせめてもの抵抗に呪詛を吐いてみる。



 「痛い痛い痛い痛い。やめ…ちょ、息苦し…はあ~…ッ…ッとにクソだな世の中ってぇぇ…!」


 「くっ…その人を離しなさい!」


 「□□□□□!!!□□□□□?」




 なにやら大笑いした後に、じゅるりと大きな音で舌なめずりをしながら女の子へ話しかけた様子。手が緩んで少し楽になる。巨腕でありながら意外にも繊細な握力コントロールに驚く。



 「…いいわ…それでその人を開放するのね。」


 「□□□□□。□□□□□!!」



 どうでもいいが君何言ってるかわかるんだな。異形は何か交渉したらしい。

 それなら今のは「ああそうとも…早くしろ!!」って所だろうか。 

 とか思っていたら、おもむろに女の子が服を脱ぎ始めた。あ、変身解除じゃなくて脱ぐの?あッ…へえ~!その服ってそうやって脱ぐんだ。日曜朝の魔法少女のような服は魔法的な力で着るから、普通には脱げないもんだとばかり思ってた。



 「お兄さん…できれば目をつぶってて…」


 「あぁ…はい…さーせんした。」



 魔女っ子衣装の新事実をガン見していると諫められた。ケモナーでドット絵か活字にしか興奮できない俺としては中身など正直どうでもいいのだが、目をつぶれと言われればそりゃ瞑ろう。

 そして唐突な浮遊感。怖っと思い目を開けると、事態は急転直下。俺はコンビニの前にいた。

 セミロングの白い髪の少女が僕の前で杖的な棒を振った。1ⅿ20cmとみた。女の子は150だな。手ひどく振ってくれた俺の元カノと同じくらいだ。胸は大きい。だが俺は腰フェチだった。尻じゃない。腰だ。



 「お怪我はありませんか。」



 きれいな声だった。冷たくも凛としていて、少し幼さの残るような。

 正確に応えるべく少し体を動かして確認する。



 「…うん。少し肋骨が痛むけど、大丈夫。ありがとうございます。」


 「そうですか。ここは危ないので早く帰った方がいいです。では。」




 そう言って消えた。空にはもう誰もいなかった。

 なんか変なことに巻き込まれたし、知らぬ間に縁も切れていたが俺の人生なんてそんなもんで。

 一瞬の非日常だった。結局不思議な力も運命も縁も伝説もファンタジーも。メインキャストは決まっているし、俺はどうあがいてもエキストラ止まりだろう。それでいいと思っているし。やらなければならないことが定められているとかまっぴらごめんだ。

 でも、時折…

 


 「帰るか…。」



 帰路についた。モブにとっては非日常を目の当たりにしただけで、幸運ないしは不運が過ぎるんだ。





 これが三十分前だ。家について愕然とした。




 「□□□□□!!」


 


 大通りから外れて路地の奥にある俺の住むマンションの前、奴らがいた。

 もうほんと、玄関ホールの真ん前。道路の上まで広々と使ってバチバチにやり合ってた。



 「他所でやってくれないかな…」



 学生の頃なら非日常に手放しでワクワクしていたものだが、社会人にもなると責任やらいろいろ面倒ごとが多くて非日常を相手にするのもタイミングが必要なんだ。


 具体的に言うなら明日も仕事あるしマンションぶっ壊されたら引っ越しの準備とか手続きとか色々面倒くさい。


 どこの世界に「昨日戸愚呂弟レベル99に鷲掴まれてから肋骨がキシキシとメロディアスなんで会社休みます」なんて理由で有給申請通る会社があるんだ。


ああでもないと悩んだが、家に入れないので歩道に座ってミートソースを啜りながら観戦することにした。マンション壊れてから悩むことにする。

 スポーツ観戦が嫌いな方だが、意外にも魔法少女の戦いはなかなか見られるものであった。日曜朝とは毛色が違う魔法を駆使したゴリゴリの肉弾戦。



 まず桃色の子。あれ杖じゃない。大剣だ。魔法も使うんだけど、どちらかと言えば牽制目的に使う事が多い。雷撃を異形が避けたところに横薙ぎ、異形が腕で止めるも剣に雷撃を流してじわじわダメージを与えていく。小技で削って大剣でとどめタイプだろうか…


 次に白い子。氷魔法かと思いきや炎、そしてまさかの鞭。鞭っていうか鎖。鎖に刃でもついているのか、雷撃に足を止める異形にそれをたたきつける度、無数の細かい切り傷がついていた。雷撃の剣からようやく離れた異形。しかし即座に鎖を全身に巻き付けて鎖から発火。燃焼ダメージを与える。結構ぶちぶち千切られてるけど、あっという間に再生する不思議。


 そしてもう一人、虹色の子。キラキラした髪の割には魔法とかは一切使わない。拳。動けない異形に執拗にラッシュを決める。異形も時折暴れて腕を振り回すが、スウェイにパリィにボクサーさながらに避ける。そのひらひらの衣装があまりに似合わないガチっぷり。



 しかし異形も負けていない。傷はすぐに再生し、雷撃にも慣れたのか、怯むことが少なくなった。それに鎖も避けはじめてきたし、虹色の子のラッシュをいなすようにもなってる。

 え、これ異形勝ちそう。



 そんなことを思っていると、異形と目が合った。二回目ともなれば慣れたもので、軽く手を挙げて挨拶する。にやりと笑ったと思えば、またしても俺はにぎにぎされていた。



 「□□□□□!!!」



 再び俺を突き出す異形。これはこれは、先ほどはどうも。そちらの方は初めまして。成人男性です。



 

 「そんな…!」


 「民間人がいるなんて…!」



 桃色の子と虹色の子が動揺する。心根が優しいのかな。

 でもマンションの前で戦っといて民間人の存在を勘定に入れてないのは浅慮と言わざるを得ない。



 「………」



 白い子はジト目で俺を見ていた。観戦にも気づいていたんだろうか。



 「いやね、俺んちそこだかr「□□□□□!!!」はーいさーせーん。」



 言い訳をキャンセルして異形くんが荒ぶり俺を振り回す。酔う酔う白くなりゆく顔色。



 「全く…!」


 「え、おぉ…あざす…」



 またしても異形の手から逃れ、白い子が目の前に。クロックアップでも使ってる?



 「なぜ追ってきたのですか。次助けられる保証はないんですよ?もっと命を大事にしてください!」


 「いや、追うも何も俺んちの前で戦うから…」


 「どこかで時間つぶすとか、少しの間近づかないでください。私は行きます。では。」



 なんだかな。言ってることは正しいのかもしれないし、頼んでもいないのに異形と戦って平和を守ってくれてるんだし、きっと俺が間違っているんだろうけど。



 「…ネカフェに泊まるか…」






 翌朝。家に帰ると、戦いの痕跡はなく、食べかけのミートソースが隅に落ちていた。


 戦いの詳細も、異形の正体も、女の子たちが戦う理由も。何もわからないけれど、きっと俺には関係ないんだろう。世界が滅んだところで、俺は一緒に滅ぶんだろうし、夢も希望も絶望も力も知恵も勇気も何もない俺にはどうしようもなくて。

 だからこそ普通の日常を送るしかなくて。

 俺だって力があれば…


 どうでもいいか


 ごみを片付けてシャワーを浴びて出勤した。


 今日の夕飯は蕎麦でも食べに行こう。

 なんとなく、あのコンビニには行きたくなかった。


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