演技
エルスカーネが目覚め、俺達は彼女と共に朝食を取っていた。
見た所彼女に後遺症が見られず、大きな傷などもない。
「…アルト様、どうかしましたか?」
「…え? いや、何でもない…」
ずっとエルスカーネを見ていたのか、いけないいけない…。
さて、そろそろ本題を彼女に尋ねるとするか。
「…エルスカーネ…聞かせてもらうぞ、お前の事や化け猫としての姿の事全て…」
尋ねられたエルスカーネは手に持つフォークとナイフを置き、一呼吸置いて、話し始めた。
「私達ケットシー族は亜人形態と獣人形態にそれぞれなる事が出来ます。基本は亜人形態として活動していますが、種族の存在を脅かす者が現れた時は獣人形態になり、戦うのです」
つまり、今のエルスカーネの姿も化け猫としてのエルスカーネの姿もどちらも本当の姿だと言う事か。
「獣人形態は身体能力等が飛躍的に上昇し、まさに化け猫と化します。それは皆様も痛感したと思います」
「…うん。一歩間違えば死にかけた」
アイムの言葉にエルスカーネは俯く。だが、そんな彼女にマギウスは気になった事を尋ねる。
「ちょっと待ってくれ。獣人形態ってのなれるはずなのにどうしてお前は暴走したんだよ?」
確かに獣人形態が当然の様に存在するのなら、暴走状態になるのはおかしいところがある。
「…もしかして、あのネックレスが原因ですか?」
「…はい。あのネックレス仕組みはわかりませんが、アレはケットシー族を強制的に獣人形態に変化させ、操る事が出来るようなのです」
ケットシー族洗脳用のネックレスというワケか…。
「そもそも獣人形態は立派に成人して始めて理性が保てる形態なんです」
「だから、成人になっていないエルスカーネさんはあのネックレスの影響もあって暴走してしまったと…」
それを作っているのがガラン…そして、奴隷の館の奴等って事か…。
納得する俺達にあの、とエルスカーネが思いだした様に話しかけてきた。
「そう言えば、アルト様達は化け猫に襲われたと言いましたよね?」
「あぁ。俺達だけじゃなく、友人の騎士達も襲われた。その犯人がお前だなんて、信じたくないけどな」
「…大変申し上げにくいのですが、犯人は私ではありません」
…は⁉︎ 何言ってんだよ⁉︎
「え⁉︎ だ、だって、私達を襲った化け猫と姿がそっくりでしたし…」
「私…暴走したとしても意識は残っているんです。ですから、もしもアルト様達を襲ったとしても、皆様の事を覚えています。…ですが、私は奴隷の館で皆様と出会った時が初対面です」
ど、どういう事だ…?
「…化け猫の体毛の色はベージュ色…」
ふと呟いたアイムの一言に俺ははっ⁉︎、となる。そう言えば忘れていたが、噂では化け猫の体毛の色はベージュ色だと言われていた…。
ただ夜の所為で色の認識が出来なかったのか…!
「ベージュ色の体毛のケットシー族…もしかして…」
心当たりがあるのか、エルスカーネは深く考え込み始める。
「心当たりがあるのか?」
「…ベージュ色の体毛…ケイル君かも知れません」
ケイル君…? それが俺達を襲った化け猫の正体の名前か?
「そのケイル君というのは?」
「私の幼馴染です。昔からよく一緒に遊んでくれていた仲だったのですが…」
「…初恋の相手?」
「ち、違います!」
頬を赤らめながら、否定しても説得力がないぞ、エルスカーネ…。
「じゃあ、そのケイルって奴がガランの野郎に操られて、俺達を襲ってるって事か…?」
「ケイル君が…」
悲しそうに俯くエルスカーネがケイルって奴の事をどういう風に思っているのかがわかる…。
俺達は彼女に声をかける事が出来ず、そのままレベル上げの為に高原へと出た…。
ちなみに今回はルルも同行している。
「《シールドブーメラン》!」
襲いくるゴブリン達に向かって、盾を投げ、消滅させるエルスカーネ…。
…俺達を襲った化け猫の正体がケインというケットシーだとしたら…未だガランと共にいるだろう…。
いつかは対峙する事になる…。そう、それはエルスカーネにとって残酷な結果となる可能性がある。
だったら、俺は…!
「エルスカーネ」
「何かご用でしょうか?」
俺はエルスカーネを呼ぶと彼女が小走りで駆け寄ってきた。
「…一つだけ…命令したい事がある」
「命令…?」
命令、か…。最低な男だな、俺は…。
「金を渡すから、これからは一人で生きろ」
「え…⁉︎」
俺の口から発せられた言葉にエルスカーネだけではなく、メリル達も驚愕の表情を浮かべる。
「ア、アルトさん⁉︎」
「何言ってんだよ、お前⁉︎」
仲間達から非難の声が上がるが、俺は耳を傾けるつもりもなく、エルスカーネを睨む様に見続ける。
「ど、どうしてですか⁉︎ どうしてそんな事を言うんですか⁉︎」
「…理由はない。ただ、化け猫になるお前を俺達の元へ置いておく事は出来ない」
「そ、そんな…⁉︎」
我ながら、心の奥でキツイ感情に抑え込まれている。
悪者になるってのはこう言う事なんだな…。
「これ以上俺達に迷惑をかける前に…俺達の前から消えろ」
「ッ…⁉︎ 」
迷惑…その言葉を聞いたエルスカーネは一歩後退り、俯いた。
暫く俯いた彼女は勢い良く顔を上げた。その表情は覚悟を決めた様なキッ、とした表情だった。
「…申し訳ありません、アルト様。そのご命令は聞き入れる事は出来ません」
エルスカーネ…。
「何…?」
「アルト様がどう言おうと…私はアルト様達と共にいます」
お前は、そこまで俺達の事を…。
「そうか…。だったら…!」
俺はブレッターを取り出し、銃口を彼女に向けた。
「また暴走する前にお前を撃ち殺す…!」
銃口を向けられたエルスカーネは盾を構えるどころか、盾をその場に捨て、受け入れる態勢を取った。
「何の真似だ…?」
「私を撃ち殺すと言うのなら構いません…。それでアルト様達が安心すると言うのなら…。ですが、私は生き続けるのなら、あなた達と共に居続けます」
「それが俺達の迷惑だと言っているんだ! お前の所為でアイムも死にかけたんだぞ⁉︎」
怒った様に見せかける表情をして、アイムの名を口にする俺にアイムは俯く。
「…はい、そうです…。私はアイム様を殺そうとしました…。ですが、それはアルト様と同じでしょう? 皆様を守る為に私を殺そうとした…違いますか?」
…バレていたのかよ…。
「だったら何だ⁉︎」
「嬉しかったんです…。私を止めようとしてくれて…そして、覚悟を決めても心の奥底で私の身を案じてくれていた事に。…そして、今も」
「…身を案じていた…? そんな事あるワケないだろ! 俺はただ…敵であるお前を…!」
敵として殺そうとした…そう、口にしようとした俺のブレッターを握る手をエルスカーネが握った。
「アルト様は強がるのがお好きなのですね」
「お前、いい加減に…!」
「いい加減にするのはアルト様の方です!」
今度はエルスカーネが声を上げた。その彼女の迫力に俺は少し押されてしまう。
「その様な震える手で引き金を引けるのですか⁉︎ 私を撃てるのですか⁉︎」
まさか、俺は…震えているのか…⁉︎
「迷いは銃身を鈍らせます…。銃を扱うアルト様なら知っているでしょう?」
「それは…」
「アルト様は誰よりも他の人に対して、身を案じる方だと言うのはメリル様から聞いています」
メリルの奴…俺がいない間に何をエルスカーネに吹き込んだんだよ…。
「今だって…私の為に自ら悪となっているのでしょう?」
…此処が潮時か。
「…ハァ。初めからバレバレって事だったのか…。折角罪悪感を押し殺して、悪を演じたのに、普通乗ってくれるだろう?」
呆れた様に笑みを浮かべた俺はブレッターをしまった。
そんな俺を見て、エルスカーネをクスリ、と笑う。
「演技が下手です」
「傷つく事言うな…」
クスクスと笑い合う俺達を見て、メリル達も微笑む。
「…マスターって、本当に強い…」
「そうだね。だからこそ、みんな…あの人に惹かれるのでしょうね」
「うん」
ルルの言葉にアイムは頷く。
「さて、そろそろ街に…」
街に戻ろうかとした時、複数の足音が聞こえる。遠くに目を凝らしてみると、俺達の元にコルドブームの騎士達が来た。
「麻生 アルト…だな?」
「…だったら、何ですか?」
騎士達の表情を見て、ただ事ではないと思い、警戒する俺達。
「…化け猫を操っていた罪として…お前達を捕縛する!」
何だと…⁉︎
「捕縛って…。俺達は操ってなんか…!」
「騙されてはいけませんよ」
俺達は化け猫を操ってなどいないとの声を上げようとしたマギウスの言葉を遮るかの様に腹立たしい声が聞こえてきた。
騎士達を分けて出てきたガランを見て、俺達は奴を睨みつける。
「ガラン…!」
「私は…その猫の亜人が化け猫となり、襲われたのですから…」
奴のこの一言が俺達を絶望の淵へと落とす口実だった事にこの時の俺は知らなかった…。




