夕暮 キリヤ
《イグニッションオーガ》を倒した俺達。
アイムはエルを救出し、俺達は集まる。
「やりましたね、アルトさん!」
「流石はマスター」
メリル、アイムと順にハイタッチをして、マギウスとも拳をぶつけ合った。
「どうやら、助けられちまったみたいだな」
「気にするな」
笑い合う俺達…。
っと、忘れていたぜ。
技能複写をやっておかないとな。
そう思った俺は振り返り、手を翳そうとする。
…だが、振り返ったと同時に俺の表情は驚愕に変わる。
倒したと思っていた《イグニッションオーガ》の瞳が開かれていて、ギロリ、と俺達を睨んでいたのだ。
奴は勢い良く立ち上がり、金棒を俺達に向けて、振り下ろした…。
「しまっ…⁉︎」
予想外の攻撃に俺達は対応が遅れる。
間に合わない…!
誰もがそう思っていたが…。
ーバキュン!
…と言う銃声と共に銃弾が《イグニッションオーガ》の脳天を貫き、奴は今度こそ絶命した…。
音を立てて倒れる《イグニッションオーガ》…。
だが、俺の視線は奴よりも銃弾を放った者へ向いていた…。
「ハァ…ったく。油断大敵って言葉を知らねえのかよ」
現れたのはあの時見た男…キリヤと少女…アナトスだった。
キリヤは呆れた様に溜息を吐き、頭を掻く。
「お前は…あの時の…!」
先に行かせてくれた事を思い出していた俺だが、隣のメリルはキリヤではなく、彼の隣のアナトスを見て、驚愕する。
「あ、貴女は…アナトス…⁉︎」
「…」
彼女の名を口にしたメリルだったが、当の本人は口を開こうとしない。
嫌…明らかにメリルを睨んでいる。
…それも敵意を隠そうとせずにだ。
「ど、どうして貴女がこの世界にいるのですか⁉︎」
この世界…?、と俺達の事情を知らないアイムとマギウスは首を傾げる。
「久しぶりね、メリル。変わらないわね、貴女は…」
「質問に答えてください!どうして貴女がこの世界へ来ているのですか⁉︎」
「…貴女に答える気なんてないわ」
一言…たった一言でメリルの問いを斬り伏せた。
そんな彼女達のやり取りを見て、キリヤは笑う。
「ハハハッ!恨んでいる相手に会ったのはいいが、随分とご挨拶だな、アナトス」
「黙りなさい、キリヤ」
キッ、とキリヤを睨んだアナトスにキリヤはおー、怖い怖い、と口笛を鳴らす。
「メリル、彼女は何者なんだ?」
「彼女はアナトス…。私の同期の女神です」
「女神だと…⁉︎」
あの少女がメリルと同じ、女神だってのか…⁉︎
話に入っていけないアイムとマギウスは困惑しているが、説明している暇はない。
「貴方が麻生 アルトね。私はアナトス。…メリルの言った様に女神よ。そしてこっちが…」
「お前と同じ転移者の夕暮 キリヤだ」
「転移者…⁉︎お前が…⁉︎」
キリヤが転移者だと…⁉︎
「あぁ、そうだ。同じ転移者同士仲良くしていこうぜ!」
ニヤリ、と笑うキリヤ。
だが、その笑みは同等の境遇の者を見つけた時の笑みではなく…。
…笑みの裏に微かな殺意を隠している。
「…お、おい!さっきから何の話をしているんだよ、お前等⁉︎」
「女神に転移者…。それが貴方達なの…?」
この空気に耐えきれず、マギウスとアイムは声を上げた。
俺たちについて説明していない事が此処で仇となったか…!
「何だよ、説明してなかったのか?仲間なのによ」
「ッ…!」
「コイツ等はこの世界の人間じゃねえ。…いや、シーニングはそもそも人間じゃないか」
コイツ…まさか、話す気か…⁉︎
「どう言う意味?」
「メリル・シーニングは女神で…麻生 アルトはソイツによって、この世界へ来た転移者なんだよ」
キリヤの話を聞き、アイムとマギウスは驚愕した様にこちらへ視線を移す。
「そして、俺達もソイツ等と同じ、転移者と女神ってワケだ」
それを聞き、二人は俺達とキリヤ達を交互に見る。
「それよりもあの鬼の技能を貰わなくていいのか?」
技能複写の事を言っているのか…?
「お前、技能複写の事まで…!」
知っているなら話す必要はなく、俺は絶命した《イグニッションオーガ》に手を翳し、技能複写を発動すると、頭の中に文字が刻まれる。
〈特殊技能《爆発粒子散布》《大爆発》を獲得〉
〈技能《付近爆発》 《閃光爆発》《ダイナマイトナックル》《ダイナマイトキック》を獲得〉
新たな技能を入手した事を確認し終えた俺はキリヤを見る。
「どうやら、終わったみたいだな。…次は俺だな」
そう言うとキリヤは右腕から紫色の獣の様な口を出し、《イグニッションオーガ》の死体を捕食し、飲み込む。
紫色の獣の様な口はキリヤの右腕へ戻ると、《イグニッションオーガ》の死体は消えていた。
軽く息を吐いたキリヤは口を開く。
「…爆発系の技能が多いな。…まあ、当然か」
何…だと…⁉︎
奴はまさか、俺と同じく技能を…⁉︎
「お、お前も技能複写を…⁉︎」
お前も技能複写を使えるのか…?
そう質問した俺にキリヤは呆れる様に溜息を吐いた。
「お前の様な貰う、だけの技能と一緒にするな。俺の力は…技能捕食だ。その名の通り、喰らった相手の技能を得る事が出来る。…使い勝手はお前のと同じだがな」
技能捕食…。
相手の技能を複写するのではなく、喰らうするのか…!
「さて…無駄話はこれぐらいにして…。実はな、俺達はお前等を消すよう、依頼されているんだよ」
俺達を消す様に依頼されたと、衝撃的な言葉に俺達は驚く。
先程の殺気はやはり、これの事だったのか…!
「俺達を消すだと…⁉︎」
「…誰に依頼されたのですか?」
「…答えるとでも思っているの?」
「…ならば、力尽くで聞き出します!」
相手が動く前にメリルの《ウインドカッター》が炸裂するが、アナトスも《ウインドカッター》を発動し、風の刃同士がぶつかり合い、爆風を生む。
爆風に耐える俺達だが、メリルは止まらずに様々な技能を放つ。
「メリル!」
「手を出さないでください!彼女だけは私が…!」
彼女を心配し、俺が声をかけるが、邪魔をするな、とだけ言われる。
そうじゃない…!俺が心配しているのは、珍しく彼女が冷静さを失い、怒りに満ちている事だ。
闇雲に技能を連発している様に見える。
「メリル!闇雲に技能を撃ってもダメだ!少しは落ち着け!」
「集中したいので黙っていてください!」
今まで俺に黙れと叫んだ事のない彼女が声を荒げて言い返してきた。
アイツ…全く、聞く耳を持っていねえ…!
メリルとアナトスの戦いを横目にキリヤもニヤリ、と笑う。
「邪魔するなとよ…。じゃあ、俺達も始めるとするか!」
その叫びと共にキリヤが剣で斬りかかってきた。
咄嗟の攻撃だったが、エンゼッターで何とか防いだ。
「やめろ…!転移者の俺達同士が戦う必要なんてないだろ!」
「必要なんて気にしていたら、この世界で生きていけねえぞ!」
「グッ…⁉︎」
隙を突き、俺を蹴り飛ばす。
「来いよ!戦わねえとお前が死んじまうだけだぞ!」
剣を振るってくるキリヤ。
奴の剣は荒々しいが、鋭く隙がない。
キリヤの攻撃を防ぎつつ、横目でメリル達を見る。
技能の使い過ぎか、メリルは肩で息をしていた。
そして、アナトスの《スプラッシュ》を防ぐ事が出来ず、吹き飛ばされてしまう。
「…うっ…!」
吹き飛ばされ、地面に倒されるメリルにアナトスは近づき、そんな彼女を見下ろしながら、《ファイアボール》の構えを取る。
「…無様ね。やはり、貴女は無能な女神…。貴女なんて本当の女神などになれるはずないのよ」
「ッ…!」
アナトスの冷たい言葉を聞き、メリルは俯いてしまう。
…もう、我慢出来ねえ…!
俺はキリヤを蹴り飛ばし、アナトスに向けて、斬撃を放った。
何とか回避した彼女だが、斬撃は彼女の頬を掠め、そこから少量の血が流れる。
「…貴方…!」
血を拭いながら、俺を睨みつける彼女。
しかし、俺はメリルを守る様に立ち塞がった。
「メリルが無能だと…?お前がコイツの何を知ってんだよ!メリルは誰よりも努力して…誰よりも傷ついても誰かを守る為に戦ってくれる…。勇気のある女神なんだよ!」
「アルト、さん…!」
「メリルの努力を知らねえお前が、コイツをバカにする権利なんてねえ!」
アナトスの目を見て、言い放つ。
対する彼女はクッ、と歯を食いしばり、再び、《ファイアボール》の体制に入るが、それをキリヤが止めた。
「おいおい。落ち着けよ、アナトス」
「キリヤ…だけど!」
「おい、麻生。…俺との決着がまだだろうが!」
決着をつける、と奴は背中に白き翼を出した。
《ウイング》か…!
「こっちだって、負けるつもりはねえ!最初から全力だ!」
対する俺は《フォトン・ウイング》を出し、俺とキリヤは上空へ飛ぶ。
そして、空中で何度も剣をぶつけ合った。
「ははっ!口だけじゃない様だな!」
「当たり前…」
当たり前だ!、と言う言葉と共にリボルバーガンを発砲しようとしたその時…。
「遅えよ」
…と言う言葉と共に手に持っていたリボルバーガンが音を立てて、崩壊した。
破壊された…⁉︎
キリヤをよく見ると奴の手にも銃が握られている。
「そろそろ終いにするか」
そう呟いたキリヤの背中の白き翼は禍々しいオーラを放ちながら、黒き翼へと変わる。
「な、何…⁉︎」
戸惑いを隠せない俺に奴は口を開く。
「お前のが《フォトン・ウイング》なら、俺のは差し詰め、《ダークネス・ウイング》か?まあ、どっちでもいいがな!」
その言葉を最後に、俺はいつの間にか蹴られ、地面に叩きつけられていた。
あまりの威力に蹲り、地面に着地したキリヤを睨みつける。
「デカイ口叩くなら…せめて、敵を倒さねえと意味ねえんだよ」
ニヤリ、と不敵な笑みを浮かべながら奴は銃を取り出し、銃口を俺に向けた。
「アルトさん!」
「第二の人生…ここで終わりだな」
奴がトリガーに手をかけた…!
ここまでかよ…!
…しかし、トリガーが引かれる事はなかった。
アイムとマギウスがキリヤに攻撃を仕掛け、それを避けたキリヤが俺から距離を取ったからだ。
「無事、マスター?」
「ったく、何やってんだよ、アルト!」
「…お前等」
ゆっくりと立ち上がりながら、助けてくれた二人を見る。
キリヤも鼻で笑いながら、二人に語りかけた。
「おいおい。ソイツはお前等に大事な事を話さなかった男だぞ?仲間と言っていながら、秘密を隠していた。そんな奴を守るのかよ?」
「…確かにその事には少し怒ってる」
不機嫌そうに俺を見てくるアイム。
しかし、彼女はでも、と付け加えた。
「マスターは私の仲間…。仲間は…大切な人は守る!」
「確かにな…。コイツには助けられちまったしよ。…だから、俺はコイツを守る。勿論、メリルもな!」
「アイムさん…マギウスさん…」
俺は…俺達はこんなにもいい仲間が出来たんだな…!
アイムとマギウスの話を聞いたキリヤはウンザリした様にため息を吐いた。
「そうかよ…。だったら、ソイツの前に消してやるよ!」
キリヤが剣を構え、二人に接近した。
このままでは、二人が…!
「させるかよ!」
エンゼッターを構え、勢い良く地面を蹴った俺は奴が剣を振るう前に奴の右足を斬り裂いた。
「なっ…⁉︎」
勿論、斬り口は甘かったが、奴は力を失い、その場に膝をつく。
「キリヤ!」
「テメェ…!」
キリヤは俺を見上げ、睨みつけてくる。
「俺の仲間は…俺が守ってみせる!」
キリヤに向けてそう言い放った俺を睨みつつ、アナトスは膝をついたキリヤに近寄った。
「ここは低くわよ」
「チッ…!」
納得がいかないと、舌打ちしたがキリヤとアナトスは《ワープ》でこの場から去った…。
「…夕暮 キリヤ、か…」
荒ぶる息を整える俺。
そんな俺の下にエルを救出したアイム達とメリルが歩み寄ってきた。
「…とりあえず帰るぞ、アルト。エルの父さんに治癒の花を使わなきゃならねえしな」
「…二人にも詳しく話を聞くから」
「…わかった」
俺達はエルの村へと向かった…。




