落下した底で
俺は気がつくとある街中にいた…。
それも見慣れた…前世の世界でよく下校した時に通る道だ。
そして俺の隣には幼馴染の女の子がいる。
同じ学校の制服を着て、俺と彼女は一緒に下校している。
彼女…村雨 歌音…。
ずっと一緒にいた幼馴染…そして、俺の初恋の相手だ。
歌音が俺の事をどう思っているかはわからない。
…俺は彼女に自分の想いを伝えられずにいた。
ずっと一緒にいた事が当たり前となり、その当たり前が崩れてしまう…そんな気がしてしまったからだ。
「ねえ、或都?」
帰宅途中、不意に歌音が俺を見て、話しかけてきた。
俺も彼女に視線を合わせ、話を聞く事にする。
「或都ってさ。将来の夢とかあるの?」
将来の夢か…。
ないんだよなぁ、それが。
「ないな。…っていうか、今生きる事に必死すぎて、将来の事なんて考える暇がない」
「えぇ〜?それなら目標とかはないの?ほら、何かしたい事とか!」
「…一日一日を懸命に生きたい」
「…それもうお年寄りが言う事だよ…」
苦笑しながら、溜め息を吐く歌音に逆に尋ねる。
「じゃあ、お前の将来の夢は何なんだよ?」
「うーん…誰かのお嫁さんになる事?」
「それは…将来の夢に…なるのか…?」
お嫁さんになるって…。
まあ、歌音だっていつかは誰かと結婚はするとは思うが…。
「嫌、夢がない人に言われたくないよ」
それは将来の夢とは言い難い、と告げてやるが、不満そうな表情で顔を逸らした。
「それならさ、或都!私が或都の将来の夢を決めてあげる!」
人の将来の夢を勝手に決めるなよ…、と俺は呆れる。
だが、少しはどんな夢を言ってくれるのか、興味はあったので尋ねてみる事にする。
「それで…?どんな夢にしてくれるんだ?」
「うーん…じゃあさ!ずっと…私の事を守ってくれる…とかはどう?」
微かに頬を赤く染め、笑みを浮かべながら、俺の夢の候補を話してくれた。
その彼女の笑みに見惚れてしまった俺は言葉が出なかったが、数秒後に我を取り戻し、問いかける。
「…お前、それって…告白のつもりか?」
告白、その単語を聞いて、歌音はアタフタ、と慌て出す。
「そ、そんなワケないでしょ⁉︎だ、誰が或都に告白なんて…」
「そうだな。こっちだって願い下げだぜ」
顔を逸らしながら、ボソボソ、と呟く歌音。
俺も悪態をつくが、本当は少し嬉しさもあった。
…勿論、冗談だと言う事はわかっているが…。
俺の悪態の言葉を聞き、頬を膨らませ、怒った表情を浮かべた歌音はポカポカ、と俺の右腕を叩く。
正直、全然痛くない。
怒る彼女の頭にポン、と俺は手を置いた。
そんな俺の行動にポカン、となった歌音は俺を見上げる。
その彼女の表情を見て、クスッ、と笑った俺はすぐに口を開く。
「いいぜ」
「え?」
「守ってやるよ。お前の一人や二人…」
我ながら、小恥ずかしい事を言ってしまったので俺は照れを隠す様に顔を逸らしながら言った。
これ以上は限界だと、歌音の頭から手を離そうとするが、彼女に腕を掴まれた。
突然の行動に俺は戸惑うが、彼女は満面の笑顔を向けてきた。
「じゃあ、約束だね!絶対に守ってね!」
小指を突き出してきて、指切りを求めてくる彼女に俺も微笑み、指切りをした。
…守さ。
何があっても、絶対に…。
…だが、その慢心があの事件が起こるきっかけとなったのかもしれない…。
「歌音!」
目の前に血を流し、横たわる歌音の姿があり、俺は彼女を抱き抱えた。
俺の服や手に彼女の血が付着するが、気にせず強く抱きしめ、俺の目から涙が流れる。
「或、都…ごめんね…。守られなくて…でも…或都が必死だったのは…わかっていた、よ」
弱々しくなっていく歌音の声…。
そんな彼女に俺は必死に叫ぶ。
「守られなくてごめんとか言うなよ!…俺だって…!お前を…守れなかった…!守るって約束したのに…!」
「フフ…嬉しい、なぁ…。その気持ちだけで…本当に、嬉しいよ…。大好きな、或都に…こうやって、抱きしめられているし、ね…」
大好きって…!
「ふざけんなよ…!こういうのは男から…俺から言うのが普通だろうが…!俺も…お前が好きだった!愛していたんだよ!」
涙を流しながら、俺の想いを歌音に打ち明かした。
それを聞いた歌音は安心した様な笑みを薄っすらと浮かべる。
「良かったぁ…私達、両思いだったんだね…。或都と一緒に…いれて、楽しかったよ…」
「何言ってんだよ!これからも一緒だ!…まだデートとかも…お前とはやりたい事が沢山あるんだよ!」
「…フフ、私も…だよ…。でもね」
ソッと彼女は涙が流れる俺の頬に手を当てる。
「私の幸せは…愛した或都が沢山幸せになる事…なんだからね」
「…俺の幸せは…お前と一緒に生きる事何だよ!歌音!」
「本当に…或都を好きになって…よかっ…た…」
最後に笑いかけた彼女はそのままゆっくりと目を閉じた…。
その目蓋はもう開かれる事がなかった…。
「お、おい…歌音…?嘘だろ?おい!…死ぬな、歌音!…クソッ…クソッ!」
彼女の…歌音の死を目の当たりにした。
だが、俺はその彼女を救う事もできず、叫ぶことしか出来なかった…。
息を引き取った彼女を強く抱きしめながら、俺は泣き叫んだ…。
歌音を失った悲しさ…自分の無力さの悔しさ…全ての涙を込めながら…。
「アルト!起きて!」
「ッ…⁉︎」
声が聞こえて、俺は目を覚まして勢いよく起き上がった。
…あの時の夢…また見ちまうとはな…。
「カイリ…」
確か俺達は…穴に落ちて…。
そうか、そのまま気を失ってしまったのか。
俺の側には目元に涙を浮かべて、俺を心配していたカイリの姿があった。
心配させちまったみたいだな。
「…ッ!カイリ!」
彼女を泣き止まそうと俺は手を伸ばした…その時、ある気配を感じ、カイリを抱き締めながら、その場を飛んで回避する。
俺達が回避に成功すると同時に俺達がいた場所に何か巨大なモノが突き刺さった。
カイリをお姫様抱っこ状態で抱え、攻撃を仕掛けてきたモノを見る。
そこには紫色の装甲を見に包み、キチキチ、と声を上げながら、こちらを睨みつけていた巨大な蠍座がいた。
「《ポイズンスコーピオン》…⁉︎」
結構な大物が出てきたな…!
「気を付けて、アルト!アイツの装甲はそんじょそこらの攻撃ではダメージを与えられないわ!」
「だったら、装甲を砕く攻撃をすりゃいいんだよ!」
《ポイズンスコーピオン》は尾で俺を突き刺そうとしてきたが、それを回避した俺は《クイックジャンプ》で奴の目の前まで跳躍する。
そのまま《ダイナマイトキック》を奴に浴びせ、浴びせられた蹴りの場所が爆発した。
爆発の蹴りを受け、《ポイズンスコーピオン》の身体は地面にへと倒れる、
しかし、何事もなかった様に立ち上がった。
「へえ…やっぱり、外側からだと難しいな…。カイリ!」
「ええ!グレネード!」
俺の指示が飛び、カイリがグレネードを投げ、《ポイズンスコーピオン》にぶつけると起爆する。
爆発した場所は俺が先ほど、《ダイナマイトキック》をぶつけた場所だった。
「まだまだいくぜ!」
《ウイング》を発動した俺は上空から《斬撃》の雨を奴に浴びせていく。
全て先程と同じ位置にピンポイントにだ…。
カイリもグレネードを同じ位置にぶつけ、起爆させていく。
俺とカイリの連続攻撃を受け続ける《ポイズンスコーピオン》は苛立ったのか、周囲に毒を吐く。
カイリはバックステップでそれを避けたが、俺は毒を浴びてしまう。
まあ、《毒無効化》があるから効かないのだがな。
「効かねえ…ッ…⁉︎」
不意に目眩がして、俺は地面に落下してしまった。
「アルト⁉︎」
落下した俺に気づいたカイリは攻撃を止め、俺の下へ駆け寄った。
「ちょっと!大丈夫なの⁉︎」
「グッ…毒が…効いているだと…⁉︎」
確かに《毒無効化》を持っていたはず…それなのに何故…⁉︎
「…まさか、無効化モンスター…?」
思い出した様にカイリが声を上げると俺は首を傾げながら尋ねた。
「何だよ、その…無効化モンスターってのは?」
「特殊技能の無効化シリーズを無効化するモンスター達よ。…そのモンスター達の攻撃を受ければ、いくら無効化シリーズの特殊技能を持っていたとしても意味がないわ…!それにポーションによる回復も出来ないわ!」
…厄介だな…!
チート対策のモンスターって事かよ…!
俺は状態異常を回復させる《リカバー》で毒を浄化する。
「こりゃ、さっさと終わらせねえとダメだな…!」
幸い、俺達の作戦通りに事が進んでいる。
よく見ると俺達が攻撃をし続けた位置の装甲にヒビが入っていた。
「カイリ!足止め頼むぞ!」
走り出した俺を確認し、カイリも頷いた後に真っ直ぐ《ポイズンスコーピオン》に突っ込んだ。
そんな彼女に狙いを定めて、毒を吐く。
しかし彼女は跳躍して、回避し、空中で二回転した後、水色のグレネードを取り出した。
「凍りなさい!」
奴の足下に水色のグレネード…フリーズグレネードを投げた。
フリーズグレネードは《ポイズンスコーピオン》の足下で起爆し、奴の足下を凍らせた。
それによって、奴は身動きが取れなくなる。
「アルト!お願い!」
「任せろ!」
跳躍した俺は《蹴り技強化》と《飛び蹴り》を発動し、強力な飛び蹴りをヒビが入った奴の装甲に浴びせた。
《飛び蹴り》を受けた事によって奴の装甲は装甲は完全に崩壊する。
苦痛の悲鳴を上げる《ポイズンスコーピオン》は負けじと尾を俺に向ける。
しかし、その隙に俺は崩壊した装甲に《爆発粒子散布》で爆発の粒子を奴の身体の中へと埋め込んだ。
起爆の準備を行う俺に狙いを定めた《ポイズンスコーピオン》は尾を放ってきた。
しかし、俺は冷静にニヤリ、と笑った。
「…遅えよ…!《閃光爆発》!」
技能名の叫びと共に《ポイズンスコーピオン》の身体の内側から爆発した…。
爆散する事なく、煙を上げながら音を立てて、倒れた《ポイズンスコーピオン》。
…内側から仕留めたんだ…。
流石に倒せただろう…。
ふぅ…、と息を吐いた俺の背後からカイリが飛び出してきた。
そして、地面に倒れた《ポイズンスコーピオン》をコンコン、と叩く。
「それにしても本当に硬い装甲ね…。ここまでしてやっと倒せたんだから…。この装甲…幾らか剥いでいけば、高く売れるかも…」
…ここまで来てそれかよ。
本当にレア物が好きだな…。
「おい、カイリ!レア物が好きなのは構わないが、そろそろ上へ戻る手段を…」
上を見上げた後、再び彼女き視線を向けた…。
そこで気がついてしまう。
絶命したと思っていた《ポイズンスコーピオン》が微かに動き、尾をカイリにへと向けている光景を…。
「ッ…!カイリィッ‼︎」
奴は尾を勢い良く、カイリに向けて突き出した。
「…間に合えぇぇッ‼︎」
《クイックジャンプ》でカイリの元まで移動し…彼女を突き飛ばした…。
「え…ア、アル…!」
突然突き飛ばされたと知り、カイリは後方へ飛ばされながらもカイリは俺を見る。
だが、俺を見た瞬間、彼女の目は見開く。
何故なら…。
「ガッ…アァッ…!」
《ポイズンスコーピオン》の尾が俺の身体を貫いていたからだ…。
そして、俺の身体から尾が抜かれ、血が吹き出す。
吹き出る血を見ながら、カイリは絶望的な表情を浮かべ…。
「う、嘘…アルトォォォッ‼︎」
彼女の叫びが洞窟内に響き渡った…。




