大会開幕
ーー翌日。
宿屋を出た俺達はスタジアムに向かっていた…。
「そう言えば、アルト。大会の内容とか聞いたのか?」
「ん?あぁ、一応ウィーズから連絡が来て、内容は聞いた。大会では体力制の戦いをするみたいなんだ」
「体力制?」
体力制という言葉が分からず、首を傾げるアイムにメリルが答える。
「その人が戦える…言わば、活動ゲージの様な物です。アルトさんの前世の世界ではバトルゲームなどでよく扱われていて、ヒットポイントとも呼ばれています」
ルルが仲間になって、昨夜の宿屋で彼女には俺が転移者でメリルが女神だという事を話した。
最初は戸惑っていた彼女だったが、スンナリと受け入れてくれた。
これで俺達の正体を話しているのはメンバー以外にヴェイグ、ガルナ、カイリ、グレンの四人だ。
四人も戸惑いはしたが、受け入れてくれた。
「じゃあ、その体力…?ってのがなくなったら負けって事なのか?」
「そうみたいだ。大会では体力がコンディションブレスで表示される様なアーマーを着込んで、闘う様だ」
「だから、銃や魔法の使用も有りなのですね」
まあ、実際銃なんてモノがあれば瞬殺だからな…。
「…あれ?アルト?」
メリル達と大会について話していると聞き慣れた声が聞こえたので、足を止めて振り返るとそこにはカイリがいた。
「カイリじゃないか!どうしてここにいるんだ?」
「それはこっちの台詞だよ。私は情報屋として大会の優勝者の情報を得る為に見に来たのよ。お姉ちゃんは別件があるからこれないけど」
何だ、しっかりと情報屋として頑張ってんだな。
「アルトは大会に出るの?」
「あぁ、まあ一応な」
「そう。じゃあ贔屓しない程度に応援してあげるわ」
応援している時点で贔屓してると思うのですが…。
そして、カイリの視線はメリル達に向く。
「貴女達がアルトの仲間ね」
「アルトさん、この方は?」
そう言えば、メリル達はカイリに会うのは初めてか。
「彼女はカイリ・シリング。元盗賊紛いで今は情報屋だ」
「ちょっ⁉︎もう盗賊紛いって、言わないでよ!」
古傷を抉られているのか、慌てた様に訂正して、と言ってくるカイリ。
「…シリング?」
カイリの名前を聞いて、ある事に気がついたアイムが問いかける。
「そう。カイリはガルナの妹だ」
「えっ⁉︎ガルナさんに妹がいたのですか⁉︎」
「ええ、そうよ。よろしくね、女神様♪」
…しまった。
「え、ええっ⁉︎どうして私が女神という事を⁉︎……ま、まさか…アルトさん…?」
メリルに説明し忘れた…。
ジト目で俺を睨んでくるメリルに俺は視線を外しながら答える。
「い、一応…カイリにも俺達の正体を話した」
「…勝手に言われるのは不快なのですが…」
「わ、悪かったよ!でも、大丈夫だ!カイリは信用出来る!俺が保証するからよ!」
必死に謝っていると、メリルは呆れた様に深いため息をつき、クスリ、と笑った。
「もう、わかりましたよ。ですが、これからは私にも一言くださいね?」
「わかった」
メリルの言葉に俺は頷き、事なきを得た。
「ふふっ、アルトの言う通りいい人達ね。何か欲しい情報があったら言ってね。お姉ちゃんがいない時なら、安く教えるから」
姉と正反対だな…。
ガルナが聞いたら、絶対に怒るだろうけどな。
「助かります、カイリさん」
「じゃあ、私は客席に行くわ。頑張ってね、アルト!」
「おう!」
拳をぶつけ合った後、カイリはスタジアムの客席へ、俺達は参加者入口まで足を進めた。
入口の前にはウィーズが数人の兵士を引き連れて、立っていた。
「やあ、アルト。昨夜はゆっくりと眠れたかい?」
「いつも通りだ。快適といえば快適だったぜ」
冗談交じりにそう呟くとウィーズも大丈夫だね、と軽い笑いで返してくる。
「依頼とは言いつつも君はこの大会の参加者だ。警戒しつつ、一参加者として、楽しんでくれ」
「そうさせてもらう。何しろ、強敵と戦えるチャンスだからな。…腕を上げるのも試すのも出来るからよ」
ニヤリ、と笑みを見せる俺。
依頼とはわかっていても、男として…冒険者として、この大会は楽しみで仕方がない。
「…君も一人の男という事か。いつか、君と本気の剣を交えたいと思ってきたよ」
「俺もだ」
「…では、この一件が終わり、落ち着いたら、私との勝負…受けてくれるかい?」
「勿論だ!」
ウィーズと頷き合った俺にメリル達が声をかけてきた。
大会に対してのエールだろう。
「アルトさん、頑張ってください!」
「応援してる」
「可能の星の代表なんだ。格好悪い姿見せんなよ!」
「お気をつけてください。アルトさんの勝利を信じています!」
「おう!ありがとうな、みんな!」
メリル、アイム、マギウス、ルルの順に俺に対してエールが贈られ、俺は力強く頷いた。
「行ってくる!」
その言葉を最後に俺はスタジアム内へと入った…。
マギウスの言う通り、ギルドを代表して出ているんだ。
情け無い姿は見せられないな!
控え室の前で大会用のアーマーを貰い、第一回戦のブロックを教えられた。
第一回戦はA、B、C、Dの四つのブロックに分かれるみたいだ。
ちなみに俺のブロックはCブロックだ。
控室に入ると既に中には沢山のプレイヤーがいる。
相当でかい控室だからな…。
軽く百人以上は居るだろう。
そして、どいつもこいつも強者って感じだな。
…名の知れた冒険者や戦士も沢山いる。
これは一筋縄ではいかないぞ。
だが、やはり楽しみになってきたぜ…!
「…お?アルトか⁉︎」
…この聞くだけで暑苦しくなる声は…。
「…グレン?」
そう、紅蓮烈火のリーダー、グレンだ。
「何だよ!お前も大会に参加するのかよ!言ってくれよな!」
「俺の場合、急遽決まったんだから、仕方ないだろ。…って事はお前も出るんだな」
「おう!お前はCブロックだよな?俺はBブロックだから、戦うのは決勝戦だな!」
…決勝戦?
そう言えば、大会の詳しい内容を聞き忘れたな。
「そう言えば、第一回戦の内容って、何なんだ?」
「…聞いてなかったのかよ…」
呆れた様に溜息を吐いたグレンは俺に説明を始めた。
「第一回戦はそれぞれ四ブロックに分かれて、制限時間までに敵を倒した数を競うんだ」
「制限時間までに敵を倒した数?」
「ああ。制限時間は三十分。その間に敵を倒しまくって、倒した数が一番多い奴が決勝戦に上がれるんだ」
ほう、つまり…敵を倒す速さが重要ってワケか。
「倒された奴はどうなるんだ?」
「体力がゼロになった参加者は三分後に開始地点に戻されて、再スタートするんだ。勿論、倒した数とかは減らないぜ」
成る程。体力がゼロになって倒されても巻き返す事は可能なのか。
「倒されたら、倒された分時間ロスするって事か…」
「そう。まあ、簡単に言うと、いかに倒されずに時間内に敵を多く倒せるか試されるってワケだ。そんで決勝戦は四ブロックの勝者四人が戦うバトルロワイヤルになるんだ」
それは面白くなってきたな。
「成る程。説明ありがとな、グレン!」
「おう!…ってなワケで、俺と当たる前に負けるんじゃねえぞ!」
「そっちこそ!」
「俺を誰だと思ってんだよ?そして、優勝は俺がもらうぜ!」
「それは聞き捨てならないね」
自信満々にガッツポーズを見せてくるグレンの言葉に対し、反論する声が聞こえる。
それも聞いた事のある声だ。
「優勝するのは僕だよ」
和かな笑顔を見せて、現れたのはスノウだった。
「誰だよ、お前?」
「スノウじゃねえか」
「やあ、アルト!昨日ぶりだね」
そうか、用ってのはこの大会に出る事だったのか。
「用事って、この大会に出る事だったんだな」
「そうさ。まさか、キミも参加していたとは…。昨日の騎士団の件と何か、関係があるのかな?」
「その通りだぜ。まあ、依頼以前にお前にも負けるつもりはないぜ」
「フッ、僕の台詞だよ。君とは戦ってみたかったんだよ」
スノウもやる気満々みたいだな。
グレンもスノウも強敵だ…こりゃ、本気出さないと簡単に負けちまうな。
「おい!俺を忘れんじゃねえぞ!」
「これは失礼したね。僕はスノウ・クローゼル。ソロの冒険者だ」
「お前ソロなのか!俺はグレン・アビス。ギルド、紅蓮烈火のリーダーだ!」
お互いに自己紹介をして、二人は握手をした。
「紅蓮烈火?有名なギルドじゃないか!アルトの前にそんな大物と戦えるとはね!楽しみになってきたよ」
「ほぉ、もう勝った気でいやがるのか。悪いが、アルトと戦うのは俺だぜ?」
「いいや、僕だ」
あのさ…ライバルを見つけた様に睨み合うのは勝手なんだが、俺も決勝に上がるつもりではいるが、ハードル上げないで貰えます?
物凄いプレッシャー何だが…。
「だから、アルト」
「俺達とぶつかる前に負けんなよ!」
「だから、プレッシャーかけるなっての!」
プレッシャーをかけてくる二人にツッコミを入れる。
「おいおい兄ちゃん達!」
「ヒヒヒ…黙って聞いていれば、聞き捨てならねえな」
二人の男が俺達に話しかけて来た。
一人は黒い鉢巻を巻き、もう一人は奇妙な骸骨の仮面を付けていた。
「誰だ?」
「鉢巻を巻いている人はアサシン風冒険者のディムガルト・スティング、骸骨の仮面を付けている彼は黒き髑髏の死神、モルター・ヴァスティ。どちらも強力な冒険者だよ」
スノウの説明に俺とグレンは再び、ディムガルトとモルターを見る。
「兄ちゃんだろ?便利屋ギルドを建て上げた無職冒険者ってのは」
「え、あ、はい!麻生 アルトです!」
「ディムガルト・スティングだ。よろしくな!」
「ヒヒ、モルター・ヴァスティ」
ディムガルトに手を差し出され、俺は握手をした。
「突然、話しかけて悪かったな。だが、同じ参加者として、聞き逃せなかったんでな」
「優勝を目指しているのは我々も同じだ」
そうだった。
此処にいる全員が敵…。
それも強敵だらけだったな。
「その通り!そして、私もいる!」
…今度は何だ?
俺達の前にいかにも仮面を付け、橙色の正義のヒーローの様なスーツを着た男が立っていた。
「…今度は誰だ?」
「いや、知らねえな」
「ヒヒヒ、奇妙な格好だな」
嫌、骸骨の仮面を付けてるアンタが言うなよ。
ってか、ディムガルトとモルターも知らないのかよ。
「…彼は…!」
ん?どうやら、スノウには心当たりがあるみたいだな。
「マスクド・ジェッター!」
…は?それが名前か?
「マ、マスクド・ジェッター…?」
「おぉ!君は私の事を知っているのか!そう、私は正義の戦士…マスクドォォ…ジェッタァァァッ‼︎」
……俺は何とコメントを出せばいいんだ?
ほら、見てみろ。
スノウ以外の奴等もポカン、としているじゃねえか。
「凄い!本物のマスクド・ジェッターだ!」
そして、何でお前は目を輝かせているんだ、スノウ。
何だ、ファンなのか?好きなのか?
「お、おいおい、スノウ。盛り上がっているところ悪いが、彼は?」
「彼はマスクド・ジェッター…。盗賊や悪さをするモンスターを退治する正義の戦士だよ!」
…確かに子供が好きそうな見た目と設定だが…。
「マスクド・ジェッター。貴方も大会に参加を?」
「そうだ!更なる正義の為、力を試したくてね」
本業とかけ離れているのは黙っておこうか。
「私はDブロック。つまり、決勝で出会う可能性があるという事だな!」
「ヒヒヒ、我もDだ。悪いが決勝は貰うぜ!」
「俺はAブロックだ!」
まあ、見事に分かれているな。
Aブロックはディムガルト、Bブロックはグレンとスノウ、Cブロックは俺、Dブロックはモルターとマスクド・ジェッター。
この中に決勝で戦う可能性のある奴がいるって事か。
「じゃあ、みんな!負けないでくださいよ!」
「…相変わらず煩い奴だな、お前は」
みんなに負けるなと、声をかけていると、不意に話しかけられる。
その声の方を向くと、俺は表情を険しくさせる。
「夕暮 キリヤ…!」
そう、話しかけて来たのは、以前俺達に襲いかかって来た俺と同じ転移者の夕暮 キリヤだった
「よう、麻生。お前もこの大会に出るとはな」
「それはこっちの台詞だぜ」
嘲笑うかの様な視線を送ってくる奴を俺は睨みつける。
先程までの空気が一変し、ピリピリとした空気にへとなる。
「何なら、此処でケリをつけるか?」
「…いいぜ、やってやるよ!」
俺の言葉を開始宣言になり、俺と夕暮は同時にブレッターと銃を構えた。
「お、おい!やめろ、アルト!」
「何があったかは知らないが、落ち着くんだ、アルト!」
「此処で問題を起こせば、大会に出られなくなるぞ!」
グレン、スノウ、マスクド・ジェッターが俺達を止めようと動き出す。
だが、俺達…嫌、特に俺は聞く耳を持たず、そのまま奴に銃口を突きつけ、睨み続ける。
「へえ、新しい銃を手に入れたのか」
「あぁ。もう簡単にぶっ壊させはしないぜ」
「じゃあ…試してやるよ!」
「望む所だ!」
今にも両方が発砲する勢いだったその時だった。
俺のブレッターと夕暮の銃の間に何者かが入り、それぞれの銃口を掴んだ。
「なっ…⁉︎」
「ッ…⁉︎」
突然の乱入に俺と夕暮だけでなく、グレン達も驚く。
乱入して来た者は昨日俺がスタジアム前で出会った紫ローブだった。
「君達の事情は知らないが、このまま君達が争えば、神聖なる戦いを期待している者達にも迷惑がかかる。その活力は大会開始まで控えさせたらどうだ?」
彼の威圧感に俺と夕暮は圧され、それぞれ武器をしまった。
「…生命拾いしたな、麻生。…俺はAブロックだ。決勝で俺と当たる前に負けない様に精々頑張りやがれ」
ヒラヒラ、と手を振って、夕暮はこの場を去った…。
Aブロック…って事はアイツと戦えるのは決勝戦だけ…!
負けるワケにはいかねえ…!
……それよりも、だ。
俺達を止めてくれた紫ローブの人に礼を言わないとな。
「あの…止めていただき、ありがとうございました!」
「いやいや、落ち着いてくれて良かったよ。君の噂は聞いているよ、麻生 アルト君。私もCブロックだ。良い戦いを期待しているよ」
「はい!」
俺は紫ローブの人と握手をし、名前を尋ねる。
「ところで、お名前は?」
「…ある事情で名前は伏せているんだ。ラースとでも呼んでくれ」
「わかりました!お互い、全力で戦いましょう、ラースさん!」
ラースさんか…。
強敵なのは間違い無いな…!
ラースさんと握手をしていると、スタジアムの係員がスピーカーを使い、俺達に話しかけて来た。
『それでは今から第二十回レンドベル闘技大会を開催します!Aブロックの方々はお並びください!』
その案内を聞いて、ディムガルトが係員の下に向かう。
「じゃあ、頑張ってくるぜ!」
「頑張れよ!」
グレンの応援におう!、と返したディムガルトは係員の下へ歩いて行った…。
そして、俺の横を通り過ぎる様に夕暮が歩き去った。
すれ違う途中、奴が俺を見て、ニヤリ、と笑って来たのは見逃さなかった。
『それでは…只今より、第二十回レンドベル闘技大会、Aブロックを開始します!』
係員の宣言に参加者達の雄叫びがスタジアム内に響き渡った…。




