三大組織
この世界には三つの大きな組織が存在する。
一つは俺達が出会ったヴェイグが所属する聖凰騎士団。
帝都ガイールを拠点とし、お尋ね者や犯罪者などの悪人を捕獲する為、そしてこの世界の平和の為に動く組織だ。
騎士大隊長、ルーク・ヴォルンドの元、五つの騎士隊が存在する。ヴェイグが騎士隊長を勤める第三騎士隊もその一つだ。
俺達と別れた後、ヴェイグは帝都ガイールへと戻り、大隊長部屋に訪れていた。
「戻りました。大隊長」
「おぉ、戻ったか、ヴェイグ。この度の任務、本当にご苦労だったな」
「勿体ないお言葉ですが、討伐に貢献したのは私ではありません」
敬礼を解いたヴェイグは話を進める。
「お前が報告した無職の少年か。彼には既に討伐賞金を手配している。それで…スカウトの方はどうだった?」
大隊長の割にはフランクに話しかけてくる大隊長にヴェイグもクスリ、と笑いかける。
「ダメです。盛大に振られましたよ。話を聞く限り、彼は我々の様なお堅い仕事は嫌いだそうです」
俺が断った理由を聞いた大隊長は一瞬、ポカン、となるもすぐに笑い出した。
「成る程な! お前が興味を示すのもわからなくもない!」
「はい。面白い男です」
笑い合う二人…。そして、大隊長は笑うのをやめ、告げた。
「彼の経過を見送ろう。彼は…この世界にとっても必要な存在かも知れん。…彼の実力は軍も目をつけるかも知れん」
「わかりました」
ヴェイグは頭を下げる…。
大隊長が口にした軍という言葉…。
それがこの世界の組織の一つ、魔虎牙軍の事だ。
特にこれと言った拠点は存在しないが、奴等は聖凰騎士団並みの組織の規模である。
魔虎牙軍もこの世界、ラインバルクの平和の為に活動している。だが、軍は騎士団と敵対関係にある。
理由は軍のやり方だ。奴等は平和の為に過激な行動を取る事もある。
平和の為には暗殺も厭わず、中には軍に逆らった者を処刑する事もあると聞く。
このやり方には騎士団も黙視する事は出来ず、近々、戦争が起こってもおかしくない緊迫状態に陥っていた。
魔虎牙軍の基地では二人の男が話していた。
「フィーリン森林のお尋ね者のセイラ・グルントが冒険者でもない男に討伐された。それもまだ子供だと聞く」
「何にもその少年は無職と聞く」
「ありきたりな力でレベルの差があるセイラ・グルントを討伐した…。彼を仲間に引き入れる事が出来れば、我々の戦力も拡大に増大するな」
ククク、不敵な笑みを浮かべる二人目の男に対し、一人目の男は冷静に答える。
「だが、その少年は騎士団のスカウトも断った様だ。一筋縄ではいかないぞ」
「その時は…力尽くでも従わせる。…我々、魔虎牙軍が世界の平和を握る為に…」
二人目の男の不敵な笑い声が基地内に響いた…。
そして、三つ目の組織の名は神眼教団。この世界の神、ラルクを慕い、拝める組織だ。
ラインバルクの中心に聳え立つラルクの巨木に設立された神眼神殿を拠点としている。
神眼教団は騎士団や軍とは違い、直接この世界を平和にするのではなく、平和を祈り、二つの組織の動きを監視している。
だから、直接干渉する事は特にはない。
この神殿には大導師、カーイン・ベイグがいる。
今現在、大導師は3人の導師の前にいた。
「何やら、騒がしいな」
「何にもフィーリン森林で軽い事件が起きたそうだ」
「その話は聞いた。レベルの低い少年がレベルの高い尋ね者を討伐したという」
三人目の導師の言葉に他の二人の導師は驚き、大導師も興味を示した。
「ほう。実に興味深い話だな」
「それにその者は無職と聞きます」
その情報には二人の導師はさらに驚き、大導師も身を乗り出す程、驚く。
「それは…!」
だが、大導師は落ち着き、王座へ座る。
「導師達よ。実は数日前、世界の境界が一度、崩れる事があったのだ」
「境界が…⁉︎」
「もしや、異界からの来訪者が…⁉︎」
「では、その無職の少年が異界の異物…?」
二人目の導師の言葉に大導師は無言で首を横に振る。
「それはまだ、定かではない。…導師達よ、引き続き、各地域の警戒を続けて欲しい」
大導師の命令に三人の導師ははっ! と敬礼を取った。
少なくとも、俺という存在がこの三組織を動かした。
これが吉となるか、凶となるかはまだ俺にはわかりもしなかった…。