レンドベル闘技大会Dブロックと動き出す悪意
客室では、メリル達が俺の勝利を喜んでいた。
「勝った!アルトさんが勝ちましたよ!」
「ったくよ、ヒヤヒヤさせやがって…」
我が身を囮にさせる作戦にマギウスは溜息を吐く。
「あの戦法はマスターの十八番」
「それを間近で見る仲間の立場としては、やはりヒヤヒヤしますよ」
後で言い聞かせないと、とモニターに映る俺を見るルル。
そんな彼女にメリルは苦笑するしかなかった…。
「これで決勝でキリヤと戦う事になるわね」
「はい。…アルトさんは負けません!」
「そうかしら?あの時に苦戦していたのに、勝てるのかしら?」
暫く睨み合ったメリルとアナトスだったが、フン!、とお互いに顔を逸らした。
その二人を見て、本当は仲が良いのではないかと、カイリは心の中でツッコミを入れる。
「まあ、まずは…Dブロックだな!」
マギウスの言葉で彼女達は再び、モニターに目を向けた。
「っ…?」
しかし、アナトスはある事に気が付き、立ち上がった。
「アナトス?何処かへ行くのですか?」
「…これ以上見ても仕方ないから」
そう呟き、アナトスは歩き去った…。
「随分と冷たい子ね」
「…?」
歩き去るアナトスの背中を不思議に思いつつ、メリルは首を傾げた…。
気がつくと俺は控え室に戻って来ていた…。
辺りを見渡し、戻ってきたのだと思っているとグレンとスノウに声をかけられる。
「よっ、お疲れ!」
「良い戦いだったよ、アルト」
素直に褒められた為、サンキュー!、と返すとディムガルトとモルターも来た。
「あ〜、クソ!俺もお前さんと戦いたかったぜ!」
「ヒヒヒ、まだ我は戦える可能性がある」
そう言えば、Cブロックはモルターと…。
「うむ。おめでとうと言おう!アルト君!」
マスクド・ジェッターは仮面越しの笑顔で俺の肩を叩く。
「ありがとな!」
「…アルト君」
不意に声をかけられ、振り返るとルーク隊長がいた。
「私の我が儘を聞いてくれて感謝する。お陰で良い気分転換となった。敗北は悔しいが…頑張ってくれ!」
差し出された手を見て、俺もクスリ、と笑い彼と握手をした。
「はい!ルーク隊長の分まで戦い抜きます!」
俺の言葉を聞いて、よく言った!、と笑顔で返してきて、手を離した…。
『Dブロック参加の選手は準備を整え、来てください!』
係員が控え室に入って来て、スピーカーを使い、案内する。
それに従い、Dブロックの参加選手達は控え室を後にしていく。
「それでは私達も行こう!」
「ヒヒヒ、そうだな」
Dブロックに参加するモルターとマスクド・ジェッターも動き出そうとする。
「負けんじゃねえぞ、モルターの旦那」
「マスクド・ジェッターも頑張ってください!」
ディムガルトとスノウの声援に頷いた二人は控え室を後にした…。
控室から少し離れたコロシアムのトイレでは、夕暮が通信機で連絡を取っていた…。
「…何?それは本当か?」
通信相手の話に驚き、彼は聞き返す。
そして、尚も話を聞き続ける。
「やはり、奴等はこの大会を狙っているのか…」
思い通り、と軽く息を吐く。
その表情は面倒だな、とでも言わんばかりだった。
「…わかった。癪に触るがアイツにも伝えておいてやる。…あぁ、わかった」
通信を切った夕暮はまた溜息を吐く。
「邪魔される前に…言っておくか」
通信機をズボンのポケットに入れ、彼は控え室に向かった…。
Dブロックの参加選手の説明が終わり、戦いが始まった。
モルターは鎌で敵を斬り裂いて行き、マスクド・ジェッターも徒手空拳で相手を殴り飛ばしていた。
マスクド・ジェッターの戦い…ますます正義のヒーローだな…。
ジャンプからのパンチとか、正しくな。
対するモルターもまるで死神の如く、身体を揺らしながら動いている。
これは…モルターとマスクド・ジェッターのどちらかの勝利になりそうだな。
グレン達とモルター達の戦いをモニター越しに観戦している俺の下に夕暮が歩み寄って来る。
その表情はいつになく険しかった。
「…麻生、顔貸せ」
彼の真剣の雰囲気に俺は思わず、頷き、彼と共に控え室を出て、暗がりの廊下で話をする。
「それで何だよ?」
「お前等がこの街に来たのは、〈モンスタードラッグ〉とかいう腐った薬を調べる為だろう?」
知っていたのかよ…。
「調べるというより、それを調べようとしている騎士の依頼で来た…ってな感じだな」
「流石は便利屋ギルドだな。…実はアナトスが今さっき、〈モンスタードラッグ〉を売り払っていた男を見つけた様だ」
「何だと…⁉︎」
商人が居たってのか…⁉︎
「力尽くで問い詰めようとしたが、毒薬を自ら飲んで、死んじまったみたいだ。ハッ、我が身を犠牲にしてまで守り通したいのかねぇ、その腐った薬は…」
結局の所、情報は得られなかったって事か…。
「だが、奴等は間違いなく、この大会で何かをしでかす可能性がある。…商人からその薬を買った客か…それとも商人の仲間か…」
どちらにしても…スタジアムに集まっているみんなが危険だという事か…!
「或いは…」
「ん?何だよ?」
夕暮の考える仕草に俺は尋ねるが、何でもない、と仕草をやめる。
「兎に角、お前も顔が割れてるかも知れねえ。変に刺激はするなよ」
「…わかった。ってか、お前達も調べてくれていたんだな」
「…勘違いするな。あの腐った薬が面倒で消したいだけだ」
夕暮…。
「だが、今は決勝戦までは行う。テメェとのケリもつけねえといけねえからな」
「…当たり前だ!」
俺は夕暮と共に控え室に戻ると、残り時間三分となり、モルターとマスクド・ジェッターが戦っていた。
モルターの鎌の連撃をヒラリ、と避けていき、マスクド・ジェッターは彼に接近する。
「《ジェッターナックル》!」
「グフゥッ…⁉︎」
「《ジェッターアッパー!》」
強力な一撃がモルターの腹に決まり、さらに彼を上空に打ち上げた。
それと同時にマスクド・ジェッターもモルター以上に飛び上がり、空中で縦に回転し、かかと落としの態勢に入る。
「《マスクドォォ…ヒールダウゥゥゥンッ‼︎》」
エネルギーを込めたかかと落としがモルターに決まり、彼は地面に叩きつけられ、それと同時に消滅した…。
そして、戦闘終了のアナウンスが流れる。
『Dブロック、勝者は…マスクド・ジェッター選手!』
観客達から歓声が聞こえる。
これにより、A、B、C、Dのブロックの勝者が決まった。
『さあ、次はいよいよ決勝戦だ!Aブロックの勝者、夕暮 キリヤ選手!Bブロックの勝者、スノウ・クローゼル選手!Cブロックの勝者、麻生 アルト選手!Dブロックの勝者、マスクド・ジェッター選手!この四人による…バトルロイヤルだぁっ!』
モニターに夕暮、スノウ、俺、マスクド・ジェッターが映り出す。
…ついに決勝戦…負けるワケにはいかないな…!
俺は拳を強く握り、決勝戦への決意を固めた…。
ーーコロシアム内のある暗がりでは、街の暗がりで話をしていた。
「…商人の男が何者かに感づかれ、自害を図ったようだ」
「ならば、情報は漏れていないな」
「だが、安心は出来ない。この大会に騎士達がうろついている…。それに…」
男二人は情報機のモニターに目をやる。
そこには俺…麻生 アルトが映し出されていた。
「絶対終焉の計画を邪魔した男…」
「無職冒険者、麻生 アルト…。奴は危険分子となりかねない。われわれの計画の為…そして、この力を与えて頂いたあの方々の為…失敗は許されない」
「奴を潰す手立てはあるのか?」
「…何、奴は仲間や友人を大切にしている。…奴を潰す素材がある。身も心も潰す良い素材がな」
ククク、と二人は笑いながら、その場を後にする。
男の一人が持つ情報機のモニターには…俺の友人、スノウ・クローゼルが映っていた…。




