敗北
サシェスを突き飛ばし、スノウのレイピアを眺めていると、ノームが吹き飛んできた。
そっちに視線を向けると、吹き飛んで来たノームを追って、キリヤが歩み寄って来た。
「キリヤ!」
「麻生…。クローゼルはどうした?」
「スノウは…」
スノウの事を聞かれ、俺は手に持つレイピアに視線を移す。
それを見たキリヤも状況を察し、そうか、と一言だけ言い、それ以上何も言わなくなった。
「それよりもその様子だとあのサシェスって奴も倒したみたいだな」
「まあ、な…」
俺はサシェスが激突した民家に視線を移すと崩壊した瓦礫の中から、サシェスが出て来る。
「き、貴様等ァッ…!」
まだ生きていたのか…。
身体をフラつかせながら、サシェスは俺達を睨む。
恐らく此処まで邪魔された事への怒りと憎しみが奴を包んでいるのだろう。
「殺す…!貴様等は殺してやる!」
そう叫び奴が取り出したのは〈モンスタードラッグ〉だった。
「この〈モンスタードラッグ〉と俺の力に恐怖し…死ねェッ!」
〈モンスタードラッグ〉を口の中に入れ、歯で噛み砕いたサシェスはゴクリ、と飲み込んだ。
すると、奴の身体はみるみる変化していき、鋭い牙に蝙蝠の様な姿をした《ヴァンパイア》となり、その波動でか昼時だった空は夜にへと変わり、赤い満月が現れる。
昼から夜への変化に《ギガス》を倒したメリル達も驚いていた。
「な、何だ⁉︎」
「昼が夜になった…⁉︎」
「これは…ヴァンパイアの力…!」
グレン、マギウス…そして、アイムまでもが額から汗を流し、今の状況に驚く。
「アルトさん…!」
メリルは俺の事を心配し、俺の名を呟く…。
レンドベルの住人を避難所まで避難し終わったルルとカイリ…そして、住人達も夜に変わった空を見て、驚愕していた。
中にはあり得えもしない状況に恐怖の声を漏らす者もいる。
「これは…!」
「(無事よね、アルト…?)」
恐怖に囚われている住人達を宥めながら、カイリも俺が戦っている事を想像し、無事を祈った…。
驚いているのは俺やキリヤも同じで辺りを見渡す。
「何が…起こっているんだよ…⁉︎」
「夜に変わりやがった…⁉︎ まさか、コレが奴の力だってのか…⁉︎」
波動を放ち終えた《ヴァンパイア》は赤きオーラを纏いながら、俺達を睨み付ける。
「サシェス…!」
血を流し、地面を這い蹲りながらノームが《ヴァンパイア》に近づく。
それに気づいた奴はノームの下に歩み寄り、ノームを立たせる。
「サシェス…傷を癒してくれ…!」
助けを求めるノーム…。
《ヴァンパイア》は分かったと頷き、治癒させようとする。
…だが。
『…ナァンテナァ!』
「…え? ア…ギャアアアアッ⁉︎」
何と《ヴァンパイア》は治癒をかけず、ノームの首筋に勢い良く噛み付いた。
その鋭利な牙で噛み付かれたノームは大量の血を首筋から出しながら、悲鳴を上げる。
「サ…シェス…! ナ、ぜだ…⁉︎」
『敗北者には…生きる価値はナイ』
そう言い捨て、ノームは絶命し、その場に倒れ込んだ…。
口の周りに付いたノームの血を拭った《ヴァンパイア》はククク、と笑いながらこちらに視線を移した。
『次は貴様等の番ダァッ‼︎』
憎しみを込めた叫びと共に《ヴァンパイア》は無数の紫の光弾を放ってくる。
咄嗟に俺とキリヤは《バリア》を展開し、光弾を防ごうとしたが…。
『無駄だァッ!』
《バリア》が音を立てて、崩壊し、俺達に無数の光弾が襲いかかる。
防ぐ事が出来ず、俺達は吹き飛んでそれぞれ近くの民家に激突する。
『コレはイイ…!コノチカラデ…コノ街の奴等ヲ皆殺シニシテヤル!』
背中に生えていた翼を羽ばたかせると《ヴァンパイア》は空高くに飛んでいく。
そして、レンドベルを一望できる高さにまで来ると、両手を胸の所まで持って来て、巨大な光弾を形成していく。
レンドベルごと他の奴等も消す気かよ…!
崩壊した民家から抜け出した俺とキリヤは空高くで巨大な光弾を形成している《ヴァンパイア》を見上げながら、口を開いた。
「…おい、麻生。まだやれるか?」
「あぁ…。こんな所で寝てられない…! アレがこの街に落ちたら…」
「間違いなくこの街ごと全てが滅ぶ」
「そんな事…させない!」
「だよなァッ!」
俺は《フォトン・ウイング》、キリヤは《ダークネス・ウイング》をそれぞれ発動する。
「キリヤ…」
「あ? 何だよ?」
「…俺はお前を仲間とも相棒とも思っていない」
「…奇遇だな。俺もテメェが目障りだ」
皮肉を言い合いながらも俺達は視線を合わせる。
しかし、本当に嫌そうな顔をせず、その顔には笑みを浮かんでいる。
「俺は奴という不可能を可能に変える為に…!」
「俺は奴の腐った常識を塗り替える為に…!」
戦う目的が違えども、俺達の倒すべく敵は同じ…だからこそ、同時に叫ぶ。
「「アイツを…ぶっ倒す‼︎」」
勢い良く地面を蹴り、空高く飛んだ俺達は光弾を形成しつつある《ヴァンパイア》に挑んだ…。
空高く飛んだ《ヴァンパイア》に気づいたメリル達も如何すべきかを考えていた。
「アレは…《ヴァンパイア》…!」
「まさか、サシェスという男か…⁉︎」
《ヴァンパイア》の正体がサシェスだと見抜いたウィーズ。
奴の形成している光弾を見て、彼女達もマズイ状況だと判断している。
「あんなバカでかいモンを打ち込まれたら終わりだぞ!」
「だったら、俺達が…!」
俺達が戦う、というグレンの言葉を遮った者がいた…。
「待ってください! アレは…!」
メリルが《ヴァンパイア》に接近する二つの影を発見し、驚く。
そんな彼女に釣られて、マギウス達も目を凝らして、《ヴァンパイア》に接近する二つの影を見る。
そう…俺とキリヤだ。
「アルトさん!」
「キリヤ…!」
本来ならば敵対している二人が共通の敵を前に力を合わせ、挑んでいる状況を見て、アナトスは驚き、メリルは喜んだ…。
《ヴァンパイア》に接近した俺とキリヤはそれぞれの武器を構える。
『貴様等…マダ足掻クツモリカ…!』
「胸糞悪いテメェをぶっ飛ばすだけだ!」
「サシェス…! お前に生命は消させはしない!」
『黙れェッ!』
形成途中の光弾を破裂させると、無数の小さな光弾となり、俺達に降り注いだ。
『フハハハッ! 避ケレバ、街ニ直撃する光弾の雨…貴様等では防ぐコトナド出来ナイ!』
「ケッ…学がない男は虚しいだけだな…。防がずども…消滅させれば、イイだけだろうがァッ! 《空間歪曲》!」
俺達に降り注ぐ無数の光弾…それに向けて、キリヤが手を翳すと目の前の空間が歪曲し、全ての光弾を吸い込み、消滅させた。
歪曲した空間は元に戻り、先程の光弾がまるで初めから無かったように見えた。
次に俺が奴に接近し、エンゼッターで斬り掛かる。
だが、《ヴァンパイア》は光の剣を出現させて、攻撃を防いだ。
『無駄だ! 麻生 アルト!』
「無駄かどうかは…俺が決める!」
《閃光》を発動し、光の速さで光の剣の防御を掻い潜り、《ヴァンパイア》を何度も斬り刻んだ。
「オマケだ!」
ダメージを受ける《ヴァンパイア》に向けて、キリヤは両銃を二発ずつ発砲し、四発の弾丸は一つに合体し、奴に襲いかかる。
俺は奴を蹴り飛ばし、弾丸は奴に直撃しそうになったが…。
間一髪、上空へ飛び、避けられる。
「悪いが…それは追尾弾だ」
『何ッ…⁉︎』
キリヤの宣言通り、放った弾丸は方向を変え、まるで追尾する様に《ヴァンパイア》に襲いかかる。
それでも尚、飛ぶ速度を速め、空高く逃げようとする。
それを読んでいた俺は奴の上を取った。
「喰らえッ…!」
エネルギーを込めた銃撃を一発放つ。
あまりの速度で上昇していた《ヴァンパイア》は避ける事が出来ず、銃撃を受け、更に追尾して来た弾丸も奴の身体を貫く。
「麻生!」
「終わらせる…!」
エンゼッターの剣身に炎を纏わせ、《ファイアスラッシュ》を発動し、奴を縦に勢い良く真っ二つに斬り裂いた…。
『ギャアアアアッ⁉︎』
剣身に纏っていた炎が斬り裂いた時に《ヴァンパイア》を燃やし、奴は炎に包まれ悲鳴を上げる。
真っ二つとなった奴の肉体は炎により、塵となる…。
そのはずだった…。
『フハハハハハッ! 無駄ダト言ッタハズダ!』
何と真っ二つとなったはずの奴の肉体は元に戻り、燃え盛っていた炎も掻き消された。
そして、炎が消えたその場には傷や焼き跡一つない《ヴァンパイア》の姿があった。
「無傷だと…⁉︎」
「手応えはあったはず…!」
『確カニ…貴様等ハ一度、俺ヲ倒シタ…。シカシ、俺ハ…吸血鬼トシテノチカラを手ニ入レタノダ!ツマリ…!』
「不死身だってのかよ…!」
「バケモンが…!」
『今度ハコチラの番ダァッ‼︎』
《ヴァンパイア》の周りに複数の光の刃が現れ、それはまるで雨の様に凄まじい速さで俺達に降り注ぎ…俺達は防ぐ事も避ける事も出来ず…複数の光の刃の餌食となった。
身体の至る所に光の刃が突き刺さり、そのまま力を失った俺達の身体は翼を失い、地面に落下してしまった…。




