武器選び
昨日の出来事から翌日…。
あの謎の少女から逃げ去る様に宿屋へ戻ってきた俺は漸く、眠る事が出来た。
その為…俺は起きるのが遅くなっている。そんな俺を起こしに来たのか、メリルとアイムとエルスカーネが俺が眠る部屋にまで来る。
「アルトさん、朝ですよ!」
「起きてください!」
メリルとエルスカーネが俺を揺すって起こそうとするが、俺は起きる気配を見せない。そればかりか、寝返りを打つ。
「お、起きませんね…」
「私が起きない時は物理的に起こしてきますよ」
今まで散々物理的に起こされてきたメリルが不満の声を漏らす。そんな彼女にエルスカーネは苦笑し、アイムは無表情のまま俺に接近する。
「…メリルお姉ちゃん。最近、マギウスお兄ちゃんから新しい技能を教わったの」
「新しい技能…?」
少しにこやかに笑ったアイムは俺の身体に手を置き…技能名を呟いた。
「《ディスチャージ》」
それと同時に発生する電撃が俺を襲い、俺は大量の電撃を受けた…。
「ギャアアアアッ⁉︎」
朝から俺の悲鳴が宿屋内に響き渡り、カウンターでそれを聞いていたマギウスとルルは深く溜息を吐いた…。
「…」
アイムから受けた電撃により、俺の目は覚めたが、変わりに髪は焦げ、チリチリになっている。臭いも焦げ臭い…。
「…ぷっ…フフッ…!お、おはようございます…アルトさん…!」
必死に笑いを堪えるメリルを横目で睨み、俺は立ち上がる。
「…仕方ないさ。起きなかった俺が悪いんだからな…。その事については不満はない。…だがな」
「ア、アルトさん…?」
俺に肩を強く掴まれたメリルは冷や汗をかき始める。俺の表情は至って笑顔だ…目は笑っていないが…。
「お前にだけは笑われたくないんだよ、駄メリルがァァァッ‼︎」
「イヤァァァァッ⁉︎」
今度はメリルが電撃を受け、悲鳴を上げる。先程は悲鳴を聞いただけの宿屋の店主は目の前でまたもや電撃を見せられ、勘弁してくれ、と溜息を吐いた…。
メリルへの説教(という名の八つ当たり)を終えた俺はエルスカーネに視線を移す。
「それで…エルスカーネ。話って何だ?」
どうやら、俺達に話がある様で彼女に話の内容を尋ねると彼女は息を少し吸って、勢いよく言い放つ。
「わ、私…強くなりたいんです!」
…強くなりたい?
「アルト様や…皆様を守れる強さが欲しいんです!」
つまり、冒険者として前線でも戦いたい…という事か。
「でもね、エルスカーネちゃん。…強さというモノは戦いだけで発揮できるモノじゃないのよ?」
ルルが言うと説得力がある。彼女は文字通り、戦闘は出来ないが、戦闘以外の支援をしてくれている。正直、俺達は全員、ルルに多く助けてもらっているからな。
それにエルスカーネを戦わせたくないと言う彼女の想いもあるのだろう…。戦闘を行えば、身も心も傷つく事になる。
…それは俺も前回の戦いで痛い程わからされた。エルスカーネは奴隷として、何度も傷つけられてきた…。だからこそ、もう彼女には傷ついて欲しくないのだ。
「…勿論、戦闘以外でもアルト様達をサポートする事が出来ます。でも…それではダメなのです。誰かを守れる前に…私自身の身も守れる様にならなければならないんです!」
もう簡単に奴隷の館の奴等の言いなりにならない為…。そして、それに対抗できる力をつける為、彼女は覚悟を決めていた。
しかし、未だ反対なのか、ルルはでも…!、と辛そうな声を上げる。そこへアイムがエルスカーネに歩み寄り、彼女の頭を撫でた。
「私は良いと思う」
「アイムちゃん⁉︎」
エルスカーネの提案に肯定するアイムをルルはダメよ!、と叫ぶが、肯定理由を話し出した。
「彼女は微かに震えている…。戦闘による恐怖を感じている」
「だったら…!」
「でも、その恐怖を感じながらも彼女は闘う意志を示している。その覚悟を無碍には出来ない」
「俺も良いと思うぜ。何よりやる気がある奴に反対は出来ない」
「私も…エルスカーネさんを信じたいです」
アイムの次にマギウスとメリルまでもが肯定し、ルルは俯いてしまう。彼女の言っている事は間違っていない。だからこそ、俺は彼女の方に手を置いた。
「ルルの気持ちはわかる。…でも、見守ろうぜ…。アイツが自分自身で決めた事だからな」
「はい…」
「じゃあまずは装備を整えに行くか」
俺達は城下町内にある装備屋でエルスカーネの装備を整える事にした。店主の男は俺達を見ると接客スマイルで迎えた。
「いらっしゃい! …ん? お前さん達…」
何かに気づいた様にマジマジ、と俺達を見る店主。彼とは初対面なはずだが…。
「何か?」
俺が聞き返すと店主は俺の耳元で呟いた。
「お前さん達だろ? 奴隷の館の奴等をぶっ飛ばした若者集団ってのは」
…は⁉︎ 昨日の事、噂になっているのかよ⁉︎ それはそれでマズイな…!
「…そこまで噂になってます?」
「おう。奴隷如きの為に大人に喧嘩を売った哀れなガキって、この街で噂になってるぜ」
如き、か…。まあ、亜人嫌いの街の奴等じゃそう思うのも仕方ないってワケか。
…本当に腹立たしい…。
「よく来てくれたな。俺はお前さん達に会ってみたかったんだ。…亜人を大切に見ているお前さん達をな」
…待て、まさか…!
「貴方は…亜人を嫌ってはいないのですか?」
「当然だろ? 亜人は姿が違えども人間だ。それをこの街の…嫌、国の奴等はわかっていねえんだ」
「…お名前、聞いても?」
「アルシエルだ。よろしくな、坊主!」
漸く…漸くまともな人間に出会う事が出来た…。
「それで今日は何の用だ?」
「実はこの子の装備が欲しいんです」
視線でエルスカーネの装備が欲しいと言い、アルシエルさんが手頃な装備を選んでくれる。
それを試着してみる事になり、ルルと共に試着室に入った。
「アルシエルさん。この街の外で出没していた化け猫について、何か知らないですか?」
「…あぁ、最近別の国に現れる様になったって聞いたが…すまねえ。詳しい事はわからない…。だが…この国の付近で現れた時、その化け猫と一緒に人間が一人いたらしいぜ」
化け猫と一緒にいた人間…⁉︎
「その人間というのは⁉︎」
「…すまねえ。わからねえな…。この国の人間なのか、それとも他の国の人間なのか…。って、お前さん達…まさか…」
「ご想像にお任せします」
勘が鋭い人だな、アルシエルさんは…。俺達が別の国の人間だと気づいたみたいだ。
すると、試着室から装備を整えたエルスカーネとルルが出てきた。
「ア、アルト様…お待たせしました」
「お、似合っているじゃねえか」
お世辞じゃない褒め言葉にエルスカーネはほんのりと頬を赤く染める。そんな俺をジト目で睨むメリルと苦笑するルル。
…意味がわからない。
「武器はどうするんだ?」
「武器、ですか…」
エルスカーネは棚に並べられた武器を見回していく。
剣、銃、大剣、槍、斧、槌、ナイフ、弓…その全てを見た後、彼女の視線は一点に止まる。
「盾…」
そう、盾だ。何の変哲もない普通の盾が彼女の目に止まったのだ。
「ん? 盾は武器とは言えないぞ? どちらかと言うと、サブの分類に入る」
基本的に盾は剣やナイフと組み合わせて装備するモノだ。その事をエルスカーネに説明するアルシエルさんだが、彼女は首を横に振る。
「盾にします!」
盾だけとは…完全タンク役を引き受けるつもりか?
「本当にいいのか、嬢ちゃん? 盾でも攻撃出来るが、攻撃力が限りなく低いぜ?」
「私は…倒すよりも皆様を守りたいので…」
…エルスカーネ…。
「まあ、お前さんがそれでいいと言うのなら、構わないが…。坊主もいいのか?」
「決めるのはエルスカーネです」
「よっしゃあ、ならとびっきりいい盾を選んでやる!…これだな!」
差し出された盾は大きさ中ぐらいの丸い盾だった。
…これがとびっきりいい盾を…?
「…坊主…お前さん、本当に良い盾かって疑ってるだろ?」
「…そっ! そんな事ないですよ〜」
ほ、本当に勘の鋭い人だ…。
「確かに見た目は最弱盾に見えるが、防御力は内で置いている盾の中ではトップクラスだ」
「トップクラスの盾…」
アルシエルさんから盾を受け取ったエルスカーネは重さや扱い易さを確認し、笑顔になった。
「重くないし動きやすいです! これにします!」
「そうか。じゃあ、アルシエルさん…この盾は幾らですか?」
「タダにしてやるよ」
…………は?
「た、タダ…? 良いんですか?」
「お前さんの亜人を想っている心には胸を打たれたからな。装備を含めて、無料にしてやる」
良い事をしていたら、良い事が返ってくるってのは本当の事だったんだな。
「あ。アルシエルさん! ブレス屋って何処にあります?」
エルスカーネ用のコンディションブレスも作成してもらわなければならないので、ブレス屋の場所を彼に聞くと、彼は申し訳なさそうな顔をする。
「あー…この街にブレス屋はないぞ」
「え…⁉︎」
何と、ブレス屋がないと言われ、俺は驚いてしまった。これでは戦う事が出来てもエルスカーネのステータスを確認する事が出来ない…。
ガックリ、と肩を下ろす俺の肩をアルシエルさんが掴む。
「だからこそ、俺がいるんだよ!」
…何の事だ?
「俺は一応ブレス屋もやってるんだよ」
有能すぎだろ、この人⁉︎
「じゃあ、お願いします!」
「あいよ!」
早速、アルシエルさんはコンディションブレス制作に取り掛かってくれた。そして、数分も経たずに終わらしてしまった…。
「ほらよ、出来たぜ!」
エルスカーネ用のコンディションブレスを受け取った俺はエルスカーネの右腕にコンディションブレスを付けた。そして、コンディションブレスを操作して、モニターに彼女のステータスが表示された。
「レベル1…」
レベルが1だと知り、しょんぼりする彼女だが、俺は気にするな、と声をかけた。
「…よし、準備も出来たし、レベル上げにでも行くか!」
「そうだな!」
「じゃあ、アルシエルさん! 何から何までありがとうございました!」
「おう! また何かあったら来てくれよ! 力になるからな!」
本当に優しい彼に感謝し、俺達は装備屋を後にし、街の外へと繰り出した…。




