恐怖
強くなりたいというエルスカーネの提案で彼女に装備や武器を与え、俺達は彼女のレベルを上げるために外へと来ていた。
ちなみにルルは街で情報収集の続きをしている。
まずはレベルの低いイノシシのモンスター、《ボア》と戦っている。真っ直ぐに突進しかしてこない。だからこそ、迎え撃つか、突進を回避すれば簡単に倒す事が出来る。
まずは手本として俺が《ボア》を引きつけ、突進をエンゼッターで防ぎ、カウンターによる一撃を与えた。カウンターを受けた《ボア》は絶命し、消滅した。
「ほら、こんな感じで相手の攻撃を防いで、カウンターを与えるんだ。そうすれば倒せなくとも相手を怯ませる事が出来る」
「は、はい…!」
エルスカーネを一体の《ボア》の前に立たせる。彼女を捉えた《ボア》は鼻息を荒くさせ、狙いを定める。
そして、彼女目掛けて、《ボア》は突進を始めた。それを見てエルスカーネは盾を構えるが、身体を震わせている。
「ヒイッ…⁉︎」
表情が恐怖に変わったエルスカーネは目の前に迫った《ボア》の突進を避けた。
「…⁉︎」
「え⁉︎」
エルスカーネが避けた事にアイムとメリルは驚くが、俺は特に驚かなかった。変わりに表情を険しくさせ、彼女を睨む。
「エルスカーネちゃん! 避けたら、更に標的にされるぞ!」
マギウスの言葉通り、《ボア》はまたもやエルスカーネに突進した。
「い…嫌…!」
腰が抜けて動けなくなったのか、彼女はその場に座り込み、盾さえ構えなくなっていた。このままでは突進を真正面から受けてしまう…そう思った時だった。
「…!」
エルスカーネに迫る《ボア》をアイムが殴り飛ばした。
アイムに殴り飛ばされた《ボア》は絶命し、消滅する。
それにより経験値が入り、エルスカーネのレベルは2に上がる。
「ア、アイム様…!」
「大丈夫?」
アイムの問いにエルスカーネは頷いた。
そんな彼女に俺は近寄り…彼女の胸倉を掴んだ。
「…⁉︎」
「エルスカーネ…お前、やる気あるのか?」
「え…⁉︎」
突然の俺の行為にエルスカーネだけではなく、アイム達も目を見開く。
だが、俺は構わず彼女を間近で睨みつけた。
「盾役が敵の攻撃から逃げてどうする? お前の覚悟はその程度だったってのか?」
「ち、違っ…! 私は…!」
俺の言葉を否定しようとした彼女の胸倉を勢い良く離しながらも俺は彼女を睨み続ける。
「お前は俺達を守ると言ったな? だが、お前は自分自身も守れていない…。自分自身も守れないお前が…誰かを守れるワケねえだろ」
「あ…その…」
「今のお前じゃ…前線に出すワケにはいかねえ…。ハッキリ言って、邪魔になる」
邪魔になる…その言葉を聞いたエルスカーネは絶望的な表情を見せる事になる。
「ア、アルトさん! 言い過ぎです!」
流石に言い過ぎだと俺に文句を言ってくるメリルだが、それに構わず俺は歩き出した…。
「ちょっと! 話は終わってませんよ!」
声を上げるメリルの肩をマギウスが叩いた。それにメリルは彼へ視線を移す。
「マギウスさん…」
「そこまでだ、メリル…。確かにアルトは言い過ぎだが…敢えて厳しめに接しているんだ」
俺の考えに気がついていたのか、マギウスは俺の考えをメリルに説明する。
「ど、どうしてそのような事を…?」
「恐らく、エルスカーネちゃんを強くさせる為だろうな。彼女の心を…」
「エルスカーネさんの心を…」
去りゆく俺の後ろ姿をメリルは眺めた…。本当は俺も辛いのだろうとメリルは俯き、彼女も歩き始めた…。それを見たマギウスも微笑み、俺や彼女の後を追った…。
「私が…邪魔…?」
俺が口にした言葉が相当ショックだったのか、エルスカーネは目元に涙を浮かべながら、俯く。しかし、その彼女の頭をアイムが優しく撫でた。
「ア、アイム様…」
「エルスカーネ…。大丈夫、貴女は私が守る」
それを聞いたエルスカーネはまたもや渋い顔をする。守ると決め、戦う事を決意したはずなのに逆に守ると言われ、ネガティブな感情に襲われる。
「…私は…」
浮かない顔をしつつ、彼女はアイムと共に俺達の後を追った…。
その後も彼女に攻撃を防がせようとするが、一向にうまくいかず、どうするべきか悩み出す。
だが、俺達はその問題を抱えつつ、洞窟に入る。
「違う国の洞窟…どんなお宝があるのでしょうか!」
「…嫌、こう言うところは狩尽くされていると思うが…」
目を輝かせるメリルに苦笑しながらもツッコミを入れる。他愛もない話をしている俺達だが、エルスカーネはずっと浮かない表情をしている。
俺の言葉がショックだったのか…。少し言い過ぎたがコレもアイツの為なんだ…。
奥に辿り着いた俺達はある水晶を発見する。
「コレは…いい水晶かもな」
「幾つか取っていく?」
「そうだな」
ツルハシで水晶を取ろうとした時だった…。
「アルト様、危ない!」
エルスカーネの叫びを聞き、俺は迫りくる火炎弾を避けた。
そして、火炎弾を放った者を見て、エンゼッターを構えた。
「首が二つある龍…《双頭龍》か…!」
《双頭龍》は二つの顔から雄叫びを上げ、俺達に襲いかかる。正直、コイツはエルスカーネにやらせるワケにはいかない…!
放ってきた二発の火炎弾を避けた俺、マギウスはアイムにエルスカーネを任せ、それぞれ攻撃を仕掛ける。
だが、前足で薙ぎ払われ、その爆風を受けた俺とマギウスは吹き飛ばされる。
「《スプラッシュ》!」
メリルが《スプラッシュ》で《双頭龍》の進行を阻もうとするが、全く効果は無く、変わりに放たれた火炎弾を受けてしまう。
「みんな…!」
《双頭龍》…! なんて強さだよ…!
「この野郎!」
赤雷を右腕に纏わせたマギウスがヤツに殴りかかり、俺はブレッターを発砲し、援護する。
「ウォラァッ!…ッ⁉︎」
しかし、マギウスの拳ももろともしない奴の肉体に驚きつつもマギウスは剛腕な腕で掴まれ、俺目掛けて投げられた。
当然、俺と激突し、俺達は吹き飛ぶ。
そして、奴の狙いはエルスカーネとアイムに向く。それを見たアイムはエルスカーネを下がらせ、駆け出した。
腕を機関銃に変え、連射するが、効いている様子ではなかった。
そのアイムの攻撃に苛つきが出たのか、《双頭龍》は雄叫びを上げ、右腕の鋭利な爪でアイムを斬り飛ばした…。
「うっ、あぁぁぁぁっ…!」
「アイム‼︎」
苦痛の声を上げながら、アイムは吹き飛び、地面に叩きつけられた…。
「アイム様!」
そんな彼女にエルスカーネが駆け寄る。斬り裂かれた後を見て、このままではマズイと渋い顔をする。
「来てはダメ…エルスカーネ…! 逃げて…!」
傷ついた身体でなおもエルスカーネを守る為にフラつきながらも彼女は立ち上がる。
「で、ですが…!」
「貴方は…私が守るから…!」
何言っているんだよ…!
「やめろ、アイム! お前も逃げろ!」
「逃げない…! もう、逃げたくないから…!」
立ち上がったアイムに目掛け、《双頭龍》は火炎弾を放った…。誰もがアイムに直撃する…。メリルのアイムの名を呼ぶ声が響き、渡り…火炎弾はアイムを包み、爆発した…。
「ア、アイムさん…」
アイムが火炎弾に包まれた事に俺達は絶句してしまう…。
また俺は仲間を…!
立ち込める爆煙が晴れた…だが、その場を見た俺達は目を見開いた。
「ハァ…ハァ…! やらせません…! 絶対に…!」
そこには盾を構え、火炎弾からアイムを守ったエルスカーネの姿があった…。
「私も…もう逃げません!」
少し怯えながらも彼女は《双頭龍》を睨みつけ、言い放った…。




