レンドベル闘技大会
馬車に揺られる事一時間…俺達はレンドベルに着いた。
街の中心にそびえ立つ大きなスタジアムがこの街を決闘が盛んな街という事が本当だと思ってしまう。
馬車から降り、街の中へと入った俺達は辺りを見渡す。
「流石は決闘が盛んな街だな!強そうな奴等が揃ってやがる!」
「暑苦しい人も多い…」
マギウスとアイムのこの街の評価がどうしてここまで違うのか…。
まあ、マギウスの場合、戦闘好きだから、当然と言えば、当然だが…。
「それで、ヴェイグさんがおっしゃっていた騎士の方は何処に?」
「それらしい人は見当たらないね」
メリルとスノウの言葉に俺は再び、辺りを見渡すが、確かにそれらしい人は見当たらない。
集合場所は街の入口付近だったはずだが…。
「…!アルト!」
俺がある気配を感じたのと同時にスノウの声が響き、俺はエンゼッターを引き抜き、気配を感じた方向を見て、エンゼッターで攻撃を受け止めた。
相手も剣による攻撃で斬りかかって来たのでキィン!、という金属同士がぶつかり合う音が響く。
攻撃を仕掛けて来た者を見ると白いフードを被っていたので顔を見る事が出来ない。
白フードは攻撃が与えられないと見て、俺から距離を取る。
そして、相手を睨み、エンゼッターの剣先を奴に向ける。
俺に続いて、メリル達やスノウも戦闘態勢を取る。
「いきなり斬りかかって来るなんて、穏やかじゃねえな?」
「…君は一体何者だ?」
スノウの問いに白フードはフードを脱ぐと白髪に紫の瞳の青年が見える。
それも服装は騎士団の服装だ。
「申し訳ない。ヴェイグ殿が高く評価する方を私も見定めたくて、斬りかかってしまった」
和かな笑顔を見せる青年を見て、俺達は武器を収める。
「…アンタがヴェイグの言っていた騎士隊長か?」
「ああ。第四騎士隊騎士隊長、ウィーズ・ニカイアだ。よろしく頼む、アルト殿」
「あ、ああ」
俺はウィーズと握手をする。
「それで、俺の腕を見たアンタの感想は?」
「悪くはないな。反射的にも私の存在と気配に気付いていた。騎士団に入団すれば、間違いなく騎士隊長レベルにまで這い上がれるよ」
随分な過大評価だな…。
冒険者で切羽詰まったら、考えてもいいかもな…。
いや、これはこれでメリル達に怒られそうだし、やめておくか。
「悪いが、性格上冒険者の方が俺にはしっくり来ているんだ。騎士団に入団するつもりはないよ」
「そうか、残念だ」
そんな他愛もない話をしていた俺達だが、そこにスノウが割って入った。
「アルト、すまないが僕はここで失礼するよ。用を早く済ませたいのでね」
「そうか。今日はありがとな、スノウ!また何処かで会えたらその時はよろしくな」
「こちらこそ」
スノウと握手して、笑い合った後、彼は歩き去って行った。
「では、アルト殿。本題に入りたいのだが…」
「ヴィーズ、俺は騎士隊長であるアンタと対等に接したいんだ。だから、殿はやめてくれ」
「…わかった。では、アルトと呼ばせてもらう」
俺達はウィーズに連れられ、騎士団の基地へ招かれた。
席に座り、本題の話に入る。
「それで…この街で〈モンスタードラッグ〉の目撃情報があったんだよな?」
「目撃情報というよりも出回っている頻度がこの街が異様に多いらしい。現にこの街に来た戦士達の何人かが、力の欲しさに〈モンスタードラッグ〉に手を出してしまっている様だ」
…やはり、力の欲しさに手を出す奴らが出て来たか…。
危惧していたから情報を拡散しなかったが逆に仇に出たか…?
「〈モンスタードラッグ〉をばら撒いている奴の目星はついているの?」
「すまない…それはまだだ」
アイムの問いにウィーズは悔しそうに顔をしかめる。
そう簡単にはいかないってワケか。
「話を聞こうにもモンスター化しちまった奴等を倒すとモンスター同様に消滅しちまうからな…」
「説得出来れば良いのですが…」
「それは無理な話だぜ、メリル」
「え?」
モンスター化してしまった〈モンスタードラッグ〉の使用者わ、説得して元に戻せられる事が出来れば〈モンスタードラッグ〉の情報を手に入れる事も出来、モンスター化してしまった人間を殺す事もない。
だが、それは出来ないと俺は首を横に振るとメリルは小首を傾げ、問いかけて来る。
「これは仮定の話だが、恐らく〈モンスタードラッグ〉の使用者はそれを使用すると怒りや恨み…つまり、負の感情が増大され、我をわすれ、言葉通り、中身までモンスター化してしまうんだと思う」
「…確かに私に振られた時のアルガルトさんは私やアルトさんに対して、憎しみを膨大化させて、口調もまるで狂戦士と化していましたね…」
絶対終焉のシュウやシャルルは兎も角、アルガルトは確実に怒り狂っていた…。
アイツが貴族の息子だと言われても耳を疑うまでにな。
「それは我々も把握している。現に君達が来るまでに三体のモンスター化してしまった人間と戦闘を行っているが…どれも人間とは思えない雄叫びや声を上げていた」
…やはり、モンスター化には中身までモンスターと化してしまう副作用があるのかも知れない…。
使用し続ければ、いずれ使用者は…!
「…って事は、使用者が〈モンスタードラッグ〉を使用し続けちまえば…!」
「…使用者は完全なモンスターとなってしまう…」
「そ、そんな…!」
元々、恐ろしい薬だと危惧はしていたが、改めて、全容を知ろうとすると、ヤバイ物だな…。
「これは一刻も早く、〈モンスタードラッグ〉を使っている奴を暴き出さないといけないな」
「ああ。そこで、アルト…君に頼みがあるんだ」
…頼み?
ウィーズの真剣な顔つきでただ事ではないとは思うが…。
「明日、この街のスタジアムで第二十回レンドベル闘技大会が開かれるんだ」
「大会?」
二十回もやっているとなると余程人気の大会なんだな。
「ああ。参加者が四百人程いるこの街の名物大会だ。…君にはこの大会に参加して欲しい」
大会に参加か…。
だが、ただ参加して欲しいとは考えにくい…。
何があるのか…?
「どうしてアルトさんにその大会に出て欲しいのですか?」
「…これも探った情報なのだが…〈モンスタードラッグ〉をばら撒いている奴等がその大会で暗躍しる可能性があるんだ」
…確かに参加者で四百人、観戦者も沢山いるこの大会は奴等の格好の餌場だな。
「で、でも…そこに集まる人達が必ずしも負の感情を持っているとは考えにくいですが…」
メリルの言う事は最もだ。
だが、〈モンスタードラッグ〉にはまだ謎が多い。
何故なら…。
「〈モンスタードラッグ〉にはまだ謎が多い。…もしかすれば使用者の感情とは関係なく、負の感情に呑まれる可能性も考えられる」
「それに、使用者の意図と関わらずに無理矢理飲まされて、モンスター化してしまうかもしれない」
俺とウィーズの仮定の話にメリル達は恐怖の表情を覗かせる。
…それに《モンスタードラッグ》に使用者を意のままに操れる効力もあったとすれば…手がつけられなくなる。
「…わかった。その大会に出る」
「感謝するよ。出来るだけの援護はこちらでするよ。後、大会へのエントリーもこちらで済ませておく」
「了解。…大会は明日だよな?だったら、今日は準備に徹するか」
席を立った俺に続いて、メリル達も立ち上がる。
「大会の開催は明日の朝9時からだ。遅れずに」
「早起きは得意なんだ。…兎に角、〈モンスタードラッグ〉について何かわかったら、教えてくれ」
「勿論だ。では、また明日。今日はゆっくり休んでくれ」
「おう」
そう言い残し、俺達は騎士団基地を後にする。
そして、俺達は街へ繰り出していた。
準備と言ってもこれと言った物を用意する必要がないので、俺達はそれぞれ、街を堪能する事になった。
メリルとアイム、ルルは買い物をしている。
…荷物持ちでマギウス付だが…。
俺はと言うと〈モンスタードラッグ〉の取引で使われるであろう街の暗がりなどを捜索した後、スタジアムを下見に来ていた。
スタジアムの前まで着くと俺と同じく、スタジアムを眺めている紫ローブの人間が立っていた。
…嫌、怪しさ満点なんだが…。
紫ローブが俺に気付いたのか、顔をこちらに向ける。
「おう、少年!お前さんもスタジアムの下見か?」
「ええ、まあ…。貴方もですか?」
「その通りだ。…って事はお前さん、明日の大会に出るのか?」
「はい、出ますよ。その口ぶりですと貴方も出るのですか?」
俺の問いに紫ローブは頷く。
…ってか、何処かで聞いた声だな…。
「あのー…何処かで会った事がありますか?」
意を決して、尋ねてみると、えっ⁉︎、と素っ頓狂な声を上げる。
「い、いや…は、初めてだぞ!」
…嫌々、突然焦りだしたぞ、この人…。
俺がジト目で紫ローブを睨みつけていると、彼は何かを思い出したかの様に顔をあげる。
「そうだ!俺は用事があったんだ!じゃあ、少年!明日の大会で会おう!では、さらばだ!」
…っと、逃げ去る様に早足で去って行った…。
まあ、いいか…。
数時間後、ウィーズ達騎士団が手配してくれた宿屋に集まり、それぞれの部屋で休む事になった。
部屋でエンゼッターやブレッターの手入れをしているとドアをノックする音が聞こえる。
「はい?」
「アルトさん。ルルです」
ルル…?
こんな時間に何だ…?
エンゼッターとブレッターを机に置き、俺は扉を開くと、寝巻き姿のルルさんがいた。
「どうしたんだ、ルル?こんな時間に?」
「す、少し…お話がしたくて…」
頬を赤らめながら言うんじゃない。
誰かに見られると怪しまれるでしょうが。
ルルを部屋に入れて、俺は紅茶を入れ、彼女に差し出した。
「それで?話って何だ?」
「…私の依頼を受けてくれた事、まだお礼を言っていなかったので…ありがとうございました!」
何だ、そんな事か…。
「ルルが困ってたからな。知り合いとして同然だって。…まあ、今は仲間だけどな」
「…お父さんは私が小さい頃、よく言ってくれたんです。"お前にはいずれお父さんよりも信じられる男の人が現れる"…と。今日、アルトさんとデートをして、改めてわかりました。…それがアルトさん何だと」
信じられる人、か…。
だから、ルルの父さんは俺にルルを託したのか。
「…そう言ってくれて、嬉しいが、俺はそこまでの男じゃねえよ」
「アルトさんはいつも自分を卑下していますが、私もメリルさん達も貴方には感謝しているのですよ」
そっと、ルルは俺の手に自らの手を置いてきた。
「ですから、アルトさんがアルトさん自身をどう思っていても私は貴方が素晴らしい人だと思っていますよ」
和かに笑うルルを見て、俺もフッ、と笑うが同時に心に痛みが生じる。
紅茶を飲み干したルルはゆっくりと立ち上がり、ドア付近まで移動する。
「では、失礼します。今日はありがとうございました。これからもよろしくお願いします!」
「おう。こちらこそよろしくな!」
俺の言葉を聞いて、ルルは部屋を後にした…。
ルルを見送った後、俺は机の上に置かれていたエンゼッターとブレッターを見つめ、手に取った。
「違うんだよ…。俺は素晴らしい人間なんかじゃない。大切な存在一人守れない…人殺しなんだ…!」
俺以外誰もいない部屋で俺はそう呟き、エンゼッターを強く握り締めた…。
今の俺の表情はかつての自分の行いを悔いるかの様に唇を噛み、悔しそうな表情だった…。




