心の中の想い
静かに意識を取り戻す俺…。
確か俺は…カイリを庇って、《ポイズンスコーピオン》の尾で貫かれたんだったな…。
だが、身体に痛みはない…。
それなのに身体が動かない…?
金縛りか…とも思ったが、俺の隣に眠る人物を見る。
「…何だ、この状況…?」
その人物…カイリが俺を強く抱き締めながら、寝ていたのだ。
何とか、彼女を引き離そうとした俺だが、彼女の目元に薄らと浮かぶ涙を見て、俺は引き離すのをやめた。
…取り敢えず、傷も癒えて、毒も浄化されている…。
だが、毒の浄化はどうしたんだ…?
そう思いながら、周囲を見渡すと水滴の音が聞こえ、そちらへ視線を向けると水滴が長い年月落ちていたのか、少しの水たまりを作っていた。
「あの水は…?」
俺は抱き締められている為、少し動いて、コンディションブレスで目の前の水を調べた。
…秘水…?
そうか、カイリはこれで俺の毒を浄化してくれたのか…。
俺はそっと彼女の頭を撫でると、うぅん…と、声を上げながら、彼女はゆっくりと目を覚ました。
「アルト…起きた…って、え⁉︎」
今の状況を見て、カイリは顔を真っ赤にさせる。
何故なら、俺とカイリの顔の位置が近すぎる為だ。
「あ、あ…!」
「おう、おはよう!カイリ!」
「う、うん!おはよう!」
顔を真っ赤にさせながら、自身を落ち着かせる様にカイリは立ち上がった。
「だ、大丈夫なの、アルト?」
「ああ。何とかな。…助けてくれたのはカイリだろ?ありがとな」
感謝の言葉を口にしながら、俺も立ち上がった。
しかし、カイリは何かを思い出したのか、さらに顔を赤くさせる。
「…ん?どうかしたのか?」
「な、何でもないよ!」
手を振りながら、何もないと、告げるカイリ。
「…さてと、早く上に上がる手段を探さないとな…」
「ねえ、アルト…」
突然、服の裾を引っ張られて俺は振り返った。
振り返った先に俯いているカイリの姿があった。
「ごめんなさい…。私の所為で貴方が傷ついてしまって…」
俺がカイリを庇った時の事か…。
「気にするなよ。俺がそうしたいと思っただけなんだからよ。…それにお前は俺を助けてくれたじゃねえか。それでおあいこだよ」
「でも…私が油断したから…!お姉ちゃんだったら、こんな事は起こらなかった…だから…!」
「バカ」
「痛っ…⁉︎」
ガルナだったら、油断しなかった…。
そう口にする彼女の頭に軽いチョップを浴びせた。
「な、何を…⁉︎」
突然のチョップに困惑したカイリはチョップを受けた箇所を抑えながら目を見開く。
「お前はお前…カイリ・シリングだろ?」
紛れもなく姉であるガルナではなく、彼女はカイリだ。
その人物が他人になる事は絶対にできない。
「…実はね。私は良くお姉ちゃんと比較されていたの…。周りの人やお父さんもお母さんも…」
それを聞いて俺に少し怒りが込み上げてきた。
まわりの人間はともかく、実の両親まで彼女とガルナを比較するとは…。
「私は必死に頑張ったんだ。お姉ちゃんを越える為に…必死に努力したの。…でも、誰も評価してくれなかった…。誰も私をカイリ・シリングとして見てくれなかった…。私はみんなからガルナ・シリングの妹でしか見てくれなかったの…」
「…」
「でも…そんな私を評価してくれたのがお姉ちゃんだった…。最初はバカにされたと思っていたわ。…でも、お姉ちゃんは本当に私の事を評価してくれたの。…私の努力を認めてくれたの…。お姉ちゃんだけが…私を理解してくれていたの…」
両手をギュッと握り、カイリはそう告げた。
悲しそうな表情をしている彼女…。
そうか…信じられる人物がガルナしかいなかったんだな…。
「…俺もいる」
「えっ…?」
「辛い時…もし、ガルナに言えない事があった時は俺に言えばいい」
笑みを浮かべながら、俺は彼女の頭を撫でた。
「アルト…」
「俺はお前の過去を知らない…。だから、どれだけの量の努力をしたのかもな。…でも、必死に努力してきたのは伝わって来たんだ。だから、俺はお前を支えたい。お前が辛い時は味方になってあげたいんだ」
これはお世辞とかではなく、本心だ。
彼女が努力してきたのは出会った時からわかっていた。
俺は誰かと比較された事はないから、そこは強く言う事が出来ない。
…でも、誰かを越えようとは思った事はあるんだ。
それでも越える相手の存在が大きすぎて、周りからの評価が得られない時がある。
…だからこそ、さらに努力していくんだ。
しかし、それは努力していく事で肉体にも疲れが見え始める。
それを支えてやりたいんだ。
「…今までよく頑張ったな、カイリ。もう我慢する事ない。…泣きたい時は俺が胸を貸してやるからよ」
彼女の頭を撫でていると彼女の目から大量の涙が流れてきた。
「アルト…!うぅ…!うわぁぁぁぁぁん‼︎」
溜め込みを解消出来るのがガルナしかいなかったのか、カイリは顔を俺の胸に埋めて、泣き出した。
俺はゆっくりと優しく、彼女の頭を撫で、宥めた…。
人間というのは例え、異世界でも脆いものだ。
だから、こうして稀に溜め込んだモノを吐き出さないと、壊れちまう…。
今、カイリも俺が男だからとか関係なく、顔を埋め、泣きまくった…。
数分後、彼女は泣き止んだのか、顔を離した。
「ありがとう…。もう、大丈夫」
「そっか!じゃあ、上へと続く道を探すぞ!」
「ええ!」
彼女の満面な笑顔を見て、もう吹っ切れたんだなと俺は思い、微笑んだ。
暫く、彼女と探索していると奥に上へと続く階段を見つけた。
「アルト、あれ!」
「ああ。これで洞窟探索に戻れるな」
笑い合った俺達は階段を登った…。
そして、上へと上がると…。
「カイリィィッ!」
目元に涙を浮かべ、飛び込んできたガルナの姿が見えた。
彼女は勢い良くカイリに抱きつき、何度も安否を確認する。
「大丈夫だった⁉︎怪我してない⁉︎アルト君に何もされていない⁉︎」
「オイコラ!お前は俺をどう思ってんだよ⁉︎」
全く…また男は獣とかいうアレか。
「大丈夫だよ、お姉ちゃん。アルトは優しくしてくれたから!」
「おい、待て!その言い方は誤解を生むだろ⁉︎」
「アルト君…私の妹に何したの⁉︎」
ほら、見た事か!こうなるだろ!
「何もしてねえよ!」
「うん。特には…。頭を撫でられただけだよ!」
「おいだからお前…!」
頭を撫でられたというカイリの言葉を聞いて、ガルナはジト目で俺を睨む。
「アルト君〜?」
「ご、誤解だって!」
俺は何とか、誤解を解こうと話をした…。
その後、何とか誤解を解き、今いる場所を見渡す。
「それにしても…此処は?洞窟のどの付近なんだ?」
「ここは洞窟の最深部よ。私はあの後、襲い掛かってきた鎧を全て倒して、ここにたどり着いたのよ」
幽霊やアンデッド嫌いのガルナがよく一人で頑張ったな。
「最深部?…じゃあ、ここの何処かにパール鉱石が…」
パール鉱石を探そうと俺が動き出そうとしたが、何故か、ガルナがフフン、と得意げに笑う。
「これな〜んだ?」
ガルナが見せてきたのは、ピンク色の鉱石だった。
まさかこれが…!
「これが…パール鉱石か?」
「ええ、そうよ!」
「成る程。確かに綺麗な…って…」
輝くパール鉱石を眺め、手に取ろうとしたが、俺が手に取る前にカイリがガルナの手からパール鉱石を取った。
「凄い!本当に綺麗ね!」
目を輝かせて、パール鉱石を眺めるカイリに俺とガルナは目を見合わせて苦笑した。
まあ、何はともあれ、目的は達成したんだ。
俺達は洞窟から抜け出した…。




