檻の中の亜人
馬車を停泊所へ止めて、降りる俺達…。
まずは情報収集をしようと歩き出したが、周りから視線を感じる。周りを見渡すと視線が俺達に集まっていた。
…それもマギウスを中心にだ。それはまるでゴミを見る様な冷徹な目…。その目を見るたびにこの国が腐っている事だけはわかる。
見た限り、貴族ばかりだしな…。
「ッ…」
マギウスも居心地が悪いのか、顔を顰める。仲間がこの様な目で見られて俺も黙っていられないが、此処は軍のテリトリー…問題を起こせば、追い出されるばかりか、殺される可能性もある為、下手な事は出来ない。
それはマギウスもわかっているので余計に悔しくなるのだろう。そんな彼の手をアイムが握り続ける。
彼女の優しさで胸がいっぱいとなったマギウスは笑顔でアイムに返す。すると、アイムもクスリ、と笑顔になった。
それを見て、微笑んだ俺とメリルとルル。少し歩いていると俺達はある店を見つける。
それはこの国では珍しくないであろう奴隷を売る店だった。
この中に奴隷となった亜人達が…!
「…なあ、みんな。入ってみないか?」
「アルトさん…?」
何故だか、この店に入らなければならない…そう思ってしまった。此処に何かある…そんな感じがする。
俺の言葉にみんなは頷き、俺達は店の中に入った。すると、ちょび髭が生やした男が俺達を出迎えた。
「これはこれは…お若いお客様方ですね! ようこそ、奴隷の館へ! …ん?」
奴隷の館…それがこの店の名前か。
俺達が客と知り、接客スマイルをする店主はマギウスを見ると街で見かけた奴等と同じ様な目をする。
「…それでご用件は? この亜人をお売りに?」
どうやら、店主やこの街の奴等はマギウスは俺達の奴隷と勘違いしている様だ。本当に胸糞が悪い…。
「嫌、遠くから来たのでたまたま通りかけただけです。 それに彼は奴隷ではなく…"家族"…ですから」
「アルト…」
俺の言葉にマギウスは目を見開くと同時に彼はある事に気がつく。俺も怒りを我慢している事に…。
亜人が家族…その言葉を聞いた店主は笑う。
「…亜人が家族? ハハッ、お客さん、面白い事を言いますね! 亜人なんて、どれもこれも道具や奴隷ですよ」
奴のその言葉にはメリルやルルまでもが言い返そうになるが、それを俺が制止した。
俺が無言で首を横に振ると彼女達も堪え、俺の後ろに下がった。
店主に連れられ、俺達は亜人達が囚われている部屋に案内された。そこにも俺達の怒りを震わせるモノばかりだった。
様々な種族の亜人が檻の中に捕らえられており、中には傷だらけで、力無く倒れている者もいた。見てられず、思わずメリルとルルは視線を逸らしてしまう。
「生きのいい亜人は少し値が高いですが、お安い亜人でも家事などでも扱えます。…勿論、どの様な命令でもこなせる様に調教済みです」
この男は…!
一通り、囚われている亜人を見た俺達…。この街ではコレが当たり前なのか…。
「どうでしたか? 当たり外れもありますが、どの奴隷もご迷惑をかけないと思います」
当たり外れって…生命を何だと思っているんだ…!
すると、アイムが何かに気づき、トコトコ、と気になった方へ歩み寄る。俺達も彼女の後を追い、彼女の下へ着く。
「どうしたんだ、アイム?」
「此処にいるのって…」
アイムの前には中ぐらいの檻に一人の亜人が囚われていた。性別は女性で歳は16歳程度だろうか…?
着ている衣服はボロボロで身体の至る所には鞭で打ち付けられた跡や火傷の跡があった。それも鞭の方は真新しい。
中にいた亜人は俺達に気がつくと顔を少し上げ、ヒッ⁉︎、声を上げながら、怯えた表情を見せる。
「あぁ、その亜人はつい最近、返品なされたポンコツの亜人なのですよ」
俺達を追いかけて歩いて来た店主が目の前の亜人の事を話してきた。
…ポンコツ…。つまり、鞭の跡はこの男が…。
「値段も安いですし、あまりオススメはしませんが…」
店的には高い亜人を買って欲しいってワケかよ。そもそも俺には買うつもりがないってのによ。
「あ、あぁぁ…!」
それにしても此処まで怯えられるとこっちにも罪悪感があるな…。怖がらせない為にも此処から立ち去るとするか。
「おい、何だその目は?」
…何だ?
この場から立ち去ろうとした俺が振り返ると店主が檻の扉を開け、鞭を手に持ち、女の子の亜人を睨んでいた。
「お客様には愛想良くしろって言っているよな? また俺に恥をかかせるつもりか!」
怒号を飛ばしながら、店主は亜人の子を鞭で打ちつけ始めた。バシン!、という音が室内に響き渡り、彼女の小さな悲鳴も聞こえてくる。
「お、おい!」
「これは流石に酷いです!」
「大丈夫です。今からもう一度調教し直すので」
マギウスとルルが店主を止めようと声を上げる。だが、店主は聞く耳を持たない。
メリルはあまりの酷さにアイムを抱き寄せ、アイムも唇を強く噛んでいる。
みんな…我慢しているんだな…! 俺が堪えろと言ったから…!
だが…俺ももう我慢ならねえ…!
「やめろ‼︎」
俺の叫びが室内に響き渡り、店主も鞭は打ち付ける手を止める。
「やめろ…とは?」
「その子は…俺がひき取る」
彼女をひき取るという俺の言葉に店主と亜人の子は驚き、メリル達は笑顔を作った。
「ひき取る…というのはこの奴隷をお買い上げになると? もっといい奴隷がいますが」
「…この子でいい。ほらよ」
俺は200ゴールドの入った袋を奴に投げ渡す。その中身を確認した店主は首を傾げる。
「この亜人の値段は20ゴールドですが…?」
「チップだ。取っておけ」
「お、お買い上げ…ありがとうございます!」
店主は亜人の子の手錠や鎖を外す。
だが、亜人の子は足が震えているのか立てないでいた。
「おい! 早く立たねえか!」
彼女の腕を掴み、無理矢理立たせようとするが、俺はそれを制止し、彼女の手を優しく掴んだ。
そして、彼女の耳元で口を開く。
「大丈夫だ。過激な事はしないから、ついてきてくれ」
「え…?」
「俺は…お前を助けたいんだ」
俺の言葉が届いたのか、彼女は立ち上がり、俺の手を取り、共に奴隷の館を出た…。
彼女との出会い…これが俺の新たな事件に巻き込まれる事をこの時は知る由もなかった…。




