受け入れられない現実
奴隷の館の店主達が放った電気の檻に囚われてしまった俺、メリル、アイム、マギウスの四人と俺が押し飛ばした事により、難を逃れたエルスカーネは奴等を睨む。
「何のつもりだ、お前等⁉︎」
マギウスが睨むのを止め、声を上げると奴隷の館の店主は鼻で笑う。
「亜人は黙っていろ。…俺達が何故、お前達を捕えようとしているかは大体わかるだろ?」
「…前回の仕返しか?」
「そうだ! お前達の所為で俺がどれだけ苦渋を舐めさせられたか…!」
「そんなの自業自得」
「そうです! 亜人を商売の道具としか考えていない貴方達への罰です!」
あくまでも俺達の所為にさせようとする店主にメリルとアイムは非難の声を上げ、それを聞いた店主は表情を険しくさせる。
「黙れ…黙れ黙れ! 亜人を家族などとほざくお前等がわかるはずがない! 本当ならば全員捕らえ、痛めつける算段だったが、クソ猫が外に出ているのは都合が良い!」
都合がいい…だと?
「来てください、先生!」
店主が声をかけると部下達の背後から、いかにも侍の様な姿をした男が現れた。
「さ、侍…⁉︎」
「侍ですね…」
「何だよ、侍って?」
男の姿に思わず侍かよ⁉︎、という声を上げてしまった俺とメリル。
だが、この世界では侍は居ないのか、マギウスが首を傾げた。
「お主等…何故、ワシの名を知っている?」
…は? 名前?
「ワシの名はサムライ・ザン。古き剣士の末裔だ」
古き剣士の末裔…日本なら、侍なんだよな、それ…。
てか、名前がサムライって…。
「メリル…。この世界どうなってんだよ?」
「私が聞きたいですよ、そんな事…」
サムライって名前の人間がいるのか。流石は異世界だな…。
「何故お主等がワシの名を知っているのかは気になるが…今は依頼を片付けるとしよう」
依頼…?
「済まぬが、彼等にお主等を斬って欲しいとの依頼があったのでな。…用心棒の身だ…。悪く思うな」
用心棒…俺達と似た様なモノって事か。
サムライは刀を抜き、構えた。
「まずはお主からだ…猫の亜人!」
「誰が相手だとしても…アルト様達は私が守ります!」
エルスカーネも盾を構え、戦闘態勢を取る。
「ダメだ、エルスカーネちゃん!…グッ⁉︎」
「マギウス!」
彼女に戦わせるワケにはいかないとマギウスが電気の檻に触れるが、感電し弾かれた。
「マギウスお兄ちゃんが電撃でダメージを受けた…?」
「技能無効化アイテムか…!」
これはタダでは逃れられそうにない…!
「勝負は受けます! 私が勝ったら、アルト様達を解放してください!」
「良いだろう。まあ、万が一先生が負ける事などないがな。先生、お願いします!」
フン、と店主はエルスカーネを嘲笑う。…やはり、奴は亜人を舐めすぎている…。
「ふむ、承知した。…では、猫の亜人の娘…覚悟!」
サムライは地面を蹴り、エルスカーネに斬りかかった。だが、その様な真正面の攻撃、彼女に効くワケもなく、剣を防いだ。
「ほう、やるではないか。…では、これはどうだ!」
今度は剣を何度も振い始めた。しかし、エルスカーネもしっかりと対応し、一撃一撃をしっかりと受け止めていく。
だが、サムライの野郎…ふざけた格好と名前だが、実力は本物か…!
防御力が高いエルスカーネでも盾で防御する際、多少の衝撃が腕にきているのか、表情を歪ませていた。
「エルスカーネ! 守ってばかりではダメだ!」
幸い彼女は盾での攻撃手段を持っている為、次の攻撃を防いだ後、攻撃を決める様だ。
「ふっ、盾役に何が出来ると言うのだ!」
剣身にエネルギーを纏わせた突きを発動するが、盾に防がれる。それを好機と見たエルスカーネは動いた。
「《シールドアタック》!」
盾でガラ空きとなったサムライの腹を殴り付け、攻撃を受けた奴は後方へ軽く吹き飛んだ。
「…成る程、お主の存在を改めなければならぬな。しかし、ワシのこの技で沈むが良い!」
「ッ…⁉︎」
再び、剣身にエネルギーを込めたサムライを見て、大技が来るとエルスカーネは盾を構え、身構えた。
「《秘技・十連撃剣》!」
…え? それまさか技能名なのか? だとしたらダサすぎるぞ…。
だが、ダサすぎる名前とは裏腹に強力な攻撃がエルスカーネを襲う。彼女も盾を構え、攻撃を防いでいく。
一撃が強力なその名の通りの十連撃…それをエルスカーネは防ぎ切った…。
それでも相当な衝撃が彼女の腕に伝わったのか、盾を持つ彼女の腕は微かに震えていた。
「ッ…!」
「防ぎ切っただと…⁉︎」
秘技を防ぎ切られるとは思わなかったのか、サムライは絶句した。
「だとしても衝撃のダメージは腕にきている筈だ。…この一振りで…!」
衝撃で盾をもう構える事が出来ないと思ったのか、サムライはエルスカーネを一刀両断しようとした。
「今です…!」
サムライの剣がエルスカーネを捉えようとしたその時、彼女は奴の攻撃を避け、盾を奴の身体に押し付け…。
「《シールドバースト》!」
盾から衝撃波が放たれ、サムライは後方へ大きく吹き飛ばされる。さらに空中で十モノ衝撃が奴を襲い、衝撃を受け続けた奴は地面に叩きつけられ、気絶した…。
「せ、先生⁉︎」
これには俺達も店主達も驚愕し、エルスカーネを見る。
「な、何をしやがった⁉︎」
荒ぶる息を整え、エルスカーネは口を開いた。
「《シールドバースト》…。防ぎ切った相手の攻撃をそのまま返す技能です」
カウンター技能か…!
「ですがこの技能は攻撃を防いでいる途中で私が倒れたり、盾を手放したりすると解除される諸刃の剣の様な技能です。…だからこそ、攻撃を防ぎ切られた時点でその人の敗北は決まっていたのです」
あのへっぴり腰だったエルスカーネがここまで強くなるなんて…。
本当に頼りになる奴だよ…。
「勝負は私の勝ちです! さあ、早くアルト様達を解放してください!」
「くっ…! 奴隷風情が調子に乗りやがって…!」
「もう私は弱い時の私ではありません…。私の大切な人達を傷つけると言うのなら、許しません!」
「エルスカーネ…」
アイムは変わったエルスカーネを見て、微笑んだ。
人や亜人は変わろうとすれば本当に変われるんだな…。
「そこまでです!」
突然聞こえた叫び声に俺達は言葉を止めた。
声の方を向くとそこにはガランさんがルルに銃を突きつけていた。
「み、皆さん…!」
「ルル様!」
「ガランさん…これは一体⁉︎」
ガランさんの行動に驚いたメリルは彼に問いかけると彼はニヤリと怪しい笑みを浮かべた。
「まんまと引っかかりましたね」
「…ここに奴隷の館の奴等が来た時から薄々とは気づいていたが…ガランさん、アンタはソイツ等とグルだったんですね…!」
奴隷の館の奴等とは偶然会ったと言うよりも待ち構えられていたと言った方がいい…。
「そうですよ。あなた方が探している化け猫…これを利用すればうまく釣れると思ったのですよ。あ、アルシエルさんはグルではなく、無事なので安心してください」
「化け猫を知っている…それも嘘だったのか⁉︎」
「いえ、知っていますし、見た事もありますよ。…勿論、あなた達にも会わせて差し上げましょう」
何…⁉︎
そう言うと、ガランはエルスカーネを見る。
「さて、猫の亜人さん…。人質を傷つけられたくなければ、私の言う通りにしてください」
「卑怯者…!」
「この世は卑怯者が勝っていくんですよ」
「エルスカーネちゃん、ダメよ!」
ガチャリ、と銃を更にルルの額に押し付けた。
「わかりました…」
エルスカーネ…!
「良き判断です。…では、その場を動かないでください。今からこれを使います」
ガランが取り出したのは青い宝石がついたペンダントだった。それを見たエルスカーネは絶句する。
「そ、それは…それだけはやめてください!」
「貴女に拒否権はないのですよ…。さあ、貴女の本当の姿を見せなさい!」
ペンダントの青い宝石から、青い光が放たれ、エルスカーネを包み込んだ。
「あ、あああああっ! …イ、イヤ…! わ、私は…!」
光を受け、苦しみ始めたエルスカーネ。
「エルスカーネさん!」
「やめろ、ガラン!」
電気の檻の中で叫ぶ事しか出来ない俺達は渋い表情をする。
「黙って見ていなさい。…面白いモノが見れますから」
すると、エルスカーネの身体が少しずつ変化し始めた。肉体は音を立てて、大きくなっていき、紫色の体毛に包まれていく。
歯も凶暴な犬歯が大きくなっていき、目が赤くなっていく。
「エ、エルスカーネ…⁉︎」
変化していくエルスカーネの姿に俺達は驚愕するしかなかった。少しした後、エルスカーネの肉体の変化は止まった。
だが、彼女の今の姿に俺達は更に絶句する事になる。
何故ならその姿は…俺達が遭遇した化け猫の姿とソックリだった…。
『ウオオオオッ‼︎』
「エルスカーネ…お前が…化け猫の正体だったのかよ…⁉︎」
受け入れられない現実に俺達は戸惑った…。
それと同時に俺達には目を背けられない選択を迫られる事となったのだ…。




