ジョブ無しの実力
俺達と赤毛の女性が睨み合っていると、女性の後から複数人の男が木の影から出てくる。
「な、何なんですか、貴女達は⁉︎」
睨み合っていた俺達だが、メリルが口を開き、問いただし始めた。彼女の問いに女性が答えようとしたが、その前に俺が口を開く。
「盗賊ギルド盗獣の牙のリーダー…セイラ・グルントさんだな?」
俺の言葉にセイラ・グルントはニヤリ、と笑い、手を叩いた。
「ご名答! 初心者君のくせによく知っているのね!」
「生憎と、そこの無知と違って、情報を得ているんだよ」
親指でメリルを差すと彼女はムッとした顔でこちらを見るが、軽く流す。
「…で? 他の冒険者からアイテムを奪う事で有名な盗賊ギルドさんが俺達の様な初心者に何の用だ?」
「アンタと金髪ちゃんには興味はないの。…あるのは…アンタよ!」
ビシッと指を刺した方向にはガルナがいた。
「久しぶりね、セイラ・グルント。私にどういった御用なの?」
…どうやら、知り合いの様だな。
「忘れたとは言わせないわよ! アンタの情報の所為でアタシの仲間の何人かは捕まったのだからね!」
セイラ・グルントの言葉を聞き、口を閉じ、ガルナは彼女を睨む。
「…」
「ガルナさんの情報の所為で…?」
「そうよ! コイツが騎士団にアタシ達の情報を流した所為なのよ!」
険しい表情でセイラ・グルントはガルナを睨み続ける。それに臆する事なく、ガルナも睨み続ける。
「そ、そんな! 悪い事をしていたのは貴女達ではないですか!」
メリルの言う事は最もだ。
罪を犯した盗獣の牙を捕まえる為に情報を騎士団に渡したガルナの判断は間違いではない。
だが、情報を流された本人はたまったもんじゃない。アイツらはそれに腹を立てているってワケか…。
「だから、今日こそ…アンタに復讐を果たす!」
セイラの叫びに呼応する様に後ろの男達が前に出て、それぞれの武器を構える。
それを見たガルナも大型ランスを構え、俺達に視線を移す。
「巻き込んでしまって、ごめんなさいね。ここは私に任せて、貴方達はイズルリの街へ戻って」
コイツ…俺達には迷惑をかけないつもりか。
「そ、そんな! 私達も戦います!」
「貴方達には関係ない事よ! …私がアイツ等に攻撃を仕掛けたら、逃げて!」
そう言い残し、ガルナは駆け出し、男達に突っ込んだ。大型ランスを振るい、男達の1人を吹き飛ばす。
あの男達…少なくともレベル20はある。レベルが上であるガルナといえど、あの数では無謀に近い。
…だが、そんなアイツは出会って間もない俺達を逃がそうとしてくれた。
そもそも放っておく気などさらさらねえよ!
大型ランスを振るって、複数の男達相手に奮闘するガルナ。だが、男の1人にナイフで足下を斬られ、体制を崩された所で蹴りを入れられ、地面に転がった。
すぐさま立ち上がろうとしたが、何故かガルナは立ち上がらなかった…。嫌、立ち上がれないのであった。
「こ、これは…! 麻痺…⁉︎」
あのナイフに麻痺を付属させていたのか。盗賊達がよくやる手口だ。
「戦いというのは先を考えてするモノよ、ガルナさん? …さて、動けない身体で一方的に痛めつけてやりなさい!」
これでは麻痺ポーションを取り出すのも間に合わない。
そんな彼女に容赦せず、男達が一斉に襲いかかった。
…俺が既にガルナと奴等の間に入っていた事も知らずに…。
俺は《パワーパンチ》で先頭の男を殴り飛ばし、残る男達をスピンキックで吹き飛ばした。
俺の突然の乱入にはガルナの元に駆けつけたメリル以外の者は驚く。俺に吹き飛ばされ、宙を舞った男達はボトボト、と地面に倒れる。
その男達を見たセイラ・グルントはキッ、と俺を睨む。
「アンタ…!」
「大人数で1人の女に襲いかかるのは格好悪くねえか?」
「貴方達…何で⁉︎」
俺達の乱入に、ガルナは俺とメリルを交互に見て、声を上げた。そんなガルナにメリルは笑顔を作り、俺は答えない。
「アンタ達…関係もないのに邪魔する気?」
「そうよ! これは私達の問題なの…貴方達には関係ないはずよ!」
初めて出会った時の余裕そうな表情とは一変し、俺達を心配している表情でガルナは声を荒げる。
俺達は関係ない、か…。
まあ、普通に考えたら、そうだな…。
…だがな。
「関係ない事あるかよ」
「え…」
「少なくとも今お前は、パーティメンバーだ。仲間なら、関係ない事はない。…つまり、仲間のお前の厄介事は俺達全員の厄介事だ」
俺のその言葉を聞いたガルナは目元に涙を浮かべる。
「待たせたな、セイラ・グルントさんよ。此処からは俺が相手になるぜ」
「カッコいい事を言っているけど…今の状況、わかっているかしら?」
俺が吹き飛ばした男達が立ち上がり、武器を構えていた。
「気を失っていないって事は相当タフなんだな。…いいぜ、来な!」
男達はそれぞれの武器を握り締め、一斉に襲いかかった。
「アルト君!」
ガルナの心配の声が聞こえるが…。
「問題ない!」
ニヤリ、と笑った俺は向かって来た男達を拳だけで殴り飛ばした。
先程とは違い、今度は強めで殴ったのか、数人は気を失っている。
「何っ…⁉︎」
今の光景にメリル以外の者は唖然となる。
「な、何でだよ⁉︎ アイツのレベルは高くないんじゃないのか⁉︎」
「どうしてレベルの高い俺達が押されているんだよ!」
気を失った数人を見て、男達は焦った表情で俺を見た。
「簡単な話さ。レベルが高かろうが…相手の動きを読めれば、勝てない事はないんだよ」
今の世界はレベルの高い人間が強いと思い込んでる…。そんな常識、俺が覆してやるさ。
「な、舐めるなよクソガキがァッ!」
残る男達も恐れずに俺に襲い掛かる。
だから…動きがバレバレ何だよ!
俺は男達の攻撃を交わしていき、技能も使わずに男達を薙ぎ払っていく。
そして、残る1人の顔面に向けて…強力な右ストレートを浴びせ、男達は全員、気を失った。
そんな俺を見るガルナの表情は驚き、セイラ・グルントの表情は恐怖に近いモノであった…。
「ア、アンタ…一体何者なの…⁉︎」
「アンタも言っていただろ? 俺は…無職の初心者さ。さあ、泥棒猫さん…大将戦と行こうじゃねえか!」
本当の戦いは此処からだぜ!