VSセイラ・グルント
セイラ・グルントは歯を食いしばり、俺を憎らしそうに睨む。
まさか、無職でレベルの低い俺に男達が負けるとも思ってもいなかったのだろう。すると、突然、睨むのをやめてクスリ、と笑い出す。
「レベルが低くても、負けないって事ね。いい勉強になったわ」
笑みを浮かべていた表情はゆっくりと険しく変化させていく。
「ならば、アタシも教えてあげましょうかねぇ…。圧倒的なレベルの差を!」
薙刀を握り締めながら、セイラ・グルントは勢い良く俺に向けて、突っ込んで来た。
流石に素手は無理だと、俺はメタルソードを鞘から抜き、薙刀による横斬りを防ぐ。
だが、セイラ・グルントは手を休めず、俺に何度も薙刀を打ち込んでくる。
俺はそれをかわしつつ、メタルソードで防ぐ。しかし、受けた時の衝撃が大きかったのか、俺の身体は後方へ弾き飛ばされる。
だが、両足で地面を引きずり、動きを止め、視線をセイラ・グルントに戻す。
確か、セイラ・グルントのレベルは30ぐらいあるはず。
…対する俺のレベルは11…流石に差があり過ぎるか。
どう彼女に一撃を与えるかを考えていたが、既に彼女が目の前まで詰めて来たのを見て、俺はリボルバーガンを取り出し、三発発砲する。
だが、銃弾は薙刀の剣身に当たり、弾かれていく。
いや、タイミングは今だ…!
俺はセイラ・グルントの懐に入り、《スラッシュ》で薙刀を弾く。
「ッ…!」
「ウオォリャァァッ!」
右足を勢い良く踏み込み、彼女の脇腹目掛け、《パワースラッシュ》でメタルソードを振るう。
メタルソードの剣身は見事にセイラ・グルントの脇腹を捉え、彼女は衝撃のあまり、吹き飛んだ。吹き飛んだ彼女は受け身を取り、薙刀を構え直す。
そして、衝撃を受けた脇腹を摩りながら、俺を見ながら、ニヤリ、と笑う。
「ざ〜んねん!」
何が残念なのかは俺は理解している。
「鎧で防がれたか」
流石はレベル30…。俺の武器など鎧だけで防げるのか。
「でも、鎧がなかったら危なかったのは事実ね…。それじゃあ、お返しと行くわよ!」
そう叫んだセイラ・グルントは地面を蹴り、俺に急接近する。
そして、先程とは見間違うほどのスピードで薙刀を振るう。そのスピードに俺は避ける事は出来ず、メタルソードで防ぎ続ける。
ガキン! ガキン! という金属同士がぶつかり合う音がフィーリン森林中に響く。
メタルソードと薙刀のぶつかりは火花を散らし、俺の手にも相当な衝撃が襲う。
そして、その衝撃に耐えられなくなり、メタルソードは手から弾かれ…薙刀で斬り飛ばされた…。
俺の身体は後方へ吹き飛ばされ、木にぶつかる。
木にぶつかった衝撃に俺は口から血を吐く。身体にも薙刀で斬られた傷が薄く見え、血が流れている。
メリルとガルナの俺を心配する声が聞こえ、俺は立ち上がろうとしたが…。セイラ・グルントが既に俺の目の前にいて、俺を見下ろしていた。
「随分頑張ったわね。その頑張りは褒めてあげるわ。…でも、これで終わりよ!」
俺の腹に目掛け、セイラ・グルントは薙刀の先端を突き刺した…。
「ガハッ…⁉︎」
刃物を身体に突き刺された痛み…どうにかなってしまいそうだ。突き刺された薙刀を伝って、俺の血がポタポタ、と地面に落ちる。
これにはメリルとガルナの表情は凍った。その光景にセイラ・グルントは勝利を悟り、高らかに笑う。
「アーハハハハハッ! 関係ないのに首を突っ込むからそうなるのよ!」
「ア、アルト…君…!」
両手を地面につき、ガルナは目に涙を浮かべる。
「私の…私の所為で…!」
「そう、アンタの所為でコイツは死ぬ…。それをよく見てなさい!アハハハッ!」
いい加減耳障りな笑い方だな…。
俺も思惑にも気付いてないくせしてな。
「クク…クククッ…!」
突然、俺が堪え気味に笑ったのを見て、メリルは笑顔になり、ガルナはゆっくりと顔を上に上げ、驚く。
それはセイラ・グルントも同じで、気でも狂ったのか、という表情で俺を見る。
「…あらあら。死ぬ瞬間で頭でもおかしくなったのかしら?」
「あぁ…。あまりにも勝ち誇ったアンタの顔がおかしくてな。勝ち誇るのは…相手の死を完全に把握してからだぜ」
「な、何を…⁉︎」
困惑するセイラ・グルントに俺は説明をしてやる。
「今の俺では確かにアンタに勝つ事は難しい…。でも、アンタの武器なら、アンタを倒す事が出来る」
「ッ…⁉︎」
「もう遅えよ!」
俺の思惑に気づいたのか、薙刀を俺の身体から抜こうとしたが、俺は薙刀を力強く握りしめ、それを支えにセイラ・グルントに蹴りを浴びせた。
蹴られた事で、彼女は薙刀を手放してしまう。
そして、俺はゆっくりと立ち上がり…。
「グッ…アアアァァァッ‼︎」
身体に刺されていた薙刀を勢い良く、引き抜いた。薙刀が引き抜かれた事で辺りに血が飛び散る。
俺は息を荒げながら、ニィッと笑い、視線を少しガルナに移す。
俺への視線に気づいたガルナは少し首を傾げたが、俺の意図が理解できたのか、軽く頷いた。
「ア、アンタ…正気なの⁉︎」
「正気の正気さ…。これでアンタにもダメージを与えられる。…さあ、第二ラウンドの始まりだ!」
薙刀を構え、姿勢を低くする。すると、セイラ・グルントも懐からナイフを出し、構える。
「もういいわ。今度は容赦なく殺してやる!」
彼女の叫び声を開始の合図として、俺と彼女は一斉に地面を蹴り、走り出す。
そして、お互い、通りすがった…。薙刀とナイフを突き出した状態で…。
暫くの沈黙が俺達を包んだ。
…しかし、ドサリと音を立て、俺は膝をついた。
足にはナイフによって斬り裂かれたであろう斬り傷があった。俺が膝をついたのを確認したセイラ・グルントはニヤリ、と笑う。
「ほらねぇ。慣れてない武器で戦うからそうなるのよ。さあ、今度こそ死になさい!」
「…アンタに忠告するぜ。俺は1人じゃない」
「な、何を…?」
苦し紛れの言いワケ? と少し困惑するセイラ・グルント。
「もう一つ忠告…背後には御用心だ」
俺のもう一つの忠告…これを聞いた彼女は勢い良く振り返った。
…もう遅えよ。
彼女が振り返った先には大型ランスを構えて突進してくるガルナの姿があった。
「い、いつの間に⁉︎」
セイラ・グルントは防御の体制に入ろうとしたが、間に合わず…。
「終わりだ!」
俺の呟きと同時に、ガルナの大型ランスによる突きを受けたセイラ・グルントは大きく吹き飛び、木に激突した。
傷つく俺をメリルが支えるとガルナが駆け寄って来た。
「アルト君、大丈夫⁉︎」
「騒がなくても、大丈夫だって。…痛っ!」
嘘です、めちゃくちゃ痛いです。
「貴方は無茶をして…」
呆れた顔で息を吐くメリル。彼女はすぐさまヒールを使おうとしたその時だった。
木に激突し、気を失ったと思っていたセイラ・グルントがガルナに向けて走ってきていた。
ナイフを握り締め…。
咄嗟の事でガルナは防御に間に合いそうにない。俺も受けすぎたダメージの所為で、動けない。
「ガルナ!」
このままでは、ガルナが…!
そう思っていた俺達…だが、ナイフがガルナの身体に突き刺さる直前、何処かから斬撃の様なモノが放たれ、その斬撃はセイラ・グルントを捉えて、それを受けた彼女は大きく吹き飛び、地面に叩きつけられ、今度こそ、気を失った。
俺達は斬撃を放った者を見ると、そこには冒険者支援施設の中を窓の外から覗いていた緑髪の男がいた。
その男はフッ、と笑い、剣を鞘に収める。
「騎士として、助太刀に来たけど…既に終わっていた様だね」
騎士…。
なるほど、騎士か…。
緑髪の騎士の男を見た途端、俺の意識は薄れていく。視界が歪み、ゆっくりと倒れる。
気を失う前に一言…。
「来るの、遅えよ…騎、士…さんよ…」
そのまま俺は意識を失った。
「アルト君…⁉︎」
「アルトさん…! そんな…。アルトさぁぁぁぁん‼︎」
メリルの叫び声がフィーリン森林中に響いた…。