支えるパートナー
俺はメリルとキリヤに担がれ、レンドベル近くの森に降りた。
まだ微かに意識が朦朧としている俺を人間に戻ったメリルが支えてくれた。
そこへアナトスが駆け寄って来た。
「キリヤ…!」
「よう、アナトス」
アナトスの表情に焦りが見える。
…成る程、満更でもないみたいだな。
「さてと…共闘は此処までだ。次からはテメェをぶっ倒す」
「…いいぜ。受けて立ってやるよ」
フッ、と笑い合った俺達。
本当に敵対し合っているのか不思議なぐらいのお互いの表情にメリルは微笑む。
アナトスもキリヤの表情に少し笑みを浮かべながら、彼と共にこの場を後にした…。
俺達から離れたキリヤとアナトス…。
暫く歩いた所でアナトスがフフッと笑った。
その彼女の笑い声にキリヤは不満そうな顔をしながら、彼女に尋ねた。
「…何だよ?」
「いいえ。不思議とキリヤが楽しそうな表情を浮かべていたから…。それがおかしくてね」
「そう見えるなら、眼科に行け。アイツはただ、腹の立つ男だ。…俺が奴にかける情はねえ…。ただ、次に会った時には殺す。俺達の関係なんざ、そんなモノなんだよ…」
「…」
決して、俺とキリヤは同じ道を歩けないのかも知れない…。
それでもキリヤは足を止めない…。
全ての迷いと後悔を全部、闇へと包みながら…彼自身が闇となり、全てを闇に包むために…彼は進み続ける…。
そう、光である俺とは対となる道を真っ直ぐと…。
ーーでもよ、キリヤ…。
俺はお前の思っているような…光じゃないんだぜ…?
だからこそ、光になろうと…必死に抗うんだよ…。
立ち去っていくキリヤ達を見送った後、俺はメリルに担がれて、レンドベルに向かう。
「悪いな、メリル…。重いだろ?」
「いいえ。軽いですよ? しっかりご飯食べていますか?」
「一緒に暮らしているんだから、食べてるってわかるだろ?」
そうですね、とメリルはフフフッと笑う。
「それにしても冒険者になってまだ日は浅い私達が…また街を救う事になるとは思いませんでしたね」
「ランクが上がりそうだなまた…。まあ、これで可能の星の名も上がるだろうな」
「…アルトさん…」
突然、メリルが顔を俯かせる。
その表情は金色の髪に隠れて見えないが、声が少し震えている。
「…強がっていませんか?」
「ッ…⁉︎」
彼女のその言葉に俺は言葉を詰まらせる。
実際に図星を突かれ、俺は発するべく言葉を困らせている。
やっぱり、メリルにはわかるのか…。
嫌、もしかすればアイムやマギウス、ルルもわかっているのかも知れないな…。
「…そ、そんなワケないだろ? 深読みしすぎだっての!」
「でも…!」
「…お。レンドベルに着いたぜ。それから、もう歩けるから大丈夫だぜ」
メリルから離れ、俺はそそくさとレンドベルの街中にへと入った…。
先程の強がっているという彼女の言葉から逃げる様に俺はメリルから背を向け、先へ進んだ…。
そんな俺の姿を悲しい表情でメリルは見続け、彼女は俺の後を追った…。
みんなの所に着くと、みんなは一斉に俺とメリルの下へ駆け寄って来た。
「アルト! やったな!」
「マスターの勝利、信じてた」
「おう! ありがとな、二人共!」
アイムとマギウスに笑顔で返しているとウィーズとルーク隊長が頭を下げて来た。
「すまない、アルト」
「え…⁉︎ な、何だよ…⁉︎」
突然、頭を下げられ、困惑していると彼等は口を開き、謝罪の理由を話し出す。
「本来ならば、騎士である私達が対処しなければならない事態を君に全て押し付けてしまった…」
「そうだな。私達が真っ先に君達を守らなければならないはずだ。…だが、逆に君に助けられた。…君には本当の感謝と敬意の言葉を送ろう」
何だ。そんな事かよ…。
「アイツ等に勝てたのは俺だけの力ではないですよ! メリル達や闘技大会参加の選手達…キリヤ達…。そして、騎士団の皆さんが街の人達を避難させてくれたから犠牲者を出さずに済みました!…それに、スノウも…」
スノウの事を思い出し、俺は俯く。
そう…確かに今回犠牲になった者はいない。
…モンスター化してしまったスノウを除いて…。
「なあ、ウィーズさんよ。この近くにスノウの墓…作ってもいいよな?」
「それは構わないよ。…彼も事件に巻き込まれた被害者なのだから…」
そう、だよな…。
スノウが一番の被害者なんだよな…。
「アルト…。俺達でアイツの墓を作ってやろうぜ!」
「あぁ…!」
街から少し離れた丘…。
そこに俺達はスノウの墓を作る事にした。
肉体が消滅した為、遺体を埋める事は出来ない。
だが、そんな事は関係なく、墓石を作り、そこにスノウの形見であるレイピアを突き刺した。
このレイピア…形見として俺が持っておこうとも考えた。
しかし、これはスノウ自身が持っていた方が良いだろうと思い、墓に置く事にした。
墓の完成に数時間…。
その後は皆で葬式を執り行った。
ルーク隊長を中心に俺達はそれぞれの想いをスノウに告げた…。
これで後悔はない…ないはずなんだ…。
葬式から数十分後…。
俺達は今日一日の疲れを癒す為、宿屋に泊まる事となった。
明日、この街から出て、ギルドホームへと帰る事になっている。
マギウスはもうグースカと寝ている…余程疲れたのだろう。
俺は何故寝付けず、暗い部屋のベッドに座り込んでいる。
唯一の明かりと言うと月の光程度だ。
すると、ドアをノックする音が聞こえる。
誰だ? こんな時間に…?
部屋の扉を開くとそこには寝巻き姿のメリルがいた。
彼女の訪問に驚くが、すぐに我を取り戻し、尋ねる。
「メリル…? どうしたんだよ、こんな時間に…?」
「…少し、お話がしたくて…」
「…入れよ」
俺はメリルを招き入れ、部屋の明かりをつけようとするが、メリルに止められた。
震える手で俺を掴むメリルの表情は部屋の暗さでわからない。
…だが、泣いている事はわかる。
「ど、どうしたんだよ…? 何かあったのか?」
「…すみません…。本当に泣きたいのはアルトさんですよね? …でも、悲しくなってしまって…」
俺が泣きたい…? そんなはずは…!
「何を言っているんだよ? 俺は泣きたいなんて思っていねえよ! 現にこうやって元気で…「強がらないでください!」…⁉︎」
元気だと言う言葉はメリルの怒鳴り声にかき消される。
部屋の扉を閉じている為、周りの部屋には聞こえないだろうが、メリルはこれまでに一度も見せていない怒りの表情で俺を見続けている。
目元に涙を浮かべながら、彼女は俺の両手をギュッと握った。
「つ、強がってなんか…」
「嘘です! スノウさんを…自らの手で殺めた事を悲しんでいます! 自身を恨んでいます!」
「そ、そんな事…!」
そんな事ない…、俺はその言葉を言えず、途中で言葉を止めてしまった。
嫌、言ってはダメなのだ…。
「…なあ、メリル? 女神としては、モンスター化した人間を殺害した俺の事、どう思っている?」
俯きながら、俺は女神である彼女に尋ねてみた。
どの様な答えが返って来ようと受け入れる為…。
「…やはり、人の生命を奪う行為は良くありません…」
「…」
やはり、メリルも俺の事を…。
「ですが、アルトさんは…多くの人を守っています! アルトさんの活躍で、多くの人達の笑顔が守られて来ました!」
「…違う。俺はただ…みんながいてくれたから…ここまで来れたんだ。俺一人、そんなに凄くねえよ」
仲間達が…友人達が俺の支えとなってくれたから、俺は…。
「いいえ。私は知っていますよ? 麻生 アルトさんは…無益に人の生命を奪う人ではない…。必ず、何かを守るために戦う人だと…」
「…だが、俺は…それでも多くの生命を奪ったんだ。俺が人殺しには変わりはねえ…! だから、俺は…! お前達の前から…!」
お前達の前から消える!、と言い放とうとしたが、パァン!、という音にかき消される。
音と共に頬に痛みを感じ、メリルに叩かれたのだと、思い、叩かれた頬に触れる。
「…この場にいるのが私だけで良かったですね…。他の方もこの場に居合わせていたら、こんなモノでは済みませんでしたよ!」
キッ、と睨みつけてくる彼女の目を見て、俺の中の何かが崩れ、同時に涙がこみ上げて来た。
「冗談でも二度とそんな事は言わないでください! アルトさんは私のパートナーで導くお相手です! それに私達、可能の星のリーダーです! 私を…私達のリーダーは…貴方しかいないのです、アルトさん!」
「メ、リル…」
「私は…貴方の変わりに痛みを受ける事も出来ません…。ですが、私は女神として、貴方を導くと決めました! だから、少なくとも…私の前では強がらず、頼ってください! 弱音を吐いてくださいよ! 私は貴方の全てを受け入れます!」
そう言い、メリルは俺の肩を力強く掴んだ。
もう無理だ…我慢なんて出来ない…!
俺の目から涙が溢れ、ベッドの上にポタポタ、落ちる。
「俺…本当は辛かった…! 友達であるスノウを俺の手で手にかけて…苦しかったんだよォッ! でも、お前達の前で泣かないって、決めた…! 決めたはずなのに…! 俺は…!」
嗚咽混じりに溜め込んでいたモノを全て吐き出す俺の言葉を一言一言、メリルは聞き入れ、俺を優しく抱き締めてくれた。
「辛かったんですね…。苦しかったんですね…。でも、安心してください。私はアルトさんの味方です。…例え、世界が貴方を見放そうとも、私は貴方と共に居続けます…」
「メリル…」
「良いんですよ。…弱音を吐いても…私達はパートナー…ですから」
「俺、は…! うぅっ…! うあああああっ‼︎」
夜の部屋に響く、俺の溜め込んでいた泣き声…。
そんな俺の頭をメリルはずっと優しく撫でてくれた…。
俺の全てを受け入れてくれた…。
その後、俺は知らず内に意識を失った…。
俺が眠りについてから、メリルはゆっくりと俺をベッドに寝かせ、寝顔を眺める。
「…導く、ですか…。(今の私に…アルトさんを導く事は出来るのでしょうか…?)」
弱気になった彼女…。
だが、すぐに顔を横に振り、迷いを断ち切る様に息を吐く。
「弱気になってはダメです!…アルトさんと共に生きていくと決めたのですから…」
安らかな寝息を立てる俺はの頭を撫でていた彼女だったが、今回の一件で疲れていたのか、彼女も眠りについてしまった…。




