盾使いエルスカーネ
アイムを守る様に立ち、《双頭龍》を睨み続けるエルスカーネ。その姿は少し身体を震わせつつも決して動じていなく見えた。
「エルスカーネ…」
そんな彼女を心配そうに見上げるアイムに気づいたのか、エルスカーネは振り向き、クスリ、と笑みを浮かべた。
「大丈夫です。私が駆け出したと同時に後方は退避してください! あのモンスターは私が引きつけます!」
「待って、エルスカーネ!」
アイムの制止を振り切り、エルスカーネは《双頭龍》に向かって駆け出した。
「メリル様! 他の方へ回復技能を!」
「は、はい!」
跳んでくるエルスカーネの指示に少し呆気を取られながらもメリルは頷き、《ヒール》を俺達にかけていく。
《双頭龍》の足下まで移動したエルスカーネは盾を構える。
いつまで経っても攻撃して来ない彼女に《双頭龍》は雄叫びを上げ、腕を振り上げ、爪で彼女を切り裂こうとする。
しかし、今の彼女の盾の大きさではあの攻撃は防ぎきれない…!
「よせ、エルスカーネ! その盾じゃ防ぎ切れない!」
「…それでも私は…! 皆様の盾になるんです! どの様な攻撃でも…防いでみせます!」
「エルスカーネ…!」
先程までの迷いが嘘の様に彼女は《双頭龍》の前に立っている。俺達を守る為に…!
一向に避けようとしないエルスカーネ目掛け、《双頭龍》は腕を振り下ろした。
「エルスカーネさん!」
誰もがエルスカーネが吹き飛ばされる…そう思っていたが…。
「《ビッグシールド》!」
中ぐらいだった盾が技能の影響で大盾サイズまで巨大化し、《双頭龍》の攻撃を防いだ。
だが、防がれつつも力で彼女を押さえつけようとし始める。
「防いだ時点で…もう私のターンです! 《シールドパリィ》!」
エルスカーネの盾から衝撃が走り、《双頭龍》の腕を弾き返した。その衝撃で奴は体制を崩し、その場に音を立てて倒れ込む。
「盾に触れたモノを弾く技能です!」
盾を元の大きさに戻した彼女はゆっくりと立ち上がる《双頭龍》を警戒しつつ、再び盾を構える。
しかし、奴はエルスカーネから視線を変え、未だ《ヒール》で俺達の傷を癒していたメリルに向けて、火炎弾をそれぞれの口から一発ずつ放った。
「ッ…!」
《ヒール》をかけている最中で身動きが取れないメリルの前にエルスカーネが立ち塞がり、盾を構えた。
「《シールドカウンター!》」
放たれた火炎弾を盾で防ぎ、その火炎弾を奴に弾き返した。二発の火炎弾が合わさり、巨大になった火炎弾は《双頭龍》に直撃した。
「まだです! 《シールドブーメラン》!」
倒れかけた所で踏ん張りを見せる奴に向けて、盾をブーメランの様に投げ、奴の顔に直撃した後、盾は彼女の手元に戻り、そのまま勢い良く跳躍し、彼女は《双頭龍》に接近した。
「《シールドアタック》!」
接近したエルスカーネは盾で《双頭龍》を殴りつける。その攻撃を受け、再び奴は地に伏した。
「…やはり、盾ではそこまでいきませんね…!」
何度倒しても立ち上がる《双頭龍》を見て、厳しい顔をする。
流石に長期戦になると不利だと思い、この場をどうするかを考えている彼女だったが、その思考が判断を鈍らせ、迫り来る《双頭龍》に気がつかなかった。
「しまった…⁉︎」
しかし、奴の攻撃は放たれた銃弾によって、阻まれる。
エルスカーネは銃弾を放った俺を見る。
「アルト様…!」
「一人でさせちまって悪かったな、エルスカーネ。…此処からは連携でいく…いけるか?」
「勿論です!」
「そんじゃ…いくぜ!」
俺はエンゼッターとブレッターを、エルスカーネは盾を構え、一斉に走り出した。
そんな俺達に向けて、《双頭龍》は腕を振り下ろし、叩き潰そうとしたが、それをエルスカーネが防ぎ、俺がブレッターを何発も発砲する。
銃弾を何発も受けた奴は蹌踉ながらも、俺たちに向けて、火炎弾を放ってくる。
「《シールドリフレクト》!」
エルスカーネが盾で火炎弾を跳ね返すと火炎弾は奴に直撃する。その隙に俺は奴に飛びかかり、片方の首をエンゼッターで斬り落とした。
《双頭龍》はあまりの痛みで雄叫びを上げ、両腕を地面に叩きつけ、暴れまくった。
「後はもう片方の頭だけです!」
「わかってる!」
すぐさま振り下ろされていく奴の両腕を回避しつつ、奴に接近し、エンゼッターを振るった。しかし、俺の攻撃は避けられ、勢い余って、地面にゴロリと転がる。
だが、瞬時に立ち上がり、ブレッターから《ファイアバレット》を一発発砲する。
炎の弾丸が《双頭龍》に迫るが、奴はそれすらも避ける。
炎の弾丸は避けられた為、そのまま壁に向かって跳んでいくが、そこにエルスカーネが飛び出し、炎の弾丸を盾で防ぎ…《双頭龍》に向けて、弾き返した。
弾き返された炎の弾丸を避ける事が出来ず、炎の弾丸は奴の身体を貫いた。
「アルト様!」
「おう!」
俺は残るもう片方の頭目掛けて、跳躍し、エンゼッターを構えた。
だが、《双頭龍》のもう片方の頭の口から火炎弾が俺目掛け、放たれた。それを空中で避ける事が出来ない俺は直撃するに見えたが…。
「《シールドカバー》!」
盾を投げ、俺の前で展開すると、盾が俺を火炎弾から守った。
「終わりだ…! 《ファイアスラッシュ》!」
《ファイアスラッシュ》でもう片方の頭を切り落とした…。
それと同時に奴は絶命し、技能を手に入れる事も出来なかったので、そのまま消滅した…。
「か、勝ったのですか…?」
荒ぶる息を整えながら、勝ったのかどうかを確認するエルスカーネに俺は歩み寄り、拳を突き出した。
「あぁ、俺達の勝ちだ! ナイスファイトだぜ、エルスカーネ!」
「…はい!」
俺と拳をぶつけ合い、エルスカーネは笑顔を見せた…。
その後、俺達は洞窟から脱出し城下町の宿屋へ戻った…。
戻った俺達を待ち構えていたのは心配そうな表情を浮かべるルルだった。
「エルスカーネちゃん! お帰りなさい! 大丈夫⁉︎ 怪我してない⁉︎」
「あ、いや…あの…ルル様⁉︎」
我を忘れたかの様に彼女の肩を掴んで彼女を勢い良く揺らすルルにエルスカーネは戸惑ってしまう。
完全に子を心配する母親と化してしまったルルの肩をアイムが叩き彼女を落ち着かせようとする。
「エルスカーネは大丈夫。逆に私達が彼女に助けられたから」
「おう、そうだぜ! 俺達を守る為に一人で戦ってくれたんだからな!」
「それにアルトさんと早くも肩を並べて戦えてました!」
アイムの言葉にマギウスとメリルがフォローし、ルルはそれを聞くとそうだったのですね…、と少し落ち着く。
「…あの、アルト様。どうでしたか、私は?」
このまま戦えるか…、そう尋ねてきた彼女に俺は笑みを浮かべ、グッドポーズで返す。
「まだ不安な所はあるが…いいと思うぜ!」
「アルト様…!」
俺の言葉を聞いて、パァッと明るくなるエルスカーネ。
「…では! 今日はご馳走でも食べましょう!」
「そうだな! 勿論、アルトの奢りでな!」
ほう、いい度胸だな、マギウス。
「よ〜し、マギウスが奢ってくれるみたいだぞ〜」
「ヤッター」
「って、おいアルト⁉︎ てか、アイムちゃんも棒読みの喜びやめろよ⁉︎」
マギウスのツッコミで俺達は笑いに包まれた…。明日からもエルスカーネのレベル上げの続きがある。
頑張って行こうぜ、エルスカーネ。
ーー夜。
奴隷の館の施設内ではイラついた店主が椅子を蹴り飛ばしていた。
「クソッ! 何度思い出してもむかつくぜ、あのガキ…!」
俺の事を思い出し、歯軋りする店主…。彼の部下達も声をかけづらくなっている。
「ほほう、随分と荒ぶっていますね」
すると、キナ臭そうな声が聞こえ、店主が顔を上げると、前にはシルクハットを被った男が立っていた。
「ア、アンタは…!」
「どうやら、亜人がいい思いをしだしているらしいですねぇ…。まっ事不愉快です。ですので…これを使ってみましょう」
シルクハットの男が取り出したのは青い宝石のついたペンダントだった。そのペンダントの奥のシルクハットの男の表情は不気味な笑みを浮かべていた…。




