エルスカーネ
亜人の子を引き取り、奴隷の館を後にした俺達は城下町内を歩く。すると、痺れを切らしたのか、亜人の子が俺に話しかけてきた。
「あの…」
細々とした声を聞き、俺達は立ち止まり、彼女に視線を向ける。視線が集まった事にまたもや少し怯え彼女だが、俺はそんな彼女に笑いかけ、尋ねた。
「どうした?」
「わ、私は…何をすればいいですか?」
…うーん、完全に怯えられているなぁ…。
俺としては命令するつもりはないんだが…。
「まず、君の名前を聞いてもいいか?」
名前を聞いていなかったと、思い出し、尋ねると彼は下を向いたまま、細々と答えた。
「エルスカーネ…です」
「苗字は?」
「ケットシー族は元々、苗字を持たないんだよ。大人になったとしても」
そうなのか…。
「じゃあ、エルスカーネ。まず風呂にでも入るか」
「…え?」
「メリル、アイム、ルル。頼むよ」
俺の考えに気づいたのか、メリル達は頷くがルルだけは違う言葉を放つ。
「あの、アルトさん。私は別行動でも構いませんか?」
「構わないけど…何するんだ?」
尋ねる俺に得意げに笑ったルルはお楽しみです、とだけ言い、歩き去った。
「では、行きましょうか」
「お風呂は気持ちいい」
「え、あ、あの…⁉︎」
戸惑うエルスカーネの手を引き、メリルとアイムは風呂屋へ向かった…。
「…ん? 俺達は何するんだ?」
取り残されたマギウスは何をするのかと尋ねてくる。
コイツ、本来の目的を忘れてやがるな…。
「化け猫についての情報収集を続けるぞ。俺達はそれが目的でこの街に来たんだろ?」
「あ、あ〜! そうだったな!」
本当に忘れてやがったよ…。
「…お前な…。ハァ…じゃあ、行くぞ」
「あ! ま、待ってくれよ!」
俺とマギウスは共に化け猫についての情報収集を開始した…。
風呂屋に着いたメリル達は脱衣所へ行き、服を脱ぎ始める。入る前の受付人にエルスカーネがいる事で嫌そう顔をされたが、それを流し、ゴールドを支払った。
服を脱いでいくメリルとアイムだが、エルスカーネはオドオドして、服を脱がないでいた。
本当に自分がお風呂など入ってもいいのか…?お風呂で何かやらされるのではないか…?
そう思ってしまうと手が動かない。
「大丈夫」
怯えている彼女の手をアイムが優しく握り、声をかけた。
「お風呂はサッパリする。だから、一緒に入ろ」
アイムの優しい微笑みにエルスカーネは思わず頷き、服を脱いだ。
そして、三人はタオルを持って、風呂に浸かった。
「ふう〜」
「…メリルお姉ちゃん。オバさんくさい」
「ちょっ⁉︎ まだオバさんという年齢ではありませんから⁉︎」
「あの…お背中など流しますか?」
あくまでも奴隷としても仕事を果たそうと訪ねてくるエルスカーネだが、メリルはクスリ、と笑い彼女の頭を撫でた。
「その様な事はしなくてもいいですよ、エルスカーネさん」
「…」
エルスカーネの頭を撫でているメリルをアイムはジト目で睨む。その睨んでいる場所は所謂、メリルの胸部だ。
「な、何ですか、メリルさん…?」
「大きい…」
「へっ⁉︎ お、大きいって…わあっ⁉︎」
突然、アイムはメリルに飛びかかり、彼女の胸を揉み出した。
「ひっ⁉︎ な、何をしているのですか、アイムさん!」
「私は小さい。だから、大きい人のを揉むと大きくなる」
「だ、だからって…! や、やめっ…!」
「フフフ…」
メリルとアイムが戯れあっていると笑い声が聞こえて来たので、二人は笑い声の方を見ると、そこには楽しそうな笑顔で声を堪え、笑っているエルスカーネの姿があった。
「す、すみません…! でも、何だかおかしくて…!」
謝りながらも笑いを堪えられていないエルスカーネを見て、メリル達はクスクス、と笑い始めた。
この後、それぞれで身体を洗い、彼女達は脱衣所へ向かった…。
街で化け猫についての情報収集をしていた俺とマギウス…。
だが、結果は収穫無しだった。
「あ〜! ダメだ〜! 何もわからねえ…」
「…というより、誰も化け猫について知らないって様子だったな」
「まあ、貴族なんて、下々の事なんて知らないんだろうよ」
ハァ、とため息を吐くマギウスに俺は苦笑してしまう。だが、このままでは情報を手に入れるのは難しいな…。
「情報収集の範囲を広めたいが…この街の外に村とかはないからな…」
「でも、街の全部を探したワケじゃないんだろ? 気長にやろうぜ」
「…そうだな」
「にしても…二手に分かれた方が効率が良くねえか?」
「…亜人であるお前を一人には出来ないだろ?」
「アルト…! お前、俺の為に…!」
ううう…! と涙ぐむ彼に俺は苦笑し、一言付け加えた…。
「それに、お前一人だと余計な事をしかねないからな」
「待て、それが本来の目的じゃないのか⁉︎」
彼のツッコミが響き渡る…。
「さて、そろそろメリル達の元へと戻るか」
「そうだな! って、俺達風呂にはいつ入るんだ?」
「夕方時に入る」
そう言って俺達は風呂屋まで足を運んだ…。すると、そこにはメリルとアイムがいた。
「あ、アルトさん! マギウスさん!」
…ん? エルスカーネの姿がないな…。どこに行ったんだ?
「エルスカーネは何処に行ったんだ?」
「ルルお姉ちゃんが何処かに連れて行った」
ルルが…? そう言えば一人だけ別行動をしていたが…。
「お待たせしました! あら? アルトさん達も来られていたのですね!」
ルルが歩いて来たが、肝心のエルスカーネがいない。
「ほら、エルスカーネさん。折角のお姿なので出て来てください」
「は、はい…」
すると、ルルの背後からエルスカーネがヒョコリ、と出てきた。その姿は初めて出会った時とは完全に変わっている。
荒れていた髪は風呂により、透き通った紫の髪にへと変わり、身体の汚れも取れ、傷はメリルによって癒えていた。そして、何よりボロボロだった服はルルが買って来たであろう服に変わっていた。
黒のTシャツに紫のジャケット、さらに紫のミニスカートと…さらにそのミニスカートの後ろには紫色の尻尾が出ている。
誰が見ても美少女だと言うだろう。
…それよりもルルが行っていたのは服屋だったのか。
「この服はルルが?」
「はい! 似合うと思って、これに選びました!」
服の才能もあるなんて、やるなルル。
「どうですか、エルスカーネさん?」
「あ、あの…本当に私がこの様な服を着てもよろしいのでしょうか…?」
頬を赤らめながら、尋ねてくる彼女の頭を俺は撫でた。
「良いんだよ。俺達がそうしたいと思ったんだからよ」
「あ、ありがとうございます…。ご主人様」
ご主人様、か…。
「…いいか、エルスカーネ? 俺はお前の事を奴隷として見ていない」
「え…? で、でも購入したのでは…?」
「まあ、確かに立場上お前を買ったけど…。聞いていなかったのか? 俺はお前を引き取るって言ったんだぞ?」
俺の言葉を聞き、エルスカーネはハッ⁉︎、と驚いた。
確かに俺は彼女を買うなど一言も言っていない。
「だから、ご主人様はやめてくれ」
「で、では…皆様のお名前は?」
「俺は麻生 アルトだ」
俺に続き、メリル、アイム、マギウス、ルルの順で名前を名乗った。すると、彼女は何度か俺の名前を連呼した後、思いついた様に顔を上げた。
「ありがとうございます! アルト様!」
「だから、様は…。って、もういいよ」
楽しそうに微笑む彼女の顔を見ては何も言えなくなる。
まあ、アイムに既にマスターと呼ばれているんだから、良いとするか。
「よろしくな、エルスカーネ」
その言葉にぎこちないながらもエルスカーネは頷いた…。




