倒す覚悟、救う覚悟
突如として、現れた二人の男…。
男二人はマスクド・ジェッターを吹き飛ばし、スノウを捕らえていた。
「お前等…スノウを離せ!」
スノウを話す様に叫んだが一向に話そうとしない。
捕らえている手を強めながら、彼の首筋にナイフを当てている。
だが、何故スノウは抵抗しないんだ…?
いや、抵抗をしようとはしている…。
だが、動けずにいる。
……麻痺かッ…!
先程攻撃された時に麻痺で痺れているのかよ…!
「断る。…この男はいい素材だからな。さてと…改めて、麻生 アルト。初めましてだな?私はサシェス・イグネクト…。こちらは相棒のノーム・バースだ」
名前を名乗って来たサシェスという男は真っ直ぐ俺を見ている。
だが、その瞳には殺意が篭っている事を俺は見逃さない。
すると今度はノームという男が口を開く。
「貴様の活躍は知っている。以前、我々の仲間である絶対終焉を潰してくれたからな」
…!
やはり、奴等は絶対終焉は繋がっていたのか…!
「お前にこれ以上目立たれると我々が困る。…我々の計画の遂行の妨げとなるからな」
計画…?
我々という事はまだ仲間が…⁉︎
「お前等にはまだ仲間がいるのか⁉︎」
「あぁ。だが、答える事は出来ないがな」
コイツの狙いは…俺…?
だが、何故スノウがいい素材となるんだ…⁉︎
「俺を消したいなら、直接俺を殺しに来ればいいだろ!」
「それではつまらん。…貴様は力で屈するより、心を潰した方が手っ取り早いからな」
心を…潰すだと…⁉︎
戸惑う俺を見て、サシェスとノームはケラケラ、と笑う。
そして、サシェスが懐からある物を取り出した。
それは俺ももう見慣れてしまった〈モンスタードラッグ〉だった。
「この薬を飲んでしまえば、人間はたちまちモンスターと化してしまう…。それはわかっているな?」
「今からお前の大切な友人であるこの男にこれを飲ませてやる」
「…!」
サシェス達の言葉を聞いて、捕らえられているスノウや俺達は目を見開く。
まさか、スノウをモンスター化させて、俺を襲わせるつもりか…!
「ほら、飲め!」
「グッ…! ウゥッ…!」
スノウをサシェスが抑え、ノームが彼の口に〈モンスタードラッグ〉を押し込んでいく。
そんな物は飲むまい、と彼も口を閉じ、抵抗している。
「スノウ! やめろォォォォッ‼︎」
抵抗しているスノウを助け出そうと動き出した俺だったが、身体の動きが止まってしまう。
「な…に…⁉︎」
動かそうとしても動かせない…!
何故だ⁉︎、と再びサシェス達を見るとノームが地面に両手をついていた。
「《シャドウチェイン》…。悪いが影の鎖で貴様の動きを封じさせてもらった。さて…頼むぞ、サシェス」
「わかっている…。フンッ!」
ノームの目配りに頷いたサシェスは抵抗しているスノウの腹を殴りつける。
「ガハッ…⁉︎ ウグッ…⁉︎」
腹を殴られ、思わず口を開けてしまい、〈モンスタードラッグ〉を口にねじ込まれてしまう。
今度はサシェスに口を開けない様に顎を抑えられ、固定され、飲み込ませようとする。
だが、スノウも必死に抵抗する。
何とか彼を助けようと力を込めるが、身体は未だ動かない…。
「やめろ…! やめろ!」
叫ぶ事しか出来ない自分を悔やみながらも俺は声を上げ続ける。
「ククク…大切な友人が目の前でモンスターとなる様を見ているがいい」
その光景を黙って見続けていた夕暮がゆっくりと身体を震わせて、怒りの表情を見せる。
戦いの邪魔をされた事…。そして、奴等の行動に腹を立てた事による怒りだった。
「テメェ等…胸糞悪い事しやがって…ブッ殺す‼︎」
右手の銃を構え、発砲しようとした彼の動きも止まってしまう。
ノームの仕業か…!
「グッ…テ、メェ等…!」
俺と同じく夕暮も抵抗の意志を見せるが、動けない。
そんな俺達を尻目にサシェス達はスノウの口に入れた〈モンスタードラッグ〉を飲ませようとする。
彼の抵抗も虚しく、攻撃を与えられ続け、限界が来たのか、彼は飲み込んでしまった…。
ゴクリ、と飲み込む瞬間、スノウと目を合わせてしまう。
その瞳にすまない、という言葉が込められていたのがわかる。
〈モンスタードラッグ〉を飲み込んでしまったスノウを見て、サシェス達は彼から離れる。
すると、スノウは身体を抱きながら、苦しみ出した。
「ガァッ…! グゥゥゥッ…! アァァァッ…!」
「スノウ…!」
内側から紫の光が現れ、スノウを包み込んでいく。
その光が消えると、そこには黒の兜と鎧を着込み、顔は悪魔のモンスターの様になってしまったスノウの姿が現れた…。
『グオオオオオオッ‼︎』
黒の騎士の雄叫びに辺りに振動が起きる。
中には耳を抑えたり、それだけで気絶する者もいた。
「《ブラックナイト》…!マジかよ…!」
スノウが変化したモンスターには夕暮も表情を強める。
何故なら高難易度ダンジョンで現れる《ブラックナイト》だからだ…。
雄叫びを上げた後、《ブラックナイト》は俺に襲い掛かって来た。
ノームの技能の影響で動けなくなっている俺は防ぐ事も避ける事も出来ずにいたが、そのブラックナイトの動きをマスクド・ジェッターが封じた。
「やめるんだ! スノウ君! モンスターの心に負けるな!」
《ブラックナイト》に必死に訴えかけるマスクド・ジェッター。
しかし、《ブラックナイト》は掴んでいたマスクド・ジェッターの腕を強引に引き離し、彼を蹴り飛ばした。
「マスクド・ジェッター!」
彼は地面に叩きつけられ、その場に倒れてしまう。
『グオアアアアアッ‼︎』
動ける様になった《ブラックナイト》は再び雄叫びを上げ、視線を周りのバリアに向ける。
そして、バリアに飛びかかり、持っていたレイピアで何度も突き刺す。
バリアの硬度も相当な物のはずだが、徐々にヒビが入っていき…呆気なく破壊されてしまった…。
「マズイ…!」
このままでは、客達に被害が…!
バリアが破られた事で客達も恐怖に包まれ、逃げ始めている。
しかし、その逃げ惑う客達の悲鳴に反応したのか、《ブラックナイト》はレイピアに力を込め、斬撃を放った。
斬撃はまだ避難が完了していない、客席に向かっていく。
動けないので俺はある人物の名を叫んだ。
「メリルゥッ‼︎ みんなを守れェッ‼︎!」
「はい!」
俺の言葉に返事をしたメリルは《ピッグバリア》を張った。
斬撃はメリルの張った《ビッグバリア》に衝突する。
だが、そこまでの威力ではなかったのか、そのまま斬撃はかき消された…。
『ゴアアアアアアッ‼︎』
「ッ…! 待て、スノウ!」
《ブラックナイト》は雄叫びを上げながら、スタジアムを飛び去ろうとする。
《ブラックナイト》を止めるく、叫んだ俺だが、奴はスタジアムを飛び去ってしまった…。
「ククク、麻生 アルト。あの黒騎士を倒さなければ、街に被害が出るぞ?」
「…まあ、倒せれば、の話だがな」
ククク、と不敵な笑みを浮かべながら、サシェスとノームは消えた…。
それにより、俺達も動ける様になった。
「…チッ、案の定面倒な事になったな。…おい、麻生。力貸せ」
力を貸す…?
「あの野郎共をブッ潰す。そして、あの黒い騎士も止める。手ェ貸してやるからお前も手を貸せ」
《ブラックナイト》…いや、スノウとも戦う覚悟を決めているってワケか…。
俺は力を失い、その場に両膝をついた。
「…なぁ、モンスター化した人間を倒すとその人間はどうなるんだ?」
俺の問いに夕暮はは?、と言った顔で見てくる。
「今更何聞いてんだよ? …モンスター化した奴等を倒した末路なんて、お前も腐る程知ってんじゃねえのかよ?」
…そうだ。知っているはずだ…。
モンスター化した人間を倒すと、モンスターと同じ様に消滅してしまう。
何人も見てきたはずだ。
それなのにどうして俺はそんな質問を夕暮に…?
「…俺は、スノウを倒せない…。アイツを殺す事なんて、出来ない…!」
大切な友人を手にかける事は出来ない…。
そう口にすると夕暮はケッ!、と笑った後、俺の胸ぐらを掴んだ。
「いつまで女々しい事言ってんだよ! じゃあ、何だ? 今まで消してきたモンスター化した人間は躊躇なく殺してきたのに友人がなったら、殺さないってか⁉︎ 今まで消してきた奴等はどうでもいいってか⁉︎」
「そ、そんな事…!」
「いいか、言ってやる。アイツを止めなければ、他の奴等が死ぬ事になる! それはアイツに人殺しをさせちまうって事だ! テメェはそれでいいのか? 大切なダチなんだろ⁉︎ ダチなら…アイツを解放してやれ!」
解放…?
「倒すって事は殺す事だけじゃねえ…。今奴は苦しんでる。アイツを倒して、それを解放してやるのが、テメェの役目なんじゃねえのか⁉︎」
夕暮…。
やるしか…ない…!
スノウをこれ以上…苦しめるワケにはいかない…!
「わかった…! スノウは俺が止める…!」
夕暮の腕を掴み、胸ぐらから離させた。
そして、俺は彼を真っ直ぐ見て、ある事を頼む事にした。
「…その前に夕暮、頼みがある」
「あ?」
「俺を殴れ。気合入れねえとスノウを前にした時、また迷っちまいそうなんだよ」
その言葉を聞いた夕暮はヘッ、と笑う。
「なら…容赦なく行くぜェッ!」
彼の言葉通り、容赦なく頬を殴られた。
ボコン!、という音が鳴り、俺は地面に倒れ込んだ。
殴られた部分で口を切り、手で拭いながら、俺は立ち上がった。
「目ェ覚めたぜ…。改めて、力貸してくれ! キリヤ!」
「…今回限りだ」
こうして俺とキリヤの二人は《ブラックナイト》が飛び去った先をキッと睨み、手を組む事となった…。




